『経済広報』(2015年9月号)掲載
技術広報研究(7)

協和発酵キリン(株)

多様な広報活動で医薬品の技術を伝える

技術広報について

 協和発酵キリンは医療用医薬品の製造販売会社であり、広報する内容は、新薬開発の進捗など技術に関する情報が中心となっている。このため、あらためて“技術広報”を意識することなく、日常的な広報活動が技術広報そのものである。また、医療用医薬品は法律などにより広告が厳しく制限されており、自由な表現での情報提供は難しく、内容を正確にシンプルに伝える広報活動を目指している。

協和発酵キリンの広報活動の特徴

 医療用医薬品の広報対象は、医療関係者をはじめとした医薬品の専門家が中心であり、その内容は、専門家が読んで正確に理解できるレベルを心掛けている。例えば、厚生労働省に承認を受けた適応症(対象となる病名)や医薬品の効能・効果などの表記は、平易な表現に置き換えることはできず、正しく記述する必要がある。また、専門用語には注釈を付けて説明するが、正確性を損なわないよう注意を払っている。マスコミ向けにはリリースだけでは正しい理解を得るのが難しいこともあり、新薬の発売時には、専門の医師を招いて病気に関する最新の情報や現在の治療方法などをマスコミ対象に平易に説明する機会を設け、新薬の価値について正しい理解を得るための情報発信を行っている。
 一方、一般の人には、同社名から酒類関係の会社であるとの誤解をされがちであり、同社の事業内容や特徴的な技術について、より分かりやすく伝える広報手法に取り組んでいる。以前からホームページ上で、同社の特徴である抗体医薬品について動画を用いて説明していたが、これはある程度同社に関心のある人に向けた広報である。より幅の広い層からの関心を得るために、英国の有名な人形劇キャラクターを使って抗体医薬品を説明したり、抗体医薬品の開発物語を漫画家に描いてもらい、主人公のラブストーリーの進展の中で、免疫研究の歴史や免疫の仕組み、薬の開発過程などを学ぶことができるWEB漫画をホームページ上で連載している。さらに、音楽プロジェクト「10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE」では、バイオテクノロジーや抗体医薬など同社に結び付く言葉を10人のアーチストに提示し、そこから抱くイメージを元に作曲してもらい、ホームページ上で公開することで、音楽という身近な手段による広報活動を行っている。このような漫画や音楽などの多様な手段による広報は非常に好評で、同社に関心が薄い人にも抗体医薬品やその技術に興味を持ってもらえるようになってきた。
 また、バイオテクノロジー研究に力を入れる会社として、東日本大震災後の理科教育支援にも積極的に取り組んでいる。日本農芸化学会が主催する復興支援の理科教育プロジェクトへの支援や、同社独自で東北バイオ教育プロジェクトを推進し、被災地の高校生たちにバイオテクノロジー研究の意義と面白さを伝えるだけでなく、生徒たち自らが研究テーマを考え、地元産業の復興に繋がる技術を学んでもらう活動を行ってきた。
 同社のコーポレーション部PRグループの井上和昭氏は、印象に残っているリリースについて「ある病気を治療する世界初の抗体医薬品発売のリリースである。当社の最初の抗体医薬品でもあったため印象深く、さらに日本人に多い病気に効果が期待できる医薬品であったので患者や医療関係者へのインパクトも大きく、発売前から『早くこの薬を利用できないか』と切望されていた。世の中に貢献できる薬を出し、それを発表できたことは非常に感慨深い」と語る。

文:国内広報部主任研究員 磯部 勤
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