経済広報

『経済広報』(2011年12月号)掲載

第27回企業広報賞 受賞者インタビュー
全てのステークホルダーに満足を
木川 眞

木川 眞(きがわ まこと)
ヤマトホールディングス(株) 代表取締役社長

組織に根付いたDNA

社長に就任されて以降、積極的に経営方針を発信されていますが、主に強調されている点は何ですか、トップとして何を意識して発信されていますか。
木川 ヤマト運輸の社長時代から言ってきたことですが、我々のような労働集約型の産業では、社員のモチベーションをいかに高めるかが企業の活性化に最も大事なことだと思っています。もちろん、それ以前にお客さま、株主といったステークホルダーが大切なのは当然ですが、企業の活性化のために社員はどう行動すべきか、ということをいろいろな言葉で伝えてきました。
 1つ目は、「自分で考え、こうあるべきだと思ったことには思い切ってチャレンジするような組織風土をつくりたい」と思い、特に若い社員に対して、「為さざるの罪」というメッセージを発信し続けてきました。
 これには、失敗を恐れず、むしろ失敗して成長するのだという意味も込めています。若いうちに失敗を恐れずにどんどんチャレンジしなさい、という風土はもともと当社にありましたので、このような風土をより確固たるものにしたいという気持ちがありました。
 2つ目は、管理職層に対しては、現場に与えられた権限を思い切って使いなさいと言っています。我々の会社では権限体系が、かなり現場に委譲されています。そうなると、その権限を使う人自身に、強い当事者意識と責任感を持って仕事に取り組んでもらわないといけません。
 若い社員には「失敗を恐れずチャレンジを」、管理職には「溢れんばかりの当事者意識を」、この2つのメッセージを発信し続けています。
 ヤマトグループの歴史を遡ってみると、歴代の経営者が同じような意識で、社員のモチベーションを上げるためのメッセージを発信し続けています。従って、これがヤマトグループ全体のDNAとして染み込んでいるのです。私の役割は、この良きDNAを更に浸透させ、発展させることです。

“満足BANK”の導入で社員のモチベーションを高める

満足創造経営についてお聞かせください。
木川 昔から、運送業には厳しく叱りながら人を育てるという風土がありました。当社も以前はそのような風土でしたが、世代が変わり、若者の価値観も変わりつつあります。叱られると会社を辞めてしまう人、あるいは必要以上に落ち込んでモチベーションが上がらない人がいるという状況がありますので、思い切って褒めるという仕組みを3年前から取り入れました。
 「為さざるの罪」というからには、たとえ失敗しても「よく挑戦した」「努力しているな」と誰かが褒める、社員のモチベーションを上げるための仕組みが必要です。これが“満足BANK”です。社員がお客さまから褒められたら自動的にポイントが加点されます。また、上司、同僚がイントラネットで褒める書き込みをすると加点されますし、自分自身を褒めても構いません。褒められた人だけでなく褒めた人も加点されます。記名式で、誰が誰を褒めたか、誰もが見られるようになっています。
 この仕組みを取り入れることによって、それまでの叱る文化から、褒める文化に転換しました。上司は部下の行動をしっかりと見るようになる、悪いところだけではなくいいところを探す、というのは画期的な意識改革だと思います。現在、ヤマト運輸には14万人の社員がいますが、9割を超える社員がポイントをためています。
 また、社員から感動体験を募集して、DVDを作り、社員教育に使っています。このDVDは、私たちの普段の仕事がお客さまにこんなにも喜んでいただいた、感動していただいたといった実体験を基に作っています。それを見ることで、社員は自分の仕事に誇りを持つことができます。
 これらが、当社が標榜している満足創造経営の柱になっています。社員の満足度を中心にお話しましたが、お客さま、社会、株主などそれぞれのステークホルダーに、どうご満足いただくかを徹底的に考え、実践していくことが我々の経営の軸足です。

アジアでナンバーワンのソリューションプロバイダーに

2019年の創業100周年に向けて、どのような企業でありたいとお考えですか。
木川 100周年の時に目指すべき我々の企業像は、1つ目はアジアでナンバーワンの流通ソリューションプロバイダーになるということです。国内だけに留まらずアジアは全体で1つの経済圏になります。その中での物流の品質面をダントツに支えるプロバイダーになるというコンセプトを持っています。
 2つ目は、高齢化、過疎化など様々な問題が顕在化している中、地域の活性化や個人の生活に新しいサービスを加えないと、日本は生活するのに不便な国になっていきます。そこで我々は、個人や地域の生活に密着した新しいサービスの開発でブレークスルーできないかと常に考えています。
 グローバルに我々のネットワークを広げていくという積極的な拡大戦略である「流通ソリューションプロバイダー」と、全国に張り巡らせた宅急便ネットワークを活用し、例えば買い物困難地域における買い物支援のような生活支援のプラットホームを提供する国内戦略としての「生涯生活支援インフラの提供」、この2つの柱が100周年の時に目指す我々の姿です。

宅急便ひとつに、希望をひとつ入れて。-新たな寄付スタイルの確立-

東日本大震災の際、御社が行った社会貢献活動について教えてください。また、こうした活動を行うことができた背景についてもお聞かせください。
木川 1つ目は、救援物資の輸送支援でした。震災直後の初動対応として救援物資を円滑に届けることが我々に課せられた社会的使命でしたが、これを現地の社員たちが自発的に始めました。これを追認する形で車輌200台、人員500名による「救援物資輸送協力隊」を組成し、約半年間活動しました。
 2つ目が、企業として長いレンジの支援策として、被災地に対して何ができるかということを考えて打ち出した寄付活動です。「宅急便ひとつに、希望をひとつ入れて。」というキャッチフレーズの下、1年間、宅急便1個につき10円を寄付することにしました。総額で130億~140億円を被災地の水産業や農業の再生支援に活用してもらいます。
 3つ目はボランティアです。瓦礫(がれき)の撤去など、社員一人ひとりが小さな支援を積み重ねました。これらの3つをひとつのパッケージとして、今回の支援活動と称しています。
 この3つの活動を、何の違和感もなく社員が受け入れていますが、この背景にはヤマトグループの社会貢献に対する企業風土があると思います。宅急便生みの親である小倉昌男が私財を投じて設立したヤマト福祉財団の存在も大きいですね。それと今回我々の社会貢献活動に対して極めてご理解のある株主が多くいらっしゃるということを確認できました。純利益の4割を寄付しますと言ったら、株主は普通怒ります。しかし、結果的に外国人投資家も含めて、誰一人、反対した人はいませんでした。むしろ、IRで海外に行って話をすると応援団になってくれました。これは大変ありがたいことです。
 また、寄付のお金を1円も無駄にせずに、復興に使ってもらうことがとても重要でしたが、そのためにクリアしないといけないことが2つありました。1つは寄付先の選定に自ら関与できること。もう1つは、全額無税にすることです。
 とりわけ無税化は、このように、ある意味でわがままな寄付だけに、本来は税法上なかなか認めにくいものであっただろうと思います。何しろ寄付先は特定の産業や病院、学校などだけですと高らかに宣言しているのですから。しかし、財務省のご理解を得て実現することができました。日本赤十字への寄付以外で、企業の寄付のスタイルがひとつ出来上がりました。今回の寄付活動が、日本における企業による新しい寄付文化を生み出すきっかけになればいいなと思っています。

アナログ・コミュニケーションに立ち返る

社内およびグループ内における広報やコミュニケーションで気をつけていることはどのような点ですか。
写真:木川 眞木川 コミュニケーションというのは、往々にして一方通行になりがちです。特にトップダウンで好きなことを言い続けていると、どこかで一方通行になってしまいます。最近は紙のみならず、イントラネットでいろいろな指示を本社から出すことができます。しかし指示を受けるほうは情報の洪水にのまれ、コミュニケーションがうまくいかない。
 従って、コミュニケーションの原点に立ち返り、コミュニケーションは双方向だと認識する必要があります。そして、双方向のコミュニケーションには、アナログ・コミュニケーションが不可欠だと思います。極端なデジタル化は一方通行になりやすいため、直接話せる関係をいかにつくるかが重要です。このほうが、情報だけ発信し続けるより、はるかに効果的です。そのため私は極力現地に行き、現地の社員とコミュニケーションする努力をしています。デジタル化が進めば進むほど、アナログ・コミュニケーションを大事にしようというのが私の基本的な考えです。

社内広報をさらに強固に

広報部門に期待していることは何でしょうか。
木川 広報というのは広告・宣伝、投資家に対するIR活動のような対外的なアピールだけではありません。今回の「企業広報大賞」をいただくに当たって評価された社内広報、社内に対するメッセージ、社内における情報共有、これらのインフラをもっと強固なものにしたいと思っています。これができると本当に強い企業集団になれると思います。
(聞き手:(財)経済広報センター 常務理事・事務局長 中山 洋)
(文責:国内広報部専門研究員 佐々木光寿)
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