経済広報

『経済広報』(2012年1月号)掲載

第27回企業広報賞 受賞者インタビュー
震災を教訓に今後を考える
天坊 昭彦

天坊 昭彦(てんぼう あきひこ)
出光興産(株) 代表取締役会長

広報から発信した情報は社会との約束

会社のトップとしてどのようなことを考え、また、どんな点を意識して情報を発信されていますか。
天坊 出光興産は、2001年に上場することを決め、2006年に上場しました。私の最大の仕事は、出光を計画通り上場させることでした。上場する前にも優先株の発行や第三者割当増資などを実施しましたが、それまでの出光は非上場の、いわばプライベートな会社でした。透明性が十分とはいえませんでした。上場するということは、プライベートカンパニーがパブリックカンパニーに変わるということです。パブリックカンパニーとして何が最も大事かといえば、ガバナンスと経営の透明性を保つことです。
 この意味で広報の役割は極めて重要です。広報を通じて、あらゆる情報を社会に発信し透明性を確保することは、社会から信頼を得る上で最適な方法だと思います。広報部門以外から様々な情報が社会に発信されると、伝わり方が異なり、結果的に誤った情報が伝わってしまうこともあります。広報から発信した情報は、社会との約束といえます。それを守ることが、企業の信頼性を高めていくことに繋がると思います。そのため、広報を通じて中期計画など様々な企業情報を発信していますが、広報の役割が以前にも増して非常に重要になったと思います。
 情報発信の手段も多様化しています。インターネットやホームページをはじめ、情報をどのように発信していくか、広報部門には随分気を配ってもらっています。
 出光は、日本の石油供給量の15%ぐらいを賄っており、従業員も1万人近くいます。販売店、関連企業など、当社と共に生業(なりわい)を立てている人まで入れると、その数は数万人にもなります。そのような責任を負う中、万一破綻でもしたら大変なことになります。企業の社会的責任は、地域や社会に役に立つ事業を行い、事業を通じて地域や社会に貢献し続けることです。出光ではこれに加えて、こうした事業を通じて社会で信頼される人を育てることを経営理念としています。これは、創業者である出光佐三の考え方であり、私たちはこれを人間尊重の事業経営と言っています。

同じ言葉で何度も繰り返すことが重要

社内および社外におけるコミュニケーションで、気を付けていることはどのような点ですか。
天坊 社内も社外も同じだと思います。そこを変えると、おかしくなる。もちろん秘密事項はありますが、社内に言っていることは、いつ社外に出てもやむを得ないものであり、逆に社外に対して違うことを言おうとするとおかしなことになります。例えば、経営計画など社外に向けて発表している情報は、発表していること自体を社員も当然知っているはずです。もし、社内に違うことを言っていたら、社内で混乱が起きてしまいます。ただ、社内では社内の言葉で理解してもらえますが、社外に対しては一般の人に理解していただけるよう言葉に気を付けて丁寧に説明するよう心掛けています。
 また、同じことを言っているつもりでも、違う表現を用いると、聞いている人が別の意味に受け止めてしまうことに、社長になってから気付きました。同じことは同じ言葉で言わなければなりません。出光佐三は、事あるごとに発言したり、『50年史』など本も多数出版していますが、どの本を開いても同じことを言っています。創業者に倣い、大事なことは繰り返し何度でも同じ言葉で言うことが重要だと実感しています。

100周年に向けて経営理念に基づいた地道な経営を実践

御社は2011年に創業100周年を迎えましたが、100周年を機にどういう企業でありたいとお考えですか。
天坊 先ほども述べましたが、当社には創業時からの経営理念があり、それを基に社内研修を行っています。企業も世の中に生かされていて、世の中が変われば、その変化に対応し企業も当然変化していかなければなりません。当社も100年の間に何度か大きく変化した時期がありました。特に、ここ20年間は、世界が激しく変わってきています。そのような中で次の100年を考えていく時、事業の中身や形態は変わっても社員一人ひとりが当社の理念を実践することに力を合わせ懸命に努力すれば、会社は存続できると信じています。そうなれば、出光は社会で期待され信頼される企業として発展していけると思っています。
東日本大震災で御社が行った対応について教えてください。
天坊 広範で大規模な災害が起こり、電力や都市ガスなどのインフラが寸断されました。道路や通信も使えなくなり、コミュニケーション手段を失いました。被災地のエネルギーを確保するため、油を積んで出発したにもかかわらず、タンクローリーの所在が分からなくなるということもありました。そうした状況で、安全に稼働できるガソリンスタンドを把握し、使えるところから復旧、稼働させていきましたが、あらゆる情報を把握するには現場の人間に聞くしかありませんでした。
 国からの要請もありました。重要拠点を決め、そこの燃料を切らさないよう緊急車両に優先的に給油しました。災害当日から石油連盟に対策本部を設け、持ち寄った情報を共有化しながら元売会社の枠を超え、各社が協力し合って対応しました。しかしながら、津波でタンクローリーが150台も流され、仙台、鹿島、東京湾などで多くの製油所が止まってしまいました。また、東北の太平洋側の油槽所は被災し、全て運転停止となりましたが、被災が比較的軽微だった宮城県の塩釜油槽所を最優先で立ち上げ、石油元売会社5社で共同で利用しました。

広報による啓発活動の重要性を再認識

対応が大変だったことは何でしょうか。
天坊 震災直後から約10日間は東北の太平洋側の油槽所が全て使えなかったので、日本海側の秋田や新潟などから山を越えて運搬する必要がありました。道路が寸断され、道が悪く、運転手も慣れていないので時間もかかって大変です。いつもなら簡単に行けるところも簡単ではない。一度出発すると目的地まで十何時間もかかり、また戻ってくるのに倍の時間がかかる。2週目になって、一部の油槽所の出荷再開および国や自衛隊の支援もあり、大体の被災地に油が行き渡るようになりました。
 しかし、マスコミが新聞などに掲載したガソリンスタンドに行列する写真は、なくなる前に少しでも給油しようという消費者心理を煽ります。これがさらに行列に輪を掛けるわけです。中には暴力行為に出る人がいて、ガソリンスタンドの経営者が恐ろしいから店を開くことができないという事態も起こりました。消費者に平静を保っていただくように、もっと啓発するような広報活動を行うことができていたら、もう少し混乱を抑えられたかもしれません。

まずは石油の安定供給の確保を

常日ごろ、石油連盟会長としてどのようなことを考えながら発言されていますか。
写真:天坊 昭彦天坊 私は石油連盟の会長に就任して以来、石油の安定供給を確保することは、日本のエネルギーを安定供給する上で最重要課題だと常に言ってきました。今回の大震災のように電力や都市ガスが広域で止まった時、現実的には石油しか代替が利くエネルギーはありません。石油のサプライチェーンをしっかり維持することと、エネルギー基本計画を見直すに当たっては、まず基幹エネルギーとして石油をしっかり位置付けた上で、次のものを積み上げてほしいと強く思います。
 しかし、1970年代の2度の石油危機以来、日本のエネルギー政策は脱石油といわれており、なるべく使わないようにするという政策でした。近年の中国やインドなどの新興国の発展により、エネルギー、とりわけ石油をめぐる環境は激変しています。エネルギーの安定供給の確保は国の安全保障の最重要課題であり、中でも石油の安定供給確保はその基盤となります。
 日本では、石油はいつもあるのが当たり前と考えられていて、なくなった時のことをあまりにも考えていません。これからは国内の需要が減ります。需要の減少に伴って、ガソリンスタンドがない過疎の村や町が既に出ています。そういう地域をどうするか。石油業界は自由化され厳しい競争を強いられており、企業は、需要がないところにサプライチェーンを維持できず、必要以上に設備を持つことも困難です。そこで、これからは地方自治体と一緒になり、ガソリンスタンドが必要だと判断したところには、支援をいただきながらスタンドを残すなどの対策を講じることも必要でしょう。
 また、今回の震災では、非常時における燃料確保の必要性があらためて認識されました。国による製品備蓄の強化が必要だと思います。さらに、地方の役場や公民館、学校などに灯油の暖房設備を設置し、一定の需要を確保した上で大型タンクを設置して灯油を備蓄し、いつでも供給できるよう万一に備えておくといったことも有効な手段だと考えます。何かあっても、ある程度の拠点を確保しておけば、石油とLPG(液化石油ガス)は分散型のエネルギーとして対応できます。
 石油業界は今回の震災を踏まえ、緊急時体制の見直しを政府と一緒に取り組んでいくことを目指しています。そのために、製品を備蓄する拠点を決めるなど、エネルギーの安定供給の確保のために石油の役割をきちんと位置付け、必要なサプライチェーンを確保していけるよう、これからも様々な情報を発信していくつもりです。

トップと広報の密なコミュニケーションが重要

広報部門に期待していることは何でしょうか。
天坊 広報パーソンは、企業の第一線の発信塔です。だからトップとのコミュニケーションを日ごろからよくして、トップが何を考えているか、よく理解しておくことがとても重要です。日ごろから意見交換をしていれば、相手が何を考えているか分かります。逆にそうしておかないと、何かが起こった時に混乱してしまいます。
 また、会長や社長だけではなく、各部門を管掌する取締役とのコミュニケーションも大切です。広報部門には常に経営陣のアンテナとして頑張ってほしいと思っています。
(聞き手:(財)経済広報センター 常務理事・事務局長 中山 洋)
(文責:国内広報部専門研究員 佐々木光寿)
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