経済広報

『経済広報』(2012年1月号)掲載

第27回企業広報賞 受賞者インタビュー
戦略的コミュニケーションで日本を牽引する企業へ
原田 泳幸

原田 泳幸(はらだ えいこう)
日本マクドナルド(株) 代表取締役会長兼社長兼CEO

戦略を語り、自信を感じさせる

ほとんどの時間をコミュニケーションに費やされていると伺いましたが、様々なステークホルダーとコミュニケーションする上で気を付けている点についてお聞かせください。
原田 当社には社員のほか、アルバイトの“クルー”が約16万人います。また、フランチャイズの“オーナー・オペレーター”が約200人、サプライヤーが数百社あります。この三者をマクドナルドのポリシーでは、“3-Legged Stool”と言っています。これは、3本脚のいすを意味し、「1本でも欠けると倒れてしまう」ということを創業者が表現したものです。この三者とコミュニケーションをする時に最も気を付けているのは、しっかりと戦略の大きなフレームワークを伝えることです。戦略が分かりませんと、日々何のために仕事をしているのか、お互いの認識にズレが生じ、同じことを行うにも質が変わってしまいます。
 また、理念を伝えることが重要です。マクドナルドの企業理念とビジョン、そしてビジネスについて、これらを日々随所に発信していく必要があります。そうしないと、コンプライアンスの対応ひとつとってもぶれてしまいます。コンプライアンスに関しては、どんなに些細(ささい)なことであっても大きく捉え、理念をしっかりと確認し、掲げ、発信することが大切です。
 例えば、2004年に消費税の総額表示がスタートした時に、約3800店舗のレジのメニュー登録を全て手で打ち直す作業が発生しました。しかし、22店舗で登録の誤りがあり、合計で255件、総額9061円、消費税を余計にいただいてしまいました。しかも、私にその情報が報告されたのが1週間後です。私はお客さまにお詫びし、9061円をお返しするために、2800万円をかけて新聞に謝罪広告を出しました。これはお客さまへお詫びすると同時に、社内教育でもありました。2800万円をかけても、教育するチャンスだと思わなければいけません。経営者がどのタイミングで何をするかで企業文化が大きく変わりますから、そこには気を配っています。
 戦略を語ることも重要です。さらに重要なのは、絶対に業績が上がるという自信を感じてもらうことです。先日、全国の店長による売り上げコンテストの表彰ディナーを行いました。そこで私は、「この売り上げは、売れたのか、売ったのか」と、店長に聞きました。つまり、営業の世界は、「売れるか」「売れないか」ではなく、「売るか」「売らないか」なのです。優勝者はコンテストに勝つために真剣に考えます。今回の優勝者は、前年対比250%以上の売り上げ増を達成しました。「やる気、売る気、自信」、これが業績に繋がります。トップリーダーがこれらを伝えなければ会社は成長しません。その点を常に意識してコミュニケーションしています。

具体的に実務的なコミュニケーションを

メディアの取材の際には、特にどのようなことに気を付けていますか。
原田 嘘をつかないことです。正直に言うことです。経営ですから、たまには予想通りいかないこともあります。その時は理由をしっかりと言う。
 直近の事例で申し上げますと、廃止していた定年制度を復活させました。廃止した時にはそれなりの正しい論理がありましたし、復活する時も正しい論理があります。流れで見たら、あの時こうすればよかったという思いはありますが、それを失敗と感じるのではなく、次のための経験と考えなければいけません。
 そのほかのメディア対応例をご紹介すると、昨年までに433店舗を閉店しました。この手の情報はしっかりとコミュニケーションを取らないと、「マクドナルド、1割以上のお店を閉店」というヘッドラインで報道されます。そうしますと、株主さまやお客さまがどう感じられるでしょうか。やはりダウントレンドと捉えられかねません。それを、私たちは「戦略的閉店」と位置付け、今後の成長のために目の前の数字を犠牲にしてでも閉店を実施するという情報を発信し、同時に次世代型店舗のデザインを発表しました。このように、コミュニケーションには大変なエネルギーを使っています。

出来得る限り迅速な対応を

東日本大震災に対して、どのような社会貢献活動をされましたか。
原田 震災後、すぐに危機管理室を立ち上げて3つのグループをつくりました。1つ目が、安全の確保、人の心への配慮、お見舞金も含めた、人に対する対応策です。2つ目が、ビジネスのコンティニュイティー、いわゆるビジネスをどう継続するかです。3つ目がコミュニケーション。社内だけでなく、社外も含め全てのステークホルダーに何を発信すべきか。この3つのグループを組織化して、毎日議論しました。
 最初に対応すべきことは、安全確認など人のケアです。被災直後は食料がなく、交通インフラも寸断されていました。そこで、我々のビジネスパートナーが持つ配送網を使い、マクドナルドの食材数千万円分を被災地に届けました。それが最も喜ばれたことです。全世界のマクドナルドで義援金を募り、精神的にも、物理的にも多くの支援がありました。米国マクドナルド本社から200万ドルが義援金として寄付されました。日本マクドナルドでも、それとは別に1億円の義援金を日本赤十字社へ寄付し、お客さまや社員、そのほか各方面から寄付していただくことで、総額では約4億円の義援金が集まりました。

1日の中のオン・オフで仕事の質とスピードを上げる

原田社長は、マラソン、ロードバイク、音楽など幅広く活動されていますが、健康管理やオン・オフを含めて仕事のモチベーションを上げるためにどのようなことに留意していますか。
原田 ウイークデーは仕事、ウイークエンドはオフというのではなく、1日の中にオン・オフがあります。今朝も4時半に起きて1時間、メール処理などの仕事をして、5時半からはジョギングやロードバイクなどの運動をしました。イベント前であれば、夜にドラムの練習もします。
 仕事で重要なことは、働く時間ではなく、集中力や仕事の仕方、つまり質です。私は全社員に6時以降は残業してはいけないと言っています。それはスピードと質を上げるためです。
 また、仕事は連動することが大切で、残業が多い社員がいると、いろいろな組織との連動がうまくいかず、ズレが生じてきます。同じタイミングで歯車が動かなければならないのに、朝型と夜型が混在すると、それが乱れてしまいます。限られた時間の中で終わらせるという意識が、スピード感に繋がっていきます。このことについて強力にコミュニケーションを続けてきましたが、おかげさまで大きく改善されました。
 ほかの例もご紹介しますが、課長や担当者が提案をまとめて部長に持っていき、最後に執行役員の承認をもらうといった決裁フローには賛同できません。そのフローでは私に情報が到着するのが3カ月も先になってしまうからです。誰もがフラットにコミュニケーションし、関係者全てが集まって1回で決めるように言っています。
 こうした企業文化醸成への取り組みにより、全社員がオン・オフの切り替えを意識するようになりました。私がマラソンを始めたことも、きっかけになったと思いますが、社員の健康管理に対する意識が非常に高まりました。体が重そうだった社員が最近随分とスリムになってきました(笑)。

グローバル人材を輩出するエクセレントカンパニーを目指す

今後、どんな企業であり続けたいですか。
原田 社会に貢献し、社会的責任をしっかりと意識した、尊敬される企業になりたいと考えています。貢献する方法は、お金など物質的なものだけではありません。企業の成長でもありません。日本の成長、世界の成長、豊かなライフスタイルの実現にどう繋がっていくか、それをはっきりと周りが体感できることが、企業の社会貢献のひとつの在り方だと思います。
 当社では、難病と闘う子どもと、その家族をサポートするための施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」の活動を1999年より支援しておりますが、2011年12月には8つ目となるハウスが東京大学構内に開設されました。活動は年々広がりを見せてきていますが、背景には、それを支えるボランティア活動への意識の高まりがあると感じています。マクドナルドがこの活動を支援でき、そして貢献できることを嬉しく思っています。
 もうひとつ申し上げますが、グローバルで活躍できる若い人材をどのように輩出していくか、ということも社会貢献だと思います。マクドナルドは世界110以上の国と地域で事業を展開しておりますが、これだけグローバルに展開し、スケール感のある企業は珍しいと思います。しかし、海外で活躍できる日本マクドナルドの人材は、まだ少ないと感じるところがあります。
 これは当社の問題のみならず、日本の若者全体の課題といえることかもしれません。異文化を知り、どのようにグローバル化に対応すればよいのか、このことは日本の成長のために不可欠ですから、そこに私たちが貢献するポイントがあります。「グローバル人材を輩出するエクセレントカンパニー」――私は、これがひとつのコーポレート・ビジョンのメッセージであると考えます。
 ビジネスはもちろんですが、若い人材とのコミュニケーションに最も時間を使っています。20歳代の若手社員や30歳代の中途入社の社員を集め、10人単位で2時間ほどのラウンドテーブルを行っています。
 上場企業である以上は社会的責任の下、経営的な視点で日本の課題を発信すべきです。日本人の素晴らしさは、私がグローバル企業の中にいるからこそ分かります。しかし、それを発揮し切れていないように見えます。日本は物理的な体力やスケール感で勝負するのではなく、質で勝負すべきだと思います。

企業広報はトップから

広報部門に期待することは何でしょうか。
原田 広報部門は一生懸命対応しています。そつなく想定問答集(Q&A)を作っています。しかし、企業広報はあくまでトップがやるべきだと思います。広報が作成したQ&Aを、ただ理解して読むということではトップとしての企業広報の役割は果たせません。トップが企業広報を一番理解していて、それをサポートするのが広報部門なのです。
 トップが企業広報のリーダーシップを取るという理念がひとつ。そして広報部門に対しては教育という意味でも、ビジネスを教えるという意味でも一生懸命に指導しています。
 私は、記者会見の前には準備に多くの時間を割いています。広報担当が作成した原稿などをそのまま読むのは本当に不得手で、会見の壇上に上がる直前に変えたりします。それぐらい、常に自分の考えを持っていなければいけない、そう自身に言い聞かせているつもりです。そうでなければ、企業広報はできないでしょう。
(聞き手:(財)経済広報センター 常務理事・事務局長 中山 洋)
(文責:国内広報部専門研究員 佐々木光寿)
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