経済広報

『経済広報』(2012年10月号)掲載
第28 回「企業広報賞」選考委員選考所感
生きた人間が社会と対話する広報
(選考委員長)片平 秀貴(かたひら ほたか) 丸の内ブランドフォーラム 代表
写真:片平 秀貴  かつてソニーが輝いていた頃、盛田昭夫氏は「いきいきとした、人間としてのソニーを作り上げたい」と語ったという。グローバル化の進展と人々のメディア環境の激変で、今まで以上に企業には、この「ひとりの人間としての組織」が求められている。言い換えると、企業はきちんと自分なりの「体臭」を持ったひとつの生きた組織体でなくてはいけないということだ。
 ともすれば日本企業は、自分たちにしかできない良いモノをつくっても、その裏にある強い思いを自分たちの言葉できちんと伝えるのは得意でなかった。これからの広報は、できる限り自然体で「ひとりの人間として」社会と対話できなくてはいけないと思う。組織全体がひとりの人間なので、社員の誰が、いつ、どこで、誰と話しても、その根っこにブレは生じない。通り一遍の紋切り型の広報から人間が語る広報へ、これができない企業に未来はない。
 大賞を受賞した九州旅客鉄道は、九州新幹線という優れたモノを九州地域の元気に変え、ともすれば沈みがちだった日本全体に希望を与えた。経営者賞の小林喜光、古森重隆両氏は、共に自分の言葉で自社の思いを世界に発信し、これからの日本発グローバル企業の経営者の手本となった。功労・奨励賞の宇佐美吉人氏は長年の功労で、タニタは自社の思いを分かりやすく発信し大きな話題をつくった点で審査委員から高い評価を受けた。受賞された皆さまには心からお祝いを申し上げたい。
「受難の時代」を乗り切る知恵
齋藤 孝光(さいとう たかみつ) 読売新聞東京本社 経済部長
写真:齋藤 孝光  企業広報大賞を獲得した九州旅客鉄道は、想定外の「受難」を乗り越えて成果を出したことで、審査員から高い評価を受けた。
 九州新幹線全線開通の前日に東日本大震災が起き、キャンペーンは出だしでつまずいた。地方企業というハンデも負っていた。それでも、国民を感動させた「幻のテレビ・コマーシャル」を手掛かりに巻き返した。
 功労・奨励賞に輝いたタニタは、「社員食堂」という、それほど特別ではない素材を最大限活用して、社会的ブームを演出した。知名度や規模のハンデがあっても、やりようで企業イメージを一気に上げられることを証明した。
 厳しい経営環境の中で、企業広報は、「受難の時代」を迎えている。限られた予算や人員で、平時には目に見える成果を、非常時には危機管理能力を厳しく問われる時代である。
 だが、知恵と努力があれば、ハンデも乗り越えていけることを両社は示した。今回の審査結果のメッセージだと思う。
ブランド戦略に基づく、これからの広報活動
佐々木 かをり(ささき かをり) イー・ウーマン 代表取締役社長
写真:佐々木 かをり  広報とは何か。そんな基本を再度考えながらの審査となった。これは広報活動が素晴らしかったのか、それともインパクトのある広告から生み出されるイメージが良かったのかと、広報と広告を区別しながら審査することに努めた。しかし本来の正しい姿は、広報、広告、マーケティング、商品開発など、すべてが一貫した企業のブランド戦略に基づいていること。
 賢い消費者は、無機的な企業を嫌い、有機的な企業を信頼するようになってきた。有機的な企業は信頼できる人間のように、人格を持っている。どこから見ても、いつ会っても一貫性のある人柄。そんな信頼できる、体温を感じる企業を発信し続けるために、広報は存在する。企業の広報は、企業全体のブランド戦略の継続実践のため、信頼づくりのために毎日、活動していくのだ。ブランド戦略にのっとっているか、また広告ではできない広報活動か、などという視点で今回は審査に当たった。広報の進化を来年も楽しみにしている。
人々の心に届ける広報の難しさ
鈴木 勝彦(すずき かつひこ) プレジデント社 『プレジデント』編集長
写真:鈴木 勝彦 社会に伝えたいことを正確に伝えることは難しい。第一に、こちらの話をなかなか聞いてもらえないし、表現ひとつで受け止められ方はガラリと変わってしまう。ましてや最近は、人々の関心の幅がぐっと狭まってきていると感じる。そういう風潮の中では、情報を一方的に出しても素通りされてしまうから、相手のアンテナに引っ掛かるように表現を工夫する必要がある。情報を発信する企業の活動によって生活や仕事、考え方がどう変わるのか、不特定多数の「あなた」にイメージしてもらうようなコミュニケーションである。
 その点、今回受賞された企業の皆さまの広報活動には、はっきりとしたメッセージがあるため、「私」との関係を捉えやすい。そのメッセージは総じて明るく前向きで、行動を促すところがあり、それが今を生きる人々に受け入れられるのだと思う。日本全体を照らすような広報活動を期待したい。
元気な企業の発信力に期待
高田 覚(たかだ さとる) 朝日新聞東京本社 経済部長
写真:高田 覚  出口の見えない欧州経済危機や新興国の景気減速、再び巡ってきた節電の夏……。東日本大震災から1年が過ぎ、日本経済は復興需要に支えられて回復基調をなんとか維持しているものの、環境は厳しく、先行きは不透明だ。試練が続く時に、企業がどんな情報を発信し、自らの使命や思いを明確に社会に訴えていけるのか。人々に勇気を与え、世の中を明るくする意味でも、広報の果たす役割は、ますます重要になっていると思う。
 そんな元気な企業の動きを応援しようと、朝日新聞は昨秋から「地域発 企業発 けいざい最前線」と題した大型の企画記事を始めた。毎週月曜日の朝刊で、地域の活性化に向けた成功例や企業の先進的な動きなどを紹介している。大賞を受賞された九州旅客鉄道の取り組みも2月、「全線開通もうすぐ1年 九州新幹線 活気運ぶ」と掲載した。
 そして、傑出したリーダーシップが評価された経営者賞。地道な努力と優れたセンスが光る功労・奨励賞。明快なメッセージ、誠実な姿勢で社会とのコミュニケーションに向き合う皆さんの受賞に、心からお祝いを申し上げたい。
広報の定義を見直す時
藤沢 久美(ふじさわ くみ) シンクタンク・ソフィアバンク 副代表
写真:藤沢 久美  広報とは何かを昨年以上に考える今年だった。世界がインターネットで繋がり、広告媒体も発信方法もすっかり変わってしまった。もはや企業のみならず、すべての人々が広く報せる道具を持つ今、企業ならではの広報とは何かを再定義する必要がある。
 また、今まで以上に、企業の哲学やビジョンの提示が求められ、広報は、顧客や取引先だけではなく、従業員へのメッセージとしても重要な役割を示す。誰に向かって発信するかも新たに再定義する必要があるのではないか。さらには、投資家へのIRや広く社会に向けてのCSR(企業の社会的責任)レポートの作成など、企業は、発信媒体の多様化だけではなく、発信内容の細分化も行ってきたが、受け手の多様化に加えて、受け手自身の求める情報の多様化を勘案すると、これもまた再考が必要である。
 フラット化し、大きなパラダイムの変化に直面している現代において、広報は、先が読めない社会に対して、企業のみならず社会全体が、進むべき方向を示す重要な役割を担う存在となっている。
 今回の受賞企業は、そんなお手本となる企業や経営者といえる。
「有事」に真価問われる企業広報
松木 健(まつき けん) 毎日新聞東京本社 経済部長
写真:松木 健 今回受賞された皆さんは、的確な情報発信(広報)や、広報とPRとの「プラススパイラル」で、企業価値、業界全体の底上げに大きく貢献していることが評価された。特に、九州旅客鉄道は社業発展にとどまらず、地域との共生・共栄を見事に実現しており、「平時」の企業広報の見本といえる。
 一方で、企業広報は不祥事対応という「有事」に、力を試される。相次ぐインサイダー取引問題や粉飾決算、経営者の不正借り入れ事件では、企業トップや広報部門の初動の遅れ、対応の拙さが問題を深刻化させ、批判を増幅させた。
 いったん不祥事が発覚すれば、企業は存続の危機に追い込まれることもある。危機をいかにコントロールし、ダメージを最低限に抑え込むか。企業広報の真価が問われるのは「順風満帆」の時ではなく、厳しい批判にさらされる「逆境」の時である。
飾りでなく実像伝える広報
山崎 浩志(やまざき ひろし) 日本経済新聞社 経済部長
写真:山崎 浩志  円高、雇用規制、貿易自由化の遅れ、電力不足……。ニッポンの会社は六重苦に見舞われているとされる。逆風が重なる厳しい時代だが、経営者と同じように消費者もあえいでいる。値上げや雇用削減、賃金抑制、節電などの形で苦難は国民にも降り掛かる。
 会社もつらいが消費者もつらい。会社を見つめる国民の目はシビアである。会社は「商品やサービスの供給者」だけではなく、生活の土台の支え手としての責任感も求められる。経営者は「会社の偉い人」ではなく、日本経済の牽引役を期待される。
 聞こえの良い売り文句など、たちまちウソっぽいと見抜かれる甘くない時代。昔ながらのイメージ戦略で踊ってくれるほど、社会は軽くはない。広報が担うのは会社のイメージアップ戦略ではなく、正しく成長している会社の実像をどれだけ正しく伝えるか、ということだろう。実像が頼りない会社が背伸びをしても広報効果は限られる。震災やグローバル危機をニッポンの会社は乗り越える。同時に、国民の意識も広く深く磨き込まれていく気がする。企業広報は、進化をもうひと超え迫られる。
 今回選ばれたのは、それぞれの役割や存在意義を正しく認識して、正しく売り込めた人たちだ。みなで真似をしたらいいと思う。
脱閉塞で求められる広報と経営者
横田 恵美(よこた えみ) 毎日新聞社 『週刊エコノミスト』編集長
写真:横田 恵美  経済の停滞が20年以上も続き、日本人はすっかり自信を失っている。技術力を過信するあまり、マーケティングがおろそかになった結果である。グローバル化や国内市場縮小に果敢に立ち向かう骨太の経営者も少なくなった。こうした企業群からは消費者を唸らせる商品やサービスは出てこない。実績が乏しくては、広報活動も空回りしがちだ。
 その点、今回受賞されたどの企業も、商品力やサービスに優れ、それを社外に的確に発信する力も十分。経営の諸分野すべてでレベルの高い会社があるものだ、と多くの日本人を奮い立たせてくれる企業だ。
 とりわけ企業広報経営者賞のおふたりの会社は、円高に苦しむ製造業にもかかわらず業容を拡大させている。三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長は、積極的な海外進出でこそ日本の空洞化は回避される、という考えをブレることなく社内外で発言。富士フイルムホールディングスの古森重隆会長も、写真フィルムからの鮮やかな事業転換を折に触れて社外に発信し、会社のブランド価値を向上させている。日本経済を低迷から脱却させるひとつの企業リーダー像を示したのではないか。
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