経済広報

『経済広報』(2012年11月号)掲載

第28回「企業広報賞」受賞者インタビュー
誠実に、明るく、元気に九州の魅力を全国に発信
唐池恒二

唐池 恒二(からいけ こうじ)
九州旅客鉄道(株) 代表取締役社長

JR九州グループの「あるべき姿」

JR九州グループが、あるべき姿として掲げる「安全とサービスを基盤として 九州、日本、そしてアジアの元気をつくる企業グループ」というメッセージに込めた思いをお聞かせください。
唐池 当社は25年前に九州旅客鉄道(以下、JR九州)として発足し、当初からこのような理念に基づいて事業を展開してきました。この「あるべき姿」は今年4月にスタートした中期経営計画で打ち出したものですが、当社では「企業理念」ではなく、平仮名で「あるべき姿」と表現しているのが特徴です。また、基本方針は「いきざま」、アクションプランは「おこない」と呼んでいます。「企業理念」は完成された慣用句のようで印象に残りませんが、「あるべき姿」というと、自らのこととして理解しやすく、胸にストンと落ちます。社員一人ひとりに、この「あるべき姿」を携えて行動してもらうために、心に刺さるような言葉をこだわって選びました。
 3年前に社長に就任した際、私は3つのテーマを掲げました。1つ目は「誠実」な企業であろうということ。2つ目は、絶えず「成長と進化」を遂げようということ。そして3つ目は「地域を元気に」しようということです。この3つをまとめたのが「あるべき姿」です。
 「安全とサービスを基盤として」は、「誠実」を具体的に表現したものです。また、「九州、日本、そしてアジアの元気をつくる」には、元気に企業活動を行うとともに、地域と連携し、一体となって、アジアを含めた地域を元気にしたいという意味があります。元気にするためには、実際に携わる人間の明るさや積極さも必要です。「誠実に、明るく、元気に」――これが「あるべき姿」に込めた思いです。
「あるべき姿」を伝えるため、社会に向けてどのような情報発信をされていますか。
唐池 メディアを通じた情報発信はもちろんですが、鉄道会社である当社には、鉄道や駅など、それ自体が情報発信の媒体になるものが数多くあります。絶えずお客さまに駅にお越しいただき、鉄道にお乗りいただくということが、実は大切な情報発信なのです。観光列車や駅ビルを含めた事業全体が情報発信の場であり、さらにいえば企業活動そのものが情報発信だと考えています。

九州の元気で日本を支える

東日本大震災の翌日だった九州新幹線の全線開業を、どのように迎えられましたか。
唐池 地震発生の第一報を受けたのは、発生から約30分後でした。詳細が分からない中、テレビで津波や火災の様子を見て、瞬間的にこれは“国難”だと感じ、それから1時間以内に翌日の開業式典や祝賀会を全て自粛するという判断をしました。国難に直面した日本は、いわばひとつの家族であり、家族の一員が甚大な被害に遭っている状況で、自粛は当然の行動だと思いました。ただ、全線開業に向けては、関係者の皆さんがそれぞれ2年とか3年をかけて大変な準備をしてきましたので、特に地域の方々に対してはやはり申し訳ない気持ちでした。
 全線開業当日の祝賀会や華やかなイベントは取り止め、始発列車に粛々と出発の合図だけを送りました。その時に願ったのは、こういった動揺する局面だからこそ、九州新幹線を安全にスタートさせ、在来線もまた安全に運行させることでした。
 しかし、いつまでも自粛して元気がないままでは、日本という家族全体が萎(しぼ)んでしまいます。一定期間、家族の一員として悲しみや苦しみを分かち合った後は、元気な者が傷ついた家族を支えなければなりません。そのため、元気な九州がしっかり仕事をして元気を発信し、その力で日本全体を支えることが私たちの務めと考え、極力平常心で、元気よく仕事に取り組むよう努めました。
東北新幹線の早期復旧には、JR九州の元気な動きもプラスになったのではないでしょうか。
唐池 東北新幹線は4月29日に全線復旧しましたが、様々な設備が大きな痛手を被った中、あの短期間でよく運転再開にこぎ着けたと思います。
 復旧に際しては、九州新幹線全線開業を祝って、沿線から新幹線に手を振るという当社のテレビコマーシャルをご覧になった東北の方々が、東北新幹線でも復旧を祝って同じことをやろうとフェイスブックやツイッターなどで呼び掛け、運転を再開した新幹線に向かって沿線から手を振るという出来事がありました。当社がつくったこと、取り組んできたことを良い形で応用していただき、大変嬉しかったです。

企業活動そのものが最大の地域コミュニケーション

駅ビル開業など、魅力ある街づくりによって地域経済の活性化に貢献されています。目指す姿はどのようなものですか。
唐池 鉄道会社の使命は、単に駅と駅を線路で繋いで鉄道を走らせるという移動手段の提供だけではなく、鉄道や駅を中心とした元気な街、元気な地域をつくり上げていくことです。
 個々のイベント開催や集客施設だけでは、お客さまの記憶に残りません。記憶に残すためには、街全体でお客さまをお迎えする心地よさがあり、歩いて楽しい街である必要があります。街を歩き、街の人々の普段の生活に接し、出会って語らう。そういった体験を通じて、またその街を訪れたい、さらには、その街に住みたいという思いが生まれるのです。街全体を面として捉えた、魅力ある街づくりが大切です。
 駅ビルも、周辺の街があってこそであり、駅ビルと周辺の街をいかに繋げるかが重要だと思います。一番大きな役割を果たすのが駅前広場です。駅前広場は、街に出やすく、また戻ってきやすいという、お客さまが回遊しやすい場所でなければなりません。参考にしているのはヨーロッパの街にある広場です。例えば、博多駅前広場はヨーロッパの広場にはまだ及びませんが、何も置かない空間を広く設けて、いつでもお祭りやイベントが開催できるようにしています。
 街と共に発展する、というのが私たちの願いです。
社内・グループ内におけるコミュニケーション活動をお聞かせください。
中面
唐池 当社には、デジタルな情報発信システムも整備されていますが、大切にしているのは古典的なアナログのフェース・ツー・フェースのコミュニケーションです。
 毎月発行している社内報『だより』では、私自身が必ず自らの言葉で巻頭メッセージを書いています。このメッセージは、いかに社員に読んでもらうかがポイントです。難しいことを長々と書いても誰も読みませんので、分かりやすい言葉を大切にしています。社内報は社員全員に行き渡るようにしており、皆喜んで読んでくれています。
 また、改まった会議も必要ですが、それよりも少人数、小集団で語り合う場を多く持つようにしています。私も含め、当社の幹部は現場によく足を運び、現場を熟知しています。役員や部長が頻繁に現場に出向き、そこで社員と何気なく話をするだけで、多くの情報共有を図ることができるのです。これは当社の宝です。

地域とのコミュニケーションの取り組みについてはいかがですか。
唐池 私たちの企業活動である鉄道そのものが、地域との最大のコミュニケーションツールです。
 例えば、鹿児島県・指宿(いぶすき)には「指宿のたまて箱」という名前の観光列車が運行しています。指宿に伝わる浦島太郎伝説にちなんで列車名を付けたのですが、この観光列車の運行を機に、旅館やホテルで玉手箱をテーマにしたメニューが提供されたり、地元にある龍宮神社がリニューアルされたりと、観光列車を中心に様々な街づくりの取り組みが起こりました。
 また、「SL人吉(ひとよし)」や「海幸山幸(うみさちやまさち)」といった他の観光列車も含め、運行開始から数年経った今でも、観光列車が通ると農作業中の方からクラブ活動中の高校生まで、沿線の皆さまが列車に手を振ってくださいます。これは、車内のお客さまにとって一番嬉しい光景です。観光列車は単なる移動手段から観光資源となり、さらには街づくりの核となっているのです。
 地域の皆さまから様々なご意見を常に頂戴しますが、それに対しては原則として役員以上が応対するようにしています。地域とのコミュニケーションこそ、幹部の仕事だと考えています。

広報の基本は「誠実」

ご自身の広報活動に対するお考えは。
唐池 「戦略づくり(経営企画)」「広報」「教育(人材育成)」の3つは、トップである私の仕事です。
 広報の基本的な考え方は、最初に申し上げた「誠実」です。嘘、偽りやごまかしがなく、隠さない、遅れさせないという広報に努めています。社長就任当初、何か問題が生じた場合には、事の大小にかかわらず全て速やかに発表するよう指示しました。それを1カ月ぐらい続けると、現場も「自分の会社は何があっても隠さずに発表するんだ」と理解するようになりました。
 社員はトップの背中を見ています。トップが隠そうとすると、現場も情報を出さなくなります。トップが隠さない、遅れさせないことを行動で示せば、会社全体がそうなります。大変なことではありますが、当社にとってマイナス情報であっても、誠実に勇気を持って発表するのが当社の基本スタンスです。
最後に、今後のJR九州のビジョンを教えてください。
唐池 JR九州は鉄道会社としてスタートした会社ですので、今後も鉄道事業は大きな柱です。さらに、鉄道を軸として、鉄道以外の事業も育てていきます。
 私は鉄道を“インキュベーター”と呼んでいます。鉄道事業によってその他の事業が孵化(ふか)され、ヒナとなって成長し、それが地域全体の元気に繋がっていく。JR九州はそういう会社を目指しています。
(聞き手:中山 洋 経済広報センター 常務理事・事務局長)
(文責:国内広報部専門研究員 森田真樹子)
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