経済広報

『経済広報』(2012年12月号)掲載

第28回「企業広報賞」受賞者インタビュー
目指すは「The KAITEKI COMPANY」
小林 喜光

小林 喜光(こばやし よしみつ)
(株)三菱ケミカルホールディングス 代表取締役社長

4つの次元を常に意識して発信

広報活動を企業のトップの重要な仕事として位置付けていらっしゃいますが、それはどのような理由からでしょうか。
小林 企業のトップの仕事は、大きく分けて3つあると思います。まず1つ目は、人材の最適配置を考える人事です。2つ目は、企業がどの方向に向かっていくかといった基本コンセプトづくり。3つ目は、それを社外の方に知っていただくと同時に社内に向けていかに発信していくかということだと思います。
 その意味では、広報は社長と距離を置くのではなく、社長直属で日々接し、社長の意思を理解して手足となって動くべきであると思っています。外に向かって発信することも広報の重要な役割ですが、当社のようにBtoB企業で、グループが多岐にわたっており、大きな事業会社の下に子会社が約400社もあるような場合は、自社がどこに向かって動こうとしているのかを社外のメディアを通じて社内に発信することが、より重要であると考えています。
企業のトップとして、日ごろ、特にどのようなことを意識して発信されていますか。
小林 基本的なバックボーンがブレないことが大事だと思っています。常に同じことを言い続けられるだけの深い考え方なり、試行錯誤した結果得られた基本をどれだけしっかり堅持していくかということを意識しています。後は応用問題で、いろいろな事象に対応していくことになると思います。
 当然企業は、利益を出して税金を払うことが最大の使命ですが、そのような経済価値向上の基軸だけでは駄目だと思います。
 当社はメーカーですので、製品の安全と安心、そしてコンプライアンスが基本になりますが、メーカーとして新しい技術を創造して社会にテクノロジーで貢献する技術経営深化の基軸や、環境問題、資源問題に対して積極的に企業集団として手を打っていくといった社会性の基軸も必要です。当社は、この3つの基軸に時間軸を加えた4つの次元の観点からグループの経営を行っています。基本的なバックボーンとなる3つの基軸に時間軸を加えた4つの次元のイメージを常に持ちながら発信していくことが重要だと思っています。
 なお、3つの基軸における時間軸はそれぞれ異なります。利益はマンスリー(月間)かクォータリー(四半期)で管理していますし、テクノロジーは10年単位です。また、企業の社会的な意義や企業価値の持続性などは100年単位で議論しなければなりません。このようなことを常に念頭に置きながら言葉を発信しています。
社外への広報活動が社内にも高い効果を及ぼすとお考えですが、取材対応の際に特に注意されていることはありますか。
小林 工場のオペレーションに携わっている社員、研究や販売を行っている社員など、現場の人間にどのような形でフィードバックされるかということを常に意識しています。
 ホールディングスの社長は、大きな事業所でも年に1回行けるかどうかで、社員と直接接することは非常に少ないのが現状です。現場の人たちに対して、メッセージを発信しているつもりで常に取材に臨んでいます。新聞や雑誌、テレビなどの社外の媒体はもちろんのこと、社内報やイントラネットのブログを通じても発信しています。
 私は現在、社長の立場で仕事をしていますが、自分自身は生身の極めて弱い普通の人間であり、「みんながいるから会社が成り立っている」「一緒にやろう」というメッセージを発信し続けています。

「KAITEKI経営」とは

21世紀に企業が追求していくべきコンセプトとして「KAITEKI」を提唱されていますが、それはどのようなものですか。
小林 先ほども申し上げましたが、当社は、経済価値向上の基軸、技術経営深化の基軸、そして人・社会・地球環境のサステナビリティー向上を目指す基軸の3つの基軸に時間軸を加えた4つの次元の観点からグループの経営を行っており、その経営手法を「KAITEKI経営」と名付けています。この3つのベクトルを合成した大きさが企業価値だと思っています。
 この考え方は、私が研究開発のトップのころに、将来の研究開発のテーマについてプロジェクトで議論を重ねた中で生まれました。
 当初は、環境・新エネルギーと健康といった2つのキーワードで議論していましたが、この2つだけでは何だか味気ない。
 人間というのは、いい車に乗りたいとか、いい家に住みたいといった心地よさを追求する生き物であり、快適さがないと嘘ではないかということで、私が3つ目のキーワードとして「快適」を加えました。
 3つのキーワードを経営の判断基準にして将来の事業テーマを決めるわけですが、これら3つのキーワードすべてを含有する言葉を、アルファベットの「KAITEKI」にしました。英語でいうとwell beingとかsymbiosisがその訳に近いと思いますが、ぴったりと当てはまる感じがしないのと、「KAIZEN」に並ぶ世界語にしたい気持ちもあり、あえて「KAITEKI」としたのです。
 地球環境に優しく、人の健康にも良く、全体としては腹八分目で、心地よい社会を目指すための素材を提供する会社、ケミストリーをベースとした技術で、人を幸せにする、コンフォタブルにすることを目指す会社、それが「The KAITEKI COMPANY」です。

「KAITEKI CAFE」と「KAITEKI スクエア」

中面写真
 今年の9月に大手町にオープンした「KAITEKI CAFE」では、水耕栽培野菜や生産者情報が明確な、安全・安心な食材をご提供し、皆さまの健康づくりをサポートしています。店内では、循環型社会に配慮した食品・包材などを積極的に活用するとともに、太陽電池、LED照明や有機EL照明パネルなど“KAITEKI”に貢献する当社グループの製品をご紹介しています。
 研究者や営業をしている社員が、自分の仕事が直接消費者の役に立っているのを知ることもできるアンテナショップという位置付けにしたいと思っています。
 また、10月には、東京・丸の内の新本社11階にショールーム「KAITEKI スクエア」を開設しました。当社グループの主要製品や事業をはじめ、企業としての取り組みや目指しているものを最新の機器を活用し、分かりやすくご紹介しています。
 社会の皆さまと共に、より良い未来を考えるためのコミュニケーションの広場として、多くの方に利用していただけることを期待しています。
 こういったことも、違った意味での広報の一環であると考えています。

生活者に分かりやすい広報を

B to B企業の広報活動で、重要と思われることは何でしょうか。
小林 例えば、自動車メーカーには自動車が、家電メーカーにはテレビがあります。何も言わなくても社員は、自分はこの製品を作るために、この会社に入社したと明快に分かりますが、「○○化学」「○○樹脂」となると、会社がグループ全体として何を志向しているのか非常に分かりにくい。BtoCのビジネスは製品があるので分かりやすいですが、BtoBのビジネスは、様々な製品に組み込まれているけれども、外からは分かりづらい。可視化することが非常に困難です。
 私は今、石油化学工業協会の会長も務めていますが、協会として産業界全体として、BtoB企業にはBtoC企業とは異なる、自社だけではできない広報活動が必要であると考えています。
 例えば、中東から石油を持ってきて、それを熱分解して得たガソリン留分をさらに熱分解しエチレンができて……というようなことは、皆さんあまりご存じありません。消費者とは縁遠い研究員が、研究所で試験管を振っているようなイメージを払拭しなければいけないと思っています。
 当社では、医薬品や光ディスクなど目に見えて消費者に分かりやすい製品も一部作っていますが、多くの製品は部材です。生活のほとんどは実際は化学でできているといった広報が必要で、ただ三菱ケミカルと叫んだだけでは意味を成しません。皆さんの生活にどのぐらい役に立っているかを理解していただくことを基本に据えた広報活動を実践していくことが大事だと思います。

広報はニュートラルで平等であれ

最後に、広報部門に期待されていることは何でしょうか。
小林 今回、広報賞の審査委員長をされた片平さんが、ある会社の広報に電話した時に、“つっけんどん”な対応をされたとおっしゃっていました。当社は大丈夫だったらしいですが(笑)。広報が媒体によって差をつけたり、偉そうに振る舞ったりすることだけはやめてほしいと思います。広報はニュートラルであり、平等であるべきだと思います。
 今までもそうしてくれていると評価していますが、誰に対しても常にお客さまとして接する姿勢を持ってほしいと思っています。
(聞き手:中山 洋 経済広報センター 常務理事・事務局長)
(文責:国内広報部主任研究員 塩澤 聡)
pagetop