経済広報

『経済広報』(2013年1月号)掲載

企業広報研究
企業広報功労・奨励賞を受賞して
帝人グループの広報戦略とその実践
-コーポレートブランド価値の向上を目指して-
宇佐美 吉人

宇佐美 吉人(うさみ よしひと)
帝人(株) 広報室長

帝人グループの広報の足跡

 帝人グループは、1918年に帝国人造絹絲として発足。繊維事業からスタートし、その後、積極的な事業拡大と多角化を進め、現在は「高機能繊維・複合材料事業」「電子材料・化成品事業」「ヘルスケア事業」「製品事業」「IT事業」といった事業をグローバルに展開している。
 その間の帝人広報の足跡を振り返ってみると、1926年に広報誌『帝人タイムス』、1931年に社内報『ていじん』を創刊するなど、歴史は古い。また、アパレル産業成立以前は、合繊メーカーが最終消費者に向けた広告やキャンペーンを展開していた。しかし、その後、1990年頃までは、社内に「良い製品を作っていれば広報・宣伝はしなくてもよい」という風潮があり、広報組織は「総務部広報室」という課レベルの扱いであった。
 1990年代に入ると、広報をより経営層に近付けるために社長直轄の組織とし、1997年からは「広報・IRは経営トップの仕事」と位置付け、IR活動も開始した。1999年には広報とIRが「広報・IR室」に統合され、広報、IR、宣伝が一体となったコミュニケーション活動を展開。2012年4月に広報とIRは分割されたが、引き続き3機能は密に連携した活動を推進している。各機能は、宣伝活動が「テイジン」の名前をインプットし、広報活動によって帝人グループに対する理解や共感の深化を図り、IR活動によって投資行動へと結び付けるという、それぞれが期待される役割を果たしながら有機的に連動し、コーポレートブランド価値の向上を推進している。

「等身大の帝人の訴求」から、「コーポレートブランド価値の向上」を目標に

 かつての帝人は、化成品事業や医薬医療事業など多岐にわたる事業を展開していながらも、相変わらず「古い体質の繊維会社」というイメージを持たれていた。また、BtoBメーカー故の宿命で社名の認知度が低く、企業としての実像が正確に伝わっていなかった。そこで、私が当時の広報部に着任した1998年以降、等身大の帝人を訴求することを目指し、「情報発信の強化・拡大」「イメージづくり戦略」「メディアリレーション拡充」という3つの課題に意識的に取り組んだ。その結果、メディア露出の増大や株価の上昇、好感度の向上といった形で成果が表れ、この取り組みが帝人広報にとって、ひとつの転換点になったと考えている。
 2003年には、「テイジングループの認知度向上と正確な理解の促進」「国際市場での存在感の向上」「テイジングループの一体感と求心力の向上」を目的に、“テイジンブランド”の確立を打ち出し、広報・宣伝においても、「コーポレートブランド価値の向上」を目標としたコミュニケーション活動をスタートさせた。私は、この目標達成に向けて広報が担うべきことは、「社会的責任を果たす(情報開示)」「前向きに情報提供する(情報発信)」「ブランド価値低下を防ぐ(リスク・クライシス対応)」の3点であると考え、情報開示とリスク・クライシス対応については広報が担う社会的責任と認識して適切・確実に対応するとともに、情報発信については成果拡大に向けて精力的に取り組んでいる。

情報発信力の強化-情報発信量の拡大-

 広報による「コーポレートブランド価値の向上」は、一義的にはメディア露出の拡大によって図られる。そのためには情報発信力の強化が必要となるが、私はかねがね「情報発信力」は、「情報発信量」と「情報発信先」(メディアリレーション)との掛け算であると考えている。
 そこで、まず情報発信量の拡大についてであるが、「制約のないものは積極的に情報発信する」というのが帝人広報の基本的な考え方となっている。広報担当の情報収集努力はもちろんのこと、後述の通り、経営層との密な連携や独自のPDCAサイクルを駆使して、可能な限り漏れなく、かつ効果的な情報発信を心掛けている。その結果、帝人グループとしての情報発信件数は2012年1月~6月で約130件、最近は年間約250件のペースとなっており、BtoBメーカーとしては破格のレベルではないかと思う。
 また、2001年8月からは、経営陣のインタビューや最新の企業情報などを盛り込んだニュースレターを隔月発行している。創刊当初の発行部数は約500部だったが、現在はメディア関係者に加え、機関投資家やアナリストにもメール配信しており、約2000部にまで拡大した。
 加えて、単に個々のトピックを単発で発信するだけでなく、1つのテーマを波状的、反復的に訴求する「『面』の発信」にも意識して取り組んでいる。このような発信は、「技術の帝人」や「CSR(企業の社会的責任)の帝人」といった、当社が目指す企業イメージの醸成にも貢献している。

情報発信力の強化-情報発信先の拡大-

 一方、「情報発信力」の掛け算の片方である「情報発信先」の拡大、すなわちメディアリレーションの拡充も重要と考えており、常に前向きに取り組んでいる。日常の広報活動における信頼関係の構築がベースとなるのは言うまでもなく、メンバー全員、それを意識した対応を心掛けている。さらに私自身は、人間対人間の関係ということもあり、「仕事だから付き合う」という線引きをなるべくしないようにしている。従って、担当から外れたからといって付き合いが終わるとも思っていない。かつて、あるメディアとの間でちょっとした誤報を巡って関係がギクシャクした際、かつて当社の担当だった記者さんが、私どものために、正義感から自社の非を追及してくれたことがあった。その彼はずっと公私にわたっての親友である。
 また、メディアとのコミュニケーションの象徴的なイベントとして、いわゆる「マスコミ懇親会」を年2回(上期:東京、下期:大阪)開催している。東京では会長・社長以下、原則として全役員が出席し、メディア関係者約150人をお招きして交流を図っている。今ではコミュニケーションの機会としてすっかり定着しており、今後も発信先の拡大に向けて活かしていきたい。

情報発信のPDCAマネジメントの実践

 広報活動において「PDCA」という表現を使うことが増えてきたような気がする。何をもってPDCAと称するかは様々であるが、当社では、情報発信の計画策定から積極的な情報発信、経営層との共有・連携、実績のフォローまでの「PDCAマネジメント」を実践している。
 発信すべき情報は、当然ながら広報ではなく現場で生み出される。そこで、情報を発信するために、まずは情報収集が広報活動の肝となる。しかし、当社では2003年の持株会社制移行に伴う分社化により、いささか情報収集が難しくなった。当初、「広報・IR委員会」という公式な会議体を設け、各事業の部長クラスにメンバーとして参画してもらったが、会社間の壁による情報共有の難しさや、部長クラス1人では認識している情報の範囲や意思決定のレベルに限界があり、結局断念したという経緯がある。そこで、年度計画が定まる時期に各事業・機能のトップ十数人と、それぞれミーティングを設定し、情報発信計画を策定することにした。情報発信の計画・実績は経営会議体において経営層と共有している。
 さらに、情報発信強化のための仕組みとして、情報発信を点数化し、各事業・機能に目標値を設定して、毎月進捗管理をしており、結果は経営会議の場で報告・共有している。そして、年間の実績は、翌年の計画および実行に活かしていく、これが当社の情報発信における「PDCAマネジメント」である。

効果測定と社内に向けたアピール

 情報のアウトプット(報道)をコントロールすることはできないが、インプット(発信)はこちらの努力次第であり、PDCAサイクルを回すことで効果を上げることが可能だ。そういう点から、社内の管理においてはまずもってインプットが重視されており、このPDCAは、当社における広報の効果測定ツールになっているともいえる。
 一方、一般に広報効果といわれるアウトプット(報道)の分析・評価も必要と考えており、メディア露出の状況を定点観測すべく、当社では毎月の報道分析を行い、半年単位で集約している。また、中期のタームでの活動成果を認識する目的で、3年に1回のペースでマスコミサーベイも実施している。
 こうした効果測定の結果は経営層にも報告するが、それが良い結果となっていれば、そこには広報活動の成果を経営層や社内に向けてアピールできるという側面もある。私は、広報活動を推進する上で、社内における広報の地位向上が非常に重要であると考えており、そのために活動成果を社内にアピールすることは大事なことと思っている。成果のアピール方法は、他にも毎日のクリッピングや月次の実績報告などがあり、また、メディア主催の表彰やランキングで社外から高い評価を獲得することも意義がある。こうしたことを通じ、広報に対する社内評価を高めていかなければならないと常に意識している。

今後の課題~業界を超えて広報の地位向上を

 広報室の担当範囲は、情報発信を核にした、いわゆる広報活動のみならず、エクスターナルブランディングの核となる宣伝活動、「社員・組織の行動変革」と「統一感のあるブランド訴求」の2つをテーマに推進しているインターナルブランディング、また、ブランディングを推進する上でも大きな役割を果たすホームページやグループ報など多岐にわたる。また、広報だけを捉えても、国内のみならず海外に向けた広報活動も活発化させている。
 こうした中で、帝人広報が今後に向けて取り組むべき課題は、まず、現在の取り組みの強化として、「経営との一体感のさらなる拡充」と「情報発信力のさらなる強化」が挙げられる。これからの課題としては、「リスク・クライシス対応力の強化」「インターナルブランディングの確実な推進」を加速させるとともに、新たな取り組みとして「ソーシャルメディア対応」にも着手しなければならない。そして最後に、「広報パーソンの育成」である。難しいテーマであるが、より強い帝人広報を築き、支えていく人財を育てていきたいと思う。
 私自身は、社外セミナーでの講師やメディアからの取材などを依頼された際、自分にできることであれば、極力お引き受けするようにしている。理由は幾つかあるが、ひとつには、私が帝人の広報室長として話すことで、帝人の認知度向上に貢献できるということ。もうひとつは、「帝人広報」の名前を高めることができるということ。さらに、業界を超えて広報に関する様々な知見や情報を共有するとともに、広報パーソン同士が交流・連携するきっかけとなることで、広報全体のレベルアップ、ひいては企業広報の評価やポジションの向上に繋がると思うからである。
 今後も引き続き、こうした広報パーソンとしての活動に前向きに取り組むことにより、スペシャリストとしての広報のポジション向上に貢献していきたいと考えている。
(文責:国内広報部専門研究員 森田真樹子)
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