経済広報

『経済広報』(2013年10月号)掲載
第29 回 企業広報賞 選考委員選考所感
やはり最後はヒト
(選考委員長)片平 秀貴(かたひら ほたか) 丸の内ブランドフォーラム 代表
写真:片平 秀貴  今回の審査は、どの賞も活発な議論の末にほぼ全員一致で結論が出た。
 大賞の日産自動車は、委員間の議論が進む中で自然と皆の声が集まった。そのポイントは次の2つだ。一つは、同社のグローバルメディアセンター周りの新しい試みへの高い評価だ。世界のトップジャーナリストを社員として採用し、グローバルに通用するメディアを自前で持つという画期的な試みは、日本の広報の進むべき方向として注目に値する。もう一つは、何か問題が起きた時にもCOOの志賀俊之氏をはじめ同社のトップが誠意を持って取材に応じる姿勢が評価された。
 経営者賞の泉谷直木氏も、社内・社外に積極的にコミュニケーションを取ろうという飾らない仕事ぶりを高く評価する委員が多く順当に受賞が決まった。稲盛和夫氏は日本航空再建における圧倒的貢献が、企業広報の枠にははまらないものの、その功績を称えたいという声が強く、選考委員会特別賞を贈ることになった。
 功労・奨励賞は、長年の貢献を称える意味で薬師晃氏、最近の目覚ましい活動を評価してSGホールディングス株式会社に決まった。特に、薬師氏は、メディア代表の多くの委員が口を揃えてその貢献を評価した。
 今回の審査を通して強く感じたのは、広報活動もチームワークではありながら、一人ひとりが「一人間」として信頼され敬愛されることが大切だということだ。受賞された皆さんには心からお祝いを申し上げたい。
グローバル対応への挑戦――図抜けた広報モデル
江上 節子(えがみ せつこ) 武蔵大学 社会学部教授
写真:江上節子  今回の企業広報大賞の評価は、日本が今までの国際化とは異なる、世界を一体的なシステムとして捉えた地球基準のグローバル社会へ、移りつつあることを実感した審査だった。国際化とグローバル化の違いを日産自動車のグローバルメディアセンターが示してくれた。
 世界各国のジャーナリストと契約し、社内と社外の中間地点からメッセージを作るシステムと、社内にメディアセンター、いわばネット配信の放送局を設置するという構造は、まったく新しい広報モデルである。
 多様な世界へのオープンな広報活動に立脚する覚悟をした経営者だからこそできる挑戦だと思う。
 カルロス・ゴーン氏の地球規模の経営戦略の信念に基づき、長きにわたる日産自動車の経営改革もここまで辿り着いたのかという観がある。新たな意味を載せた日産自動車という“記号”を多様なジャーナリストの眼を通して世界中に伝播(でんぱ)させていく仕組みは、ゴーン氏の経営改革の仕上げなのではないか。これは、やっぱり図抜けている。   
「誠実さ」高く評価
齋藤 孝光(さいとう たかみつ) 読売新聞東京本社 経済部長
写真:齋藤 孝光  日産自動車が大賞を獲得したのは、「日ごろの行い」が良かったからだ。
 もちろん、広報活動自体への評価も高かった。ただ、決め手になったのは、選考委員会の議論で、「自社に必ずしもプラスにならない取材にも誠実に対応している」という姿勢に評価が集まったことだ。「悪い情報は出そうとしない」企業への批判も出て、流れが徐々に日産に傾いた。
 コミュニケーションは一方通行では成り立たない。自社に都合のいい情報だけを発信しようとすれば、それ自体が対話を拒む姿に映ってしまう。
 経営者賞の泉谷社長も、功労・奨励賞の薬師さんも、コミュニケーションの達人だ。後講釈で言えば、3賞に共通するポイントだと思う。
 世間の話題をさらい、自社のイメージを高める手法を競うばかりが「広報賞」ではない。そのことが示せてよかったと思う。
長年にわたる絶え間ない活動を評価
鈴木 勝彦(すずき かつひこ) プレジデント社 『プレジデント』編集長
写真:鈴木 勝彦 企業広報大賞に決まった日産自動車の最近の広報活動ではまず、ダイバーシティ推進への継続的なPRを思い浮かべる。同社にダイバーシティディベロップメントオフィスができたのは2004年10月。社内に託児所を設け、出産・育児休暇からの職場復帰を支援し、女性管理職比率の向上に目標を定めた。それから10年。今年の2月には東京証券取引所が同社を、女性社員を積極活用している優良企業「なでしこ銘柄」(17社)に選んだ。これまでの先進的取り組みに敬意を表したい。
 企業広報経営者賞のアサヒグループホールディングス・泉谷直木社長は、広報マインドを持った経営者として出版業界人の誰もが認めるところである。企業広報功労・奨励賞には東日本旅客鉄道の薬師晃広報部担当部長を推した。20年もの間、同社広報活動の大黒柱として活躍を続けてこられた功績は格別に大きい。SGホールディングスはイケメン写真集『佐川男子』など話題性を評価した。最後に選考委員会特別賞の日本航空・稲盛和夫名誉会長には、「広報賞」というより、巨大な国策会社の再建への「感謝賞」の気持ちをお贈りしたい。
社会の価値観をけん引する広報
藤沢 久美(ふじさわ くみ) シンクタンク・ソフィアバンク 代表
写真:藤沢 久美  長い歴史を持つ広報賞も、年々選定が難しくなってきているように思う。情報化社会に入り、企業にとってコミュニケーションの重要性は増す一方だ。その対象も、国内の顧客のみならず、国内外の取引先や従業員、株主など、様々なステークホルダーとのコミュニケーションが求められている。そうした大きな変化の中、大手企業各社の広報の水準は、発展の一方だ。かつての商品のプロモーションに軸足のある広報から、企業のビジョンや哲学、そして企業内の製造工程や意思決定プロセスなども見える化する広報が増えてきた。
 こうした広報の進化を顧みる時、今回の受賞企業は、早くから新たな広報への挑戦を続け、企業とのコミュニケーションに触れるすべてのステークホルダーに新たな気付きや導きを与えてきたといえるだろう。そして、その存在は言い換えれば、社会の価値観を大きくけん引するものといえる。
「広報」と「報道」――2つのメディア
堀江 隆(ほりえ たかし) 朝日新聞東京本社 経済部長
写真:堀江 隆  「メディア」(media)は「中間」を意味する「medium」の複数形である。ニュースの源と読者の双方を中間で繋ぐのがメディア、新聞社の役割と思っていた。
 ところが、最近は「中抜き」が広がる。市民がツイッターでニュースをつぶやき、事件や事故の動画をサイトに投稿する時代。日産自動車も、この流れに乗る。しかも社内のスタジオでニュース配信に携わるのは欧米メディアのジャーナリスト経験者たち。動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップしたニュース仕立ての動画の質が高いのも不思議ではない。我々既存メディアに刺激を与える競争相手である。
 ただ「広報」と「報道」は利害が異なることもあるが、「ニュースの源と受け手を繋ぐ」という点で立場は同じ。共にメディアである。新しい時代に広報、そしてメディアは何を、どう伝えるべきなのか。それぞれの答えに迫る受賞企業・経営者の取り組みは大いに参考になる。
これぞ、広報の神髄。でしょう。
松木 健(まつき けん) 毎日新聞東京本社 経済部長
写真:松木 健 80歳を目前にして、名誉を欲しがる人は結構、いる。しかし、80歳を目前にして、それまでに得た名誉を失うかもしれない、あるいは晩節を汚す可能性さえあるのに、あえて渦中に飛び込む人は見たことがない。
 一度つぶれた会社のトップとして、同情を買おうともしなかった。それどころか、つぶれた理由を並べ立て、それまでの経営や企業人としての在り方を公然と批判。「内なる改革」に火をつけ、短期間でのV字回復を成し遂げた。回復したのは業績だけではない。つぶれる前、「傲岸(ごうがん)」「不遜」と散々だった会社に対する世間の評価は一変した。「社員一人ひとりの企業人としての自覚も大きく変わった」といわれる。
 選考委員会では、「『企業広報賞』の枠には収まりきらない」と、賞を贈ること自体を躊躇(ちゅうちょ)する声もあった。だが、稲盛さんこそ、企業広報の最高峰に位置付けられるべきだろう。
経営のプロと正しい広報
横田 恵美(よこた えみ) 毎日新聞社 『週刊エコノミスト』編集長
写真:横田 恵美  経営者の力量次第で企業は成長し、衰退する。製造業が巨利を上げるには、相応の経営力が必要になった。コツコツ働く従業員の「現場力」頼みのスタイルでは、グローバル競争の世界は戦えない。
 会社を成長させることができるのは、会社の目指す方向を明確にして社員の能力をフルに引き出せる経営者である。あるいは、自ら先頭に立って画期的な商品やサービスを生み出し、顧客を創出できる経営者である。
 こんなことは、経営者でなくても分かっているが、実行が難しい。社内の抵抗に屈し、業界内のポジションに慢心するからだ。今回、受賞された方々は、その難しいことをやり遂げ、社外発信力も巧みな経営者たちである。日産自動車は、倒産寸前まで追い込まれた時にカルロス・ゴーン社長が就任してよみがえった。志賀俊之COOは、記者のどんな質問も受けて立つという姿勢を社内外に示している。経営のプロがいて、正しい広報をする会社は強い。
「広報」を測る尺度とは何か?
吉次 弘志(よしつぐ ひろし) 日本経済新聞社 経済部長
写真:吉次 弘志  今回、初めて「企業広報賞」の選考に立ち会った。正直なところを申し上げれば、選考対象になった各社の推薦文を読み、若干の違和感を禁じ得なかった。我々メディアの側から見れば、企業広報の価値とは「露出頻度の多さ」や「取り上げられ方が企業の思い通りであること」は必ずしも「良い広報」を意味しない。むしろ、厳しい状況下でもマイナス情報も含めてフェアなディスクロージャーをした企業が「大賞」の名にふさわしい。選考過程では様々な議論があったが、今回ノミネートされた企業の中では、日産自動車がこの基準に最も適合しているように思えた。
 もうひとつ、個人的にこだわったのは我々が日常目にしたり、身近だったりする企業に知らず知らずのうちに引っ張られないようにすることだった。地味でも「ものづくり」に携わる企業にエールを送りたいという思いもあった。だが、この点ではほかの選考委員と見解が異なるケースも多かった。 
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