経済広報

『経済広報』(2013年11月号)掲載

第29回「企業広報賞」受賞者インタビュー

自らニュースを発信する、全く新しい「コトづくり」広報

志賀 俊之

志賀 俊之(しが としゆき)
日産自動車(株) 最高執行責任者

ストーリーを意識した「コトづくり」

グローバル企業のトップとして、広報活動ではどのようなことを意識されていますか。
志賀 広報活動は企業活動や企業の戦略を、迅速に透明性を持って、全てのステークホルダーに正確に伝えることを基本に考えています。さらに、情報を受け取った方々に正確に理解し、好感を持っていただき、企業イメージと親近感を引き上げていくことが大切です。
 当社では、2011年より広報活動にストーリーテリング、つまり「コトづくり」の発想を取り入れました。
 例えば、電気自動車を販売する際、ステークホルダーに対しては「電気自動車は乗り心地が良い」「地球環境に優しい」というメッセージを出しますが、同時にストーリーを伝えることが重要です。実は、当社は最初にリチウムイオンバッテリーの開発に着手した自動車会社で、1992年から20年近く、経営が苦しい局面でも開発を継続してきました。そのことが2010年の日産リーフの発売に繋がりました。また、日産には、1947年の戦後間もない時代に「たま電気自動車」を販売していたという歴史があります。こういったストーリーを伝えることにより「日産には電気自動車の開発に長く取り組んできた歴史がある」という理解が得られ、「安心して乗ることができる」「性能も品質も良いだろう」というお客さまの好感度に繋がります。
 日本のモノづくり企業は「モノ」に対しては自信を持っていますが、「モノ」から得られるお客さまのバリューを、上手に伝えられていないことがあります。それは「モノ」の素晴らしさをお客さまの視点に置き換えられていない、つまり「コトづくり」ができていないためだと考えます。企業の広報活動は、商品の魅力以上にお客さまが商品を通じて得られる価値を伝えることが大切です。こうした取り組みのひとつが、今回の「企業広報大賞」受賞理由にも挙げていただいた、グローバルメディアセンターです。グローバルメディアセンターからは一日一本は必ずニュースを発信するようにしています。

グローバルメディアセンターの取り組み

グローバルメディアセンターの活動内容をお聞かせください。
志賀 グローバルメディアセンター発足のひとつのきっかけは、広報活動とマーケティング活動をどのような形で関連付けると最大限の効果を発揮できるか、社内で議論をしたことです。当社では2011年に広報とマーケティングを1つの部署とし、マルチコミュニケーションに取り組んでいます。広報もマーケティング活動もお客さまに関心を持っていただき、好感度を上げて購入意欲に結び付ける、という目的は同じです。マーケティング活動は広告という形でお金を払い、ステークホルダーに情報発信をしますが、広報活動の結果メディアにニュースとして取り上げられると、お客さまから見た信頼度は明らかに高くなります。
 それならば、我々自身で広告ではないニュースをつくり世の中に発信していこう、というのがグローバルメディアセンターの取り組みです。
 通常の広報活動と大きく異なる点が2つあります。1つは、我々企業自身がニュースをつくっている点です。今はインターネットやソーシャルメディアの時代でもありますので、ウェブサイトへの掲載やユーチューブへの投稿によってニュースを発信することができます。同時に、受け取った側にニュースとして感じていただくことも重要です。そのためには自社に都合の良いニュースだけを出しているという印象を与えないよう、他社の商品に関する情報発信も行っています。
 2点目は、映像でニュースを発信している点です。映像は単なる文章のみのニュースよりもイメージをつかんでいただきやすく、1つのニュースをより深く理解していただくことができます。例えば、今年の8月、「日産自動車は2020年までに自動運転車を市場に投入する」というニュースを発信しました。映像では、開発責任者や商品企画責任者が登場し、開発ストーリーや自動運転車に使われている技術を説明しています。今は多くの方々がインターネットで情報を仕入れる時代ですので、「日産」「自動運転車」などと検索してもらえば、このニュース映像をすぐにご覧いただけます。

グローバルに一貫性と規律あるメッセージを発信

社内の情報連携体制はどのようになっていますか。
志賀 社内に2つの横串をつくり、連携を図っています。1つは部門横断的な横串で、開発部門や生産部門などを横断し、各部門間の情報共有に努めています。加えて、それをグローバルに結ぶ2つ目の横串があります。当社の特徴のひとつに、「グローバルワンボイス」(GOV)という取り組みがあります。朝メールをチェックすると「グローバルワンボイス」と書かれたメッセージが何通もきています。これは世界各地の拠点から発信されるメッセージで、今起きているニュースや、それに対し誰が、いつ、どこで、どのような対応をしているかが書かれています。当社では、各拠点からあらゆるニュースが時間帯を問わず飛び込んできますが、その全ての情報を「グローバルワンボイス」で把握することができます。世界のそれぞれの拠点がバラバラに情報を発信してしまうと、どこかで食い違いが生じてしまいますが、このようにシステマチックに情報を管理することで、ほとんど混乱なく常に一貫したメッセージをタイムリーに発信できます。これは、広報活動に対する信頼を築く上で非常に重要です。 
 また、同時に重要なのが発表するタイミング・場所・スポークスパーソンを適切に選択し、コミュニケーションストラテジーを構築することです。ニュースによっては、現地の責任者が、日常的にお付き合いしている各国のメディアに対してローカルに発表するにふさわしい案件もあれば、CEOのカルロス・ゴーンから発表した方が良い案件もあります。コミュニケーションストラテジーの構築により、広報活動の成果を最大限に引き出すことが大切です。そのため当社では、経営会議上で承認された案件については、いつ、どこで、誰が発表するかもほぼ同時に決定しています。
世界各国に進出されていますが、それぞれの国や地域で広報・広告戦略に違いはありますか。
志賀 国により様々な特色があります。例えば、中国市場はお客さまが30代前半と非常に若く、彼らは情報の大半をウェブサイトから仕入れているためクチコミ情報にも敏感です。商品を知っていただくきっかけは広告・宣伝が大半で、興味を持ってもらい、購入動機に繋げていくプロセスはデジタルマーケティングの領域に入ります。そのため、従来の広報活動とのバランスをどうするか、デジタルマーケティング上でどのようにアクセスを増やしていくのかを考えることが重要です。一方で、自動車は実際に見てから買っていただける商品でもあるため、ショールームへの誘引活動や、スーパーマーケットなどで自動車を見てもらう局地的なイベント活動も行っています。国によってこれらの活動をどのように組み合わせていくか、最適なバランスを考えています。

「人々の生活を豊かに」の実現に向けて

CSR(企業の社会的責任)活動についても非常に力を入れていらっしゃいます。
中面
志賀 当社では、CSR活動とは企業の戦略そのものと考えています。つまり、CSR活動をどれだけ事業活動の中に落とし込み、事業活動をすることで社会に貢献できるかが重要です。
 当社では「人々の生活を豊かに」という企業ビジョンを掲げています。そして、このビジョンの実現を目指し、自動車メーカーとして力を入れるべき8つの「サステナビリティ戦略」を特定し、推進しています。それは(1)環境、(2)安全、(3)社会貢献、(4)品質、(5)バリューチェーン、(6)従業員、(7)経済的貢献、(8)コーポレートガバナンス・内部統制の8つで、いずれも社会から信頼され、必要とされる企業であるために欠かすことのできない要素です。
 例えば、(6)従業員の分野では、従業員の満足度向上や仕事に対するやりがい感の醸成、女性の働きやすい職場づくりに努めています。また、(7)経済的貢献と(8)ガバナンスの分野では迅速で透明性のある情報開示に努めています。「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」では6年連続で選定されています。
 特徴のひとつは「CSRスコアカード」を作成し、年間を通じてCSR活動の管理を行っていることです。スコアカードでは、8つのサステナビリティ戦略に対して「日産が現在実行している事業活動の価値観や管理指標」と「企業に対する社会からの要請」、そしてその間に「中長期にどう行動していくべきかを想定した管理指標」を記載しており、社会から求められている様々な項目に対して日産の取り組みレベルがどうか、一目で分かるようになっています。スコアカードは実績評価も含めて毎年内容を更新し、タイムリーに公表しています。
 また、8つのサステナビリティ戦略の中で、「環境」「安全」「社会貢献」の3つの要素を当社だからこそできる活動と位置付け、特に力を入れて取り組んでいます。環境の分野では「ゼロエミッション車の普及」や「低燃費車の拡大」を目標としています。安全の分野では「ゼロフェイタリティ(車による死亡・重傷者数をゼロに)」を目指し、「クルマが人を守る」という独自のコンセプト「セーフティ・シールド」を軸に技術開発を進めています。社会貢献の分野では「人道支援」「教育への支援」「環境への配慮」の3つを柱に活動しています。例えば、国際非営利法人「ハビタット・フォー・ヒューマニティ(Habitat for Humanity)」とのパートナーシップでは世界各国での住宅建築支援を行っています。
 日産では、これらのCSR活動を総称して「ブルーシチズンシップ」と名付けました。我々の事業活動は持続可能なモビリティ社会の実現に貢献するものであり、ブルーシチズンシップは、その実現に向けた日産の取り組みを表しています。

「今までになかったワクワクを」

最後に、日産自動車の今後のビジョンについてお聞かせください。
志賀 常にイノベーションを起こし、新たな技術開発や新機軸を打ち出していきたいと考えています。電気自動車では業界のリーダーとなることが目標です。
 イノベーションの一環として、先日「日産360」という大規模なメディアイベントを開催しました。世界中の日産車を一堂に集めたイベントで、100台以上用意した車の試乗のほか、当社の先進技術、CSR活動もご覧いただきました。約1カ月間、世界中から延べ1000人弱のメディアを招待し、常に進化し続ける技術やデザインを見てもらうことができました。
 当社では2013年4月から、広告のタグラインに「Innovation that excites」(今までになかったワクワクを、の意)というメッセージを表示しています。常にイノベーションを起こし「今までになかったワクワクを」お客さまに感じてもらえるような企業であり続けることで、日産ブランドをつくり上げていきたいと思っています。
(聞き手:中山 洋 経済広報センター 常務理事・事務局長)
(文責:国内広報部専門研究員 鈴木恵理)
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