経済広報

『経済広報』(2014年2月号)掲載

企業広報研究
企業広報功労・奨励賞を受賞して
顧客第一主義で“飛脚の精神(こころ)”を届ける「佐川男子」

SGホールディングス(株)経営企画部 広報ユニット

SGホールディングス/佐川急便の概要

 SGホールディングスグループは、佐川急便を中核に39社(国内17社、海外22社)で構成される企業グループで、デリバリーやロジスティクスを中心とする事業分野でビジネスを展開している。
 中核会社である佐川急便は、1957年に京都―大阪間で1つの荷物を届けることからスタートした。現在、約4万7000人の社員を抱える企業へと成長し、宅配を中心とした物流事業を行っている。創業以来50余年、原点である「飛脚の精神(こころ)」を受け継ぎながら、お預かりした大切な荷物を「お客様の心とともに」真心を込めて届けている。

“セールスドライバーの現場力”を中核としたコミュニケーション戦略

 サービス業である佐川急便にとって、最大の強みは“セールスドライバーの現場力”である。この認識の下、一貫してセールスドライバーを中核に据えたコミュニケーション戦略を展開してきた。
 例えば、1999年には当社ホームページに「今週のセールスドライバー」というコーナーを開設し、全国で活躍するセールスドライバーの心に残ったエピソードや将来の夢などを紹介してきた。また、2000年からは雑誌『AERA』で、セールスドライバーを全面に打ち出した広告出稿を行った。当初は月1回の出稿だったが、2001年からは週1回に増やし、2002年まで3年間にわたってセールスドライバーを紹介した。
「佐川萌え」現象の始まり――その外的要素と内的要素
 こうした継続的な活動により、インターネット上に当社セールスドライバーのファンサイトが幾つも立ち上がり始めた。そこで実態を調べてみると、現実にセールスドライバーが一般の方からバレンタインデーにチョコレートをもらう、手作り弁当を差し入れされるといった、様々な“モテ”エピソードが確認された。さらに、あるテレビ番組で人気タレントが当社セールスドライバーの話題で盛り上がり、爽やかなセールスドライバーに夢中になる(“萌え”る)ことを「佐川萌え」と呼んだことがきっかけとなり、徐々にメディアで「佐川萌え」現象が取り上げられるようになった。
 広報では、この「佐川萌え」をフックとして、セールスドライバーの現場力をさらにPRしようと模索した。まず取り組んだのは、「佐川萌え」の定義の明確化である。当初、メディアではセールスドライバーの“イケメン”ぶりばかりが報じられたが、社内外に幅広く聞き取り調査を行ったところ、「佐川萌え」には外的・内的の2つの要素があることが浮き彫りになった。外的要素とは、ブルーを基調とした縞柄のシャツに身を包んだ筋肉質の男性が、街中をさっそうと駆け巡り、爽やかな笑顔で元気に挨拶するドライバーの姿である。
 一方、内的要素とは、新人研修で徹底した礼儀作法を習得し、創業から受け継がれるDNAともいうべき「飛脚の精神(こころ)」、すなわち顧客第一主義を体現するドライバーの内面である。この結果を受け、「佐川萌え」のコミュニケーションにおいては、外的要素と内的要素の両面を訴求する広報戦略を組み立てた。
「佐川男子」の誕生
 「佐川萌え」の代表的なコミュニケーション事例のひとつが、2011年7月に『AERA』で3ページにわたって掲載された特集記事である。この記事は大きな反響を呼び、当社の広報戦略に沿った「佐川萌え」のイメージが急速に形成される契機となった。
 『AERA』の特集記事に関心を持った編集者の提案により、2012年5月に当社の人事・教育マネジメントを紹介する『佐川萌え』(坂口さゆり 著、ジュリアン 刊)が発刊された。この本では、単に男性セールスドライバーを紹介するだけではなく、新人研修制度や女性活躍推進の取り組みのほか、全社一丸となって最善を尽くした東日本大震災時の現場エピソードなど、広報として訴求したい内容を盛り込むことで、「飛脚の精神(こころ)」を伝えることに成功した。
 また、やはり『AERA』の特集記事がきっかけとなり、2012年8月には写真集『佐川男子』(飛鳥新社編集部 編)が出版された。制作に当たっては、全国のセールスドライバー3万人に対して募集を行い、約200名の応募の中から51名の「佐川男子」を選定した。写真集の内容は多岐にわたり、北海道から奄美大島まで、全国から集った「佐川男子」たちは、慌ただしいながらも本格的なスタジオ撮影を楽しんでいた様子である。
 広報では、このような写真集が果たして売れるのかと心配していたが、初版の1万部は予約完売、発売5日後には重版され、最終的に一般人の写真集としては異例となる2万部の大ヒットを記録することとなった。

「佐川男子」のメディア対応方針


写真集『佐川男子』(飛鳥新社)
 写真集『佐川男子』の発売後、メディアから「佐川男子」への取材依頼が殺到した。当社では、よほどリスクがない限りは積極的に受けることを基本方針とし、メディアのあらゆる要望に誠心誠意対応することを心掛けた。また、特に繁忙期などは、現場の業務に支障をきたさないよう配慮する一方、出演するセールスドライバーの選定においては妥協を許さず、外見だけでなく、会社の代表としての自覚あるパーソナリティーとマナーを備えた人材を厳選した。さらに、取材前にはセールスドライバーへのメディアトレーニングを必ず実施した。
 取材に際し、特に新聞ではエンターテインメント路線での「佐川男子」のPRにとどまらず、セールスドライバーの爽やかで丁寧な接客技法と、それを支える研修制度を切り口とした記事になるように、「飛脚の精神(こころ)」を体現する内的要素の訴求に努めた。また、週刊誌からファッション誌まで、幅広い雑誌に制服(縞シャツ)姿の「佐川男子」が登場し、ブランドアイコンとしての“佐川急便セールスドライバーの縞シャツ”に対する認知と好感度を高めた。
 こうして魅力的な「佐川男子」のメディア露出を拡大することで、さらなるメディア露出を促進するという好循環を生み出した。新聞、テレビ、雑誌など、各メディアからの取材依頼はこれまで150件以上に上り、広告換算費で約15億円という大きな成果を挙げている。

社内の理解と協力の獲得に向けて

 “エンタメ系”とも取られかねない「佐川男子」の広報戦略に対し、社内では当初、現場社員を動員することに懸念の声が出ていた。しかし、広報には当社の現場力を訴求することが必要だという確信があり、何としてもセールスドライバーの現場力の素晴らしさを社会に知らしめたいという決意を持って、社内の各方面に理解と協力を訴えた。
 この背景には、東日本大震災において、現場のセールスドライバーが多くの困難を乗り越えて被災地の物流再開に尽力したにもかかわらず、その活動について社会の認知を十分に得られなかったという反省がある。そのため、今回こそ「佐川男子」を通じて当社の現場力を広く伝えたいという思いが、広報活動の大きな原動力となった。
 具体的には、役員をはじめ、関係部署のキーパーソンに「佐川男子」の広報戦略やその意義について粘り強く説明し、価値観の共有を図った。そして、繁忙期も含めて継続的に現場に快く取材協力してもらうため、報道された結果は関係者に即時フィードバックするなど、きめ細かな社内コミュニケーションを行った。
 こうした努力によって社内の理解と現場からの信頼を獲得した結果、メディアからの要望に最大限に応えることが可能となり、より一層の露出拡大に繋げることができたと考えている。

「佐川男子」が生み出した波及効果

 「佐川男子」は、社内外に大きな波及効果をもたらした。社内においては、現場社員に誇りと自信を与え、会社全体のモチベーション向上に寄与した。また、「佐川男子」を顧客とのコミュニケーションツールとして活用することで、セールスドライバーの営業成績アップにも貢献した。広報面では、「佐川男子」をきっかけに当社の他分野の商品・サービスへの関心が高まり、企業活動全般にわたり報道機会が飛躍的に増加した。さらに、リクルート面では、「佐川男子はかっこいい」というイメージが形成された結果、「佐川男子に憧れて」「縞シャツを着たい」という理由で入社希望が増えるという効果も得られた。
 また、社外ではグッズ販売や舞台公演など、写真集『佐川男子』に端を発した様々な企画が人気を博しているほか、その後も映画・ドラマ化やエクササイズDVDの制作、地域活性化イベント開催といった新たな企画が次々と提案され、広がりを見せている。メディアでもこうした「佐川男子」関連の動きがまとめて大々的に報道されるようになり、もはや「佐川男子」は一企業の広報の枠を超え、社会現象へ進化したと認識している。

「佐川男子」から「佐川女子」へ

 「佐川男子」に続いて、今度は女性セールスドライバーが「佐川女子」として注目を集め、女性活躍推進の好事例としてメディアに取り上げられるようになった。
 SGホールディングスグループでは、2011年に女性社員の活躍とワーク・ライフ・バランスの推進を目的としたグループ横断プロジェクト「わくわくウィメンズプロジェクト」を立ち上げ、女性社員が中心となって、制度改革や女性が働きやすい職場環境の整備を進めてきた。女性社員の積極的な採用や職域拡大、管理職登用を推進し、2014年度末までにグループ収益の30%を女性が担う体制を構築するという目標を掲げて、現在も積極的に取り組んでいる。
 「佐川男子」ブームは、当社が注力している女性活躍推進が広く社会に認知されるという点においても、非常に大きな相乗効果を生み出しているのである。

“顧客第一主義”を体現する「佐川男子」

 「佐川男子」がこれほど世間に注目された背景には、今の日本が置かれている時代背景があるのではないかと考えている。すなわち、バブル崩壊後の閉塞感を何とか打破したいという機運が高まる中で、社会のために全社員が真摯に仕事に打ち込むという“日本型企業経営”が再評価され、そのモデルのひとつとして「佐川男子」が捉えられたのではないだろうか。
 京都発祥の佐川急便の広報戦略においては、当社の顧客第一主義の根底にある「おもてなしの心」「おもてなしの企業文化」を、「佐川男子」を通して表現することを目指してきた。創業の原点である「飛脚の精神(こころ)」、そして「顧客第一主義」「責任と誠意」「地域社会への奉仕」という企業理念は、企業の社会的責任に応えるものであり、時代や国境を超えて通用する価値だと思う。「佐川男子」の広報戦略が社会に受け入れられているとすれば、この当社の創業の企業理念が、今こそ現代社会に求められている証しといえるだろう。   
(文責:国内広報部専門研究員 森田真樹子)
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