経済広報

『経済広報』(2014年10月号)掲載
第30 回 企業広報賞 選考委員選考所感
企業信念の有言実行
(選考委員長)片平 秀貴(かたひら ほたか) 丸の内ブランドフォーラム 代表

写真:片平 秀貴 広報の役割が論じられる時に近年必ず引き合いに出されるキーワードは「アカウンタビリティ=説明責任」だ。しかしながら、ただ説明すればいいのか、何を説明するのか、を問うていくと、結局アカウンタビリティの先にある「レスポンシビリティ=責任そのもの」にたどり着くと思う。それは、その企業の存在意義は何で、誰に対して何をすべきなのかという根本をきちんと規定し、発信し、実行することにほかならない。
 今年の審査には、どうもこの「責任そのもの」という概念が大きく関わっていたような気がする。それは言葉を変えると、企業を一人の人間と見た時に、「その人」には独自の信念があるのか、そのもとで関係者全員が一つになれるように基軸を太く深く設定して行動しているかどうかが、最終的に今回の選考結果になったのではないだろうか。
 大賞を受賞した森ビルは、ホームページの「トップメッセージ」の冒頭で慎吾社長*が「率直に言って、都市づくりという仕事は心底面白い」と述べておられるが、それほどに「都市を創り、都市を育む」という信念には迷いがない。アークヒルズから直近の虎ノ門ヒルズに至るまで、日本の首都・東京に新しい街づくりの手本を示し、発信し続けてきた力を審査員が高く評価した。
 経営者賞のダイキン工業の井上礼之氏とカルビーの松本晃氏は、それぞれの企業の信念をこの時代に即して磨き上げ、社内外に発信し、実行してきた「レスポンシブルな=責任感ある」指導力が高く評価された。井上氏の地球全体を視野に入れた発信と、松本氏の社会に愛されるブランドへの貢献は特筆に値する。
 功労・奨励賞の西武ホールディングスの西山隆一郎氏と日産自動車の濱口貞行氏は、指導力のある経営者との二人三脚で、難しい局面でも前向きに責任ある姿勢を貫き通したことが受賞に繋がった。
 今回受賞された皆さんには心からお祝いを申し上げたい。

*「辻」はしんにょうの点はひとつ

受賞を糧に、革新の旗手に
江上 節子(えがみ せつこ) 武蔵大学 社会学部教授
写真:江上節子  本年の企業広報大賞の審査は、長い議論を経て、決定する形となった。内外の構造的な環境変化がドラスティックに続く中、真摯な経営に取り組む企業は、変化への適応という戦略と、その企業が持つ固有の資源とその事業の基本を大切にするという原則に基づいて舵を取り、長期構想を固め、すでに踏み出し始めている。
 その中で、今回の受賞者、受賞企業の選を行ったことについて、あえて申し上げれば、ひとつのことに過去30年、40年と取り組み続け、今なお、そのことの価値の向上に挑戦し続けているという粘り強い姿勢と実績に対する評価であった。そして、率直に情報を発信し続けた広報活動である。
 今日、変化の時代に、ステークホルダーの多くは、企業広報賞の受賞企業・受賞者の、受賞してからのさらなる活躍に高い期待を抱いている。日本における上場企業のガバナンスの仕組みが、国際社会の共通水準に近付き、気候・環境・自然資源の減衰への対処、国境を超えるあらゆる諸問題などへの対応も枚挙にいとまがない。今回の受賞を糧に、事業の価値向上と企業と社会との調和した持続的な成長を果たしていく旗手で在り続けることを願ってやみません。誠におめでとうございます。   
<対話>の達人
坂本 裕寿(さかもと ひろひさ) 読売新聞東京本社 経済部長
写真:坂本 裕寿  国民の理解と共感を得る。商品やサービスの紹介にとどまらず、組織の存在理由を絶えず問い掛ける。広報活動は、企業と社会を繋ぐ<対話>である。
 心弾む対話には、伝えたいドラマがある。10周年を迎えた「六本木」、東京の未来図を感じさせる「虎ノ門」、<ヒルズ>は常に都市再生の物語をはらむ。華やかな超高層ビルは、街づくりへの地道な努力という土台に支えられている。そんなイメージを自然に定着させた森ビルの取り組みを評価したい。
 対話する企業は、経営トップ自らが先頭に立ち、その情報発信が企業ブランドに直結する。ダイキン工業の井上会長は関西財界の重鎮、カルビーの松本会長は移籍組の気鋭と持ち味は異なるものの、共に「伝える力」のある経営者と言ってよい。
 意に沿わない意見に耳を傾けなければ、対話は成立しない。その意味で、日産自動車の濱口氏、西武ホールディングスの西山氏は共にメディアの信頼も厚い「聞き上手」である。
 しのぎを削る取材現場で、対話の達人たちと巡り合えることは経済記者の喜びでもある。
経営と広報の一体化
佐々木 かをり(ささき かをり) イー・ウーマン 代表取締役社長
写真:佐々木 かをり 今年の選考は例年以上に困難だった。広告ではなく広報活動を評価することは例年通り強く意識したが、経営力との関係の扱いは難しいものだった。対象企業の業界や商品の特性、さらに経営方針に対する評価に、あまり大きな影響を受けないように広報活動を審査しようと考えたが、既にグローバル市場において、経営と広報は一体化してきている中、それはとても難しい。企業は、今まで以上に積極的に発信をする必要が出てきた。マスメディアだけでなく、ソーシャルメディアも活用し、自らの決断や行動を多くの消費者、投資家、メディアに受け入れてもらうために発信し、対話するという必要性である。
 企業広報賞は、今年で第30回を迎えるが、広報そのものが新しくなっている今、次の30年に向かって、新しい賞の設立、選考基準の見直しなどの必要があるのかもしれない。
時代を切り取る作業
菅野 幹雄(すげの みきお) 日本経済新聞社 経済部長
写真:菅野 幹雄  「どうやって決めるのかな」と興味深く眺めてきた企業広報賞を選ぶ立場に回り、作業の難しさを実感した。これは企業が社会に提供した製品やサービスへの評価なのか、それとも広報活動の巧拙を比べるコンテストなのか。大量のCMや広告でイメージを広げられる企業と、BtoBの地味なビジネスの企業を同列で比べられるのか。数々の疑問を抱えたまま、最後は各委員の主観をかなり織り交ぜて決めざるを得ないというのが現実だった。
 私が重視したのは「時代を切り取る」という視点である。30回を数える広報賞の顔ぶれをたどると、日本経済の歩みも見えてくる。アベノミクス、東京五輪、企業統治、ダイバーシティといった言葉を頭に浮かべ、真摯な広報を展開したのはどこかを考えた。
 賞に輝いた旬の企業が5年、10年で苦境に陥る例も多い。栄枯盛衰は産業や企業の宿命だ。苦しい時こそ広報の真価が問われる。特に受賞された方々にそう念押ししたい。
広報に公の視点はあるか
鈴木 勝彦(すずき かつひこ) プレジデント社 『プレジデント』編集長
写真:鈴木 勝彦  今回の選考は例年以上に熱を帯びた。特に広報の良し悪しをどこで判断するべきかという根本的な問題について考えさせられることになった。例えば、ある企業の事業活動について一般に目に触れる機会が多ければ多いほど、広報的価値は高いと言っていいか。ここではその立場を取らず、選考の原則に立ち戻った。大賞は「企業活動の的確な情報を発信・伝達し、社会に貢献している企業」に与えられることになっている。森ビルは、自社の事業についてのみならず、常に東京のあるべき姿を追求し、国際競争力のある、安心・安全な都市づくりという公の視点をもって広報を展開されている。まさに大賞にふさわしいと判断した。経営者賞のダイキン工業・井上礼之会長、カルビーの松本晃会長は広報の重要性を強く認識されていて、これまで何度も取材にお応えいただいてきた。功労・奨励賞の西武HD・西山隆一郎部長、日産自動車・濱口貞行部長は、経営トップを支え続けた長年の実績に敬意を表する。
「街づくり」支えた社会との対話力
堀江 隆(ほりえ たかし) 朝日新聞東京本社 経済部長
写真:堀江 隆 「森ビル」。この単語で朝日新聞のデータベースを記事検索すると過去10年で経済面に60件弱。だが、社会面は80件近くになる。昨春、「ヒルズ10年」という見出しの記事が飾ったのも社会面トップだった。経済面連載で虎ノ門ヒルズを取り上げた時も地域住民の声は欠かせない。
 森ビルが企業情報を発信するだけでなく、街づくりを通じて「社会」の中で生きてきた証左だろう。「街」の利害関係者は多く、思いも様々。生活者視点での丁寧で地道な対話が必要だ。選考委員会で評価されたのもそうした対話の力だった。受賞を心からお祝いしたい。
 一昨年亡くなられた森稔さんには叱られるだろうが、私は「ヒルズ」が建つたび消えた、ごちゃごちゃした街が好きだ。それでも森さんのお話を伺うたび、「新しい街をつくる」という強い信念に圧倒された。その信念を丁寧に説明し、反対論者も最後には納得させる。森ビルの街づくりを支えてきたのは、その優れた広報技術、つまりは対話力に違いない。
「素顔」を磨く努力こそ、肝要
松木 健(まつき けん) 毎日新聞東京本社 経済部長
写真:松木 健  大賞を受賞した森ビルは、六本木ヒルズ10周年、虎ノ門ヒルズ開業をめぐる巧みな広報活動に目を奪われがちだが、実はヒルズを中心にした「防災の街づくり」や、自ら主導し自治体を巻き込んで取り組んできた「都市再生プロジェクト」といった地道な努力が、同社に対する世間の評価、企業ブランドを底上げしてきたといっていい。
 企業広報の最大の役割は危機管理といわれる。不祥事や経営危機などのマイナス広報に際し、発信する情報をいかに信用してもらうか。謝罪、反省を、おざなりではない、「本音の吐露」としていかに受け止めてもらうか。それは、何気ない日々の事業、社会活動に、真摯に取り組んでいるかどうかにかかっている。
 どんなに厚塗りしても、「化粧」はいずれ剥がれ落ちる。「素顔」を磨く努力が、いかに重要か。森ビルの受賞は、それを示している。
広報のチカラとは
横田 恵美(よこた えみ) 毎日新聞社 『週刊エコノミスト』編集長
写真:横田 恵美  大賞の森ビルも、最後まで賞を争った企業も、共に宣伝やブランディングに長けた有名企業である。宣伝と広報の違いは何か……と、広報力にフォーカスするのに苦労した。とはいえ今年の森ビルは他を圧倒していた。
 「街づくりを通じて人々の生活を豊かにする」。この企業理念に沿って、派手なイベントも地道な活動も織り交ぜながらコツコツと企業イメージを発信し続けた。その先に、六本木ヒルズ10周年や虎ノ門ヒルズ開業での好意的報道があった。
 選には漏れたが、外部機関やアナリストの評価、報道件数など、様々な指標を使って自己評価を試みていた企業が目を引いた。広報活動は、営業などと違って定量評価がしにくい。それだけに、厳しく信頼に足る自己評価システムが構築できれば、企業経営に新たな緊張感をもたらすかもしれない。
 経営者賞は、ダイキン工業でグローバル化の陣頭指揮を執った実力者と、創業家から招聘されカルビーを高収益体質にしたプロ経営者のお二人。共に人材の多様性の重要さが肌で分かっている経営者で、今日的意義の高い人選になった。 
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