経済広報

『経済広報』(2014年12月号)掲載
第30回企業広報賞受賞者インタビュー
「会社」を買っていただける広報活動を
松本 晃

松本 晃(まつもと・あきら)
カルビー(株) 代表取締役会長兼CEO

すべてのステークホルダーから愛される会社に

創業家以外の経営者として、どのようなビジョンの下、改革をしてこられましたか。
松本 「顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、そしてコミュニティから、最後に株主から尊敬され、賞賛され、そして愛される会社になる」というカルビーグループビジョンそのものですね。会長に就任してすぐに、このビジョンをつくったのですが、まず顧客と取引先に責任を果たし、2番目は従業員と従業員の家族、3番目が広い意味でのコミュニティで、株主は大事だけど4番目というものです。ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長をしていたころから、この通りに経営すれば会社はうまくいくという信念を持っていました。
 ただ、私が来てカルビーを立て直したように言われましたが、そのようなことではないですよ。もともと、良い会社です。ただ良い会社でも、やはり良い所とそうでもない所があります。良い所を残して、そうでもない所を変えただけなんです。
株主第一という言葉もよく聞かれますが、必ずしも1番ではないということでしょうか。

松本 株主を大切にしようと思ったら、この順番で大切にしていかないと、うまくいきません。今は顧客が1番というのが常識ですが、2番は株主なんだと言って経営すると、実際はうまくいきません。。

事実をありのままに話す

多様なお客さまとメディアを介してコミュニケーションされている御社が、広報活動で特に重視していること、心掛けていることは何ですか。
松本 今回、企業広報賞を頂きましたが、カルビーが昔から広報を大切にしていなかったわけではありません。しかし広報・IR活動がこんなにも大事だという認識が弱かったのかもしれません。以前から、一般消費者の方々に向けた広告・宣伝には注力してきました。広告・宣伝を否定するものではありませんが、広報とは全く違うものです。私は広報・IR活動は大変重要だと思っていますし、それを実行してきました。
 広報活動の基本は、取材を拒否しない、メディアを選ばない、ということです。誰に対してもオープンマインドで、いつも正直に、事実をありのままに話すことが大事です。会社は全部が良いことばかりではありません。でも化粧なんかしてもすぐにばれてしまうわけですから、「ばれていい、みんな正直に言ったほうがいい」と言っています。「このメディアなら話すけど、あそこには話さない」ということもありません。もっと言えば、「このメディアには話さない方がいいですよ」と人が言うところにこそ、正直にきちんと話して、味方になってもらうべきだと思います。
 なおかつ広報活動には、あまりコストがかからないからいいですよね。広告・宣伝はどうしてもお金がかかりますが、広報活動は手間さえ厭わなければ、コストはあまりかからない。お客さまは、広告・宣伝を通じて「この商品」を買おうとしてくださいますが、広報活動の場合は「この会社」を買ってくださいます。会社を買っていただくことは大事です。私は片方だけをやれと言っているわけではなくて、両方大事だと思っています。それにしても広告・宣伝は高いですな(笑)。

会議よりも現場で話す時間を大切に

社内の意識共有のため、どのようなコミュニケーション活動をされていますか。また、どのような点に気を付けていらっしゃいますか。

松本 私個人はIT系には弱いのですが、人と直接話をする、面談するというのは、結構こまめにやっています。私は古い人間ですから、その方が効果があったし、良いと思っています。
 カルビーに来て始めたのが、「タウンホール・ミーティング」です。現在、工場、支店、開発拠点などが全国に25カ所あります。1カ所ずつ行って、こちらから話をして、社員からいろいろな質問を受けて2時間。その後に1時間半ぐらいの懇親会です。全拠点に年に2回ずつ行って、合計50日。合同で開催することもありますから1年で最低40日は「タウンホール・ミーティング」に出掛けています。
 それから、松尾雅彦元社長と月に1回、土曜日の朝10時から夜7時まで丸一日、塾をやっています。何か特定のことを教えるのではなく「勉強することは大事だよね」と気付いてもらう場で、もう4年以上やっていますかね。これも各地に出掛けていくんです。できる限り現場の人たちと直接コミュニケートするようにしています。このほかには、社員と営業現場を回っています。
 そういうことに時間をかけていますので、社内での会議などにはできるだけ時間をかけない。私の出るべき定例会議は、経営委員会と取締役会、月に2回しかありません。できるだけ会議はやるなと言っています。社内で会議ばかりしていては現場に行けませんよね。できる限り出掛けてお客さまや社員と直接話をすることに重点を置いています。

ダイバーシティ推進は率先垂範で

コミットメント項目にされている「ダイバーシティ」や「社会貢献活動」の取り組み内容、その情報発信についてお聞かせください。
松本 ダイバーシティを推進しないと会社は良くならない。特定の人しか使いませんという時代は、とっくの昔に終わりました。例えばプロ野球やサッカー、相撲でも、日本人だけでやる時代ではなくなりました。今、企業が一番活用していないのは女性で、次に外国人、身体の一部に障がいのある人たち、その人たちを入れて徹底的に多様化しないと、うまくいきません。カルビーを世界で通用する会社にするには、ダイバーシティを推進する必要があるんです。
 私の役目は、この会社を成長させることです。成長して、たくさんの良い商品を作って新しいことをやらなければ、お客さまと、この会社に原料や機械などを供給したり商品を売ったりしてくださっている取引先に喜んでいただけない。お金を稼がないと社員は困る。社員の家族も困る。次にコミュニティが困る。コミュニティのひとつは国で、会社は利益を出して税金を払わなければいけません。そしてその後、株主さまのために、株価を上げ配当を上げるというのが、会社の任務です。ダイバーシティを進めなければ、それが達成できるはずがないのです。
各企業の考え方も変わりつつあります。
松本 本当に変わるのか変わらないのか、日本企業は今が正念場でしょう。メジャーな企業が果敢に挑戦しないといけないですよ。「総論賛成、実際はやらない」というのが今の問題です。皆さん、必要性は分かっているが、「はい、あなたの会社は?」となると、できない。やれば変わると思います。それをやることは、今までの男性、特に年長者の持っている特権が失われるということです。自ら率先垂範して捨てる勇気があるかどうかです。
 ダイバーシティは、急ぐと、ただの数字合わせになったり変な方向に行ってしまいます。忍耐が必要で、コツコツと進めなければいけません。私は「カルビーの女性管理職比率は現在14.3%だが、これを毎年3%ずつ上げて“にいまる・さんまる一番乗り”を目指せ」と言っています。一度に増やすと反動が出る可能性がありますから、決めた数字で毎年増やしていくことです。でも上がる角度、傾斜が小さいとダメですね。
 社会貢献活動、つまりContributionも、会社としては当たり前のことです。日本の企業は、ContributionとCharityの区別がついていない。例えば災害への義援金はCharityで、その都度のもので、見返りを期待してはいけないものです。
 Contributionは、「必ずかどうかは分からないが、いつか返ってくる」という、長期の投資です。会社は、物やサービスを売って対価を頂いて、その利益をどう使うかという時に、長期に投資しておくべきことが必ずあります。そのひとつがContributionです。設備投資には、はっきりした計算があります。Contributionには何円の利益が出るという計算は立ちませんが、ずっと続ける投資です。コツコツやっていれば、いつか本当に返ってくると思います。

広報の良し悪しはボディ・ブローのように効いてくる

日本の企業カルビーと、海外企業ジョンソン・エンド・ジョンソンの広報活動に違いをお感じになりますか。日本企業がグローバルに情報発信するためにはどのような工夫が必要でしょうか。
松本 海外でも日本でも良い会社は、広報活動の重要性をトップマネジメントが理解して、良い人材を置いて広報活動を行っています。一般的に日本の会社はその重要さの認識が薄いのではないでしょうか。ジョンソン・エンド・ジョンソンの時は社長室の隣が広報でした。広報活動は本当に大事で、ボディ・ブローのように一番効いてくるものです。扱う案件は良いことばかりではありません。悪いことを悪いと言えることが大事です。例えばクレームやリコール、大事件が起こる、ここが広報の出番です。いかに正直に、いかにディスクローズしていくか。それによって将来必ず良い評判が返ってきます。隠したり言わなかったり、広報活動を大事にしなかったりするから、結局損をするんです。
 カルビーの広報は、それを分かってくれていますが、私が就任したころはそうでもありませんでした。「ここまで言うんですか」「そうじゃないんだ、早く言え!」ということもありました。特に、食品やヘルスケアなどの会社は、隠すことでお客さまにどれだけ迷惑をかけるかを考え、とにかく何でも速やかに正直に言うことです。それで物が売れなくなってもしようがないのです。長い目で見ると会社は良くなるんです。それを教えてくれたのがジョンソン・エンド・ジョンソンですし、1982年のタイレノール事件(頭痛薬に第三者によって毒物が混入された事件)です。ジョンソン・エンド・ジョンソンは世界で最も危機管理に優れた会社といわれていますが、その一番の基本はディスクロージャーです。タイレノール事件への迅速な対応、情報公開が伝説になっていて、30年たった今でも米国ではひとつのベンチマークです。製品回収の損害よりも、お客さまから得た信頼の方がはるかに高いのです。

広報は企業の成長に貢献できる

御社の広報部門に期待することは何ですか。
松本 大変よくやっています。ただし、まだまだです。日本一、世界一になって、カルビーの広報が伝説となるような部隊になってほしい。カルビーの売上高は2000億円程度ですが、将来1兆円、10兆円の会社になるかもしれません。広報は企業の成長に本当に貢献できる部隊だと思います。
 もうひとつ、お客さまは広告を見て商品を買われるのでしょうか。本当は広告じゃないものを見て買われるのです。広告だけでは「ただ売りつけるだけか。いいことばかり言って」となるでしょうが、例えば新聞報道やテレビの情報番組で、「これが健康に良いのか。カルビーが作っているのか」と、そういうのを見て買ってくださる。これが短期的効果で、本当に広報に期待するのは長期的な効果です。その会社のブランドがついているだけで他社製品よりもいいんだと信じていただけるような、お客さまからサポートされる企業になることが大事だと思います。企業の経営者は広報に、もっと力を入れた方がいい。大事なのは、良いことも悪いことも全部さらけ出して、正直に伝えることです。一番いけないのは嘘をつくことです。嘘は絶対にダメです。
(聞き手:経済広報センター 常務理事・事務局長 中山 洋)
(文責:国内広報部主任研究員 伊藤貴範)
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