経済広報

『経済広報』(2015年2月号)掲載
企業広報研究
企業広報功労・奨励賞を受賞して
日産自動車の「コトづくり」広報
濱口 貞行

濱口 貞行(はまぐち さだゆき)
日産自動車(株) 国内企業・商品広報部長

日産自動車の概要

 日産自動車は、世界20の国・地域に研究開発・車両生産拠点を展開し、従業員は約14万人、販売ネットワークは160カ国以上にわたるグローバル企業である。2013年度の売上高は約10兆5000億円、販売台数は約520万台に上る。
 当社は電気自動車でグローバルリーダーになることを目指しており、日本の得意とするモノづくり、ヒトづくり、おもてなしをベースとして、「トップの強いリーダーシップ」「ダイバーシティ」「コトづくり」で厳しい競争を勝ち抜いていくつもりだ。中でも、「コトづくり」において、広報の果たす役割は非常に大きいと考えている。

グローバルワンボイス

 当社の広報体制は、対外広報を担当するグローバル企業広報部、グローバル商品広報部、国内企業・商品広報部、社内広報を担当するグローバル社内広報部、CSR(企業の社会的責任)を担当するCSR部、そして自社メディアであるグローバルメディアセンターで構成されている。以前は新聞・テレビなどのマスメディアを中心に情報を発信していたが、現在は多様なメディア・コミュニケーションツールの活用を推進している。
 日本にヘッドクオーターがあるため、以前は日本中心の情報発信になりがちだったが、現在は世界の各拠点から一貫したメッセージを発信している。それぞれの拠点がバラバラに情報を発信してしまうと、どこかで食い違いが生じてしまうため、「グローバルワンボイス」として各拠点の見解や対応をタイムリーに配信し、情報のワンボイス化を図っている。2013年度は約500件の配信を行った。また、CEO専属広報がいること、自社メディアを有していることも当社広報の特徴として挙げられる。

WhatではなくWhyを伝える広報を

 以前の当社は、例えば、1つの商品をPRする時「こんなに素晴らしいモノができました」と、「モノ」を中心としたPRを展開していた。しかしこのアプローチでは、この「モノ」によって、お客さまにどのような価値が提供できるのかを十分に伝えることができない。お客さまにとって大切なことは、What (何が素晴らしいのか)ではなくWhy(なぜ素晴らしいのか)だと考え、2011年度より、ストーリーテリング、つまり「コトづくり」広報に取り組んでいる。今や、商品にほとんど違いがないからである。
 「モノづくり」広報の役割が、製品の良さ・技術の高さを訴求する“コミュニケーター”であるのに対し、「コトづくり」広報は、「このモノによってお客さまのライフスタイルはこんなに素敵に変わるんですよ」と、製品製造過程からお客さまの体験に至るまで、全てを伝える “ストーリーテラー”となることだ。一見、マーケティングの領域と感じるかもしれないが、広報においても強く意識していこうと考えている。

自社のストーリーを展開する

 「コトづくり」広報推進のために、グローバルメディアセンターを開設し、多言語・多チャンネルでコンテンツを創造できる仕組みを構築した。メディアを通じた情報発信は、客観性の面で優れているが、当社が伝えたい内容を十分に伝え切れなかったり、報道されるまでにタイムラグが生じるといった側面がある。そこで我々自身がニュースをつくり、お客さまに当社の事業活動や製品について、いち早く発信している。
 グローバルメディアセンターは約10人の専門スタッフで構成されており、社内にスタジオを設けている。車に興味のあるお客さまやネットリテラシーの高いお客さまが主な対象となるが、社内で撮った映像をメディアに素材として提供することもある。自社メディアの利点としては、取材や制作のスピードを自分たちの都合で調整できること、コスト面、秘匿性の高いエリアや情報へのアクセスが可能なことが挙げられる。ドキュメンタリーや企画番組をつくり、日産チャンネルというウェブチャンネルに掲載したり、動画サイトに投稿したりしている。コアなファン層向けに、サーキットを走る車の車載カメラのライブ映像を、解説なしで流したりもしている。自社に都合の良いニュースだけを発信しているという印象を与えないよう、他社製品についての情報も日本には発信するなどの工夫もしている。ソーシャルメディア領域でのプレゼンス向上も、グローバルメディアセンターを開設した目的のひとつだ。
 また、ライブストリームで決算発表などを生中継している。当社では、決算や重大ニュースの発表は、質疑応答も含め全てライブで流しっ放しにしている。経営者が回答に苦慮する場面がライブで流れるかもしれないというリスクはあるが、そこを止めてしまうと「なぜそこだけ止めるんだ」という書き込みに繋がる。逃げてもしょうがないという気持ちでいる。
 現在、メディアは「ペイドメディア」「ソーシャルメディア」「オウンドメディア」の3つに分類することができる。以前は新聞やテレビといったペイドメディアが中心だったが、ソーシャルメディア、オウンドメディアもうまく使いながら、バランスを取って自社のストーリーを展開していくことが重要だと考えている。

広報活動を数値化し、分析し、改善する

 よく、広報活動を数値化することは難しいといわれるが、定性的目標だけでは社内のコンセンサスを得ることはできない。現在、会社を挙げてOaO(Overall Opinion:調査で集まるお客さまの声=好感度)向上に取り組んでおり、そのために広報ができる活動としてメディアにおけるSOV(Share of Voice:競合他社との記事量の比較割合)の拡大とTONE(メディア論調)の改善に取り組んでいる。当社は2016年度が中期経営計画の最終年であるため、この年までにSOVはグローバルトップ5以内、TONEはグローバルOEM(Original Equipment Manufacturer:自社製品を製造する企業)1位という高い目標を掲げている。これらの指標については、毎月の推移を確認し、企業広報、商品広報それぞれの領域ごとに、改善の余地がどこにあるかを分析し、PDCAを回して取り組んでいる。

双方向による社内広報

 対外広報と同様に、社内広報にも力を入れている。従来は、経営者から管理職に、管理職から従業員にワンウェイで情報を伝えていたが、今は経営者、管理職、従業員が相互にコミュニケーションを取れる相互作用モデルを採用している。 決算を除く対外発表は、社員に事前に提供し、決算や中期経営計画などの重要な会見は社内にも同時中継している。特に経営層との対話を重視しており、毎月1回、部長層と経営層のバーチャルミーティングを実施している。経営者は会議室の1室に集まり、部長層は自席のパソコンで参加する。経営者が現状の重要課題やその取り組みなどについて自らプレゼンテーションを行い、部長層は質問があれば自席から質問を送ることができる。会議室にいる進行役が送られた質問を紹介し、経営者が答えることで、より理解を深めている。
 また、一般層を対象にしたタウンホールミーティングや、社内ウェブを活用し、双方向コミュニケーションに努めている。

広報主体の一貫した危機管理

 広報が会社をPRすることは重要だが、危機管理、すなわち会社を守ることはもっと重要だと思っている。広報担当者は、いつなんどき何が起こるか分からないという前提の下、不測の事態に備えることを常に考えておかなければならない。当社では、危機管理体制としてCEOをトップとするCMC(クライシスマネジメントコミッティ)を設立し、広報が運営事務局を務めている。大小様々なリスク案件があるが、CMCで取り上げるかどうかを含め、関係部門と協議しながら運営している。危機管理の原則についてはあらためて述べるまでもないが、最も重要なことは、情報の一元化である。当社では、危機発生時のトップへの情報提供は広報からのみと明確に定めている。良くない案件が発生すると、ともすると様々な部門から様々な情報が上げられ、どれが正しい情報なのか、さくそうする場合がある。正確に情報を把握しなければ、適切に判断することができない。

私の広報観~客観的に、情熱を持って~

 25年間にわたり広報業務に携わる中で、念頭に置いているのは、「常に客観的な立ち位置で判断する」ことだ。会社の人間なので会社のことを考えるのは当然なことであるが、広報の仕事をする上では、少し引いた立ち位置で物事を見ることが大事だと思っている。以前社内の人から、「お前はどこから給料をもらっているんだ」と言われたことがあったが、そう言われても、この考え方を変えるつもりはない。「会社のために」と考えてしまうと、物事の判断を誤るリスクが高くなってしまう。第三者的立ち位置から「お客さまのために」を考えて判断することが、ひいては会社のレピュテーションを上げることに繋がると信じている。
 メディアの記者とは、あくまでも対等な関係で、一定の緊張感を保ちながら接するべきだと考えている。記者に対しては、事実をきちんと伝えるだけでは不十分であり、その事実の背景を理解してもらうことが必要なのではないか。こちらの意図が伝わらず、不本意な記事が出る場合もよくあるが、粘り強く対応していくことが大事である。それでも変化が見られない場合は、強く抗議すべきだと思う。 広報には、日々様々なメディアからの要請が届く。中にはあぜんとしてしまうものもある。しかし、「懐を深くして相手の立場でまず受け止める」心構えが大切だ。聞いた瞬間に断るのではなく、いったんはきちんと聞いて、その上で対処する心掛けが必要だ。同様に、経営層が嫌がる情報をいかに早く上げるかということも、広報の重要な役割だ。口で言うのは簡単だが、なかなかできないことである。しかし、これができないと、一人前の広報とはいえない。
 最後に、コミュニケーションは情熱と気持ちが大切だ。もちろん、ニュースとしての価値は伝えるべき内容によって決まるが、それをどう伝えるかは、記者の受け止め方次第である。情熱を持って伝えていくことは大変重要だ。精神論のようになるが、結局は人対人の世界だから、私自身、このことをとても大切にしている。
(文責:国内広報部主任研究員 大野祥子)
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