経済広報

『経済広報』(2015年3月号)掲載
企業広報研究

企業広報功労・奨励賞を受賞して
仲間と共に、最善を尽くす

~西武ホールディングス広報部の現場から~

西山 隆一郎

西山 隆一郎(にしやま りゅういちろう)
(株)西武ホールディングス 取締役上席執行役員広報部長
西武鉄道(株) 取締役上席執行役員広報部長

西武グループの広報体制

 西武ホールディングスは、西武グループの持株会社として2006年2月に設立され、西武鉄道、プリンスホテルを中核とする54の事業会社を統括している。広報は、社内報、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を含めたウェブ、ブランディング、マスコミ対応などがうまく連携して完結するが、今回はマスコミ対応に絞った話をする。西武ホールディングスの広報部は現在9人で、管理職を含めて、うち4人が専任のマスコミ担当だ。事業会社の広報体制は様々で、専任の担当がいる会社もあれば、総務、管理部門などと兼任している会社もある。
 月に1度、西武ホールディングスと事業会社十数社の広報担当が集まる場を設けている。ここでは広報に関するグループの方針、ノウハウ、情報、人脈などを共有し、グループとしての一体感を醸成している。また、その機会を活用して危機発生時のメディアトレーニングを行うこともある。
 事業会社との関わり方だが、前向きな広報案件については、大きなイベントや、グループ横断的な案件を除き、基本的に各社の裁量に任せている。一方で、危機管理案件は原則全て西武ホールディングスがサポートし、会見対応や、プレスリリースの作成に至るまで、我々が確認した上で対応することとしている。

まず広報の基本的な役割を理解する

 当社は、3年ほど前に広報部の全業務を部内でマニュアル化した。広報はマニュアルよりも、臨機応変な判断・対応が要求される業務ではあるが、人事異動などで新任が着任した際に、できるだけ早く広報という仕事を理解してもらうため、また、中堅、ベテランがいつでも原則に立ち戻ることができるようにしたかった。そのマニュアルにおいて、マスコミ対応の「はじめに」の中で、広報はマスコミ(媒体、人)を通じて正確に情報を収集・発信し、西武グループを社会に理解してもらい、さらに社員を適切に牽引して会社の存続、発展に寄与していくことだ、と触れている。新任の広報担当には、まずこの役割をしっかり理解してもらうようにしている。

広報部の基本的行動指針~原則を忘れないために

 広報がその役割を果たすために、原則を定め、それを徹底することにした。広報が失敗するのは、大方原則から外れた対応をした時だ。当社では、広報部の基本的行動指針として、次の4点を挙げた。
1.公平性の原則
2.社会一体化の原則
3.大局観の原則
4.仲間を大切に、自分を大切に
 情報開示は会見やリリース発信およびウェブへの掲出を原則とし、マスコミにはできる限り公平に対応するようにしている。もちろん、コントロールできないことがあるのは当然で、結果的に公平にならないこともあるが、指針として徹底しておくことが必要だと思っている。
 次に、お茶の間感覚を大切にすることだ。広報対応の採点者はお茶の間(社会)であり、会社の常識は社会の非常識というスタンスで、情報をしっかり咀嚼し、正しく発信することを意識している。また、マスコミを通じた世の中の声をきちんと経営に伝えることも重要だ。
 危機対応が発生した際は、広報は社会のレピュテーションや要望を把握して社内に伝え、社内部門間のコミュニケーションにも積極的に関与する。事案の全体像をつかみ、社内外の橋渡しをする役割は重く、気概を持って臨まなければならない。
 最後に、広報活動で疑問や不安を感じた時は、早めに仲間に相談することだ。私はよく、“匹夫の勇”になるなと言っている。一人で密かに行動し、会社を守るという行動も否定はしないが、それは例外だ。一人で無用なリスクを取ることはせず、広報部の仲間の人的財産を大切にしたい。また、持株会社の性質上、事業会社54社全てが仲間であり、仲間のために汗を流し貢献しようという気持ちが大切だ。

媒体の特性を生かし、ニュースの流れをつくる

 広報戦略として、全ての媒体が重要であるが、突発的な事象が発生した際には、通信社やテレビの影響が大きい。広報案件の中には、見方の角度によって捉えられ方が異なりそうなニュースもある。これらの媒体は、広く多くの人に対して瞬時に発信するので、第一報がその後のニュースの流れを大きく左右することから、迅速かつ慎重に対応することが肝要だ。
 正確な記事を出すためには、記者との強い信頼関係も必要だ。ただし、記者と接する際は、節度を大切にし、相手の年齢などにかかわらず、どんなに親しくなっても基本的な礼儀は尽くさなければならない。言葉遣いにも気を付けるようにしている。また、堅苦しかったり、当社側の主張ばかりでは信頼関係は築けない。気楽に、本音で話し合える関係を大切にしたい。記者には一匹狼タイプも多く、強さと繊細さを持ち合わせているので、敬意と優しさを持って接したい。

危機発生時の広報の役割

 最近の事例を2つ挙げると、当グループは、2013年に食品表示の問題とTOBに直面し、総力を結集して対応した。この2件は同時期に発生したため、当時のマスコミ対応は非常に厳しいものだったが、当グループの状況や取り組みを正確かつタイムリーに伝えることに努めた。
 2013年5月、一部のプリンスホテルをご利用いただいたお客さまから「メニュー表示と違う食品が出された」というメールが届いた。メール到着後、ただちにプリンスホテル本社、西武ホールディングスが事案を把握、即日調査を始め、速やかに関係当局へ届け出て、まずは発生したエリアの調査結果を公表した。この時はグループ内で定めている危機管理規程が機能し、速やかな初動に繋げることができた。
 その後、全社レベルでの調査、結果の公表に至るわけだが、実は当グループは、過去に別件の食品の問題で、いったん調査結果を速やかに公表したものの、調査が不十分でリリースを後日追加していくなど、厳しい対応を迫られた苦い経験があった。今回はその反省を踏まえ、徹底した調査の上で公表した。公表まで時間をかけ過ぎることもできないため、関係部門、現場も危機感を持って「速く、正確に」との気持ちを共有し、対応に当たった。また、お客さま対応においては、発覚当初より全額返金を明示した。危機発生時には、速やかな事実確認と当局への報告、公表、誠意ある対応、これら全てが求められる。広報は社外のレピュテーションを把握し、社内外に対応するという非常に重要な役割を担っている。

困難を乗り越え、成長する

 TOBに関する広報対応で、強く意識したのは情報公開のタイミングと公平性だ。状況が刻々と変化し、日々報道が過熱していく中で、とにかく原則に基づき、情報はトップの会見やぶら下がり対応、リリースで発信することにこだわった。
 TOBが公表されたのは2013年3月だったが、その前年の12月ごろから、一部のメディアに当社に関するネガティブな報道が出始めた。
 その後、所沢にある本社に記者からの電話や訪問が相次ぐようになり、対応は連日多忙を極めた。初めて当社を取材する記者も多く、理解を得るためには、西武鉄道が上場廃止してから今に至る経緯について詳しく説明する必要がある。1人の記者に1時間半、2時間とかかったが、とにかく全員に丁寧に対応した。2、3カ月ぐらいすると、沿線の住民の皆さまや自治体のお力添えもあり、世論が当社に理解を示してくれるようになった。その流れを大切にして、丁寧な対応を続けた。
 本件は非常に困難な事案であったが、良いこともあった。経営者の強いリーダーシップの下で、関係部門・現場が一丸となったことと、若手の成長だ。特に若手の成長についていえば、連日の記者対応の際、私やほかの管理職は若手の担当者を同席させていた。電話照会に対しても対応が仲間に聞こえるように大きな声で話した。特に指示していたわけではないが、若手は私たちが記者へ説明する複雑な内容や間合いを覚え、同様に説明ができるよう努力していた。最初はコピーでも、説明を繰り返すうちに自分流になる。事案が佳境に入ったころには、難しい記者対応を安心して任せられるようになった。若手が短期間で急成長してくれたことは、その後の大きな財産となった。

広報担当に必要な力、気持ちとは

 当グループが直面した危機対応について説明したが、私は広報担当が自身の役割を果たすためには、次の力、気持ちが必要だと考えている。
1.持久力
2.瞬発力
3.好奇心
4.仲間意識
 持久力というのは、記者とは長い付き合いを前提に接するべきということだ。例えば、記者クラブに所属する記者は数年で異動するが、担当が代わる際には、担当期間の長短にかかわらず、感謝の気持ちを忘れてはいけない。人はまためぐり会うもので、以前担当だった記者がキャップやデスクとして戻ってきたり、違う案件の担当になったりすることもある。別の媒体に転職していて、取材で再会することもある。また、情報誌編集者、フリージャーナリスト、外国報道機関の中には、西武ウォッチャーとして長年ご指導いただいてきた人もいる。記者も人間である以上、その関係で結果が左右されることもあると思う。
 一方、危機対応時には、面識のない記者から電話取材を受けることもある。短い時間の声だけのやりとりで記事の扱いが決まるケースも多く、ここでは全身全霊で1件1件の電話に臨む。記者・広報間で「どこまで知っているか」といった腹を探り合うようなことはせず、事前に最大限、どこまでを事実として開示できるかを突き詰めた上で、その姿勢が伝わるよう、淡々と、力強く、かつ丁寧に説明する。最初から責め立ててくる記者もいるが、その姿勢を変えることはない。結果、報道が誤っている場合は、内容にもよるが、必ず電話や訪問をして、なんらかの対応をするようにしている。
 私は銀行に入行し、6年前に転職して今に至る。銀行から、鉄道、ホテル・レジャー業界へと、異なる業種で通算15年半ほど広報を経験しているが、広報担当が守るべき原則や求められる力は、業種・業界にかかわらず同じだと感じている。広報の世界に決まったルール、手続きはあまりなく、その分、活躍の場は広い。情報は生ものであり、危険であり、だからこそ魅力がある。マスコミをコントロールすることはできないが、そのことに甘えてしまうと広報の存在価値すら問われかねない。原則に基づき、戦略を練り、管理職、担当がそれぞれ最善を尽くす。うまくいかないこともあるが、最善を尽くしたのだから誰も責めない。我々は組織人だ。困難に直面したら、一人で抱え込まずに同僚や上司に相談し、一緒に乗り越えていくことができる。今後も仲間と共に、西武グループの発展に貢献していきたい。
(文責:国内広報部主任研究員 大野祥子)
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