経済広報

『経済広報』(2015年11月号)掲載
第31 回 企業広報賞 選考委員選考所感
「個性」と「対話」の重要性
(敬称略、順不同)
(選考委員長)伊藤 邦雄(いとう くにお) 一橋大学大学院 商学研究科特任教授  商学博士

写真:伊藤 邦雄 今回の企業広報大賞、企業広報経営者賞を受賞された企業ならびに経営者には共通する特徴がある。それは「個性的」であるという点だ。「個性的」ということは、ひとつ間違えば、自己主張が強く、独善的になりやすいという側面を併せ持つ。しかし、マツダも、岡藤正広さんも、出雲充さんも、共通して個性的でありながら、「爽やか」である。ケレン味がない。
 なぜだろうか。それは常識に染まらない信念と、揺るぎない価値観と、やりたいことを追求する情熱を持っているからだと思う。マツダの企業としての姿勢、技術開発の方向性、そこには持続する信念と価値観と情熱を感ずる。それがブランドの輝きを放っている。
 岡藤さんが初対面の経営者と会うときの会話は、「あなたは何着のスーツを持っているの?」という質問で始まる。もちろん、そんな常識破りの質問に相手は戸惑う。そうしているうちに、岡藤さんは驚くべき数のスーツを持っていると喝破する。「個性的」である。経営者としての個性、事業展開としての個性、企業人としての情熱、まさに岡藤さんという経営者の存在が広報そのものであり、ブランドである。会社としてのアイデンティティーと経営者の個性が重なり合っている。
 出雲さんはいつも会うたびに、爽やかである。毎日が楽しくてしょうがない、という印象をいつも周りに与える。また事業そのものが個性の塊である。大学発ベンチャーという点でも清新であるが、ミドリムシを事業の根幹に置いている点も特徴的である。出雲さんは、いつも決まって「緑色」のネクタイをしている。経営者と事業の内容が「緑色」というアイデンティティーで結びついている。
 企業広報功労・奨励賞を受賞した田中良輔さん、山口公義さんに共通するのは投資家やステークホルダーとの「対話」の精神を持続してきた点である。「対話」は独善を抑制する。対話によって、自分たちの位置を知ることができる。対話は、新たな発見とヒントを得る機会でもある。「スチュワードシップ・コード」でも、「伊藤レポート」でも、対話の重要性をうたっている。お二人は、もっと前から対話の重要性を認識し、長い間、続けてきた。

社会的信頼を深めた長い道のり
江上 節子(えがみ せつこ) 武蔵大学 社会学部教授
写真:江上節子  受賞企業のいずれもが、時代環境の変化に向き合い、それぞれの本業の奥底の意味を見つめ続け、新たな価値をつくり出し、そして、その活動をていねいに発信し続けてきた長年の努力がしみじみと伝わってきた今回の選考であった。
 事業は、社会的価値があるからこそ発展をする。広報という役割は、あらゆるステークホルダーの立場を斟酌(しんしゃく)しながら、企業理念を伝え、理解してもらい、社会的な信頼を得ることが基本だと考えるが、その成果を確かめるまでには、地道な行程が待っている。
 戦後の広島の発展に尽くしてきた企業、総合商社の役割を唱道してきた企業、コンビニを社会のインフラにまで牽引してきた企業など、様々に事業の進化を通じて、経済的価値に加え、眼に見える形で社会的価値を実現させてきた今回の受賞の陰には、多くの労苦があったとうかがえる。また、そのプロセスで、発見やひらめき、ステークホルダーとの出会いによる気づき、成長、革新があったと推察できる。結果的に、事業を通じた社会的開発戦略を歩んできたといえるのではないだろうか。
 受賞企業の方々には、これからも、社会の環境と期待に対応する事業戦略に挑み続けるリーダーとして活躍いただきたいと切に願っている。   
自らの魅力を伝える信念
小陳 勇一(こじん ゆういち) 朝日新聞東京本社 経済部長
写真:小陳勇一  マツダという企業のマツダらしさはどこにあるのか。担当記者に尋ねた。
 「本社のエントランスで、役員の人たちが自社の車の素晴らしさについて語る映像が流されています。それが本当にワクワクした感じで、車の楽しさを伝えようとしているんですよね」。
 そう。私が小学生から中学生のころ、スーパーカーブームもあり、車はかっこいいものだった。それがいつからか、車は必ずしも、若者の憧れの対象ではなくなった。
 そんな時代にも、「私たちはこんなに魅力的な車をつくっているんです」と伝え続けている。世界で覇を競う巨大メーカーの間で、広島に本拠を置く会社が生きていくには、何を訴えていくべきなのか。揺るがぬ信念を感じる。
 被爆した広島の戦後復興や、その後の発展にも貢献してきた。広島という街の歴史を考えたとき、戦後70年の今年、マツダを表彰企業に選べたことは、よかったと思う。
逆境が磨いた「個性」
坂本 裕寿(さかもと ひろひさ) 読売新聞東京本社 経済部長
写真:坂本裕寿 今年の選考を貫いたキーワードは「個性」である。
 企業社会で個性的であることは言うほど簡単ではない。独善的な異端児では受け入れられない。時代の要請を見据えながら自分らしさを追求する。そんな微妙な間合いが必要となる。
 大賞のマツダは、量を追わずに質で勝負するものづくりの原点を地方から発信する。MAZDAブランドが内包する「走る喜び」は海外でも定着した。現場を重視し、社員の誇りに火をつける手法も素晴らしい。
 経営者賞の伊藤忠・岡藤氏は、発信力と突破力で群を抜く。ユーグレナ・出雲氏は、その存在抜きにユニークな事業は語れまい。
 功労・奨励賞では、一過性に終わらせない広報マン魂の大切さを教えてくれるセブン&アイ・山口氏、毀誉褒貶(きよほうへん)あるゲーム業界の底上げを絶えず意識するカプコン・田中氏。共に簡単にまねできるものではない。
 こうした個性の数々は、逆境をくぐり抜ける過程で磨かれ、挑戦するDNAによって輝きが増した。<ぼうふらが人を刺すよな蚊になるまでは泥水飲みのみ浮き沈み>である。
衆目を集める「元気な企業」の条件
菅野 幹雄(すげの みきお) 日本経済新聞社 経済部長
写真:菅野 幹雄  昨年に続いて選考に携わった。受賞候補の企業や人物との関係や候補者についての予備知識には、各委員の間で濃淡の差が当然ある。違う出発点の下、広報と広告の違いも認識しながら、発信力の優れた企業を選び出すというのは、骨の折れる作業だとあらためて感じた。
 それでも数時間の議論を通じて委員の認識は似通ってくる。衆目を集める企業の条件とはなんだろうか。時代の流れを捉える鋭い感覚と、等身大の自分を理解してもらおうという誠実な熱意だと私は思う。
 広島本社という広報活動のハンディを抱えながら技術やクルマの優位を地道に訴えたマツダ。企業価値の向上や朝型勤務の流れを強力に先導した岡藤さん。「ミドリムシから航空燃料」という野心的な事業に奮闘する出雲さん。20年にわたる流通業の激変、買収防衛策の否決という、それぞれの試練を乗り越えて発信に努めた山口さん、田中さん。企業統治や働き方の改革といった時流も捉えた「元気な企業」の顔ぶれがそろったと考えている。
広報は企業経営そのもの
髙橋 由里(たかはし ゆり) 東洋経済新報社 『週刊東洋経済』編集長
写真:髙橋由里  審議全体を通じて、広報活動のテクニカルな巧拙というよりも、その結果としての「企業の見え方」を皆さん重視されていたように思う。まさに、広報は企業経営そのものだと感じた。伊藤忠商事の岡藤氏は「トップこそ最高のスポークスマンたれ」という精神を体現されており支持を集めた。カプコンの田中氏は、アニュアルレポートに取締役会の模様を掲載するなど、コーポレート・ガバナンスが重視される時代に即した活動が光った。また、ユーグレナのように“経団連的”でない企業がエントリーされ受賞される点は興味深い。必ずしも広報予算が潤沢でなくとも印象に残る企業アピールができるという点は、大賞となったマツダが評価された理由のひとつでもある。マツダについては「カープ女子」ブームの陰の立役者として注目するという意見もあり、普段、取材対応や危機対応の面から広報を評価しがちである経済誌の人間としては非常に新鮮だった。
ほとばしる魅力があるか
田中 博(たなか ひろし) ダイヤモンド社 『週刊ダイヤモンド』編集長
写真:田中 博 広報なのか、宣伝なのか――。今回の審査で、私が最も頭を痛めた点である。正直言うと、口の中に溶けずにザラリと残った夾雑物(きょうざつぶつ)のように、いまだに自分の中で消化できずにいる。
 圧倒的な宣伝予算を抱える大手企業が、世に自社や自社製品の情報を溢れさせるのは造作もない。業界によっても、その差は途方もなく大きい。一定のイメージを醸成するのと同時に、広報が“援護射撃”をすれば、相当有利なポジションを得ることは可能である。
 結局、極力フェアに比較するために、企業特性、産業特性によって微調整することで折り合いをつけた気がする。不思議なもので、そうして物差しを合わせれば、今回の受賞企業、受賞者共に違和感のない顔ぶれになった。
 共通しているのは、派手さや実直さなど見え方の違いはあっても、企業なり人なりが皆、魅力的であるという点だ。ほとばしる魅力があれば、評価は収束する。そう強く感じた。
戦後70年にふさわしく
塚田 健太(つかだ けんた) 毎日新聞東京本社 経済部長
写真:塚田 健太  戦後70年、東日本大震災集中復興期間の最終年度という節目にふさわしい企業を、との思いで選考に臨んだ。
 マツダは、復興、挫折、そして再生の物語を戦後、紡いできた。
 業績低迷で米フォード・モーター傘下に入ったと思ったら、リーマン・ショック後、経営の悪化したフォードが株を手放すという事態に見舞われる。「グローバルに生き残る自動車メーカーは上位数社のみ」といわれた中、生き残りのカギになったのが、ロータリーエンジン以来の独自の技術力、個性的なクルマづくりだ。
 厳しい環境の中、低燃費技術「スカイアクティブ」を生み出せたのも、マツダのDNAが生き続けてきたことの証ではないか。物語を受け継ぎ、広めてきた広報活動がその一端を担ってきたことに敬意を表したい。
 筆頭株主として支えてきた広島東洋カープが「カープ女子」「男、黒田」といった新たな物語を生み、マツダスタジアムが多くの来場者を集めていることも、胸躍るエピソードである。
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