経済広報

『経済広報』(2016年2月号)掲載
第31回企業広報賞受賞者インタビュー
ミドリムシの魅力を正しく広く知ってもらうための発信
出雲 充

出雲 充(いずも みつる)
(株)ユーグレナ 代表取締役社長

ミドリムシを正しく知ってもらう

出雲社長は、内閣総理大臣賞を受賞されましたが、企業広報経営者賞を受賞されてのご感想はいかがですか。

出雲 内閣総理大臣賞(日本ベンチャー大賞)を受賞したときよりも、私にはしっくりきています。ミドリムシを正しく、広く皆さまに知っていただくことを、ユーグレナ社の社長として最も大切な仕事と位置づけています。そして、弊社が力を入れて取り組んできたミドリムシの広報活動を認めていただいたことはうれしい限りです。また、表彰式の場でも申し上げましたが、非常に苦しい時期に弊社を助けてくださった伊藤忠商事の岡藤社長と今回の企業広報経営者賞を同時に受賞できたことを本当にうれしく思っています。

ミドリムシに注目したきっかけ

なぜ、ミドリムシに注目されたのでしょうか。
出雲 ミドリムシと出合ったのは大学3年生のときです。大学1年生の夏休みにバングラデシュに行ったことがきっかけです。当時のバングラデシュは最貧国のひとつで、大勢の子どもたちが栄養失調で苦しんでいました。
 そして、日本に戻ってから栄養の勉強を始め、農学部へ進み、ミドリムシと出合いました。食料問題に取り組んでいる先生の間では、ミドリムシが多くの栄養素を持つということはよく知られていましたが、それ以外の人たちには、あまり知られていませんでした。それはまさに、ミドリムシの広報ができていなかったということです。実際、研究もあまり盛り上がってはいませんでした。ミドリムシは動物と植物の両方の特徴を併せ持ち、59種類の栄養素を含んでいます。栄養価も非常に高く、世界中で起こっている栄養失調問題を解決するためには魅力的なものでした。しかし、このミドリムシを商業化するためには、大量培養が必要でしたが、当時は誰も実現できておらず、先生からも、ミドリムシの培養は非常に難しいから中途半端な気持ちでは取り組まない方がよいとアドバイスをいただきました。
大学卒業後は銀行に入行され、その後、ベンチャーとして立ち上げられたと、伺いましたが。 
出雲 大学では、農学部に進みミドリムシの研究をしていましたが、実際にミドリムシのベンチャーを起こそうとしても、まずはお金をためる必要がありました。就職活動を行っていたときは、世の中のお金がどのように流れているのかを知りたいと思っていましたので、銀行に就職しました。そして、入行してからは、平日は銀行の業務に当たり、土日は全国各地のミドリムシを研究している先生の元へ出向き、ディスカッションなどをしていました。
 そのような生活をしていたときに、ある先生から「出雲君は、平日は銀行員をして、土日はミドリムシの研究を続けて、よく頑張っている。おそらく日本でもミドリムシについてはトップアマチュア研究者だろう。でも、大学には平日も土日もミドリムシのことをずっと頑張って研究している研究者がたくさんいるけど、まだ大量培養はうまくいっていないんだよ」と言われました。おそらく先生は、せっかく銀行に入ったのだから、未練がましく土日にミドリムシのことばかり考えていないで、銀行の仕事にしっかりと目を向け、立派な銀行員になりなさいというメッセージを投げ掛けたのだと思います。ところが、私はそのことを全く反対に受け取り、銀行を辞めてミドリムシに専念しました。そして、銀行を辞めた後に、先生に事の顛末を話すとびっくりしてしまいました。先生方もまさかミドリムシに戻ってくるとは思っていなかったと思います。ただ、私が退路を断ってしまったので、先生方も本気で取り組まなければということで急に動き出しました。

ユーグレナの誕生

それで、ユーグレナが誕生したのですね。創業は3人のメンバーで始められたと伺いました。
出雲 ありがたいことに、鈴木と福本と私の3人で会社を立ち上げることができました。鈴木は学生のころから、本当の兄弟のように仲が良くて、ミドリムシの研究センスもあり、ミドリムシを始めるなら彼と一緒にやろうと最初から決めていました。また、福本は社会人経験もあり、若い2人の重石になってくれました。
 そして、この3人で悩みを相談しながら力を合わせて事業を進めていきました。あらためて思いますが、1人で偉大なことを成し遂げる方は本当にすごいと思います。例えば、スポーツ選手や画家の方などは、1人で困難に立ち向かわなければならず、大変な葛藤があると思います。そういう意味で、3人で協力して進めていくことで、伊藤忠からの出資までたどり着きました。1人ではそこまでいけなかったと思います。
その後の事業展開について教えてください。
出雲 早速、ミドリムシの大量培養の実現に取り掛かりましたが、確かに大変な研究でした。研究資金や培養場所の確保など困難は幾つもありました。そうした中で、今でもはっきりと覚えていますが、2005年12月16日16時20分ごろに大量培養に成功したという電話がかかってきました。その当時は、研究に何度も失敗し、1000回以上の試行錯誤を続けての成功でした。でも、その当時は毎日研究に必死で、失敗した回数などは特に覚えていません。
 その後、ミドリムシの大量培養に成功して製品化に繋げましたが、ミドリムシの商品は全然売れませんでした。特に、2006年1月から約2年半は全く売れなかった。研究と同じく営業でも試行錯誤を続けていたのですが、どうしたらうまくいくのかということが見通せない中で、2年間で1つも販売できず、何をしたらよいのか全く分からなくて、そのときは苦しかったですね。
苦しい時期を過ごす中で、どのようにして伊藤忠商事と出合ったのでしょうか。
出雲 本当ですか、とよく聞かれるのですが、大企業約500社に営業をかけました。しかし、採用してくれた会社は1社もありませんでした。本当に厳しいな、と感じていたときに伊藤忠商事と出合いました。ミドリムシが担当の方の目に留まり、審査を受けることになりました。審査は厳しかったのですが、その厳しい審査を踏まえて、ミドリムシには59種類の栄養素があり、また、ユーグレナ以外にミドリムシを大量培養できる会社はなく、技術力も高いという評価をいただきました。伊藤忠の担当の方から食料カンパニー長、社長、会長に至るまで、「確かに実績はないが、実力がある企業を応援して成長させるのが伊藤忠商事という商社の考え方のひとつだ」と同じことをおっしゃられました。私は本当に感動しました。一生忘れません。
 今回、伊藤忠商事の岡藤社長と授賞式でお会いしたときにも、岡藤社長はこのミドリムシの経緯や苦労を知ってくださっていて、「君はよく頑張った、伊藤忠は本物を見捨てない会社だぞ」と話してくださいました。

正しく広く理解されるために

ミドリムシの理解促進を進めていらっしゃいますが、どのようなことに気をつけていますか。
出雲 ユーグレナの事業を進めていく上で、ミドリムシを皆さんに正しく広く知っていただくことが、遠回りのようで実は最も大切なことだと思っています。大学でミドリムシを研究していたころは、良いものは広報や宣伝をしなくても、皆さんがその良さに気づいて、研究する人が増えたり、応援してくれるようになると考えていました。
 でも、そのようなことは起こりません。大学発ベンチャーが成功するためには様々な条件がありますが、そのひとつが取り扱っている製品の良さを世の中にきちんと訴えることです。大学発ベンチャーは自分たちの技術や製品には絶対の自信を持っています。当社でしたらミドリムシの培養技術のようなものです。しかし、自信があるからこそ、これ以上努力して、技術を世の中に発信したり、広く皆さまに知ってもらうという努力を怠っていることが多いと思います。
 大学発ベンチャーだからこそ、技術の優位性を自負するのではなく、この良いものをどうしたら分かりやすく皆さまに知っていただけるのかを真剣に考えるべきです。例えば、京都大学のiPS細胞研究が世間に広く認知されているのは、山中教授がiPS細胞を社会に発信するための広報活動に自ら精力的に取り組んでいらっしゃるからです。そのような姿勢を、大学の先生や、大学発ベンチャーは見習っていくべきだと思っています。
受賞理由に、ベンチャーに欠けているのは“信用”と“発信”であるとありました。“信用”を獲得する上で重要なのはどのようなことでしょうか。
出雲 信用には「科学的信用」と「社会的信用」があると考えています。「科学的信用」とはベンチャーにとっては当たり前のもので、独自技術などを多くのベンチャーは備えているものです。その上で必要になってくるものが「社会的信用」です。
 ユーグレナが伊藤忠商事から出資を受けた2008年5月の前にもメディアがミドリムシ研究の取材にくることがありましたが、弊社の商品を進んで口にしてはいただけませんでした。ミドリムシについて、どれだけ栄養価が高くて安全なものであるという研究結果を残していても、です。当事者本人がどれだけ訴え掛けても意味がありません。ですが、伊藤忠商事など他社がきちんと調べて、これは大丈夫なものだと判断し、ファミリーマートで販売してくれれば皆さんに買っていただけます。「社会的信用」とは、本人が大丈夫です、安心してください、信用してくださいと言っても意味がありません。まさに、伊藤忠商事のような信用に足る大企業の審査に合格して、ミドリムシはいいですよ、と伝えていただく。それこそが社会的信用であり、それを得られるためにも努力をしなければなりません。

社内での意識共有や活性化には、どのように取り組んでいますか。
出雲 社員は約90人(受賞当時)いますが、会社の中で社員という言葉を使ったことはありません。また、株主のことも、ミドリムシを応援してくれている株主ですので、“ミドリヌシ”と私は呼んでいます。弊社は、ミドリムシの研究に本気で取り組んでいて、ミドリムシのことを応援している人で成り立っています。そういう意味で、会社にきてくれている人を仲間と呼んでいます。我々はミドリムシで研究をさせていただき、ビジネスをさせていただいています。ですから、私が偉いとかこの人が偉くないとかではなく、ミドリムシがあるから、今、我々の会社があるわけです。強いて言えば、ミドリムシが一番偉いですね。また、我々のような規模の会社ではあえて複雑な組織にする必要はありません。仲間やお客さま、ミドリヌシといったステークホルダーと一緒に、ミドリムシで人と地球を健康にしていきたい。そのために一緒に取り組んでいる人には相互に、全員に対して、信頼と尊敬の念を持つことが重要です。

広報と農学の共通性

ミドリムシをこれから広めていくための取り組みをお聞かせください。
出雲 ミドリムシの研究と広報活動の両方に取り組んで感じたことですが、広報と農学は非常に似ていると思っています。例えば、皆さんが口にするお米ですが、多くの品種改良を行って品質を高めたものを食べています。様々な種類のお米を栽培し、収穫したお米の中でおいしいお米だけを選抜しています。それをこつこつと繰り返していくことで、品質の高い安定したお米が出来上がります。
 ミドリムシというと、いまだにイモムシや毛虫といった虫だと思っている方もたくさんいると思います。その方々全員に一日でぱっと伝わるようなうまい方法はありません。広報も品種改良と同じく、一人ひとりに、「ミドリムシは虫ではなく、わかめなのです、昆布なのです。藻の一種なのです」とこつこつとお伝えしていくしかありません。品種改良と同じように地道に続けていくことによって、ミドリムシの良さが、また一人また一人と正確に伝わっていき、ミドリムシを好きになってくれる人が増えていくと思っています。
聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長
(文責:国内広報部主任研究員 西田大哉)
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