経済広報

『経済広報』(2016年3月号)掲載
企業広報研究

企業広報功労・奨励賞を受賞して

セブン&アイ・ホールディングスの広報と、私の広報観

山口公義

山口 公義(やまぐち きみよし)
(株)セブン&アイ・ホールディングス 
執行役員 広報センター シニアオフィサー

多様な広報経験により培った“外様の視点”

 私は1995年に西武百貨店の本社広報室に着任してから現在に至るまで、約20年間広報業務に従事している。着任から暫く後の西武百貨店は、経営不振による改革が始まり、当時の私の広報としての主な仕事は、マスコミの厳しい問い合わせに対応することだった。2002年には経営破綻したそごうに出向・転籍し、再建を目指して広報業務に取り組んだ。広報というと、自社の良い報道を出すために、どうPRするかと考えがちだが、このころの私の広報業務は、もっぱらネガティブな報道をどう抑えるかに尽力していた。
 2003年には、そごうと西武が統合再編したミレニアムリテイリングへ出向した。当時は弱者連合と揶揄されることもあったが、晴れて、業界初の持ち株会社誕生をアピールする広報業務に取り組んだ。2006年にミレニアムリテイリングがセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入ってからは、百貨店事業会社としての企業価値向上に向けて、新しい企業の形を積極的にPRした。このころは、西武百貨店時代の危機管理に追われた広報とは全く異なり、前向きで積極的な広報業務に取り組んでいた。
 百貨店や経営破綻会社、経営統合会社など、様々な会社の広報を経験し、外部の視点で業務を捉えることができるのが私の強みだ。2011年に、突然の辞令で現職に就いてからは、百貨店業態のみならず、コンビニエンスストア、スーパーなど様々な業態の事業PRに加え、セブン&アイグループ全体の企業価値向上を目指し、積極的な広報活動に努めている。

セブン&アイ・ホールディングスの概要

 セブン&アイ・ホールディングスは、2005年にセブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、デニーズジャパンの共同株式移転により設立された。傘下企業は約150社、「百貨店・食品スーパー・総合スーパー・コンビニエンスストア・フードサービス・金融サービス・IT/サービス」を主要な領域として事業展開をしている。グループシナジーを追求し、お客さまにこれらの店舗・サービスを横断的に利用していただくことで、グループとしての企業価値の最大化を目的としている。
 現在、日本を中心に、世界17カ国でコンビニエンスストア、スーパー、百貨店など約5万6000店舗(海外FCコンビニエンスストア含む)を展開し、1日当たりの来店客数は世界で約5500万人、国内で約1950万人に上る。2014年度のグループ全体の売り上げは約10兆円で、売り上げの大半はセブン-イレブンによるものだ。セブン-イレブンでは、国内だけで1日約550万個のおにぎり、約200万杯のセブンカフェを販売している。

セブン&アイ・ホールディングスの広報体制

 セブン&アイ・ホールディングスの広報組織「広報センター」は、セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、そごう・西武の広報活動を直接担当するとともに、それ以外のグループ各事業会社の広報活動をサポートしている。セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂に広報セクションはなく、広報業務は広報センターに集約している。

「広報センター」業務指針
  • ・マスコミ他を活用した社内外における広報活動により、業界のリーディングカンパニーたる存在を確立させる。
  • ・その実施においては、各事業会社単位のみならず、常にグループ全体を視野に入れた取り組みを心掛ける。

 広報センターの陣容は総勢13名で、社外広報を10名、社内広報を3名で担当している。お客さまと接点のある事業を24時間365日、大規模に展開しているため、事件や事故など、毎日何かしらの事案が発生する。マスコミなどからの電話による問い合わせは1日約150件、年間1500件の取材対応、70件の記者会見、380件のプレスリリース作成などを行っている。少数精鋭で全ての情報を集約し、経営トップとの直接コミュニケーションを徹底、即断即決、スピーディーな対応を実現している。

課題は各事業会社の広報課題の掌握

 上記以外のグループ各事業会社の広報セクションの現状として、総じて専任組織はなく、他業務との兼務が大半となっている。年4回、グループ内主要各事業会社12社の対外広報担当者を対象とした「グループ広報連絡会」を開催しているが、現状は本社からの一律の業務指示にとどまっている。各事業会社に広報業務に関する興味・関心事についてアンケートを実施したところ、「リスクマネジメント対応」や「災害発生時の初動対応」など、危機対応についての関心が高かった。緊急案件発生時にはコミュニケーションを密に図るが、各事業会社が抱える個別の広報課題の掌握については、まだ十分でないと感じている。
 また、PR活動など日常活動におけるグループ内での広報対応ルールは明文化されておらず、発生した案件ごとに適時口頭で対応している点も課題だ。現在、主なメディア対応や報道予定を知らせる「広報センターレポート」を毎週、新聞掲載情報を毎日発信するなど、グループ内における情報共有の促進に取り組んでいる。

「PR活動」は成功しても3割、「公聴活動」で10割実現を目指す

 広報業務は、大別すると「PR活動」と「公聴活動」になると考えている。公聴活動とは、いわゆる情報収集とその共有である。冒頭でも述べたが、広報ではPR活動ばかりが目立つが、重要なのは公聴活動だと私は考えている。いわゆる「攻め」のPR活動は、報道予定があったとしても、ほかに大きなニュースが入ってくれば流れてしまうといった不可抗力がある。野球でいえば打撃、良くて3割といったところだ。一方、公聴活動は守備と走塁に例えられる。情報は自ら外に出向くことで取ることができる。練習すればするほど上達し、10割実現も夢ではない。この日々の公聴活動、すなわち社内外情報の収集と共有を、広報センターの最重要課題に位置付けている。
 当社の活動指針は、時代の変化に対応することであり、日々の社会変化の把握は、業務遂行に不可欠だ。もっとも、変化対応といっても全てが変わるわけではない。パソコンでいうOSのように変わらないものもある。当グループでいえば、経営トップの「利益を出さねば経営ではない」「真似をするな」「皆の賛成するものは失敗する」といったスタンスだ。一方で、“買い手市場”だから「画一的ではなく、独自性重視」、“モノが溢れ、消費飽和”だから「価格より価値重視」などの考え方は、アプリケーションのように時代の変化により変わっていく。こういった社会変化の把握は、日常の業務を淡々とこなすだけではできない。情報を取ろうという意識と行動が重要だ。
 私は、常にウォッチすべき媒体物を決めている。紙媒体だけでなく、ネットニュースや特集を絡めたオンライン記事にも注目している。紙面の都合上、書き切れなかった記者の本音や思いが込められていることがあるからだ。また、各企業の決算リリースも重要だ。小売り全体の動向と各企業の状況、トータルのスタンスで物事を見るようにしている。
 毎日のニュースが業務に結びついている。ニュースを知らずして、日々の業務は進まない。当社には、当グループの個別案件のみならず、紛争問題、災害といった社会情勢の変化や日経平均株価についても、その影響を問う取材が入ってくる。当グループの自社報道に関する社内関心度は高く、報道された内容について社内の担当者から問い合わせが入ることも多い。社員はどうしても固有案件に目がいき、大きな、硬いニュ-スはおざなりになる傾向があるが、グループ全体として非常に多くの商品を取り扱っている中で、なんらかの関係が出てくることは多い。これらのニュースにも目を通すよう広報の立場から提唱している。

広報責任者は経営トップの代弁者

 企業広報責任者は、経営トップの代弁者だ。先にも述べたが、私はそもそも西武百貨店の広報からそごう、ミレニアムリテイリングと様々な会社の広報を担当してきた。外部の視点でホールディングス広報を見ることができるのは私の強みだが、現職に着任当時は、これまで経営トップと接する時間が少なかったことから、十分な信頼関係を築けていなかった。そこで、まず経営トップと接する時間を多く持とうと、トップのマスコミ取材には全て同席し、翌日朝一には経営トップが話した内容をまとめたメモの作成を自らに課した。多いときは1日3件から4件の取材対応をすることもあり、相当な労力がかかったが、1年半もすると経営トップの考え方が次第に分かるようになり、トップとのコミュニケーションも円滑になっていった。その後は取材対応時に経営トップの考えを代弁するなど、信頼関係を築くことができた。広報責任者ともなると、経営トップの考えを、言われる前に把握できていることは、最低の条件だと思っている。

PRとは、人の心を打つ努力

 情報収集・共有は、やはり情報交換が基本であり、人との繋がり、ネットワークづくりが社内・社外とも重要だ。私は百貨店時代、業界の中心企業でもないがため、人と同じことをやっても記事にしてもらえないという点で、大いに苦労した。現在、当グループは小売り大手として、リリースを出せば取り上げてもらえることが多く、マスコミからの取材依頼も日々あまたある。その点で、当広報センターのメンバーは恵まれている。本来PRとは、何かしら人の心を打つ努力が必要だ。これは社内においても同様で、人の輪を広げ、相手の手助けになることを考える。多くの人と接すれば、苦手な人も出てくるかもしれないが、情報収集・共有する上で妨げとならないよう関係構築にいつも努めている。
 マスコミとの関係を密にするためには、常に旬な情報を提供することを意識している。広報センターの方針として、記者が交代するタイミングを大切にしている。特に、初めて小売り業界を担当する若い記者などは、業界への理解も少なく不安も多い。初めて会ったその日に、業界の戦略や特徴などをまとめた個人資料をメールで送るなど、信頼を築くための工夫をしている。特に用がなくても、相手の関心度合いにかかわらず、情報提供は絶やさない。情報は一方通行ではない。こちらが情報発信すれば、欲しい情報は必ずどこかで返ってくる。継続することで報われることを、私自身が経験してきた。
 広報センターは現在13名という少人数で運営しているが、広報に長く携わったスペシャリストばかりではない。長くいると、詳しくなるが、どうしても個人の癖のようなものがついてしまう。できるだけニュートラルに対応できるよう、人材の循環、育成も大切にしながら、当グループの発展に貢献していきたい。
(文責:国内広報部主任研究員 大野祥子)
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