経済広報

『経済広報』(2016年3月号)掲載
企業広報研究

企業広報功労・奨励賞を受賞して

「対話」を重視した広報IR活動でステークホルダーの理解を深める

田中良輔

田中 良輔(たなか りょうすけ)
(株)カプコン 秘書・広報IR部長

カプコンの概要

 カプコンは、1983年に創業された。この年は任天堂のファミリーコンピュータが発売された年であり、東京ディズニーランドが開園した年でもあることから、「エンターテインメント元年」と呼ばれている。当社のコアビジネスは、プレイステーションやニンテンドー3DSなどの家庭用ゲーム機向けソフトの開発・販売である。また、家庭用ゲームで生み出されたコンテンツをモバイルや遊技機、映画、キャラクターグッズなどにマルチ展開する、ワンコンテンツ・マルチユースを基本戦略としている。「ストリートファイター」や「バイオハザード」「モンスターハンター」など世界的に売れているコンテンツを多面的に使うことでシナジー効果を生み出し、収益の最大化を図っている。

ゲーム業界の経済産業としての認知度向上に貢献したい

 ゲーム業界は主要産業と比較して規模がそれほど大きくなく、歴史も浅いという特徴がある。メディアもゲームのタイトルは知っていても、ゲーム業界を経済産業としてなかなか認知していないことが多い。広報IR室は、当社の取り組みに加え、経済産業としてのゲーム業界の理解促進にも貢献したいという思いがある。
<2015年度 広報IR活動運営指針>
1. 良質な広報IR活動を遂行し、経営と事業の需要に応える
2. 当社および業界イメージの向上への貢献
3. 開発・事業部の直接支援に重点注力する
4. 戦力の底上げによる組織力向上
 1点目について、広報IR室は、企業広報・IR・CSR(企業の社会的責任)を担当している。それぞれのステークホルダーとしっかり対話し、彼らの意見を経営にフィードバックすることが、当室に求められている役割だ。
 2点目は、ゲームはクールジャパンのひとつとして良いイメージを持つ一方、勉強の邪魔、時間の無駄というマイナスイメージがあることも事実だ。また、クールジャパンといってもメディアの論調はアニメ、マンガが主だ。実際の経済統計ではアニメ、マンガよりもゲームの方が圧倒的に外貨を稼いでいるのだが、そういうところはなかなか知られていない。こういった点をしっかりPRしていきたい。
 3点目は、広報が直接的に事業を支援することだ。例えば、当社ではアミューズメント施設の運営を行っているが、最近シニアの来店が増えている。シニアの動向はメディアの関心が高い分野であるため、広報IR室からアミューズメント施設を運営している事業部にシニア層取り込みの施策を持ち掛け、メディアへの露出を図り、アピールに繋がった事例がある。

資本市場と信頼関係を築く

 現在、広報IR室のメンバーは8名で、新卒から業務経験8年程度のベテランまで幅広いキャリアで構成されている。当社は大阪に本社、東京に支店があるが、メンバーを大阪と東京で分けるとリソースが偏在化するので、パフォーマンスを考慮して全員が大阪を拠点として活動している。現在CEOは大阪を中心に、COOは東京に常駐しているので、私は週1、2度日帰りで東京に行く。私以外のメンバーもフットワークを武器に、記者対応などで定期的に東京と大阪を行き来している。
 当社はIR活動にもかなり力を入れている。ゲーム業界はヒットビジネスのため、間接金融だけでなく直接金融からも資金調達するべく、資本市場と信頼関係を築こうと考えているためだ。決算発表は大阪取引所で行い、記者会見をユーチューブで配信している。翌日に東京でメディアと投資家向けに決算説明会を行い、質疑応答の内容をIRサイトに掲載している。あらかじめ、どのようなやり取りがあったかを公開しておくことで、その後の投資家との個別ミーティングでは非常にスムーズに話が進むと感じている。また、当社の外国人の持ち株比率は直近(2015年9月)で39%まで上がっていることと、フェアディスクロージャーの観点から英語資料を同日にIRサイトに公開している。

社外取締役とのスモールミーティング

 当社が機関投資家向けに行っている特徴ある取り組みとして、社外取締役とのスモールミーティングがある。2014年にスチュワードシップコードが適用されたあたりから、ガバナンスの実効性について問われる機会が増えている。当社は2014年からアニュアルレポートに取締役会の内容を公開しているが、2015年は社外取締役と実際に対話する機会を設けようということで、投資家10名と社外取締役との質疑応答を実施した。中には非常に厳しい質問もあったが、双方言いたいことは言えたので、対話の糸口としては非常に良かったと感じている。この取り組みを統合報告書で開示したことによって、資本市場から非常に素晴らしい取り組みだと評価していただいた。

IRサイトはメディアのアクセス窓口

 当社の統合報告書は、機関投資家だけでなく、個人投資家や学生、マスコミなど広範な層を対象にした総合会社案内と位置づけている。報告書には客観性を保つため市場データやマーケットシェア、アナリストとの対談を入れている。対談するアナリストには、できる限り厳しい指摘をお願いしている。自社を紹介するものなので迎合する内容では、余計信頼を失ってしまうからだ。統合報告書はIRサイトに掲載するだけでなく、冊子でも発行している。投資家はサイトで確認することが多いので、冊子は不要との考え方もあるが、当社では統合報告書を就職活動中の学生やメディア、個人投資家に配布することで、自社および業界の理解促進に繋げている。
 IRサイトは、最も費用対効果の高い広報ツールとして認識している。就職活動中の学生、メディアのアクセス窓口という位置づけだ。当社のIRサイトは自社だけでなく市場データも解説付きで掲載しているため、ゲーム市場を検索したメディアが当社サイトにたどり着き、問い合わせを受けることがある。その機会を生かしてメディアにキャラバンに行き、自社報道に繋がった事例が、TBSテレビの「がっちりマンデー!!」だ。

国内初の買収防衛策否決

 2015年、当社が総力をかけて注力した取り組みのひとつに、買収防衛策の導入がある。買収防衛策は2008年に初導入し、以降2年ごとに更新してきたが、2014年に賛成48%、反対52%で否決された。日本で否決されたのは、当社が初めてだ。否決の要因は取締役の任期などの考え方に違いがあり、大方の外国人投資家が反対したことと、当社にとって買収防衛策は単なる買収防衛ではなく成長戦略のために必要と考えていたが、その主張のアピール不足だった。実は否決される数日前に結果の予測はついていたが、取り下げることはしなかった。この策は必要と判断して株主に諮っているものであり、否決されそうだからといって途中で取り下げることは株主に失礼だ、というのが取締役会での結論だった。
 否決されて最初に行ったことは、経営陣の主要メディアのロングインタビュー対応だ。説明が足りなかったことが否決された第一要因だったため、当社の考えを丁寧に説明すること、そしてあらゆるステークホルダーと対話し理解を深めていただくことに努めた。国内外の投資家に対しては、あらためて否決された要因分析を説明し、具体的に何がダメだったのかヒアリングも実施した。取締役会で議論を重ね、投資家との対話で譲れないところは理解を求めながら、ROE(株主資本利益率)の目標値、取締役の任期、発動の決定機関を株主総会へ変更など、様々な見直しを行った。2015年6月、再度買収防衛策の導入を諮った際、今回は多数の外国人投資家が賛成してくれたこともあり、賛成75%で可決された。現在、ガバナンスコードなどにおいて対話の重要性が挙げられているが、この1年しつこいくらい対話を続けたことで出せた結果だ。

地方創生への貢献

 ほかにも力を入れている取り組みとして、ゲームコンテンツを活用した地方創生がある。当社には、全国津々浦々の戦国武将が登場する「戦国BASARA」というゲームがあるが、地元ゆかりの武将を登場させて、地方への観光客誘致や博物館の入場者数の増加、選挙の投票率向上に貢献するという取り組みだ。過去の実績などを紹介したプロモート資料を広報IR室で作成し、自治体や博物館、選挙管理委員会に我々が直接売り込みにいく。ゲームを活用して集客することに対しては、先方の中でも賛否両論があるが、若年層に興味を持ってもらうには、まずは来てもらうことが大切ということを理解いただいている。これでゲームが売れるわけではないが、ゲームも使い方によっては社会の役に立つということが周知できれば、さらに社会に貢献できるので、引き続き取り組んでいきたい。

創業者の経営哲学を伝えたい

 CEOの辻本憲三は当社の創業者であるが、カプコンを上場させただけでなく、60歳を過ぎてから私財を投じてゼロから個人でワインビジネスを始めた。辻本には起業し人を雇用し税金を納めることが社会貢献だという信念がある。広報としては、60歳からリスクを負いビジネスを始める人間がいることを日本の若い起業家に知らせたい。辻本の思いや考えを社内の次世代のメンバーにしっかり伝えていきたいと考えている。広報対応としては、ワインビジネスは個人事業なので、カプコンのCEOである辻本の姿と絡めながらメディアに伝えている。広報スタッフからの説明だけで足りないときは同じ経営の目線ということで副社長から、または、本人に直接面会してもらうこともある。

私の広報観

 ゲーム業界は、3カ月、6カ月で状況が大きく変わる。私は広報IRを16年間担当しているが、飽きることは全くない。3カ月前と説明する内容が大きく変わることもあるので、ステークホルダーとの信頼関係を維持するためには、偽らず、身の丈に合った活動が重要だ。
 仕事はやるからにはトップクラスを目指したい。このポジションはメディアや投資家など、一流の人たちの意見を聞くことができる。情報交換しながらレベルアップしていきたい。広報IR室は、社外と社内の橋渡し役なので、社内に対しては「身内の理論は通じない」という話をし、一方で社外に対しては意見を聞く、当社の考えを理解していただくという「2.5人称視点」のスタンスでいる。社内、社外の双方のバランスが大事だと考えている。
 当社は経営トップが数値による透明化の経営を行っているので、広報IRもできる限り数値で説明していきたい。広告換算などの評価手法もあるが、それだけに頼るのではなく、独自性のある活動を行っていきたい。ゲーム業界はまだまだ啓発が足りないところがある。社会および経済へのゲームの効用についてしっかり説明や対応を尽くし、自社のみならず、業界のさらなる理解促進のために貢献していきたい。
(文責:国内広報部主任研究員 大野祥子)
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