経済広報

『経済広報』(2016年1月号)掲載
第31回企業広報賞受賞者インタビュー
“マツダブランド”をあらゆるステークホルダーに
~広島に育てられた企業として地域への感謝を意識~
小飼雅道

小飼 雅道(こがい まさみち)
マツダ(株) 代表取締役社長兼CEO

 第31回「企業広報賞」の表彰式が9月14日に開催された(本誌11月号参照)。今月号では、企業広報大賞を受賞されたマツダの小飼雅道代表取締役社長兼CEOのインタビューを掲載する。

一人ひとりが伝える努力

「企業広報大賞」を受賞されていかがでしたか。

小飼 企業広報大賞という歴史ある、栄誉ある賞を受賞できて大変光栄に思います。開発、生産、販売など様々な部門の社員が“伝えるまでが自分の仕事”と強く意識し、クルマに対するそれぞれの熱い思いを、広報部門が代表して、お客さまや株主、地域の皆さま、マスコミの方々といった様々なステークホルダーに正確にお伝えできたことが今回の受賞に繋がったと考えています。特にマスコミの方々とは、広報のほか開発担当者、各部門の担当役員が直接お話しする機会を多く設け、それぞれの技術や考え方を分かりやすく正確に伝えるように心掛けてきました。社長の私や役員を含め、一人ひとりが広報パーソンとして発信するよう努めています。

受賞理由のひとつに、広島から世界への戦略的な情報発信が挙げられています。地域との関わりについて、どのようにお考えでしょうか。
小飼 マツダは、首都圏から離れた広島という地域に育てられた会社です。多くの社員が広島出身者です。クルマを構成する部品の9割はサプライヤーさまによって提供されており、その多くが広島にあります。また、広島には、マツダ車など県産品の販売促進をはかる郷心会という組織があります。マツダが不調のときに、地域の皆さまが自主的に組織されたもので、マツダ車の拡販に努めていただいています。
 このようなことを社員は絶対に忘れてはいけません。そのために、全社員向けに、“マツダヘリテージビデオ”を制作しました。我々が生まれ育った広島はどのような場所なのか、なぜクルマづくりを行うようになったのか、その素地はどのような伝統で引き継がれてきたのか、モノづくりに情熱を持つ伝統がどのように育まれてきたのかなど、戦後、マツダが広島と共に歩んできた歴史や企業としての人格を訴えています。最初は、社員向けに社内のみで使われていましたが、ご来社いただいたお客さまにお見せしたところ、社外でも見られるようにしてほしいというお言葉をいただき、YouTubeの「Mazda Channel」で発信しています。ご覧いただいた方には、マツダの企業人格というものを理解していただけると思います。

ブランド価値を共有したクルマづくり

クルマづくりにおいて、重要なのはどのようなことでしょうか。
小飼 クルマづくりの上にあるのが、ブランド価値経営の考え方です。この考え方は、さかのぼると2001年ころにその源流がありますが、それまではブランドが希薄していた時期で、もう一度マツダブランドとは何かを思い起こすために始めました。
 ブランドというものは、自分で理解し、そして、自分の言葉で、お客さまに訴求していくことの積み重ねです。商品にそのブランドを織り込み、クルマを開発している人も、販売店でお客さまと接する人も、我々がどのような思いで、そのクルマをつくったかを伝えていくことこそがブランド価値経営です。
 一人ひとりがマツダのブランドを理解するために、2001年に「ブランドエッセンスビデオ」をつくりました。3分ほどの短いビデオですが、「我々は退屈なクルマをつくらない、走る歓びを与えるブランドだ」ということを全社員に伝えたものです。現在では、ヘリテージビデオのようにマツダの歴史をさかのぼって伝えるところまで育ってきています。
 今は、この考えをグローバルに伝えつつあるところです。もう少し時間がかかるかもしれませんが、内部からきちんと教育をしていけば、それが外にも伝わっていきます。社員教育が最も重要なのです。
そのようなブランド教育がクルマの開発にどのような影響を与えているのでしょうか。今回(2015年11月)の東京モーターショーでは、次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載したコンセプトカー「Mazda RX-VISION」を発表するなど、大きな注目を集めました。 
小飼 マツダのブランドコンセプトを全社員で共有し、モノづくりを進めています。2006年に「モノ造り革新」をスタートさせました。当初は、ハイブリッドやEVのような大きな目玉となる新しい将来技術ではなく、今まで培ってきた技術、エンジンでいえば内燃機関にしっかりと磨きをかけることから始めました。
 商品を世の中に出すときには、その技術とデザインをきちんと分かりやすく説明するため、「スカイアクティブ」「魂動」といった、我々自身も、お客さまにとっても理解しやすいコンセプトの表現をつくりました。自動車業界の中でマツダの持ち場を自分たちで定義し、その範囲で最高の商品を出して、お客さまに提供していく。基盤を固めることなしに、これ以上車種の幅を増やすことや、技術の幅を広げることはせず、領域は狭くても光り輝く商品をつくっていけば、我々はその役割を果たすことができると考えています。世界で2%といわれているマツダファンの皆さまの期待に応えることができれば、マツダはその役割を果たし自動車業界に貢献できます。これを曲げてはいけないと思い、全社員にその考えを伝えています。
マツダの強みに「開発と生産が協働する」ことがありますが。
小飼 内燃機関の改良には多くのリソースが必要であり、我々の持つリソースをいかに効率的に分配するかが大事でした。開発で図面を書いて、それから生産したのでは、生産の段階で問題が起きたときに、図面の差し戻しが起こるなど効率が悪い。やはり、開発と生産が一体となる以外にあり得ないと考えました。マツダでは、開発の場面から生産の人が携わり、量産できるかどうかをその場で判断しています。今のままではつくれない、でもお客さまにとって良い技術であるということであれば、量産化まで時間があるので、生産体制を用意できます。開発と生産はその間にある壁を取り払ってくれました。開発と生産が一体となることで新しいアイデアも生まれてきます。それこそが、我々のような小規模な自動車メーカーのメリットでもあります。この広島に研究開発、生産、デザイン部門が全て集まっており、また、お取引先のサプライヤーさまも地元に多くおられますので、頼めばすぐに開発現場へ駆けつけてくださいます。本当に頼もしい限りです。

“マツダファン”とのコミュニケーション

ファンの方との交流を多くされていると伺っています。どのようなコミュニケーションを取っていますか。また、ファンとのコミュニケーションを、どのように考えていますか。
小飼 マツダのファンの方の中には、熱狂的なお客さまもいらっしゃいます。まず、お客さまのご要望を伺いながら、サーキットなどで行われるモータースポーツイベントにお招きして、開発関係者のトークセッションを楽しんでいただいたり、今後のマツダやクルマに対するご期待を伺ったりしています。
 また、先日の東京モーターショーでは、抽選の上で一般のお客さまにマツダのスタンドに来ていただいて、我々役員や開発者と食事をしながら懇談を楽しんでいただいたり、私も加わって、お一人ずつと記念写真を撮ったりしました。このようなマツダファンのお客さまとのコミュニケーションを継続的に実施しています。
 今後は、さらに多くの一般のお客さまにもマツダとの繋がりを深めていただきたいと思っています。お客さまの中には、なんとなくマツダ車をご購入された方もいらっしゃいます。そのような方々には、毎日見る宣伝やCM、新聞や雑誌などの特集を通じ、今乗っているクルマがどんなクルマなのかを繰り返し目にしていただき、そして自分で実際に乗ってみて、「なるほど、テレビCMの通りだ」ということを体感していただきたいと思います。もちろん、販売店については、何か問題があった場合には迅速なサービスで対応できるように、販売店とお客さまがずっと近い関係を維持できることを目指しています。CMでも、ひとつの車種ごとに異なるメッセージを流すのではなく、マツダの哲学や走る歓びについて繰り返し発信するようにしています。お客さまにとって、身近で、すぐそこにマツダがいるという状態にしたい、いつもお客さまの一番そばに寄り添っている会社でありたいと思っています。
日本企業の中でトップのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)エンゲージメント度を達成するなど、SNSでのコミュニケーションに力を入れてらっしゃると伺いました。
小飼 広報部門では、ほとんどのSNSをモニタリングしており、マツダに対して多くのコメントが寄せられています。仮に、問題が起こってしまったときでも、頑張ってくださいという一言や、問題に真摯に取り組むマツダをいつまでも応援しますというお言葉は本当に現場の励みになっています。一方で、マツダを考えてくださった上での辛口のご意見もあります。そのようなご意見は次の商品やサービス、広報戦略に盛り込んでいかなければなりません。コールセンターに寄せられる情報に加え、SNSは実際の声をリアルタイムで入手できる点が大きなメリットのひとつです。これからもSNSでお客さまとのコミュニケーションを続けていきます。

地元広島への貢献

マツダは広島に育てられた企業というお話を伺いましたが、広島への貢献を強く意識されていらっしゃいますか。
小飼 マツダという会社がどういう歴史を持って成り立ってきたかを社内では常に動機付けをしています。地元広島への感謝を社員は忘れてはいけません。当然ながら、広島市民球場の命名権取得や、サンフレッチェ広島といったサッカーチームへの支援、ラグビーや駅伝など地域の子どもたちへのスポーツ支援を積極的に行っています。地域の方から親しみやすいマツダであると見ていただけるよう努めていきたい。また、それ以外でも、マツダ社員の一人ひとりが地域の皆さまに感謝し、親しまれる社員となることを目指しています。先ほどご説明した、ブランド価値経営の根底にあるものなのですが、そのような社員教育を徹底的に行い、広島への貢献、感謝の気持ちを表したいと思います。

きちんと伝われば社員もうれしい

広報部門には何を期待されていますか。
小飼 企業広報大賞をいただけたことは、広報のひとつの大きな評価ではありますが、それだけではなく、お客さまから正しい評価をいただくことが広報の一番大きな成果だと思っています。お客さまから的確な評価をいただけるということは、我々の商品の中身や考えが正しく伝わった証拠でもあり、マスコミやジャーナリストの皆さまからの評価の中身が正確であるかも広報活動をしっかりしているかの判断基準のひとつになります。
 また、社員からしても、例えば、エンジニアがジャーナリストの方から取材を受けたときに、伝えたいエンジニアの考えをきちんと記事にしていただければ、エンジニアもうれしいと思います。
 マスコミの皆さまから、広報が誠実な対応を取っているかなど、広報そのものが評価されるケースもあります。マスコミの方からマツダの広報部門は誠実で、隠し事なく、正確な情報を発信しているという評価をいただくことができれば、それはマツダ自体が誠実な会社であると認識されることと同義です。マスコミやジャーナリストの皆さまから、広報部門が誠実に対応したという言葉はトップである私のところにも入ってくるので、広報部門はきちんと活動していると実感しています。

今年の抱負――若い芽を育てていく年

最後に、今年の抱負や取り組みについてお聞かせください。
小飼 昨年の新年あいさつで、私は「新たな成長の種を蒔き、根をしっかり張る1年にする」と申し上げました。この1年を振り返ると、少し花が咲いたように思います。昨年は、花を咲かせ続けるために、財務体質の改善、ブランド価値向上、商品力強化に重点を置いて事業を進めてきました。つまり、根をしっかりと張って栄養をどんどん吸収してきたといえます。今年は、幹を太くしていきます。また、現在、今後市場に導入する次世代商品に向かって、技術開発を進めています。この開発を成功させなければ本物の会社になったとはいえません。お客さまや投資家の皆さまの期待に応える上でも、この技術開発をしっかりと続けて、次世代商品に繋げていきたいと思います。そういう意味で、「若い芽を育てていく」1年にしていきます。
(聞き手:佐桑 徹 経財広報センター 常務理事・国内広報部長)
(文責:国内広報部主任研究員 西田大哉)
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