経済広報

『経済広報』(2016年11月号)掲載
第32 回 企業広報賞 選考委員選考所感
チーム力と経営理念の総合力
(敬称略)
伊藤 邦雄(いとう くにお) 一橋大学大学院 商学研究科特任教授  商学博士

写真:伊藤 邦雄  今回の選考過程でも、委員の間で活発かつ率直な意見交換と情報共有を行うことができ、委員長としても達成感を味わっている。
 企業広報大賞を受賞した三菱商事は堂々たる受賞である。何か突出した個別の活動が評価されたというよりも、広報全般にわたる長年の活動がすべて高い水準にあり、まさに総合的に評価された結果である。その背景には機動的な組織力に裏打ちされた広報のチーム力がある。そして、それを支えているのが経営理念である。経営理念へのこだわりがなければチームと経営者は同期せず、チーム力がなければ経営理念は効性を生むことができない。三菱商事の持続性ある広報力はまさに「大賞」に値する。
 企業広報経営者賞を受賞した大西さんと東さんに心からお祝い申し上げたい。大西さんの百貨店業界に対する危機意識は凄まじく、それがご自身の様々な場での発言や、頼まれれば断らない講演活動に繋がっている。評者も大西さんと一緒に講演したこともあるが、経営者としてのその真摯な取り組みと情熱に感銘を受けた。
 東さんは、別の団体の表彰制度でインタビューさせていただいたことがある。主たるテーマはコーポレートガバナンスだったが、インタビュー中、東さんから紡ぎ出される言葉に評者は何度も打たれた。謙虚さを備えながらも、その使命感と経営者としてのセンスが、発する言葉の説得力と重みに繋がっているものと確信している。
 企業広報功労・奨励賞を受賞した藤原さん、宮﨑さんの受賞を心から喜びたい。両者に共通するのは、投資家やステークホルダーとの「対話」の精神を持続してきた点である。「対話」の場に経営トップに出てもらい、建設的な対話を実現するお膳立てをするのが広報の役割である。両者は見事にその仕事を実践してきた。

情報発信の切所を乗り越えて
天野 真志(あまの まさし) 読売新聞東京本社 経済部長
写真:天野真志  企業が情報発信を充実する上で大切なのは、「継続」と「トップの意志」だ。選考委員会に参加し、この思いをあらためて強くした。
 三菱商事は、東日本大震災の被災地支援に地道に取り組み続けてきたことが特に評価された。功労・奨励賞のローソン・宮﨑純氏は長年にわたって広報の仕事に携わり、大震災の際にはきめ細かいメディア対応を行うよう、社内の説得に手腕を発揮した。
 キリン・藤原哲也氏も、業績悪化時も社外との対話を重視する姿勢で信頼を築いた。
 積極果敢な広報やCSR(企業の社会的責任)には、往々にして社内から異論が唱えられる。「そんなに情報を出してメリットはあるのか」「そこまで熱心にCSRをしなくてはならないのか」といった類いの声だ。
 これに惑わされず、成すべきことを成せるか。情報発信の真価が問われる切所である。
 ここで重要になるのはトップの意志だ。良いことも悪いことも、ぶれずに同じ姿勢で発信を続けられるか。経営者の胆力が試される。
 りそなホールディングスの東和浩社長と三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は、逃げることなく、トップ自らが情報発信に前向きに挑み続けている印象が強い。当然の受賞といえよう。  
広報が映す企業の姿勢
小陳 勇一(こじん ゆういち) 朝日新聞東京本社 経済部長
写真:小陳勇一  昨年に続き2回目の選考委員を務めさせていただいたが、今年も学ぶことが多かった。多くの新聞記者にとって、企業広報とは報道対応のことである。具体的には、会見やインタビュー、個別取材を設定してもらい、記事を書く際に細かな疑問に答えてもらう窓口だ。もちろん、そうした日常の報道対応に限っても、それぞれの企業の社風や経営トップの個性が表れる。しかし企業広報とは、もっと幅広く、そこには、その企業の歴史から、現代を生きる姿勢までが反映していることを、あらためて認識した。
 大賞の三菱商事は、東日本大震災の復興支援を地道に続けている、企業としての姿勢が、まさに評価のポイントになった。震災から5年がたち、復興はどうしても風化しがちで、報道も減っていくだろう。それだけに、被災地を支え続ける企業の活動には我々も目を向けなければならない。そんな思いも強くした、今年の選考だった。
安定、一貫した広報姿勢の重要性
佐々木 かをり(ささき かをり) (株)イー・ウーマン 代表取締役社長
写真:佐々木かをり 広報とは、その企業の人柄が映し出される活動である。ガバナンス強化の中、求められる透明性を、いい時だけでなく、困難な時や、荒波を上下しながら進む時にも安定して継続発信することの重要性を、メディアも消費者も高く評価する時代となった。
 また、広報は人である。お金を出して作り上げる広告と違い、記者など周囲の人たちとどのような人間関係をつくり、どのように日々接しているのかが、その企業の評価に繋がる。斬新さや業績にとどまらず、人と人のコミュニケーションの重要性、信頼を築く重要性が高まる時となっていると思う。
 今年の審査会では、それぞれの候補企業・候補者の継続した姿勢、透明性を多様な視点から評価することとなった。大賞の三菱商事は、その一貫継続した広報活動に高い評価が集まった。
 日本の企業の透明、かつ分かりやすい広報活動が今後の日本経済発展に大いに役立つことを期待している。
ガバナンスと危機対応
髙橋 由里(たかはし ゆり) 東洋経済新報社 『週刊東洋経済』編集長
写真:髙橋 由里  今年は選考委員の関心が「ガバナンス」と「困難な時期でも一貫した情報発信をしているか」の2点に集約されていたように思う。三菱商事とりそなホールディングスの東さんは、まさにそこを評価されての受賞となった。
 また、昨年は戦後70年を意識した議論がされたが、今年はりそなの公的資金完済がひとつの時代の区切りとして捉えられた。キリンも上場来初の最終赤字という厳しい局面で、小誌を含めた各メディアにトップの露出を惜しまなかった。
 三越伊勢丹ホールディングスの大西さんは就任当初こそ「伊勢丹メンズ館の立役者」というイメージだったが、現在は消費全体を解説するポジションとなられた。ローソンの宮﨑さんは前職である日本エアシステム時代から存じ上げているが、一貫してフェアな広報マインドを感じる人だ。
逃げない姿勢を評価する
田中 博(たなか ひろし) ダイヤモンド社 『週刊ダイヤモンド』編集長
写真:田中 博 自分の中での今年の評価軸は、逃げない広報をしたかにある。世界経済が一気に不透明化し、経営環境が様変わりする中で、前向きな姿勢を期待するのは酷というもの。もう一つの評価軸は、継続性を貫いているかだ。
 三菱商事は減損処理をめぐるネガティブな情報もしっかりと開示。東日本大震災後に立ち上げた百億円の基金についても、被災地支援を実直、かつ継続的に実行してきた点は大いに評価したい。
 りそなの東氏は、自らが先頭に立って、銀行の“常識”という壁を打ち破るべく様々な施策を打ち出すとともに、対外的な情報発信にも務めた。公的資金完済までの長い年月を思うと、その取り組みがいかにブレなかったかがうかがえる。三越伊勢丹の大西氏も業界のリーダーとして真正面から発言される機会が多かったように感じる。
 キリンの藤原氏、ローソンの宮﨑氏は共に個性的な経営者のもとで長年、変わらぬ姿勢を貫いてきた。
 こうして今回の顔触れを見ると、いずれも賞に値する企業・人ばかりである。
広報が担う「革新」と「企業統治」
塚田 健太(つかだ けんた) 毎日新聞東京本社 経済部長
写真:塚田 健太  なかなか飛ばないアベノミクスの第三の矢、相次ぐ企業の不祥事――。今回の審査では、日本企業の直面する「革新力」と「企業統治」という課題に、広報がどう取り組んでいるのかに注目した。
 創立以来初の最終赤字転落という厳しい局面にもかかわらず、三菱商事は普段の迅速、透明な広報対応を変えなかった。東日本大震災後の支援活動を地道ながら戦略的に継続。取材ではなく一ボランティアとして加わる記者も増えている。
 大西さんは、お客を引きつける商品開発や売り場改革を進めつつ、初売りの日を繰り下げるなど働く人の環境改善にも力を尽くしている。百貨店の魅力は、店に入る時、店内を歩く時のわくわく感。働く人の明るい表情抜きではあり得ない。東さんは、公的資金の完済を果たすとともに、営業時間や休日の枠を超えたサービスの提供で、お客に選ばれる銀行づくりを指揮。お二人の進める働きやすい職場づくり、お客本位のサービス展開こそ、企業統治と革新力の原点ではないか。
 藤原さん、宮﨑さんは、社内外に培った人脈と取材力、存在感で企業広報の力を向上させてきた。トップの効果的な情報発信に欠かせない裏方だ。
広報力は誰のためか
吉田 ありさ(よしだ ありさ) 日本経済新聞東京本社 経済部長
写真:吉田 ありさ  初めて選考に携わり、資料を読みながら企業の広報力とは何か考えさせられた。トップの個性でメッセージを発信する企業もあれば、個人の顔は浮かばないがブランド力を印象付ける企業もある。いずれも報道を通して企業名が脳裏に刻み込まれる点で広告の機能も果たしており、単純に見事な広報と表彰するのはためらう面も正直あった。記者にとっては逆風下でもごまかさず、迅速に情報を開示する広報こそが重要だからだ。今回、大賞となった三菱商事は広報力と規律の両面で力を発揮していた。メディアや自治体と連携し、社会的責任を果たそうとする全社的な構えが、今の日本企業が直面する課題を反映していた。経営者賞の大西洋三越伊勢丹ホールディングス社長と東和浩りそなホールディングス社長の2人は、たとえ別の企業のトップだとしても受賞したのでは、と思わせる人間力があった。
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