経済広報

『経済広報』(2017年1月号)掲載
第32回企業広報賞 受賞者インタビュー

社会と共生し世のため人のための価値を生み出す企業に

垣内威彦

垣内 威彦(かきうち たけひこ)
三菱商事(株) 代表取締役社長

「三綱領」に沿った企業活動

「企業広報大賞」の受賞、まことにおめでとうございます。今回の受賞は、透明性の高い広報活動のほか、東日本大震災の復興支援活動をはじめとするCSR(企業の社会的責任)活動などが評価されました。「企業広報大賞」を受賞されてのご感想をお聞かせください。

垣内 多くの企業がある中でこのような賞に選んでいただき、ありがとうございます。表彰式では榊原会長から、「大変歴史ある、権威のある賞ですよ」とおっしゃっていただき、とてもうれしかったです。
 三菱商事は、草創期から「三綱領」を企業理念として掲げており、変わらない価値観の軸として、大切に受け継いでいます。
 今回の受賞の背景には、新入社員から役員に至るまでこの理念が浸透していることがあると考えており、このような点を評価いただいたことについて大変感謝しています。

「三綱領」とは、どのようなものなのでしょうか。
垣内 「三綱領」とは、所期奉公、処事光明、立業貿易の三つで、一つ目の“所期奉公”は、事業活動の究極の目的は社会への貢献にあるということで、ビジネスを展開する上での拠り所となっています。“処事光明”とは、全ての企業活動は透明性を堅持し説明責任を伴うということであり、何事であれフェアー・プレイに徹する公明正大な姿勢は経営の基本方針に繋がります。最後の“立業貿易”は、日本だけでなく世界で通用するグローバルな活動を展開していくことです。今日我々のビジネスは形を大きく変えていますが、社員一人ひとりが現場で感度を働かせ、知恵と資本を結びつけてグローバルに「事業を創造する」という本質は、「三綱領」が制定された当時も今もなんら変わることがない、わが社の強みだと思っています。
 新中経の「中期経営戦略2018」では、目指す会社像の一つとして「社会に役立つ事業価値の追求」を掲げ、経済価値、社会価値、環境価値の同時実現を目指す姿勢をあらためて示しました。三菱商事は創業以来、三綱領の精神を脈々と受け継いできたわけですが、その真価がまさに問われる時代だと思っています。
受賞理由のひとつに、「逃げない広報姿勢」があります。広報対応で大切にされていることはなんですか。

垣内 広報対応も「三綱領」の下、「正々堂々と」「逃げずに」行うべきものだと思っています。国内外のステークホルダーに向けた、透明性、公開性、公正性、迅速性のある広報活動を評価いただいたことは、大きな喜びです。
 企業が持続的発展を遂げるためには、社会が企業に求めるニーズを理解し、それに応えていくことが必要です。広報活動とは、企業が社会の一員として誠意ある情報やメッセージを発信し、社会から寄せられる様々な意見や要望に広く耳を傾け、双方向の良好なコミュニケーションを確立していくことだと考えています。

全世界のグループ企業に向けて

どのようなグループ広報を行っていますか。また、グループ企業の従業員には、どのようなメッセージを発信されていますか。
垣内 三菱商事グループの連結対象会社は合計で1253社にも上ります(2016年9月30日現在)。近年、連結経営が重視される中で、各社の活動は「三菱商事グループ」の活動として受け止められることが増えています。各社が対外広報対応の方針やプロセス、規定を共有するなど密接に連携することで、適切な広報活動を行えるよう体制を整備しています。
 また、グループ内では、経営の方向性についてしっかりとした共通認識を持つことが非常に重要です。「三綱領」の精神のさらなる浸透や、「中期経営戦略2018」の考え方を丁寧に説明し、グループ会社と双方向でしっかりとコミュニケーションを持つ機会を設けるようにしています。

公明正大な企業活動のために

受賞理由には「ガバナンス・報酬委員会の設置」が挙げられています。こうした取り組みについてご説明いただけますか。

垣内 コーポレートガバナンスの継続的な強化は、経営の健全性を確保するための基盤として大変重要です。三菱商事では、監査役制度のみならず、取締役会の諮問機関の設置や執行役員制度を導入するなど、実効性のあるコーポレートガバナンス体制の構築に努めてきました。
 「ガバナンス・報酬委員会」は、2001年に設置して以来、年2回程度開催しています。社外役員・社外委員が過半数を占める構成の下、コーポレートガバナンス関連の課題について継続的にレビューするとともに、役員報酬の決定方針や報酬水準の妥当性などについて審議し、その運用のモニタリングを行っています。見識ある社外役員・社外委員から様々なアドバイスをいただくことで、議論がとても活性化しています。
 今回、このような取り組みを評価していただいたことは、大変うれしい限りです。

被災地に産業を根付かせる復興支援活動

企業広報賞の授賞式のごあいさつでは、三菱商事復興支援財団による東日本大震災の被災地への継続的な活動について触れられました。復興支援活動の取り組みと、その考えについてお聞かせください。

垣内 三菱商事では、東日本大震災の発生以来、被災した地域の状況やニーズに合わせて様々な活動を展開してきました。震災発生の翌月(2011年4月)には、100億円の復興支援基金を設立し、会社を挙げて復興支援活動に取り組むことを決定しました。2012年には三菱商事復興支援財団を設立し、大学生に対する奨学金の給付やNPOなどへの助成、産業復興・雇用創出支援を行うほか、社員によるボランティア活動を継続するなど、単なる寄附ではなく、被災地の未来を担う若者や、継続的な復興・経済再生の基礎となる地域産業への、いわば「被災地の未来に対する投資」を実施することを心掛けてきました。
 社員ボランティアは、2011年4月に現地入りして以降現在でも実施しており、2016年11月末までに述べ4400人の社員が参加しました。これは、首都圏近郊の全社員が一度は参加した計算となります。地域の産業復興の面では、事業を再興したい、あるいは起業したいと思っている方々を対象にこれまで合計50件の投融資を通じた支援を行っております。私も、社長就任の翌営業日に、福島、宮城、岩手の3県を訪問しました。事業支援をしている会社にもお邪魔させていただき、あらためて三菱商事として復興支援を継続していこうと心に誓いました。事業が本当の意味で軌道に乗り、自立できることを心から願っています。
 2015年からは、三菱商事復興支援財団を通じて、福島の果樹農業の6次産業化を支援する「ふくしまワイナリープロジェクト」を推進しています。まだスタートしたばかりですが、今後地元の産業として根付いていくことを期待しています。

世の中に役立つ存在であり続ける

「三菱商事にとって、重要なのは人である」とのご発言をお聞きしたことがあります。従業員に向けてどのようなメッセージを発信されていますか。

垣内 私は、「世のため人のためになる事業」でなければ永続的な成長は望めないと考えています。企業は社会との共生が大切であり、「世のため人のため」になる価値を生み出す会社であり続けなければなりません。パイオニアとして先陣を切り、正々堂々と社会的責任を果たしていく姿勢は、わが社に脈々と根付く文化であり、三菱商事らしさだと思っています。社員には「どうしたら三菱商事らしい付加価値を提供できるのか、どうすれば社会や産業の役に立てるのか」という視点で仕事に取り組んでほしいと伝えています。
 また、近年世の中の変化のスピードが速まっていることから、企業経営において「変化への対応力」がますます求められる時代となっています。「当事者意識」を持ち、一人ひとりが情熱と愛情を持って自らの仕事に真剣に対峙した上で、常に「このままでいいのか」と問い続け、新しいチャレンジをしてもらいたいと考えています。

今後の抱負や取り組みについてお聞かせください。

垣内 三菱商事という会社のかたちは、元々生業としていたトレーディングから時代の変化に対応してきたことで事業投資に軸足を移し、今は投資先の企業と共に「事業経営」を行うステージにシフトしてきています。この変化を主導し事業の成長を牽引するのは、ほかならぬ「人」です。事業を経営するということは人を動かすということです。そのためには人間的な魅力やリーダーシップが必要で、それには若い頃から「For the team」の精神を育むことが非常に大切です。人の成長が会社を成長させ、各産業はもちろん社会全体の発展にも貢献する好循環を生み出す企業でありたいと願っています。

聞き手:経済広報センター 常務理事・国内広報部長 佐桑 徹
(文責:国内広報部主任研究員 西田大哉)
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