経済広報

『経済広報』(2017年2月号)掲載
第32回企業広報賞 受賞者インタビュー

説明責任を果たす広報活動が、りそなの伝統
~ぶれない姿が従業員のマインドを変える~

東 和浩

東 和浩(ひがし かずひろ)
(株)りそなホールディングス 取締役兼代表執行役社長

トップの仕事の半分は「説明」

「透明な経営」「開かれた広報活動」「誠意ある広報活動」を重視していると伺いました。

 この3つのキーワードは、りそなの伝統というべきものです。ご承知の通り、りそなグループとなった直後に公的資金が注入され、会長にJR東日本から来た細谷が就任しました。細谷は再生のプロセスをとにかく透明に説明しなければならないとの考えの下、当初は毎月、日銀記者クラブで、改革・再生プロセスの説明をブリーフィングという形で繰り返し行いました。そして、年2回の決算後には、多数のメディアに対して、現在の進捗状況を説明しており、私もその流れを受け継いでいます。
 私は社長の仕事の半分は「説明」だとよく話しています。メディアに対してだけではなく、株主、お客さま、従業員といった全てのステークホルダーに、りそなの経営方針や計画の進捗状況などをいつも説明するように心掛けています。常に説明していくことがりそなの伝統であり、社長の仕事のかなりの部分を占めるものであると思っています。

説明責任を果たすことがりそなの伝統ということですが、気を付けている点はありますか。
 難しい専門用語を、いかに分かりやすく説明できるかを考えて話しています。銀行は、銀行法や自己資本比率規制など様々な規制がある中でビジネスをしています。ストレートにお客さまに伝えても分かりづらいので、より分かりやすく伝えていく必要があります。専門用語を使って説明してもその分野に詳しい人にしか伝わらない、と役員や従業員にも話しています。

感謝の念を持って仕事に取り組む

公的資金完済後に、「りそなを支えてもらった全てのステークホルダーに感謝の気持ちを伝える広報」をされているとお話しされていましたが、もう少し詳しくご説明願えますか。

 公的資金を注入してまでりそなを残そう、という国民の意思があったからこそ、りそなは残ったということを従業員には伝えています。だからこそ、りそなはどうやって日本経済に貢献、寄与していくのかを従業員は常に考えなければなりませんし、どの程度実現できているのかを、全てのステークホルダーに伝えていくべきです。公的資金で生かされたという感謝の念を持って、金融サービス業に取り組んでいかなければなりません。

広報活動は経営そのもの

東社長の広報活動についてのお考えをお聞かせください。

 広報活動は経営そのものだと思っています。トップがメディアと接し、常に説明責任を果たしていくことは経営の仕事のひとつです。銀行業界は不良債権問題などで話題になりましたが、「皆さまに正確に伝える必要がある」と思うことがありました。りそなの公的資金注入後では、再生シナリオなど自分たちがやろうとしていることについて、なぜやるのかなど目的をきちんと説明していかなければと思い、実行してきました。りそなの取り組みを正確に理解していただくことがいかに重要で、経営トップとして広報に携わることの重要性をあらためて認識しました。
 また、りそなという名前、ブランドを浸透させていくことも重要です。りそなには、合併前の銀行の名前は使われていませんので、りそなという確固たるブランドイメージを定着させていくためにも広報活動は重要だと思っています。

ホールディングス制を採用していますが、グループ広報の取り組みについてお聞かせください。
 りそなホールディングスの傘下に3銀行(りそな銀行、埼玉りそな銀行、近畿大阪銀行)と関連会社が配置されています。決算対応なども重要であり、グループ広報をとても重視しています。体制としては、傘下の銀行や関連会社に広報部門を置くのではなく、ホールディングスにコーポレートコミュニケーション部を配置しています。グループ全体でどのような動きをしているのかをメディア、従業員、お客さま、株主に伝えていくことが重要だからです。一方で、地域への情報発信も大事なため、東京本社、大阪本社、埼玉りそな本社に広報担当者を派遣し、地域に密着した情報発信を心掛けています。
 また、役員の個室を廃止し、社長、副社長を含め、全て同じ部屋で仕事をしています。コーポレートコミュニケーション部はこの部屋に直結する場所に位置しているため、密に連携を取って広報活動を展開しています。何かしゃべっていると広報担当者に声が聞こえるくらいの距離感です。

グループの方向性を従業員に示す

グループ従業員に向けた発信はどのようにされていますか。

 グループ従業員に、目指す姿やビジョンを提示することはとても大事なことだと思っています。当社では「リテールNo.1」を目標に掲げ、従業員に向けて繰り返し発信を行ってきたため、従業員もその目標に向かって働いてくれていると思っています。今はマイナス金利など、環境が大きく変化している中で、トップとしてぶれない姿勢を従業員に示していくことが大事だと考えています。
 グループ報にも力を入れており、社長自らがビジョンなどを従業員に分かりやすく語り掛けるようなコーナーも設けています。これはコーポレートコミュニケーション部の発案なのですが、私がいろいろなポーズを取った写真が掲載されています。私に何か考えがあるからというわけではないのですが、コーポレートコミュニケーション部が従業員の目線で見て、何が必要なのかを考えてくれているので、要望にはなるべく応えるようにしています。

小さな取り組みから意識改革を行う

グループ従業員の意識改革を目的に、好事例を表彰する「りそなブランド表彰」を2006年から継続していると伺いました。東社長がお考えになるブランド戦略についてお聞かせください。

 2006年2月に「りそなブランド宣言」を発表し、2015年には公的資金完済を契機として、新「りそなブランド宣言」をリテールNo.1に向けたグループの新たな挑戦として策定しました。「りそなブランド表彰」は、グループ各社で取り組んでいる「りそなブランド宣言」を具現化する気付きや工夫点を共有するためにスタートしました。この取り組みは、りそなのブランドをいかに定着させていくか、特にお客さまの意見や考えを受け止めてグループ全体でどのようにサービスや商品を提供していくかがベースとなっています。良い取り組みを行う支店などを表彰することで、その取り組みをグループ従業員に知ってもらい、グループ全体で共有していこうという考え方です。例えば、銀行の支店の中にいると外で雨が降っているのか分からないことがあります。そこで、雨が降り出した際に、そのサインとしてカエルの人形を従業員の目につくところに置きます。そうすると、従業員がお客さまに「雨が降っていますのでお気を付けください」とお声掛けができるようになり、サービス向上に繋がるといった取り組みです。このような小さな気付きこそが重要だと伝えています。また、表彰されることで、従業員もとても喜んでくれます。従来の慣習にとらわれず、新しいことに取り組む企業風土を醸成していくためにも大事な取り組みです。

従業員と直接対話をされていると伺いました。
 従業員の声を聞くタウンミーティングを頻繁に開催しています。また、支店で従業員と話す機会も多くあります。そこでは、りそなの経営方針やビジョンを直接語り掛けることで理解してもらうことも重要ですが、現場の声を聞くことができるのがとても面白いのです。ある施策の実施状況について、本部での報告と現場で実際に聞いた状況がまるで違うといったケースがありました。また、表彰パーティの後に、若手を含めた従業員と懇談する機会もあります。
 他社の取り組みはよく分かりませんが、りそなでは、社長、副社長を含めた役員は従業員に対して、会社の取り組みやビジョンを一生懸命にアピールしなければならない立場にあると考えています。そして、従業員の話や意見を聞くことが重要な仕事だと考えて、従業員とのコミュニケーションを進めています。

金融教育が日本経済に大きな影響を与える

「りそなキッズマネーアカデミー」を開催するなど、金融教育に力を入れていらっしゃいます。金融教育についてどのようにお考えでしょうか。

 日本の金融教育について大きな問題意識を持っています。今の日本の小学生や中高生には、お金の重要性や将来の計画などを学ぶ機会がほとんどありません。そのことが日本経済に大きな影響を与えていると、私は思っています。お金は経済の血液であり、流れていかなければ経済は死んでしまいます。お金を銀行に預けたままにするのではなく、長期的な運用で資産形成をしていくことにも目を向けてほしいと思っています。そのためには、金融リテラシーを身に付けることが必要ですので、それらを学ぶ金融教育はとても重要です。
 「りそなキッズマネーアカデミー」では小学校低学年を対象に授業を行っています。卒業生も3万人近くになってきました。そろそろ、受講した学生が就職してお金を稼ぐようになってくるでしょう。そのほかにも、高校生を対象とした「エコノミクス甲子園」を毎年開催しています。こうした金融教育に関する取り組みは今後も継続していきます。

企業の文化を変えるために

東社長は「銀行の文化を変える」とお話しされています。また、「りそなイズムの承継と進化」を打ち出されています。どのように社内外の理解を深めてきましたか。
 「りそなイズム」とは、改革を継続していくことと定義しています。つまり、一度変えただけで終わりにするのではなく、社会の変化するニーズに対応し続けることです。例えば、現在、店舗は17時まで営業していますが、今後のお客さまのニーズによっては、19時や21時まで営業時間を拡大するかもしれないということです。流通業など他業種から銀行への参入が相次ぐ中で、お客さまにどのような付加価値を提供できるかが重要になってきています。今日起きていることが明日も起きているとは限らない変化の時代の中で、変わることに躊躇しない文化を創ることが「銀行の文化を変える」ということです。
 私が社長に就任したときに、土・日曜日も営業することに対して社内には反対意見が多くありました。しかし、お客さまが望むサービスを提供する重要性を繰り返し伝え続けることで社内の意識を変え、実行に移すことができました。企業の文化を変えるためには、トップが本気だということを従業員に理解させなければなりません。トップとしてぶれない姿を従業員に見せ、同じことを繰り返し伝え続けることに尽きると思います。
聞き手:経済広報センター 常務理事・国内広報部長 佐桑 徹
(文責:国内広報部主任研究員 西田 大哉)
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