経済広報

『経済広報』(2017年3月号)掲載
第32回企業広報賞 受賞者インタビュー

キリンの広報活動について

藤原哲也

藤原 哲也(ふじわら てつや)
キリン(株) 執行役員 CSV本部コーポレートコミュニケーション部長

キリングループの事業概要

 1907年にキリンビール(株)が設立され、2007年に純粋持株会社の体制に移行し、キリンホールディングスが誕生した。キリングループは、次の3つの領域を中心に事業を展開している。
(1)キリンビール(株)、キリンビバレッジ(株)、メルシャン(株)などを中核事業会社として、国内における酒類・清涼飲料の製造・販売をする日本綜合飲料事業
※なお、キリン(株)は中間持株会社で、日本綜合飲料事業を統括している
(2)オーストラリア、ブラジル、東南アジアを主な展開地域として、海外における酒類・清涼飲料の製造・販売をする海外綜合飲料事業
(3)協和発酵キリン(株)を中心とした、医薬などの製造・販売をする医薬・バイオケミカル事業

 キリンホールディングスが誕生した2007年ごろより、M&A(企業の合併・買収)による積極的な海外への事業展開を行い、今では海外の売上比率(酒税を除く)は約40%となっている。キリングループには、例えば、フィリピン国内でシェアが90%台の会社である「サンミゲルビール」や、オーストラリアとニュージーランドでビールのシェアがトップで、乳製品への事業展開も行っている「ライオン」などがある。そして、2015年には「ミャンマーブルワリー」の株式も取得した。同社はミャンマー国内の80%のシェアを誇る。市場全体を見ても非常に伸びており、有望な成長市場といえる。2016年からは同社で、「一番搾り」の製造も開始した。

コーポレートコミュニケーション部の体制

“ブランドを機軸とした経営”への新体制
 2012年までは、各社に広報部門を設置していたが、2013年1月にキリン(株)設立に伴い、各社の広報部門を統合した。ニーズ探索力強化のために「CSV本部」「ブランド戦略部」を、そして、各社にあったR&D機能を統合した「R&D本部」を設置し、お客様へ新たな価値を創造する体制を構築した。さらに、新たなカテゴリーやビジネスモデルをつくっていくため、「事業創造部」(設立時は「新市場創造室」)も設置している。
 2013年5月には、各社の本社機能を中野の本社にすべて集約した。各社にあった広報機能を統合することで、重複した役割や無駄を省き、人員は統合前の約1割を削減すると同時に、注力すべき機能には資源配分を柔軟に対応することができた。そして、マスコミなどからの問い合わせも、統合により窓口を一本化している。
コーポレートコミュニケーション部の組織
 私が所属する「コーポレートコミュニケーション部」は、CSV本部の中にある。コーポレートコミュニケーション部は60名が所属し、報道チーム(8名)、企画チーム(10名)、工場広報チーム(5名)、お客様相談室(37名)から成る。報道チームはマスコミとのやり取りが中心で、企画チームはニュースリリースの作成や会見準備など報道チームのサポートのほか、コミュニケーションストーリーの策定、グループ報の制作・発行などを担っている。そして、工場広報チームやお客様相談室を通じて、ステークホルダーとの双方向コミュニケーションを図り、商品・企業ブランドの価値向上に繋げている。
 なお、IR室はキリンホールディングスに設置しているが、座席は報道チームの隣に位置しているため、風通しがよく広報とIRが連携しやすくなっている。また、宣伝機能は広報部門にはなく、各事業会社のマーケティング部門が担っている。
コーポレートコミュニケーション部の役割
 コーポレートコミュニケーション部は、消費者、マスコミ、機関投資家、アナリストなど様々なステークホルダーの声を基に、課題を的確に把握し、経営トップや関係部署に提言していくことに注力している。各事業会社に取締役会はないが、事業会社ごとに、経営戦略会議(社長や本社の役員、部長が集まる決定機関)において、広報活動報告と次の四半期の広報活動方針の意見交換や合意を四半期に1度実施している。
 また、キリンホールディングスの取締役会では、機関投資家やアナリストの声を半期に1度伝え、今後のIR方針について意見交換をする場を設けている。そして、社外取締役や社外監査役を中心に様々なご意見を頂戴し、IR活動や提言内容が有効であったかどうかを、アンケートで評価していただくなどをして、PDCAを回している。
工場広報チームの役割
 工場広報チームは、品質の良さを支えている当社のモノづくりにかける姿勢やこだわりを、工場エリアでの情報発信と、工場見学などの直接体験の両輪によって、分かりやすく伝えていくことが役割だ。工場見学は、モノづくりにかける情熱やこだわりが詰まった、当社ならではの製造工程の「理」を、工場で実際の体験を通じて理解してもらい、(1)直接体験により、来場者をファン化する場、(2)来場者のクチコミにより、来場者の周囲にPR効果を生み出す場、と位置付けている。
 一般のお客様向けに、キリンビール(9工場)、キリンディスティラリー御殿場蒸溜所、キリンビバレッジ(2工場)、シャトーメルシャン、の合計13工場で見学を実施している。なお、キリンビールの9工場は、一番搾りブランドの強化に伴い、工場見学内容を刷新し、新・一番搾り製法の価値を紹介している。
お客様相談室の役割
 お客様相談室は、酒類チーム(18名)、清涼飲料チーム(13名)、VOC(Voice Of Customer)活用チーム(6名)の3つに分かれている。酒類チームは、2016年4月より、ビールチームとワインチームを統合し、酒類チームのメンバー全員が、キリンビールとメルシャンの両社に関する問い合わせに対応する体制へ変更した。
 同室は、(1)お客様のお問い合わせ・ご意見・提案への対応を行うお客様窓口としての機能と、(2)お客様の声の集計・分析や、社内への情報発信、お客様の声の活用、商品・サービスの改善提案、お客様本位理念の社内啓発・浸透などの情報発信機能を有し、お客様満足とブランド価値の向上を日々図っている。なお、お客様からのお申し出件数は、年間で約7万7000件(2015年実績)に上る。

キリンビール、キリンビバレッジの広報活動

キリンビール
 ビール市場は、若者のビール離れや酒税改正などの様々な要因から過渡期を迎えている。もっとビール市場を魅力化し、活性化していかなければ明るい未来はないとの危機感を抱いている。そこで、目指す姿を「お客様のことを一番考えている会社」としている。これは、お客様にとって、より身近なビール会社になり、ビールの味覚や楽しみ方の多様性を、ビール愛と遊び心を持って、もっとお客様に感じていただけるような提案を行っていきたいということだ。
 具体的には、「47都道府県の一番搾り」「クラフトビール」などのチャレンジングな取り組みを通じて、ビール市場の魅力化実現に乗り出している。47都道府県の一番搾りの商品コンセプトは、“地元の誇りをおいしさに変えて”をスローガンに、地域で暮らすお客様と共に地元の魅力を発掘し、47都道府県ごとに味の違いや個性を楽しめる特別な一番搾りを共創することだ。これは、CSV(Creating Shared Value*)の取り組みとしても位置付けている。開発に当たっては、地元の食・文化・情報に精通されている全国約400名のお客様に、共創ワークショップに参加いただき、そこで作成した商品コンセプトを基に、ビール工場の醸造長が商品開発をするというプロセスを踏んだ。
*CSV(共有価値の創造):マイケル・ポーターが提唱した、社会的価値と経済的価値の同時実現を目指すという概念
 また、商品を通じた復興応援活動として、47都道府県の一番搾りの売り上げを、1本1円として熊本地震の復興支援に充てている。2016年7月には熊本県で“熊本づくり”を発売したが、全国のお客様より、「熊本を応援したい」「“熊本づくり”をぜひ購入したい」との声が殺到し、10月に全国で発売することになった。この商品の売り上げは、1本10円として熊本地震の復興支援に充てている。
 2016年の6~8月に消費者調査を実施したところ、発売1カ月後の商品の認知率は、約60%という結果が出ている。これは、通常の新商品の倍に当たる数値だ。さらに、6人に1人が飲用経験有との調査結果も出ており、テレビCMなどと連動した広報活動が、お客様に対して非常に効果があったと感じている。また、20代に対して調査を進めると、2015年に比べ、20代での認知率・飲用率は2倍、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でのツイート数は6倍となっており、若年層からの支持がとても高いことが分かった。そして、20、30、40代のそれぞれに、キリンへの好意度を調査したところ、20代が最も高く、地域への愛着心や地元愛が若年層に強い傾向があることも実感した。
 こうした活動が奏功し、47都道府県の一番搾りの販売は、年初目標の120万箱から約2倍の260万箱へ上方修正するなど、一番搾りブランドの販売状況は、2016年年間で+0.9%と3年連続プラスを達成した。
キリンビバレッジ
 キリンビバレッジは、2016年の基本方針を「“ブランド力強化”と“収益構造改革”の両輪により、利益ある成長を実現する」とし、営業利益率を少なくとも3.0%以上に上げていくことを目標にしていた。具体的には、2016年に発売30周年を迎える、キリンビバレッジのNo.1ブランド「午後の紅茶」のほか、春は「生茶」、秋は「FIRE」と、ブランドを絞って投資をしていく形でブランド強化を図ってきた。さらに、営業戦略や自動販売機戦略、コスト削減による収益構造改革を進めることで、営業利益率は目標を上回る形で推移した。
 これらの方針を基に、実際に実施した広報活動は、2016年3月にリニューアルした「新・生茶」を例に取り上げる。従来、広告やSP(Sales Promotion)などは、マーケティング部門でコミュニケーションプランの骨子を作成して出来上がった後、発表の約1カ月前に広報部門に広報活動の相談があるという流れであった。しかし、今回は、2015年の11月ごろから広報部門およびデジタルマーケティング部も加わり、テレビ、イベント、ウェブ施策、マスコミイベントなどを連動させ、一緒になってコミュニケーションシナリオを作成した。そして、食とのマリアージュ、体験型試飲会など各種イベントを実施するとともに、テレビ、新聞だけでなくウェブ向けにアレンジしたリリースの作成を行うなど、ウェブの露出を強化した。

CSVの取り組み

 東日本大震災により、仙台工場も大きな被害を受けたことが、当社のCSV活動の契機になった。2013年の新体制移行に当たり、従来のCSRへの取り組みから、CSVの実践を経営の中心に据えている。当社は、事業活動そのものによって、社会課題の解決に貢献するCSVを目指している。
 コンプライアンステーマとして「公正な事業慣行」「人権・労働」、サステナビリティのテーマとして「環境」「食の安全・安心」、当社ならではのテーマとして「人や社会の繋がりの強化」「健康の増進」の6つのテーマを設け、「製品・サービス」「バリューチェーン」「地域社会」の3つのアプローチによってCSVを実践している。広報活動も、CSVが経営の中核を成す取り組みであることの理解獲得に向け、積極的に社長取材やイベント実施などにより、コンセプト・考え方の浸透に繋がる記事化を実施してきた。
 また、「復興応援キリン絆プロジェクト」として、2014年までに60億円を拠出し、「心と体の元気サポート」「子供の笑顔づくり支援」「地域食文化・食産業の復興支援」の3つの幹で活動を継続している。中でも、「地域食文化・食産業の復興支援」を主軸に、地域活性化の支援を引き続き進めている。これまでも、東北で収穫された素材で作った商品を販売し、全国のお客様に“東北の元気とおいしさ”をお届けしてきたが、今後も地域で暮らすお客様と一緒に、地域の魅力を発掘しながら作り出す、47都道府県の一番搾りをはじめ、地域の風土や文化に根差した商品の開発や楽しみ方の提案を行い、地域の皆様と一緒に笑顔になれる場を広げていきたい。

(文責:国内広報部主任研究員 古川典子)
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