経済広報

『経済広報』(2017年3月号)掲載
第32回企業広報賞 受賞者インタビュー

広報力アップを目指して悪戦苦闘

宮﨑 純

宮﨑 純(みやざき じゅん)
(株)ローソン 常務執行役員 コミュニケーション本部長兼CHO補佐

世の中・メディアを鬼にさせない十則

 当社では、加盟店や社員を合わせて約20万人が働いています。約5年前から、毎年1〜3割程度外国人社員を採用していて、広報部にも中国人社員が在籍しています。中国には、“広報”という言葉はなく“公共関係”といわれ、“公関”と略して呼ばれることが多いそうです。広報では、メディアをはじめ、様々なステークホルダーと広報活動を通じて関係をつくることが必要なため、私自身は、“公関”という言葉の方がしっくり感じます。
 当社の全国のコンビニエンスストアには、1日に1千万人、1カ月では3億人と非常に多くのお客様が店舗を訪れ、商品を購入してくださっています。そのため、お客様から多くのお問い合わせやご意見と、メディアの方々からの取材依頼も多くいただいています。日々、悪戦苦闘しながら攻めと守りの広報活動を行っています。
 本日は、今までの経験を基に作成した自社の研修用素材を紹介させていただきます。 まずは“リスク対応”の「世の中・メディアを鬼にさせない十則(鬼十則)」を紹介いたします。
鬼十則1:二河百道
 “二河”は、南の火の川と北の水の川のことで、火の川は怒りを、水の川はむさぼる心を象徴します。“二河百道(にがびゃくどう)”とは、その間に天国への一筋の白い道が通っている様を例えた仏教用語のことです。
 何かリスクが出たとき、当事者は「大したことではない」「大丈夫」と事を大きくしたがりません。また、社内の各部署はそれぞれの立場で意見を述べ、トップも利益低下を不安視し、できる限り穏便に済まそうとします。よく、社内説得が9割といわれますが、そのようないろいろな立場や反対がある中でも、信念を持って、説得や調整を繰り返して良い方向(百道)に向かわせるのが広報の役割です。
鬼十則2:天守閣理論
 天守閣では、敵が迫ってきているなど、遠くで起こっていることがよく見えます。広報担当者は、マスコミや世論の動きを予測して一歩先を見る力を養い、こちらが目指す結果に導くように段取りを決めることが求められます。
鬼十則3:マグマ退治
 リスク対応には、「謝罪」「調査」「対策」「処分」の4つが重要です。これらを実施し公表することで、世の中の不満や批判“マグマ”を抑えるようにします。以前に(株)リスク・ヘッジ代表の田中辰巳さんに教わった“社(謝)長(調)大(対)変でしょ(処)!”の覚え方は大変役に立っています。
鬼十則4:攻撃は最大の防御なり
 事の重要性や社会の流れによって、店頭告知・HP掲載・記者会見の実施を判断します。早め早めにすることが重要です。世の中からの“遅い”か“早い”かの印象で、マグマの大きさは異なります。
鬼十則5:“確率論”ではなく“万が一”
 当社では、消費期限やアレルゲン表示ミスの公表の場合、この程度では健康被害はないのではないかという声が出ます。
 万が一にでも発生した場合、会社が傾いたり、経営責任を問われる他社事例は数多くあります。
鬼十則6:会見は人生をさらけ出す
 会見では、すべてを把握した上で臨む必要があります。正確な詳細情報を伝えることが大切で、質疑応答で記者からすぐに手が挙がらないときは、質問が不要になるほど説明ができたといえるでしょう。また「会見では人生が出る」とアドバイスを受けたことがあります。術に頼ることなく、会見者の胆力や誠実さが問われます。
鬼十則7:常識力に勝るものはなし
 世論に対応するので、“常識力”が大切です。それを磨くには他社の失敗例を、うちとは関係ないものと考えるのではなく、“他山の石”として捉えるのがよいでしょう。
鬼十則8:劇場型のテレビには気を付ける
 テレビでは、“画”を必要とするので予期しなかったような編集をされることもしばしばあります。特に記者会見のときは、どのカットがどのようにテレビで使われるのかを十分に意識し、一挙手一投足に気を付けなければなりません。
鬼十則9:結果はすぐに出る
 リリースや会見を行った後、昨今では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の書き込みで世論の反応がすぐに分かります。それらを確認することで、次の一手や今後の対策を立てていきます。
鬼十則10:リスクと人事は突然やってくる
 リスクと人事は、曜日・時間に関係なく、ある日突然やってくるといわれます。マニュアルの作成など、事前準備や体制はもちろん整えておく必要がありますが、突然発生したときにはマニュアルを確認する時間がないため、運用できるように日ごろから準備しておくことが大切です。

トップ広報

 次は“攻め”の広報です。私はトップ3名に仕えてきました。トップ広報を行う上で、どのようなことに気を付けて戦略を立てているのか、次の3つのポイントを紹介させていただきます。
1.題材とタイミング
 特に、就任後の数カ月は、どの社もトップインタビューなどを積極的に実施していると思います。ハネムーン期間だけでなく、その後の継続も大切です。
 「トップはコメント力が重要だ」と記者からも言われます。社会的なテーマのコメントを求められることも多いのですが、その内容とタイミングも大切といえます。トップの“人となり”も会社の知名度やブランドを高めていく上で必要です。会社と経営者の立ち位置、これには会社業績やトップの在籍期間、社外活動などが影響してきます。これらを踏まえた上でトップに情報やコメント案を出していきます。
2.共感
 トップの発信には、その内容に大義と共感が必要と考えています。
 経営で、SWOT分析を使うことがあると思いますが、トップにも活用できます。例えば“弱み”を“強み”に変えるのもひとつの方法です。“強引”を“判断力”へ、“転職の多さ”を“経験”へなどを試みました。
3.効果のあるメディアの選択
 やはり、テレビ番組での特集効果は最も大きいです。そのほか、新聞や雑誌、ウェブでの特集記事も重要です。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」、テレビ東京の「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」、TBSの「がっちりマンデー!!」ではトップを特集いただきました。それらの番組を通じてトップの人となりや経営の考え方を社内外に伝えることができました。
 最近では今年1月6日と8日に放送した、NHK BSプレミアムの「覆面リサーチ ボス潜入」では、当社社長が正体を隠して現場に潜入し、社員と共に一緒に働き、会社の在り方や課題を一緒に探り解決していく番組でした。メディアを通して、会社の経営方針や社長の人格、現場への思いなどを、加盟店のオーナーやスタッフ、社員に伝えることで、さらに社員を奮起させる効果がありました。

SNS対応

 先日、東京大学の教授から、マスコミ論に関する面白い話を伺いました。調査によると、日本と米国ではメディアに対する国民の信頼度が異なり、日本では約7割あるが、米国では約2割しかないそうです。そのため、トランプ大統領は、メディアを攻撃したとしても、世論の賛成は得られるとの見解でした。また、日本も、SNSの影響が増してきています。個人がメディア化しているため、SNSへの対応には力を入れています。当社に関するツイッターでのつぶやきは、1日で1万件を超えます。SNSの投稿に関して、対応が必要な内容については広報部が担当しています。
 また、今話題となっているフェイクニュース対応にも頭を悩ませています。パロディ・誤報・捏造を判別して対応方法を分けています。

メディアへの露出を高めるために

 最近では、「冬のスープ説明会」「レジロボの披露」「でか焼鳥発売」などのイベントや記者会見を実施し、多くのテレビや新聞で取り上げてもらいました。様々な成功や失敗を経験した中で、メディアに取り上げてもらうためには、手前味噌的な内容ではだめで、次の3つの視点がすべて入っている必要があると考えています。
 ・ 独創性
 ・ 季節性
 ・ 時事性(社会性)
 そして、これに加え、“前さばき”が非常に重要です。マスコミ側は何を望んでいるのか、どのような“画”を撮りたいのかなどを事前に確認しておくことも必要となっています。

最後に

 当社は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」に小売業から2年連続で選ばれました。日本は今後、少子高齢化で生産年齢人口が減少し、給付減・負担増の世の中になります。働き方改革、健康経営、第4次産業革命などに対応しながら、利益を上げていかなければなりません。常日ごろから広報部員には、将来を見る「鳥の目」、細部を見る「虫の目」、流れを見る「魚の目」を持つようにお願いしています。そして、社会と会社に片方ずつ足を入れて、世の中からの期待と会社の取り組みをマッチングさせる、まさに広報は“公関”の業務といえると考えています。

(文責:国内広報部主任研究員 古川典子)
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