危機管理

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1.危機管理の重要性

全ての企業がリスクを抱えている

 企業は社会の中で事業活動を行っているため、たとえ万全のリスク管理を実行しているとしても不測の事態に遭遇する危険を常にはらんでいる。企業にとってのリスクは、時代の変遷や情報化の進展、企業のグローバル化に伴って多様化しており、今まで経験したことのない想定外の「何か」がいきなり襲ってくることが考えられる。特に近年においてはソーシャルメディアの急速な普及などにより、その対応には今まで以上にスピードが要求されるようになってきている。我々は未然に防ぐことに全力を注ぐべきであるが、不幸にして発生してしまった場合、その緊急時の対応如何で、企業の存亡が左右されることになりかねない。

まずは未然に防ぐ

 リスクを未然に防ぐためには、トップから現場までリスク認識が共有されていることが最も重要である。特に経営陣は危機への意識を高く持ち、社内での啓蒙活動を率先して行うことが望ましい。
 リスクを未然に防止するために、まずは危機管理委員会など、平常時のリスク管理を行う組織を整備する。社内横断的組織であることが必要で、メンバーには広報部も入る。
 危機管理委員会を立ち上げたら、(1)潜在・予測されるリスクの洗い出し(2)重要度や発生予想頻度などの整理・分析(3)自社の危機の定義、用語の統一(4)リスク表の作成を行う。 なかでも、(1)の潜在・予測されるリスクの洗い出しにおいては、外部に情報源をおく「社会リスク」と企業固有の「経営リスク」の収集がポイントとなる。「社会リスク」には、①国会の動き ②官公庁発表の情報 ③情報サービス会社・機関の有償情報 ④既存メディアからの情報 ⑤ソーシャルメディア上での自社関連情報の収集などがあげられる。また、「経営リスク」には、①お客様相談窓口へのクレーム件数・内容 ②企業倫理委員会などの窓口への相談件数・内容 ③ソーシャルメディアでの風評などがあげられる。
 個々の想定リスクへの未然防止策を策定したら、さらに防止のための社内体制や手順、役割分担などを明確にしておき、これらをまとめてリスク管理マニュアルを作成する。特に、ソーシャルメディア上においてリスクが発生した際には、情報伝達のスピードが速いため、従来より迅速な対応が求められる。早期にトップまで連絡する経路や報告基準を策定するとともに、発生した事態ごとに、どのような対応を取るのかをリスク管理マニュアルに定めることが重要となる。また、ソーシャルメディア・ガイドラインを策定し普及を図ることは、企業として矛盾のない対応を可能とするとともに、社員の発言を起因とした企業批判を未然に防ぐ重要なリスク管理につながる。これまでも、社員による内部告発や反社会的行為、会見時の発言などはニュースに取り上げられることが多かったが、ソーシャルメディア上で炎上しやすい例として、①反社会的な表現や行為 ②主義主張の対立 ③やらせ広告記事・捏造・サクラ行為 ④情報の隠蔽など不適切な対応 ⑤消費者による企業へのクレームのオープン化 ⑥内部情報漏洩 などがあげられる。なお、過去に不祥事が発生していれば、その原因や対応などを記録として残しておくことも大切である。そして、定期的にミーティングを行い、意見交換・マニュアルの見直しなどを図ることが必要だ。

 緊急時における対策としては、(1)緊急連絡網(含む経営幹部)の作成(2)緊急時対応マニュアル(各部の役割、承認ルート、情報公開・発表方法の手順やルール、確認事項のチェックリストなど)の作成(3)事業継続計画書などの作成を行い、これらも定期的に見直すことが重要だ。
 また、経営幹部のメディア・トレーニングの実施や、危機管理委員会、広報部内において緊急時対応マニュアルや組織が実際に機能するかどうかの検証やシミュレーション・トレーニングなどを行うことが望ましい。規制や法令の知識も備えておくべきであるが、法律に違反しなければよいわけではない。「自社の常識」と「社会の常識」との乖離はないか、常に心に留めておく必要がある。

広報部門の危機管理体制・対応

 経済広報センターが2014年に実施した『第12回企業の広報活動に関する意識実態調査』(2015年2月発行)によると「広報部門の危機管理体制・対応」は、【図表 1】のようになっている。
 広報部門において、「特に何もしていない」と回答した企業はわずか3.0%であり、多くの企業の広報部門が危機管理について何らかの取り組みを行っていることになる。特に「広報部門スタッフが危機管理に関する勉強会などに参加している」、「トップ・役員への緊急時のメディアトレーニングを実施している」、「トップ・役員が危機管理に関する勉強会などに参加している」という回答は、前回調査(2011年実施)に比べ5ポイント以上増加している。東日本大震災を契機に、震災など災害対応を含めた危機管理体制の強化傾向が続いているといえる。
【図表 1】広報部門の危機管理体制・対応(複数回答)
広報部門の危機管理体制・対応
出典:経済広報センター『第12回企業の広報活動に関する意識実態調査報告書』2015年
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2.危機対応

緊急事態に直面したら

 緊急時の対応で、企業の真価が問われる。事実を隠蔽すると、さらに信頼を失うことにつながるので、事実を受け止め、責任ある対策をとらなければならない。社会に納得される対応ができれば、ダメージを最小限に留めるだけでなく、早期に信頼回復が可能となる。
 緊急時の対応は、ダメージ・コントロールにあるといえる。

初期対応

 危機が発生したら、すぐに(1)トップへ連絡(2)緊急対策本部の設置(3)情報収集(現場にも足を運ぶ)を実行する。トップへの連絡は、事件の詳細が明確にならなくても「発生したこと」をすぐに報告する。緊急対策本部は、平常時の危機管理委員会のメンバーなどに加え、可能であれば、弁護士や第三者である有識者などもメンバーに加えるとよい。また、危機対応時は、各自の役割を明確にし、それぞれが担当した業務を迅速かつ効率的に行うことが重要となる。
 情報収集は、以下のポイントに沿い徹底して行い、得た情報は関係者全員で共有する。
  • (1)現状把握(いつ、どこで、何が起きたのか、経緯、被害の範囲など)
  • (2)原因
  • (3)責任の所在
  • (4)喫緊の安全策・対応策(追加リスクの有無)
  • (5)企業の方針(謝罪の仕方も含め、企業としてどうコメントするか)
  • (6)今後の方針・再発防止策

 これらの情報は一括して「情報ファイル」にまとめる。何日何時にどこからの情報かを時系列に記入し、もれなく整理していく。発信者は必ず情報のダブルチェックを行ってから渡すこと。受け手が都度、真否を確認している時間はない。「確認済み」「未確認」かも分ける。関係者が同時に見ることができるよう、ホワイトボードなどに書いたり、貼りだすなど、常に最新の情報を知ることができる状態にしておくことが大事である。
 そして、これらの情報をまとめた「ポジションペーパー」を作成し、対応方針を決めていく。その際、リーガルチェックを忘れずに行うことも重要であるが、生活者の声や世論がどう反応するかを意識し、道義的観点、社会的視点からの対応を取ることが必要だ。この感覚は、常日頃から鍛えておくことが大切である。
 なお、ソーシャルメディア上で炎上が発生した場合には、どこまで実害があるかが問題となる。過度に炎上を怖がるのではなく、事実関係をきちんと確認・検証した上で、会社としてどのように対応すべきか、静観することを含めて検討する必要がある。

公式発表

 公式見解を作成する際、大事なことは、(1)企業の方針・姿勢を明確にする、(2)対応窓口を一本化する、(3)公表方法を決める、ことである。
 プレスリリースは、先の情報収集のポイントを網羅する。特に「現状説明」「原因」「喫緊の安全策・対応策」は盛り込みたい。謝罪すべきことは誠意をもって謝罪し、どこに責任があるかも明確にすること。そして自社の方針・姿勢、社会に伝えたいこと(基本メッセージ)は必ず入れる。「再発防止策」も目処が立っていれば入れたい。
 続いて、Q&Aを作成する。多く挙がる質問は (1)現状(何が、いつ、どこで、どうして、誰が起こして、誰に被害が、等)、(2)被害の程度、拡大の恐れ、(3)解決へ向けて何を実行しているか、(4)責任の所在、(5)被害者への補償、(6)今後の再発防止、などである。
 しかし、その段階では、未確認なこともあれば、会社として発表できないこともある。質問を受けて迷うような場合は、基本メッセージに何度でも立ち戻り、そのメッセージを繰り返すことで乗り切りたい。
 記者会見では、できるだけ上位者に発表してもらう。発表者が決定した段階で時間が許せば、公式見解の発表とQ&Aに基づいたリハーサルを実施したい。
 これらの準備を経て、記者会見の日時・場所などを手配する。通常案件の発表については、本HP内「メディア・リレーションズ 2.マスコミへの効果的な発表」に記してあるが、緊急時会見では、特に以下のことに注意を払いたい。
  • (1)通常時以上に、服装や時計など身なりに気を配り、被害者へ配慮した態度・姿勢を保つ。
  • (2)カメラマンに横や後ろから撮影されないように会場の配置を行う。
  • (3)机にクロスをかけるなどして発表者の足元を隠す。
  • (4)全員立ったまま、最初にリリース文を発表者が読み上げる。
    その後、全員で深くお辞儀をする。
  • (5)記者からの質問は挙手、指名式にする。指名後には社名・名前を名乗ってもらう。
    多数の記者がいる場合、有意義な質問をしてもらうためにも、「一人2問まで」など制限してもいい。
  • (6)質問がなくなるまで、会見を終了しない。
  • (7)会見は一度で終わらせたいが、原因究明がされていないなど一度で終わらない場合、次回の会見予定を伝えておく。
  • (8)公平に記者に接する。

 緊急会見では、準備の時間も少なく、記者の質問も厳しい。加えて、事件を起こしたことへの責任、謝罪など大変辛いものである。しかし、常に「真実を伝える」「隠さない」「いい加減なことはいわない」と意識しながら、基本メッセージに基づいて発言しよう。
 緊急時の場合、記者会見ばかりに目がいってしまうが、自社の公式ホームページにタイムリーに発表することを忘れてはならない。
 ソーシャルメディア上に炎上が発生し、企業としてアクションを起こすべきと判断した場合にも、発信者と直接のやり取りするのではなく、同様に自社の公式ホームページにタイムリーに正式なコメントを発表し、そこに誘導する。炎上しても日頃付き合いのあるファン層が自ずと火消しに回ってくれることもあり、日頃からネット上でのコミュニケーションに努め、ネット世代にファン層をつくっていくことが、上手に火消しをしてもらうポイントとなる。事態の収束までには粘り強い対応をすることが肝要である。

 その後も、社会へ伝えたいこと、事件の経過や新しく判明したことなど、適宜、発表していくことが重要である。タイムリーに誠意ある発表をしている企業と、事件後、日数が経ってから素っ気ないリリースを載せている企業では、明らかに生活者が受け取る印象はかわってくる。ホームページにはリリースの履歴が残り、数年経てから「○○事件の●●企業の対応」が分かってしまうことも念頭に置く必要がある。
 もう一つ忘れてはならないのが、記者会見をする前に、社員への通知を必ず行うこと。社員がテレビや新聞で初めて自社の事件を知るのではなく「何が起きて、誰がいつ、どのような方針で話すのか」は事前に通知する必要がある。また発表後も、その概要について報告する。
 いうまでもなく、被害に遭われた方には、会見前に報告を行う。
 また、必要であれば関係官庁に事前に報告すること。
 場合によっては、主要紙やテレビに「お詫び」や「回収のお願い」などの広告を速やかに行う必要がある。

協力者であるメディア

 メディアから厳しい追求があっても、決して敵だと思ってはならない。彼らの協力がなくては、同時に多くの人に伝えることはできない。緊急に伝えなければ被害が拡大する恐れがある事案はもちろんだが、自社の立場や考えをきちんと理解してもらうためにも、メディアの力を借りる必要がある。メディアを恐れず、真実を伝えていく姿勢で、誠意ある対応を続けていくことが重要だ。
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3.不祥事後の信頼回復

継続した誠意ある対応

 不測の事態が発生した際に的確な対応を取ることの重要性がますます高まっている。経済広報センターが実施した『第18回生活者の”企業観”に関する調査報告書』(2015年2月発表)によると、企業の果たす役割・責任について非常に重要度なものとして「不測の事態が発生した際に的確な対応を取る」が上位に挙げられた。また、企業が信頼を勝ち取るために重要なものとしても「不測の事態が発生した際に的確な対応を取る」が上位に挙げられている。

 事件は沈静化したら、終了するものではない。企業の起こした不祥事や事件・事故の内容は、随分と後まで人々の記憶に、社名・事件名とともに記憶されることが多い。そこで企業イメージを回復させる、あるいは以前より向上させるだけのインパクトのあるコミュニケーション活動が必要になってくる。事故後、どのように反省し、どのような再発防止策をとっているか、どのような配慮をし続けているかなど、企業の行動や姿勢を、継続的に発信し、社会に伝えていくことが大事である。
 信頼を失うのは一瞬であるが、信頼回復には長い時間がかかる。企業は、それを常に意識し、日々、社会の声を聞き、責任ある行動を続けていかなければならない。そして、それは、社員全員の日々の努力によって得られるものである。その意識を浸透させ、そのような企業文化を醸成させるためにも、広報部門が果たす役割は大きい。

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