経済広報

『経済広報』(2012年5月号)掲載

企業広報研究
資生堂らしさをいかに伝えるか
斉藤 幸博

斉藤 幸博(さいとう ゆきひろ)
(株)資生堂 広報部長

 経済広報センターは、3月5日、会員企業・団体の広報担当者を対象に「第6回企業広報講座」を開催した。資生堂の斉藤幸博広報部長が、資生堂の広報活動について講演した。

資生堂とは

 資生堂グループの企業使命「Our Mission」は、「私たちは、多くの人々との出会いを通じて、新しく深みのある価値を発見し、美しい生活文化を創造します」である。その下には「Our Values」として、“多様性、挑戦、革新”をキーワードに、何を重視しているかを、さらに「Our Way」として、ステークホルダーの方々とどう向き合うのかを示し、この3つを統合して、「企業理念」としている。
 1872(明治5)年に「資生堂薬局」として創業してから今年で140周年を迎える。創業後、1897(明治30)年に、メインとなる化粧品業界に進出した。
 ブランド体系では、国内化粧品事業(化粧品、トイレタリー、食品含む)が53%を占める。45%は、海外向け化粧品や、国内外のサロン向けのプロフェッショナル事業を含むグローバル事業、残りの2%が、資生堂パーラーなどのレストラン事業、フロンティアサイエンス事業である。現在、88の国と地域で展開している。
 将来目指す姿として、「日本をオリジンとしアジアを代表するグローバルプレイヤー」を掲げている。これは、言い換えれば「日本の美・伝統・おもてなし」という精神を土台とし、アジア、東洋において光り輝く会社、ブランドに成長し、アジアで圧倒的な存在感を示す会社となり、世界の中で競える、戦える、認められるブランドを目指す、ということである。

資生堂 広報部

(1)広報部の3つの機能
 広報部は、1971年に独立した組織となった。体制として、当社の広報部は、機能ごとに3つに分かれている。
(1)企画グループ……年度計画や広報戦略などの立案、実行に結び付けていく活動。
(2)推進グループ……マスコミへの情報発信活動。記者とのコミュニケーション活動。
(3)課題対応グループ……リスク発生時の対応。


 広報部は、各事業部の広報担当、関係会社の広報担当と連携を取りながらマスコミ対応を行っている。
 次に、広報部の位置付けについてお話したい。英語では、広報をPublic Relationsというが、その中には、“Government Relations”、“Social Relations”、“Employee Relations”、“IR(Investor Relations)”、数多くのコミュニケーションが含まれている。多くの日本企業の広報部署は、マスコミ対応が業務の中心となっている。
 資生堂のマスコミを通じた広報は、以下の3つの手法に分けられる。
(1)企業広告や販促広告、コマーシャルを制作し情報発信する「宣伝・広告」。
(2)各事業部内で行う広報で、女性雑誌に向けた広報活動などを行う「販促広報」。
(3)メディアリレーションに特化し、マスメディア対応を中心に行う「企業広報」。


(2)「資生堂らしさ」をいかに伝えるか

 広報部の使命・役割として、「資生堂への信頼感・評判の向上による企業価値の向上」「公平で整合性のある情報発信と経営・事業へのフィードバック」をミッションとして掲げている。
 また当然のことではあるが、「社会との良好なコミュニケーションを保つ」「世界中の社員の結束力の源となる社内報を発行する」といった役割も担っている。これは、広報部のみではなく、IRなどのコミュニケーション部門共通の使命・役割であると考える。
 資生堂は、今年140周年を迎える。時代の変化に耐え変革してきた、長い歴史の間に培われたブランドであるといえる。このブランド価値を毀損することが最大のリスクだ。こういった観点からも、「会社を磨く」=「ブランドを守り、さらに光らせる」ことが、広報活動の究極の使命である。
 資生堂の広報は、「資生堂らしさ」をいかに伝えるかを重視している。数値として表れる経営・事業活動だけではなく、資生堂の持つ「美意識や志」という目に見えない価値を伝えることが重要であると考える。
 「資生堂らしさ」を伝えるには、
(1)トップ広報……トップの顔が見える企業でなければならない
(2)企業文化広報……140年という誇れる歴史・企業文化を前面に出す
(3)CSR広報……企業の社会的責任
といった広報素材が重要なポイントだと考えている。
 手法としては、「自らの手で創り上げる広報」を心掛けている。


(3)情報発信の方法とフィードバック

 社外への情報発信の方法は、他の企業で実施されている内容と基本的には同じだと思うが、最も重要なことは、「トップ(=社長)の広報に対する理解」である。
 トップは、企業で一番の広報パーソンでなければならない。一番の広報パーソンには、社会の声に直接的に接してもらうことが重要と考える。社会の声を直(じか)に聞いてもらうことが時代の変化、企業の課題を見るのに最も良い方法だ。業績が良ければ積極的に前に出てもらえる。しかし、業績や景気の悪い時期には出ることに対してネガティブになりがちである。本当は、悪い時期ほど前に出ることが必要であり、いかに出てもらうかが、広報としての重要な役割のひとつである。
 トップを「はだかの王様」にしないことが重要であり、そのためには、普段から多くのマスコミ・投資家など外部の方々と引き合わせておくことも大切である。また、社内へのフィードバックも重要である。
 広報部は半期ごとの活動計画の報告を行っている。経営計画や事業計画といかに連動させて中期的、戦略的な広報計画を策定するか、さらに、その内容をトップと共有しておくことが重要だ。また、社会動向、経営に影響のある事項や記者の声、マスコミからの評価などを、トップや役員にフィードバックすることも重要である。自社に対するネガティブな声には耳をふさぎたくなるものだが、それをいかにインプットしておくかが大切である。


(4)広報部の3カ年計画

 広報部には3カ年計画があり、基本方針として「経営に資する広報活動の実現」を掲げ、4つの重点実施項目と5つの重点テーマを持って進めており、フィードバック機能の強化などに取り組んでいる。
 「戦略的な広報」「攻めの広報活動」とよくいわれるが、「攻めの広報活動」とは、一体どういうことだろうか。当社では、次のように捉えている。
(1)ニュースの発掘
 社内からニュースのタネを探し出す。そのために、社内のあらゆる部署に情報網を張り巡らせておく。
(2)ニュースへの加工
 社内で発掘した情報は、そのままではマスコミには取り上げてもらえない場合もあるので、ニュース性のある情報に加工する。つまり、社会、マスコミの視点で捉え、ニュースとなる内容に“翻訳”する。広報的な情報開発力が必要である。
(3)戦略的な広報
 中期的な経営計画、事業計画と広報活動をリンクさせ、一貫した発信テーマを定める。そのテーマで、線で繋がる広報活動計画を策定し、発信する広報部、トップ、役員の間に一貫性を持たせる。
(4)リスク対応も守りから攻めへ
 リスク発生時の広報対応も重要ではあるが、それ以前に、最大・最高のリスク対応は、「リスクを発生させないようにすること」である。そのためにも“フィードバック”が重要だ。広報は、会社の口であるだけではなく、目・耳・鼻となり、社会や時代の動き、変化をいち早く察知し、素早く経営にフィードバックすることを重視する。

 経営に資する広報の実現とは、「経営課題の見える化」である。社会の動き、資生堂への評価をフィードバックし、経営課題を社内で見える化することが、コミュニケーション部門の役割ではないかと考える。
 どんな企業でも社内には、幾つものリスクのタネがある。広報は、そのリスクのタネを発芽させない、または、そのリスクのタネを取り除くことが重要である。


(5)人材育成

 人材育成も重要である。予備知識よりも現場で慣れることだ。多くの経験の中で、冷や汗をかくようなことがあれば、その失敗は二度としない。経験によって知識が身に付くものである。
 先輩と自分のやり方が違うということは、実際に記者と話してみなければ分からない。早く自分流がどういうものなのかを知り、“自分流”をつくることが大切。
 人から学ぶことも必要である。学ぶ相手の人選は、上司、先輩の役目である。

広報活動の事例紹介

(1)トップ交代の広報
 当社は、2011年4月に現社長が就任したが、その発表は1月12日に行った。
 トップ交代の広報で、まず注意しなければならないことは、社内外への情報流出である。企業によってやり方は様々だろうが、当社では、フェアディスクロージャーを徹底する方針である。そのためには、必要最小限の人数での体制を組み、広報部内でも情報が流れないように徹底した。また、短期間で準備を行った。
 当日は、13時に社内での発表を実施したため、記者への対応には特に気を配った。
 発表後は、新しい社長を年間を通してどのようにマスコミに露出していくか、どのようにアピールしていくかに注力した。発表直後は、“抱負・信条・人柄”を中心に、正式に社長就任後は、“ビジョン・方針・経営戦略全般”を中心に発信した。今年は、140周年を迎えることからも、“弛まぬ変革の軌跡と新たな革新”を強調し、「トップの顔の見える企業・強いリーダーシップ」をアピールしている。


(2)震災・被災地支援に関する広報活動

 東日本大震災発生直後から、どのように情報発信するかが、大変大きなテーマだった。ここでの基本は、被災者・被災地への配慮を最優先した広報でなければならない、ということである。現地の方々には、当社の取り組みを知ってもらいたいが、ハデな広報活動は売名行為と捉えられる可能性もある。そのような中で、いかに見せ、いかに行動するかが重要であった。
 そういう状況下、当社では、被災地の方々への情報の伝え方を考慮し、被災3県の地方紙への働き掛けを積極的に進めた。地元のメディアの方々も被災されているので、資生堂の考え方を理解してもらった上で地元に発信していただいた。
 同じ被災者の立場で、地元のメディアから地元の方々に伝えていただいたわけだ。

(文責:前 国内広報部主任研究員 松井奉子)
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