経済広報

『経済広報』(2012年7月号)掲載

企業広報研究
話題の企業の広報
「タニタの社員食堂」と広報
猪野 正浩

猪野 正浩(いの まさひろ)
(株)タニタ 広報室長

社員食堂がキラーコンテンツに

なぜ、「タニタの社員食堂」が注目されるようになったのか。
 猪野 2009年、NHKのテレビ番組「サラリーマンNEO」の「世界の社食から」というコーナーで取り上げられたのがきっかけだ。放送の評判が非常に良く、大和書房から、そのレシピをまとめた料理本を企画したいと連絡がきた。そこで、広報室が窓口になって対応した。大和書房にとってもレシピ本の企画は初めてだったそうで、完成するまでに時間がかかった。
 そもそも当社の社員食堂は、社内にあった、肥満防止・改善指導を行うベストウェイトセンターの一部施設を改修したものだ。本社約250人の社員のうち50~60人が利用していた。しかし、メニューは1日1種類。社員の健康を考え、500キロカロリーのメニューにしたのだが、それがまるで病院食のようで評判が良くなかった。そこで、歴代の栄養士らが野菜をたくさん使い、見た目もボリュームたっぷりのメニューに改良し現在に至っている。
 まさかこのメニューがキラーコンテンツになるとは想定していなかったが、2010年1月に出版した『体脂肪計タニタの社員食堂』が書評などで取り上げられ、発行部数が50万部を超えるとテレビが動き出した。3月ごろから取材が入り始め、7月から8月にかけては毎週2、3本取材対応をしていた。
 社員は体脂肪計などの取材でマスコミに慣れていて、マスコミ・アレルギーはなかった。取材は、食堂だけで終わらせてはいけない。会社が露出するようにして、タニタがどのような会社であるかを理解してもらおうと、相乗効果を狙った。報道が取材を生み、話題になる。それがまた報道に繋がる、というようにプラスの流れを回転させ、一過性に終わらせず、繰り返し取り上げてもらうというプラスのスパイラルをつくり出そうと考えた。

クチコミ効果を狙う

具体的にはどのようなことか。
猪野 メタボ予備軍となっているビジネスパーソン向けに何かできないかと、以前から社内で議論されていた。そのソリューションのひとつが社員食堂のコンセプトを忠実に再現した、「丸の内タニタ食堂」の開店だ。タニタ食堂は、その話題性を生かしつつ主体的な情報発信をするというPR展開を行い、開店から数カ月経った現在でも反響を呼んでいる。「丸の内タニタ食堂」は、タニタのアンテナショップであり、また、ショールームでもあり、収益部門のひとつにすべく日々研さんしている。
 2011年11月21日、この新事業についての記者発表会を開き、40媒体62人を招致した。新事業の展開と店舗スタッフ、メニューなどを公開した。その後、12月14、19、22日にはプレイベントを開催。22日のイベントは、読売新聞と連携して展開した。いずれも、クチコミ効果(バイラルマーケティング)を狙ったものであるが、それぞれ対象は異なっている。
 14日のプレイベント「丸の内キャリア塾」は、キャリアアップしたいと考えている丸の内のOL(60人)、19日の「総務セミナー」は、福利厚生を考えている総務担当者(30人)、22日の「読売新聞・大手小町セミナー」は、銀座・有楽町を訪れる、いわゆる一見客である一般男女(54人ずつ、2回開催)を対象とした。
 2012年1月10日は「丸の内タニタ食堂」のプレスプレビュー、11日はグランドオープンでセレモニーを実施し、テレビを中心に11媒体の取材を受けた。このようにイベント開催による話題づくりを続けている。

市場創造型広報を展開

どのようなお考えで広報活動をしているか。
猪野 2006年以前の広報室は、情報発信が少なく、メディアとのパイプもない状態だった。「受け身」の広報から「攻め」の広報に変革する必要があり、新たな戦略を模索した。これまでの広報の機能は、「マーケティング広報」と「コーポレート広報」だったが、これに「マーケットクリエーション(市場創造型)広報」を加えた。つまり、事業部、営業、販促、広報の枠を取り除き、タニタのブランド力を活用して新たなチャネルを開拓し、競合他社が参入できない独自のマーケットを創造するということだ。
 市場創造型広報の具体例として、三越伊勢丹グループと行った「ランチボックスプロジェクト」がある。広報が主体のプロジェクトだが、「弁当を売る」というスタイルは、あえて前面には出さなかった。「お昼にモデル風のOLが特製ランチボックスから弁当を取り出して食べる」というイメージを醸成することから始め、期間限定で販売するなど、話題の拡散と継続を実現した。
 広報部門は経営機能のひとつといわれているが、本当にそうなのかと考えた。広報部門は、いつまでたっても経費部門ではないのか。効果も目に見えてこなかった。そこで、広報自らがマーケットをつくり、収益部門になることを切り口としている。広報が話題をつくり、仕掛けをつくり、チャネルをつくり、そこに商品を落とし込む。企業によっては組織の壁があり難しいかもしれないが、幸い当社では、社長の理解があるため、様々な企画を立案して行動することができる。
 また、健康について、一般の人の関心は高いが知識として正しく伝わっていない。リテラシーが十分でない人が意外と多い。正しく伝えるにはどうしたらいいか。そこで考えたのは、「まるごとタニタ生活体感ツアー」だ。タニタと読売旅行、休暇村協会とのコラボレーションで、健康志向が強い人に我々が持っているソリューションを体感してもらい、健康リテラシーを高めようというのが目的だ。全国5カ所の休暇村で実施し、健康プログラムと共に タニタの商品を体験し、商品やサービスの優位性を認識してもらう。健康意識の高い顧客の囲い込みである。

中国での広報展開

国内だけでなく、中国での広報活動にも力を入れていると伺ったが。
猪野 中国の人は健康リテラシーが低く、指標といえば体重ぐらいで、体脂肪率という概念はほとんどない。ここ最近、生活水準の向上に伴って中国はインドを抜いて世界一の糖尿病大国となり、国を挙げて健康増進に取り組むようになった。そこで何ができるかと考えたが、女性をターゲットに絞り、有力女性誌・生活情報誌16媒体を対象にワークショップを実施した。中国のダイエットに関する情報は科学的な根拠がなかったり、薬に頼る傾向が強かった。「体組成計によるロハスなダイエット」をテーマにプレスキャラバンを実施することで、記者、編集者の共感を獲得し、各誌での露出に成功した。その後、雑誌『Oggi』とタイアップしたイベントを開催し、購買力の強い女性を囲い込み、商機の拡大を図った。

謙虚に誠意をもって

広報体制は。また、広報に対する思いを教えてください。
猪野 広報室は、私を含め4人だ。人数が少ないこともあるが、タテ割りにならないよう担当を細かく決めてはいない。私とペアで仕事をするようにしている。
 広報の仕事は、コミュニケーションなしではできない。大企業でも中小企業でも、それは同じである。ある情報を価値のあるものに加工して、ステークホルダーに正しく効果的に伝えるためには、社内外に人脈をつくり、“頭の引き出し”(ナレッジ)を多く持ち、文脈化し、行動する。
 これは自らに課していることだが、前年踏襲型の広報はせず、常識にとらわれずにやり方を変えていくようにしている。
 また、広報の基本は「謙虚に誠意をもって」である。場数を踏み、失敗し、現場から学ぶ。お客さまにタニタを選んでもらうための先兵となるのが、広報である。地道な活動を継続的に行うことが重要である。
(聞き手:経済広報センター 国内広報部長 佐桑 徹)
(文責:国内広報部専門研究員 佐々木光寿)
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