経済広報

『経済広報』(2012年11月号)掲載

企業広報研究

話題の企業の広報

渋谷の街を元気に
~“文化と娯楽の殿堂”のDNAを受け継いで~

竹内 智子 竹内 智子(たけうち ともこ)
東京急行電鉄(株) 社長室広報部統括部長
 2012年4月、渋谷駅周辺再開発のリーディングプロジェクトとして、東急電鉄が運営する高層複合施設「渋谷ヒカリエ」(以下、ヒカリエ)が開業した。ヒカリエは、地上34階、地下4階建てで、「東急シアターオーブ」「ヒカリエホール」、クリエイティブスペース「8/(はち)」などの文化施設のほか、東急百貨店がプロデュースする商業施設「ShinQs」(シンクス)、レストランフロア、オフィスで構成されている。オープン前からメディアの注目を集め、9月には、来館者数が1000万人を超えた。ヒカリエの開業と東急電鉄の広報活動について聞いた。

新しい価値を創造し発信するプラットホームに

ヒカリエは、どのような構想・経緯で建設されたのか。
ヒカリエ全景竹内 ヒカリエのルーツは、ヒカリエと同じ地に建っていた「東急文化会館」だ。東急文化会館は、4つの映画館やプラネタリウムのほか、結婚式場、ホール、専門学校、銀座の老舗を誘致した「文化特選街」など、様々なコンテンツが混在する渋谷の街の原型であり、渋谷が文化やファッションの街になるきっかけをつくったともいえる施設である。東急文化会館は2003年に閉館したが、同施設の“文化と娯楽の殿堂”というコンセプトと、それによって築かれた文化的な土壌、様々な情報をつくり出し発信するというDNAをヒカリエは継承している。
 渋谷はすり鉢型の谷地形であり、街が山手線や首都高速によって分断されているなど、構造的特性を有しているため、回遊しにくい面がある。また、“渋谷は若者の街”と評され、特に30歳代以上の女性が訪れる機会が減少していた。そんな中、「もう一度渋谷を幅広い世代から支持される街にしたい」という思いで、ヒカリエのプロジェクトが始まった。
 ヒカリエという名は“渋谷から未来を照らし、世の中を変える光になる”という意志を込めたものだ。ヒカリエを「新しい価値を創造し発信していくプラットホーム」と位置付け、引き続き行われる渋谷駅街区の再開発によって、もっと渋谷を元気にしたいと思っている。

非日常の空間で大人にも楽しんでもらう

ヒカリエには、具体的にどのような特徴があるか。
竹内 大人にも訪れてもらえるように、核となる施設としてミュージカル劇場「東急シアターオーブ」をつくった。この劇場は、近未来的な球形のフォルムを持ち、渋谷の街を一望できるホワイエや、濃紺(空)と白(雲)を基調にデザインされた客席空間など、宙空に浮かぶ劇場をイメージしている。このような非日常的な空間で、ニューヨークやロンドンから招聘する本場のミュージカルなど、一流のエンターテインメントを体験していただきたい。9月に公演した「ミリオンダラー・カルテット」は、比較的年齢が高めの方にも来ていただき、渋谷の客層拡大の様相が見られたように感じる。
 また、将来的には、4階レベルで、渋谷の街を東西に繋ぐことにより、道玄坂から青山方面まで階段のない平坦な歩道で行き来できるようになる。ヒカリエ内部には、「アーバンコア」と呼ばれる吹き抜けがあり、その中は地下3階から地上4階までのエスカレーターで移動が可能である。これらによって縦・横の動線が整備され、ヒカリエを起点に回遊性が高まるだろう。
 商業施設であるShinQsには「渋谷 Shibuya」の街に、「輝き Shine」をプラスするという意味と、「Q」には東急百貨店としてお客さまとの約束を果たしていくという意味が込められており、“渋谷初出店”などオリジナリティーの高い店舗が入っている。20歳代後半から40歳代の働く女性を主たる顧客層として、フード、ビューティー、ファッションの全てを雑貨として捉え店舗を構成している。
 また、“日本一のレストルーム”というコンセプトの下、フロアごとにデザインや香り、BGMを変えた「スイッチルーム」がある。酸素バー付きマッサージチェアなどを備えたカード会員限定の「パウダースペース」など、単にトイレとして利用するのではなく、日常から非日常に切り替え、リラックスして楽しんでいただきたい。

待ちの姿勢から戦略的広報へ

開業に向けて、どのような広報活動を展開したか。
ShinQsの館内
ShinQsの館内
竹内 ヒカリエの広報については、社内に委員会や下部組織として分科会を立ち上げて部門横断的に取り組んでいる。当社の関係部門だけでなく、東急百貨店、東急文化村、東急エージェンシーなどとPR体制を整備して、積極的なコミュニケーションを展開してきた。
 当社の従来の広報活動は、各事業部の情報をリリースにして記者クラブに投げ込み、取材対応をするという“待ちの姿勢”が強かったが、ここ数年で“戦略的広報”に舵を切ってきた。これは、情報の素材に応じて的確なメディアにアプローチし、内覧会の開催など、メディアと直接的な接点をできるだけ多くつくってアピールするというもの。ヒカリエの広報は、それをしっかりと実行してきた。
 また、会見やインタビュー取材などで、トップ自らがメッセージを発信することで、渋谷の街づくりにおける当社の姿勢を伝えるように意識した。さらに、ヒカリエの広告で駅をジャックするなど、今までにない取り組みも行った。東京スカイツリーのように、“世界一高い”といった分かりやすいインパクトがない分、街の歴史の紹介をはじめ、プロジェクトのコンセプトや狙いをしっかりと語っていかないと世の中に伝わらないことを実感し、できるだけ丁寧に情報を発信してきた。

グループ一体で情報を発信

竹内 「当社の社長がよく話しているが、都市間競争をして勝つことが目的ではなく、それぞれの街が特徴を生かして国内外から人が集まってくるような街づくりをすることで、東京全体を元気にしたいというのが当社の思いだ。その中で、「東急」のブランド価値を高め、東急線沿線がこれからも選ばれ続けるために、“エンタテイメントシティしぶや”を、グループ一体となって、より魅力的なものにし、新しい文化やコンテンツを発信し続けていきたい。
(聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 国内広報部長)
(文責:国内広報部専門研究員 佐々木光寿)
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