経済広報

『経済広報』(2013年2月号)掲載

企業広報研究
コミュニケーションから考える日本企業
~グローバルコミュニケーターの視点~
ギルバート・チャベス BCコンサルティング 代表/グロービス経営大学院 教授
ビリー・コール 花王(株) コーポレートコミュニケーション部門 インターナショナルコーポレートコミュニケーション担当部長
ダニエル・スローン 日産自動車(株) グローバルメディアセンター部長兼編集長
清水 勇材(しみず ゆうき)(モデレーター) IABCジャパンチャプター 副代表
 経済広報センターは2012年12月6日、ビジネスコミュニケーションの国際団体であるIABC(International Association of Business Communicators)との共催で、「コミュニケーションから考える日本企業グローバル化の秘訣」と題するパネルディスカッションを開催した。BCコンサルティング代表でグロービス経営大学院教授のギルバート・チャベス氏、花王のコーポレートコミュニケーション部門インターナショナル担当部長のビリー・コール氏、日産自動車のグローバルメディアセンター部長兼編集長のダニエル・スローン氏の3名をパネリストに迎え、IABCジャパンチャプター副代表の清水勇材氏のモデレートにより、グローバル時代に活かす日本人のコミュニケーション特性や、コミュニケーターに求められる資質、日本企業の課題などについて議論した。

日本企業とグローバル企業のコミュニケーターの違い

清水 日本企業のコミュニケーションの特徴とは、どのようなものか。
コール 日本企業もグローバル企業も共通の課題に直面し、共通の目標に向かっており、コミュニケーション戦略に大きな違いはないと思う。むしろ私は、企業におけるコミュニケーターの位置付けの違いに関心を持っている。グローバル企業に比べて、日本企業でのコミュニケーターに対する理解が少なく、極端に言えば記者会見を開催したり報道記事を届けるだけで、コミュニケーションの専門家と認識されていないという印象がある。
チャベス 私も企業のコミュニケーター、PRの位置付けや役割について、コール氏と同様の印象を持っている。しかし、グローバル化の進展に伴って日本企業も積極的に欧米企業を買収しており、必然的に経営者は国内メディアよりも積極的かつ野心的、懐疑的な欧米メディアにさらされることになる。そうなれば、日本企業もコミュニケーターの役割を昇格させざるを得なくなるだろう。
スローン 日本企業の経営者は非常にオープンで、たとえ経営の機微に触れる部分であっても隠さず開示しようという姿勢がある。当社の事例を挙げると、2011年3月11日に発生した東日本大震災で、日産自動車いわき工場は甚大な被害を受けて閉鎖に追い込まれ、また福島第一原発に近いために放射線の影響に対する懸念も高まった。そうした中、3月29日にはカルロス・ゴーン社長がいわき工場を訪れ、工場の社員のみならず、世界に対し断固として復旧・復興を遂げるのだというコミットメントを示した。そして、5月にいわき工場が全面復旧を果たした際には、私が率いる「日産グローバルメディアセンター」のチームが工場に赴いて様々な映像を撮影しライブストリーミングで配信すると同時に、外部メディアを初めて工場内に招待した。これは、積極的に情報を開示する、工場の門戸を外部に対して開くことが重要であるというトップの判断があったからこそだと思う。
 何か問題が生じた時に、「しばらく考える、そして何もしない」という対応では何の解決にもならない。大切なのは、情報をしっかりと管理し、情報を伝達するための明確な戦略と戦術を持つことだ。
コール 経営者がオープンであることは、社内コミュニケーションでも重要だ。当社の社長は極めてオープンで、コミュニケーターの立場から、その姿勢は素晴らしいと思う。例えば、米国出張時には現地社員と円卓会議を開催するなど、国内外で積極的に社内コミュニケーションを図っている。
 私が時々幹部にお願いしているのは、もっと個人的な内容をメッセージとして伝えてほしいということだ。トップとして経営理念や事業戦略、財務情報などを正しく伝えるのは当然だが、社内コミュニケーションでは、「自分がこういう立場の時に、こういう問題が生じて、こういう対処をした」というように、自分自身の経験を社員に熱心に語り掛けることが大切だと伝えている。特に欧米人はそういったタイプの幹部を評価する傾向が強く、我々コミュニケーターには日本企業の経営者が熱意を持って語れるよう、その背中を押す役割があると思う。

コミュニケーターに求められる3つの資質

パネラー
清水  グローバル化の時代に、コミュニケーターに求められる資質とは何か。
チャベス PRや広告の分野でコミュニケーターとしてのキャリア形成を目指す人材には、3つの資質が求められる。まず1つ目は、批判的、客観的な視点。企業の姿を外から批判的かつ客観的に見ることのできる目や思考が不可欠である。2つ目に、企業のブランドを理解し、そのブランドのストーリーを構築する能力を備えなければならない。どのようなブランドストーリーを構築すべきかが決まれば、コミュニケーションのための媒体やチャネルはおのずと定まるだろう。3つ目は、重要性が増しているソーシャルメディアを理解し、受け入れることだ。ソーシャルメディアは今後ますます高速化、複雑化すると予想されるが、現実社会においては避けられない事実であり、しっかりと対応しなければならない。
スローン PRリーダーの資質として必須なのは、当該分野やテーマに関する深い知識と経験、メッセージを伝える相手をよく理解して彼らの考えを受容すること、そして最後にユーモアのセンスも必要だ。この3つの資質を兼ね備えたPRリーダーであれば、企業ブランドを必ず進化させることができるだろう。

ソーシャルメディア活用の効果

清水 ソーシャルメディアの活用はどのように進んでいるか伺いたい。
スローン 当社では、ブランド訴求のためにライブストリーミングやユーチューブなど幅広くソーシャルメディアを活用している。2012年夏に新型コンパクトカー「ノート」発売の発表をライブストリーミングで配信したところ、アクセス数が4万件にも達した。新車発表というイベント情報の到達度合いが、従来考えられていたよりも、遥かに拡大する可能性を示す出来事であり、非常に効果的なプロモーションだった。
 コミュニケーションの効果測定という観点では、当社が制作したビデオをユーチューブに掲載すれば、どんなコンテンツが、どんな人に、どのくらいの時間、どのような理由で視聴されたかなど、膨大な情報を得ることができる。そこから、我々のビデオがいかに幅広い視聴者に到達しているかを知って驚くことがある。例えば、2012年6月にル・マン24時間レースに「日産デルタウイング」が出場した際のビデオには100万件以上のアクセスがあった。また最近では、「日産セレナ ハッピーサプライズ~11年目のプロポーズ~」というイベントがユーチューブに掲載されると40万件ものアクセスがあった。いずれも、ソーシャルメディアが大きな力を持つということを実証する事例であり、広告よりも高い費用対効果を実現できたことは明白である。
チャベス かつては、まずコンテンツがあり、そのコンテンツをどのような手法でPRするかということが論じられたが、今は良質で受け手にとって役立つコンテンツを生み出すことにフォーカスしなければならない。また、そろそろ社内コミュニケーションと社外コミュニケーションの垣根を取り払う時期にきている。ソーシャルメディアの登場により、社員に向けて何かを発表すれば、その内容はひとつのツイートで世の中全体に拡散するのである。米国企業の先進事例では、社内ミーティングの全面開示を社員に許可しているケースもある。一朝一夕に日本企業がそのような状況になるとは思わないが、意味のあるコンテンツを生み出し、それをソーシャルメディアを通して世の中に直接発信していくという動きは日本企業でも実際に起き始めている。

外国人ジャーナリストとの付き合い方

清水 日本人ジャーナリストと外国人ジャーナリストの相違点は。
チャベス 私は、日本企業の経営者に対して、日本以外の国では記者がいかに厳しく難しい質問をするかを繰り返し説明している。日本の消費財市場は、飽和・成熟を遥かに超える段階にあり、経営者はグローバルな世界に目を向けざるを得ない。コミュニケーターは、厳しい海外メディアが待ち受けるグローバルな世界に、経営者を連れ出さなければならない。
スローン 私はジャーナリストとしての経験から、ジャーナリストは付き合いづらい人間だということを申し上げたい。特に外国人ジャーナリストはどれだけ特ダネを取れるかがKPI(重要業績評価指標)であるため、付き合いが非常に難しい。日本人ジャーナリストは、ニュースを引き出すために取材対象者との関係を深めることを重視する傾向が強い。日本企業は日本人ジャーナリストと外国人ジャーナリストの双方を対象としたコミュニケーション戦略をデザインするようになってきたが、日本企業に注目する外国人ジャーナリストが急速に減少している実態がある。
コール 各国メディアは中国駐在の特派員を増やす一方で、駐日特派員はどんどん減らしており、多くのメディアは1社1人しか特派員を派遣していない。彼らは消費財からエネルギー、政府まで、あらゆる分野をたった1人でカバーしなければならず、個別企業についての知識は当然薄いケースがある。従って、例えば日本企業の経営者が海外有力紙の取材を受ける場合、我々は経営者に対して、「記者は頭脳明晰だが、我々の製品の売り上げのトップ5に関する知識さえ持ち合わせていない可能性がある」と忠告する責任がある。日本企業の経営層は、自社を継続的にカバーしている知識豊富な日系メディアとの接触に慣れてしまっているため、外国メディアには全く違った考えで対応する必要があることを認識させなければならないのである。
チャベス 経営者は、ジャーナリストだけではなく、海外の消費者の視点も意識してコミュニケーションしなければならない。グローバルな視点を持たなければ、自国での課題解決に注力している間に、他の地域で全く違った理由で別の問題が生じるといったリスクにさらされることになるだろう。

コミュニケーションを進める上でのアドバイス

清水 最後に、コミュニケーションに関してアドバイスを頂きたい。
コール プラス情報であろうとマイナス情報であろうと、社内・社外に対して情報の透明性を維持すること、そして人と人とのコミュニケーションを促進して理解を深めることが重要だ。
チャベス ソーシャルメディア時代には、たとえBtoB企業であっても、専門家や技術者だけでなく、一般の消費者に自社の事業や技術を分かりやすく説明することが求められる。ソーシャルメディアにより、我々は、複雑なビジネス手法や知識を持たない、普通の、しかも何らかの恐怖心に駆られた消費者とのコミュニケーションが必要な状況に陥る場合があると強く感じている。
スローン 日産ブランドのストーリーを語る“コトづくり”の基本的な考え方は、「自社について知られたくない5つの事」を探すのではなく、「自社について世の中に知ってもらいたいが、まだ知られていない5つの事」を探すことである。それを知った人々が共感できるのであれば、それこそがブランドについて語るべきストーリーだと考えている。
(文責:国内広報部専門研究員 森田真樹子)
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