経済広報

『経済広報』(2013年6月号)掲載
企業広報研究
変革期における広報の役割
ベン・ボイド ベン・ボイド
エデルマン コーポレート・プラクティス・グローバル統括
 経済広報センターは4月4日、世界最大のPRコンサルティング会社であるエデルマンのベン・ボイド氏を講師に迎え、「海外における広報活動のポイント」と題する講演会を開催した。講演では、コミュニケーションを取り巻く大きな変革とパラダイムシフトの中での広報活動のポイントや、広報プロフェッショナルとして果たすべき役割について、多くの具体的事例と共に紹介した。参加者は約50名。

広報における変革の時代

 私たちは現在、前例がないほど大きな変革の中に身を置いている。この変革は非常に複雑で、「技術的」「政治的」「財政的」「社会的」という4つの側面がある。技術的側面では、例えばスマートフォンの登場によって、人々が密接に繋がり、より多くの情報をより迅速に受発信できるようになっている。また、個人が繋がることで大きな影響力を持つようになり、政治をも動かしていくという変化が生まれている。
 財政的側面では、リーマンショック以降、世界経済がリセットされ、銀行や財政に対して人々が抱く信頼感に変化が起こっている。そしてこれらの変革は、社会の機能の仕方にも変化をもたらしている。
 広報の世界もまた変革しつつある。我々コミュニケーターはこうした変革を理解し、仕事を進めていかなければならない。

「ダイヤ型の影響力」の登場

図1  従来のコミュニケーションモデルである「ピラミッド型の影響力」は、それ単独ではもはや機能しなくなっている。「ピラミッド型の影響力」とは、CEOを頂点とし、コントロールされた情報をトップダウンで伝達する垂直型モデルであるが、これに加えて現在は、この「ピラミッド型の影響力」を鏡に映したような「ピラミッド型のコミュニティ」という新しいモデルが確立されている。「ピラミッド型のコミュニティ」では、異なるステークホルダー間でピア・ツー・ピアの水平型コミュニケーションが図られ、個人あるいは個人が構成するコミュニティが相互に繋がり、「ピラミッド型の権力」にとらわれずに発言する力を持つ。
 従来の「ピラミッド型の権力」が重要性を持ち続けると同時に、そこに「ピラミッド型のコミュニティ」が接合されて共存するという新たな形を、エデルマンでは「ダイヤ型の影響力」と呼んでいる。「ダイヤ型の影響力」は、広報に携わる者にとっての現実を表現したものと考えている。

グローバルコミュニケーションの3つのパラダイムシフト

 グローバルコミュニケーションの視点から、広報のプロフェッショナルとして考慮し、経営をサポートすべき3つのパラダイムシフトがある。「コントロール」「コミュニティ」「コンテンツ」のシフトである。
1 「コントロール」のシフト
 エデルマンが13年間にわたり26カ国で実施している調査「エデルマン・トラストバロメーター」によると、CEOへの信頼度はグローバル・日本いずれにおいても低下しているという現実がある。こうした中で、人々にCEOの発言に耳を傾けてもらい、会社が発信するメッセージへの理解と信頼を得られるようサポートすることは、広報のプロフェッショナルである我々の責務である。
 「アラブの春」などの事例に見られるように、コミュニケーションモデルの変化によって、長年通用してきた伝統的なトップダウン体制が、ごく短期間で完全に覆るというコントロールシフトも生じている。
 私は、ソーシャルメディアは感情の大きな流れを解き放ったと考えている。この流れはダムのように堰(せき)止めることはできないが、経路をつくり、方向付けることは可能である。広報の役割とは、感情の流れを止めることではなく、その力を認識し、それを活用することである。
2 「コミュニティ」のシフト
 コミュニティのシフトを考える上で特に重要なのは、オーディエンスはそれぞれ異なるという点である。我々は広報のプロフェッショナルとして、情報を届けたいコミュニティの違いを理解しなければならない。海外に向けて情報発信する際には、日本とは全く異なる現地メディアの特徴や仕組みを正しく理解することも大切である。こうしたコミュニティの相違点を把握するためには、現地の同僚やパートナーにヒアリングしたり、時には実際にリサーチを実施することも必要であろう。
 「エデルマン・トラストバロメーター」では、スポークスパーソンとしてどのような人が信頼できるのかを毎年調査しているが、グローバル・日本いずれにおいても、自分の考えや行動を理解できる「自分のような人」が、CEOよりも高い信頼度を獲得しているという結果が得られている。これは、「ピラミッド型のコミュニティ」の力を実証するものであると同時に、伝えたいメッセージを届けるためには、対象となるオーディエンスに合わせて表現やスポークスパーソンを変える必要があるということを示唆している。
 “ピア・ツー・ピアの力”も重要なポイントである。例えばツイッターでは、最初の10億ツイートに到達するまで3年以上の年月がかかったが、現在は56時間ごとに10億ツイートが投稿されているといわれる。今や人々はいつでも、どこでも双方向のコミュニケーションをしている。その中では自分の会社が話題になることもあり、それは会社がコミュニティとの会話に参加するチャンスでもある。
3 「コンテンツ」のシフト
 広報のプロフェッショナルとして、我々はこれまでメッセージの力を重視してきた。しかし、人々とメッセージを共有する際には、文脈から成るストーリーとして伝えた方が遥かに記憶に残るという点を指摘したい。何千年にもわたり語り継がれてきた物語のように、ストーリーは長く記憶に残るが、単なる事実としてのメッセージは記憶に残らない。ストーリーの重要性や力をなおざりにし、会社が発信したいメッセージを羅列するばかりでは、会社が持つ「人格」を伝え切ることはできないのである。

クローバーリーフ 4つのメディアチャネルの連携とコンテンツの重要性

図2
 エデルマンでは、「トラディショナル」「ハイブリッド」「ソーシャル」「オウンド」の4つで構成されるメディアチャネルを「クローバーリーフ」と呼んでいる。「トラディショナル」は、新聞やテレビといった従来のマスメディアを指す。「ハイブリッド」はウェブをベースとし、興味があれば、自身の関心事を掘り下げることができるとともに、ウェブ上のコンテンツにコメントしたり、シェアする形でエンゲージすることができる。「ソーシャル」は、オンラインで同僚や友人同士によるコメントや投稿、交流が可能である。「オウンド」は企業のウェブサイトに代表される、自社でコントロールした独自のコンテンツを掲載するメディアである。
 これらのメディアは相互に作用し、その中心に存在するのが「検索」、そして「コンテンツ」である。この「検索」と「コンテンツ」の重要性を理解し、4つのメディアチャネルを効果的に活用して、会社を導いていくことが広報の役割である。  

変化のスピードをチャンスに

 「今ほど遅い変化は二度とこない」。このメッセージは非常に強烈で、恐怖すら覚えるのではないだろうか。しかし、我々は広報のプロフェッショナルとして、社会の目まぐるしい変化を受け入れ、会社や経営トップが変化の荒波を乗り越えられるようサポートし、変化のスピードをチャンスに変えていかなければならない。
(文責:国内広報部専門研究員 森田真樹子)

世界から安定した信頼を得られている日本企業
~「2013 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~
図4
 エデルマンは、世界26カ国で3万1000人を対象に、政府、企業、メディア、NGOに対する、今年で13回目となる信頼度調査「2013 エデルマン・トラストバロメーター」を実施した。それに関連し、日本法人のエデルマン・ジャパンは、日本の調査結果を発表した。
日本人の政府、企業などへの信頼は回復に至らず
  同調査結果によると、2012年に、政府、企業、メディア、NGOに対する日本人の信頼は崩壊したが、その後もいまだ強い不信感を抱いていることが明らかとなった。知識層の各組織に対する信頼度は、政府32%、企業52%、メディア43%、NGO37%にとどまった。一般回答者のそれらに対する信頼度はさらに低く、政府27%、企業44%、メディア34%、NGO37%だった。
日本企業に対する信頼度は世界中で安定
 日本人の日本企業に対する2013年の信頼度は71%で、2011年の81%から2年間で10ポイント低下した。一方で、世界における日本企業に対する信頼度は極めて安定している。日本企業に対する世界の信頼度は、2011年69%、2013年66%と過去3年間安定しており、ドイツ、スイス、英国などの企業と並んでトップレベルの地位を確保している。特に、新興国の日本企業に対する信頼度は77%と非常に高く、ブラジル(60%)、中国(58%)、インド(50%)などの新興国企業に比べても、また英国(70%)、米国(65%)といった先進国企業と比較しても上回っている。
誠実さやエンゲージメントが重要に
 世界では、企業を信頼しない主な理由が「汚職や不正行為」(27%)、「ボーナスや報酬を優先した不純な動機によるビジネス上の意思決定」(23%)であるのに対し、日本における企業を信頼しない理由は「業績不振や無能さ」(35%)が最も多く、他の調査国の主要因と乖離(かいり)が見られた。
 また、日本では誠実さやエンゲージメントが、製品やサービス、社会的意義、事業運営よりも上位に位置付けられていた。日本人の期待と実際の企業活動の乖離も顕著であり、透明性が重要だと答えた日本人回答者は48%、一方で、企業がそれを実行していると回答したのは8%にすぎなかった。エンゲージメントに関しても、「事業状況について頻繁かつ誠実にコミュニケーションする」を重要だと答えた回答者は45%、それを企業が実行していると答えたのは8%だった。
(文:前 国内広報部専門研究員 佐々木光寿)
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