経済広報

『経済広報』(2014年4月号)掲載

企業広報研究

「商人(あきんど)」として情報を流通
~キッコーマンのコーポレートコミュニケーション活動~

臼井一起

臼井 一起(うすい かずき)
キッコーマン(株) 執行役員コーポレートコミュニケーション部長

 経済広報センターは、2月19日、キッコーマンの臼井一起執行役員コーポレートコミュニケーション部長を講師に迎え、「キッコーマンの広報」をテーマに企業広報講座(第4回大阪会場)を開催した。参加者は33名。

コーポレートコミュニケーション部の組織体制

 キッコーマンの広報組織は、2000年にそれまでの「広報部」から「広報・IR部」となり、さらに2009年から現在の「コーポレートコミュニケーション部(CC部)」という名称になった。2009年の持株会社制移行に伴い、持株会社と事業会社に分けていた広報機能を、2012年夏からCC部に集約し、CC部がグループ各社の広報活動の窓口としての機能を持つようにした。つまり、CC部はキッコーマングループの全ての情報と何らかの関わりがある組織であり、部員に対しては、グループ内で何かが生じた際には、良い内容であれ悪い内容であれ、常に当事者意識を持って対応するよう伝えている。
 CC部は、「報道・IR」「HP・グループ報」「社会活動」「工場見学」「社史編纂」の5つのグループと、食に関する研究・情報収集・公開活動を行う「国際食文化研究センター」のほか、イベント対応、海外広報、庶務・経理の各担当によって構成され、パート・派遣社員も含めると総勢59名という大所帯となっている。

「商人(あきんど)」として情報を流通

 CC部にとっての“商品”は、しょうゆでもトマトケチャップでもなく、「情報」である。CC部は、この「情報」を流通させる「商人(あきんど)」であるべきだと考えている。
 「情報」とは、単なるデータではなく、データを使える状態に加工したものである。また、一方的に発信しただけでは「情報」を流通させたことにならない。確実に相手に届け、理解してもらい、活用されることによって、初めて「情報」は意味のある“Intelligence”にまで高められるといえる。「情報」の流通にはデジタルの手法だけでは不十分で、例えばニュースリリースを発行したのであれば、メール送付やウェブ掲載で済ませるのではなく、情報を届けたい記者に直接コンタクトして、記者が納得するまで丁寧に説明し、記事化を実現しなければならない。そこでようやく、CC部の「商人(あきんど)」としての仕事が成立するのである。 

活動の考え方と基本方針

 CC部は“変化対応業”であり、刻一刻と変化する世の中の空気を敏感に読み取り、変化に応じて適切に対応することが求められる。そのためには、日ごろから関係者との密接なコミュニケーションを図るという基本の徹底が不可欠である。
 活動の基本となるのは「MBWA(Management by Walking Around)」、すなわち現場主義である。特にメーカーであるキッコーマンの場合、しょうゆなどの生産や販売の現場、さらには営業担当者の状況が今どうなっているのかまで理解していなければ、うわべだけのコミュニケーションしかできない。現場の実態やメンタリティーを自分で見聞きし、そこで得られた現場感覚を持って、相手にどのような表現・言葉で情報を伝えるべきかを考え、行動することは、CC部の大きな仕事である。
 例えば、生産現場の様子を把握するために、工場の担当者を本社に集めて会議を開催するのではなく、私自身が工場に出向き、工場長をはじめ関係者と膝を突き合わせてコミュニケーションを図ることで、現場をより深く理解するように努めている。部員にも、自分の席に座ってばかりいるのではなく、積極的に現場に足を運んで、その場の空気を肌で感じるよう繰り返し伝えている。
 CC部は「不文憲法」をベースとしている。コーポレートコミュニケーションの様々なルールを、無理に時間をかけて成文化することはしない。当たり前のことを当たり前に行い、余計なことはせず機能・効率を優先するというのが基本スタンスである。
 ただし、記録は非常に大切だと考えている。CC部ではメンバー全員が同じメモ帳を常に携帯し、いつでもメモが取れるように徹底している。

“商人魂(Spirits of AKINDO)”を活動の根幹に

 CC部のポジションは、メディアや投資家、お客さまなどの社外と社内を繋ぐ“扇の要”である。公の情報の受発信は原則としてCC部を通じて行われ、社外に発信する情報の取捨選択や表現の工夫をしたり、逆に社外の情報を分かりやすく解釈して社内に伝える役割も担っている。CC部は、会社と社会を繋ぐ、いわば“扇の要”なのである。
 CC部の存在意義は、「情報なきところに人は集まらず」「実績なきところに人は頼らず」という2つの言葉に集約される。時に不要論もあるが、現場からデータを集め、「情報」に加工し、流通させる「商人(あきんど)」としての実績を重ねていけば、おのずと周囲に人が集まり、いざという時に社内外から頼られる存在となるのではないだろうか。この“商人魂(Spirits of AKINDO)”こそが、CC部の活動の根幹だと考えている。

今後の課題

 近年、広報と宣伝の境界線がどんどん薄れている。キッコーマンでは歴史的に広報と宣伝が独立した組織となっているが、情報の受け手の意識の変化を踏まえ、組織体制も含めて、あらためてコーポレートコミュニケーションの在り方を見直す時期にきていると感じている。
 また、組織が大きくなるにつれて、CC部が現場の「ノイズ」に直接触れることが難しくなっている。何か異常が起きると、現場ではいつもとは違う“ざわざわ”とした空気(ノイズ)が流れる。その場でノイズを感知できれば、対応に向けた迅速な準備が可能だが、物理的に部屋やフロア、建物が分かれていると、CC部に話が伝わるころには既に問題がかなり深刻になっていて、手遅れという事態にもなりかねない。現場のノイズをいかに素早く感じ取るかはCC部の大きなテーマであり、その実践として「MBWA」に一層力を入れていきたい。
 当然ながら、スキルやノウハウの継承も重要である。一般的に、広報担当者は広報歴が極端に長いか、逆に短いかのどちらかであるケースが多いように思う。その中で、コーポレートコミュニケーションの本質や経験値といった成文化できない部分を、スムーズかつ着実に継承できるよう工夫しなければならない。
 最後に、CC部には瞬発力が求められる。不測の事態においては、現実的にマニュアルを読んでいる余裕はなく、それまでに培った力をどれだけ瞬間的かつ効率的に発揮できるかが結果を大きく左右する。どのような状況下でも瞬時により良い判断、対応ができるよう、日ごろから心掛け、仕事を進める姿勢が欠かせない。
(文責:前 国内広報部主任研究員 森田真樹子)
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