経済広報

『経済広報』(2014年5月号)掲載

ANGLE

広報担当者は情報参謀として
コミュニケーション戦略の司令塔であれ

駒橋恵子

 

駒橋 恵子(こまはし けいこ)東京経済大学 コミュニケーション学部 教授
 近年、広告代理店の広報事業への進出が目立つ。広報の専門部署を強化したり、老舗PR会社と資本提携したり、PR賞・グランプリを受賞するなど、広告と連動した広報戦略を活発に展開している。
 もともと製品広報とマーケティング広告は、IMC(統合的マーケティングコミュニケーション)として関係が深かったものの、それでも広報と広告は一線を画していたはずである。実務的な最大の違いは言うまでもなく、企業とステークホルダーの間に記者の視点が介在することだ。広報実務の醍醐味は記者との丁々発止のやり取りと信頼感の醸成であり、各記者の屈折率を勘案しながらボールの投げ方を工夫するという、専門性の高いコミュニケーション力が求められた。自社情報の露出を増やしたい広報担当者と、スクープは取りたいがリーク情報を丸のみしたくない記者との駆け引きは、トップの意向や社員のモチベーションとも相まって、高度な合わせ技が要求された。だからこそ広告業務のような予算も華やかさもなくても、広報担当者は矜持(きょうじ)を保っていたのだと思う。
 近年、広告と広報の融合の動きが目立つのは、メディア環境が変化したからだろう。ウェブメディアが普及し、パソコンや携帯電話の企業サイトが増え、製品やイベントの情報サイトも乱立し、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用した消費者との相互コミュニケーションも活発化してきた。記者にニュースリリースを読んでもらおうと四苦八苦しなくても、ウェブサイトに掲載すれば消費者や投資家が直接アクセスしてくれるし、記者会見の内容が記事にならなくても、動画サイトで全容を配信することもできる。つまり、記者を介した屈折率の高いコミュニケーション方法に頼らなくても、自社の発信したい情報を時間やスペースの制限なく直接ステークホルダーへ伝えるツールが増加したことで、広告と広報の境界が曖昧になったのである。
 特にマーケティング分野で、ウェブサイトや企業ブログは「オウンドメディア」、SNS関連は「アーンドメディア」と呼ばれ、従来型広告の「ペイドメディア」と並んで重視されるようになった。ウェブサイトや企業ツイッターは概念的には広報業務だが、記者が介在せず自社のメッセージをステークホルダーへ直接伝えられるという意味では、広告業務と変わりはない。広告代理店が自社のノウハウを生かして進出してくるのは必然的な流れといえる。しかも最近、若者のテレビ・新聞離れは激しく、報道記者の調査記事よりも情報番組やタイアップ記事が収益的に重視されるようになり、メディアの側もジャーナリズムの気概が低下している。
 しかし本来、広報業務はメディアリレーションだけではない。広報責任者は企業の情報参謀としてトップの経営戦略と連携し、社内外のコミュニケーション戦略を統括していくべき立場にある。社会の動きを広聴し、社員と理念を共有し、トップメッセージや企業・製品の情報を発信していく戦略的な「コーポレート・コミュニケーション」が求められるはずだ。不祥事や災害に伴う危機管理、資本市場のグローバル化によるIR、企業理念の浸透、従業員の情報共有とコンプライアンスの徹底など、戦略的な広報業務が注目される時代である。広報部門は総合的なコミュニケーション戦略の司令塔として、メディアリレーション以外の分野にも次元の高いリーダーシップを発揮してほしい。それこそが本来の「広報」の原点である。
慶應義塾大学大学院修士課程修了、修士(経営学MBA)。東京大学大学院博士課程修了、博士(社会情報学)。 東洋経済新報社、日経ホーム出版社(現日経BP)、金融財政事情研究会勤務などを経て、2004年、東京経済大学コミュニケーション学部助教授。2013年より現職。日本広報学会常任理事。
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