経済広報

『経済広報』(2014年10月号)掲載
技術広報研究(1)

花王(株)

日用品メーカーとして、伝統ある技術広報を現代に繋ぐ

技術広報を始めた経緯

 花王の技術広報の原点は、1934年に設立された「家事科学研究所」にある。当時は、家事に対して古い習慣や知識のなさから、間違いや非効率なものも多く、室内や身体を清潔に保ちにくい時代だった。そこで、清潔で豊かな暮らしの実現に貢献することを目指し、花王の同研究所は石けん、シャンプーや衣料用洗剤を使った合理的な家事を科学的に研究し、清潔とは何か、清潔にする必要性、そして清潔にする方法を、様々な機会と手段で一般の方に公開した。これはまさに、同社の家事に関する技術情報を一般の方に分かりやすく伝えるという技術広報そのものであった。その広報活動は、機関誌『家事の科学』の発行や、6年間でおよそ4500回にも及ぶ講習会、工場見学など非常に活発であった。その後、同研究所は1971年に「花王生活科学研究所」と名前を変え、相談窓口業務や講習会、機関誌で、商品の性能が十分に発揮される使用方法など家庭生活を豊かにする幅広い技術情報を提供するようになった。

広報部における技術広報

 広報部として技術広報を始めたのは、1987年である。特に1990年における化粧品「ソフィーナ」では、商品の説明だけでなく、商品の本質である皮膚科学、すなわち皮膚の構造の解説に始まり、健康な皮膚に必要なものは何かを一般の方に分かりやすく説明する同社独特の技術広報を開始した。その後、企業価値の向上を目指して、広報部と研究部門が密に連携することで、特定の商品ではない、幅広い展開が期待される基盤技術の広報を始めた。基盤技術とは、例えば、肌や髪の毛の研究や家庭内のカビや菌の調査研究、脂肪の代謝研究など、商品の基礎を支える技術である。近年は環境への取り組みを伝えるべくLCA(Life Cycle Assessment)の視点で、日用品に含まれる環境技術を分かりやすく伝えるよう努めている。

 なお現在、広報組織の中で社外向けの担当は10人程度であるが、そのうちのおよそ2割が技術を中心にした広報活動に従事している。

花王の技術広報の特徴

 同社のリリースなどで示される技術広報は、「高校生が読んで理解できる」レベルの分かりやすさを目標としている。あくまで商品の使用者は一般の方であり、リリースも一般の方が理解できることが重要と考えている。読む対象が専門家である場合も、専門家の分野や理解力も様々であり、その専門家が発する情報も最終的には一般の消費者が見ることも想定されるので、やはり「高校生が読んで理解できる」レベルまで分かりやすい内容にすべきと考えている。専門用語は2、3個にとどめるよう努力しているが、正確であることも重要であり、難しい言葉を使用することもある。この場合は必ず注釈を入れるなどの配慮を心掛けている。
 同社広報部の繁田明課長は、「印象に残った技術リリースは『髪の加齢研究』である」と話す。「年齢と共に髪の毛がうねる、ツヤがなくなる原因を解明した基礎的な研究であるが、何度も記事に取り上げられたことから、研究内容もリリースの分かりやすさも非常に良かったのではないか」と言う。また、「この研究を応用したヘアケア商品も非常に好評で、強いブランドづくりにまで繋がった意義深いリリースだった」と振り返る。

(文:国内広報部主任研究員 磯部 勤)
pagetop