経済広報

『経済広報』(2014年11月号)掲載
企業広報研究
グローバルな視点で見る日本企業とPRの潮流
ペヤ・エミルソン

ペヤ・エミルソン
クレアブ・ギャビン・アンダーソン 会長

 クレアブ・ギャビン・アンダーソンはコーポレート・コミュニケーション、フィナンシャル・コミュニケーション、パブリック・アフェアーズ分野を柱とする、戦略的コミュニケーションのコンサルティングファームである。現在、世界25カ国に拠点を有する。今回、ペヤ・エミルソン会長の来日の機を捉え、グローバルなPRのトレンドや各国・地域の違いについて聞いた。

欧州と世界のPRのトレンド

近年、欧州の企業広報やパブリック・アフェアーズには、どのようなトレンドがあるのか。
エミルソン 過去20年ほどのトレンドとして、外部のエキスパートに助言を求める傾向が強くなっており、また最近はパブリック・アフェアーズ分野が重視されていると感じる。EU(欧州連合)という特殊な事情もあるかもしれないが、EUの中心部であるブリュッセルでは、様々な法規制の整備が進み、政治的にも徐々に複雑化している。このような状況下で、企業が戦略的コミュニケーションを展開するためには、政府や当局との関係構築の必要性が高まっている。特に、パブリック・アフェアーズの分野には社外の視点からのアドバイスや豊富な情報が求められている。
 また、企業内の広報の位置付けが変化してきているように思う。従来は、企業が商品・サービスを顧客に訴求する上で、広告・宣伝の果たす役割が重視されていたが、近年は、企業が広報活動の重要性をこれまでよりも認識するようになり、外部に様々な助言を求めるようになっている。
25カ国に拠点を有する御社だが、PRの分野で、国・地域によってどのような違いがあるか。

エミルソン 米国では、イベントを活用したPRが特徴的で、各企業が工夫を凝らしている。また、多国籍に事業展開するグローバル企業では、米国本社で戦略をつくり、それを各国・地域の拠点に落とし込んでいく手法を取っているようだ。英国には世界の金融センターという大きな特徴があり、フィナンシャル分野に重きを置いた広報活動が展開されている。企業は売買されるもの、という感覚が強いことも特徴だ。ドイツの企業には外部のPRコンサルタントを積極的に活用する風潮はなく、自社で対応することが多い。
 中国はメディアリレーションや買収案件などに関心が高いが、インドや東南アジアなどの新興国と共に、PR分野においてはまだ発展途上である。

グローバルな視点で見る、日本企業の特徴

日本企業の広報・渉外活動を見られての感想は。

エミルソン 私は1975年に初来日した。当時の日本は技術的に大きな発展を遂げていたが、日本企業のプレゼンテーションを聞くと、メッセージが端的に伝わってくるものが少なかった。「伝える」という点では欧米企業と比べて大きく後れを取っており、魅力を伝え切れていない点がもったいないと感じた。
 現在は、トレーニングや先進的な手法を取り入れている日本企業もあり、グローバルに「伝える」力を備えつつある。しかし、多くの企業にはまだ改善の余地があるように思う。

日本企業は欧米と比べ、外部のPRコンサルタントなどを活用しないことが多いと思うが。
エミルソン 日本企業は個々の業務が内製化されており、どの分野でも内部の組織や人材で対応することが多かった。しかし、最近はグローバル化の進展により、外部のPRコンサルタントからのアドバイスを積極的に戦略に取り入れる企業が増えている。
 これには2つの理由が考えられる。1つは、グローバル化が進むことで、社員が様々な国や地域に赴任することだ。赴任先の欧米などで行われているPRコンサルタントの積極的な活用方法を、日本に持ち帰るというケースが考えられる。
 2つ目は、多国籍な人材の採用だ。他国からプロフェッショナルな人材を招くことで、外部コンサルタントのアドバイスを受け入れる環境が整うことが予想される。 

PRコンサルタントの最適な活用方法

日本企業がPRコンサルタントを活用することで、どのようなメリットが考えられるか。

エミルソン 最も大きなメリットは、戦略を策定する段階からPRコンサルタントと企業のトップがディスカッションを行うことで、企業全体のコミュニケーション活動に外部の視点を取り入れることができる点だ。このことは、企業が伝えたいメッセージを的確かつ確実に伝える上で非常に重要なことだ。
 以前は企業の広報活動というと、ジャーナリストに記事を書いてもらう、いわゆるメディアリレーションが中心だった。現在は、株主や投資家、顧客や社員など、様々なステークホルダーに対する、広い意味でのコミュニケーション活動が求められている。様々なステークホルダーに適切にメッセージを発信していくためには、従来以上に一貫したコミュニケーション戦略が必要になる。この点で、PRコンサルタントの豊富な経験や情報が役に立つ。
 とはいえ、PRコンサルタントを活用するきっかけとしては、企業に危機が発生した時が最も多い。危機発生時には、様々なステークホルダーや社会に対して、適切なコミュニケーションが求められ、このような場面でPRコンサルタントの果たす役割は大きい。こうした経験を通じて企業がPRコンサルタントの活用価値を見いだし、平時にもサポートを求めるようになるケースが多い。

日本企業がアジアに進出する際、グローバルなPR会社と現地に精通したPR会社を活用するのではどちらがよいか悩むと聞く。最適な方法は。
エミルソン アジアに進出する際、国ごとに文化や事情が大きく異なることが、日本企業を悩ませる一因だと思う。最適な方法は、グローバルに展開するPR会社とローカルに精通したPR会社のそれぞれのメリットを生かした組み合わせである。グローバルなPR会社は世界的にネットワークと情報が豊富で、かつ、グローバルスタンダードの視点を持っていることが強みだ。
 しかし、実際に現地に進出すると、ローカルなPR会社の方が現地の情報に精通しているというケースも多い。そのため、グローバルなPR会社が現地のPR会社と密に連携を取り、協力体制を築くことが最適の方法であると思う。現に、欧州ではそのように対応する企業が多いようだ。 
海外に向けて情報発信する際の日本企業へのアドバイスはあるか。
エミルソン 欧州と比較して、日本やアジアの企業は海外に情報発信する際に言語の壁がある。それを乗り越える方法として、例えば、図や数字などビジュアル面での工夫があるが、これは英語の企業ウェブサイトを設置する際には非常に大切だと思う。
 また、海外も含めたインターナルコミュニケーションにおいては、労働市場の違いを考慮に入れる必要がある。例えば、米国などの労働市場は流動性が高く、特にプロフェッショナルで優秀な人材は、より良い職場環境や待遇を求めている。そのため、企業は自社で働くことのメリットや仕事に関するやりがいを感じてもらえるように、社員と密なコミュニケーションを取ることが必要だ。最近では、終身雇用を前提としていた日本の労働市場にも変化が見られ、社員向けのコミュニケーション活動を重視し始めている日本企業も多いと聞く。 

3つの分野をカバーし、戦略的コミュニケーションをサポート

御社が企業をサポートする上で、どのような点に特徴があるか。

エミルソン 我々はコミュニケーションを3つの分野に分けた上で、包括的にコミュニケーション活動をサポートしている。1つは、企業イメージ向上や社内コミュニケーションも含めたコーポレート・コミュニケーション分野、2つ目はM&A(企業の合併・買収)やIR支援などのフィナンシャル・コミュニケーション分野、3つ目は政府・官公庁との関係構築やロビー関連活動などのパブリック・アフェアーズ分野である。
 顧客のコミュニケーションのニーズは複数の分野にまたがることも多く、特にクロスボーダーのM&A案件の場合は、社員や顧客だけではなく、株主や投資家、関係当局とも国境を超えたコミュニケーションが必要となる。これら全てのステークホルダーに対し、各国の商習慣や文化の違いを加味しつつ、一貫したメッセージをタイムリーに発信するためには、3つの分野全てを網羅し企業をサポートできる当社のようなグローバルな企業が強みを発揮すると考えている。どれか1つの分野に秀でているだけでは、全体のコミュニケーション活動は成功しないからだ。

世界の25カ国に拠点を置いているが、その点での強みは。
エミルソン 1つは人材の多様性だ。弊社には40の異なる国籍の経験豊富な専門コンサルタントが400名いる。そのため、それぞれの国・地域の知識を結集して、企業をサポートすることができる。各国に強固なネットワークがあるため、幅広く情報を収集することも可能だ。
 2つ目は、この豊富な人材とネットワークを生かし、顧客ごとにソリューションをカスタマイズできる点だ。企業に様々な質問を投げ掛け、議論を重ねることで課題を特定し、我々の経験をもとに最適なソリューションを提供している。
 このようなグローバル展開を可能にした理由のひとつは、我々がスウェーデンという小国から生まれた企業であることだ。スウェーデンのGDP(国内総生産)の60%は輸出産業であり、英国、米国、フランスなど海外の企業がスウェーデンに投資している。そのため、グローバルな市場からどのように評価されているかを、常に意識せざるを得ない状況があった。そうした経験やノウハウが、企業へのグローバルな視点でのアドバイスを可能にしている。 

オープンなコミュニケーションが世界をより良い方向に

会長自身のこれまでの経験を振り返り、世界的に見て、コミュニケーションの分野でどのような変化を感じているか。

エミルソン 歴史的に見ても、様々な側面で世界は良い方向に変化しているのではないかと思う。独裁者の数も減り、ベルリンの壁も崩壊した。振り返ると、隔世の感がある。
 変化をもたらした要因のひとつとして、コミュニケーションに対する意識の向上があると思う。政府や企業の生活者に対するコミュニケーションは、時代を追うごとにオープンになり、透明性を増している。ジャーナリストも言論の自由の下、様々な視点、側面から物事を報道することができる。また最近では、ソーシャルメディアやスマートフォンの普及もあり、誰もが簡単に情報を手に入れられるようになった。我々PRコンサルタントも、コミュニケーションをオープンに、円滑に実施するという側面で、なんらかの形で寄与してこられたのではないかと思う。
 企業・政府・人々がコミュニケーションをしっかり取ることで、今後も世界が良い方向に進むことを願っている。

(聞き手:経済広報センター 国内広報部長 佐桑 徹)
(文:国内広報部主任研究員 鈴木恵理)
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