経済広報

『経済広報』(2015年2月号)掲載
グループ広報研究
グループ企業・海外拠点との効果的なインターナル・コミュニケーション
清水 正道

清水 正道(しみず まさみち)
日本広報学会 理事長(前 淑徳大学教授)

 日本広報学会では会員企業と専門家との協働研究「新しいコーポレート・コミュニケーションを考える会」を組織し、2014年7月から8月にかけてインターナル・コミュニケーションに関するヒアリング調査を実施した。組織が複雑化し、グローバル化が進展する中、グループ社員に対する企業のコミュニケーション活動にはどのような変化が見られるのか、日本広報学会の清水正道理事長に聞いた。
今回の調査テーマをインターナル・コミュニケーションとしたのは、なぜか。また、どのように調査を行ったのか。
清水 会員企業の広報部長に重点課題を伺うと、グローバル化、モチベーションアップ、キャリアパスなどのキーワードが挙げられた。その心は何だろうか、単なるツールや手法の話ではないだろう。それは企業が直面する経営課題にコミュニケーション機能を司る広報部門がどう対応すべきか、ということを意味するのではないだろうか。
 いま企業は、熾烈なグローバル競争の中で海外拠点の拡充や組織・事業の再編成に取り組んでいる。グループ社員の価値観も多様化している。多様性の中で的確に企業の理念・方針をどのように伝えていくか、また意識をどうまとめ、協働してもらうか。これはまさにインターナル・コミュニケーション施策に関わる問題ではないか、と考えたからだ。
 今回の調査は、2014年1月の「考える会」設置にさかのぼる。インターナル・コミュニケーションへの関心が高い企業4社と広報学会の専門家5名で事例研究を行い、ここで得られた具体的な事例からインターナル・コミュニケーションの潮流や課題を整理し、質問項目を検討した。ヒアリング調査は2014年7月から8月にかけて23社に実施した。

グループ内コミュニケーションは広報部がハンドリングを

その際、得られたインターナル・コミュニケーションの潮流にはどのようなものがあるか。

清水 主なものを3つ紹介する。1つ目は、インターナル・コミュニケーションは広報部単独ではなく、様々な部門が実施しているが、それぞれのメッセージや施策が調整されていない企業が多い。総務部門や人事部門に加え、海外のグループ会社には海外事業部からもコミュニケーションが行われている。広報部門がイニシアチブを取り、インターナル・コミュニケーションの全体像をハンドリングする役割が、今後は求められるのではないか。 
 2つ目は、特にグローバル化が進んでいる企業では、社員に「企業の外交官」としての役割を期待している。米国のGMなども行っているが、まずは広報部門が社員を応援する、本物の情報を提供することが重要だ。ある日本企業では、社員が社外でのプレゼンテーションを行う際に使用する、企業や事業紹介のパワーポイント資料を広報部が社員に提供している。
 3つ目は、多様なツールや場を活用し、インターナル・コミュニケーションが推進されている。情報の伝達のみならず、トップと社員や社員相互の“共感的連携”、“協働行動”の促進を図るため、社員運動会やトップとの懇親などを実施する企業も見られる。特に、フェース・ツー・フェースのコミュニケーションが重視されていると感じた。社員に企業の経営行動をスピーディーかつ的確に理解してもらうためには、従来の業務や階層を通じたコミュニケーションや、紙・電子媒体を通じた書き言葉でのコミュニケーションだけではなく、感情を交流させるような直接的なコミュニケーションが求められている。

時間軸・空間軸によるメディアの整理

調査からは、どのような結果が得られたか。
清水 ヒアリングで得られた結果を分析し、幾つかの観点から現状と課題、今後の方向性を整理した。今回はその中の3つのポイントを紹介したい。
 1つは、インターナル・コミュニケーションのツールとして使われる多様なメディアを整理し、新たなコミュニケーション体系を確立する必要がある、ということだ。現在、企業にはグループ報やイントラネット、メールマガジンに加え、トップとの対話など、各部門で多様なメディアが用いられている。しかし、これらのメディアはグループ全体から見て必ずしも整合性がとれていない場合が多いようである。今後、グローバル経営の実体化と合わせて、システム論の観点から様々なメディアを時間軸・空間軸で整理し、全社的にコミュニケーションをリデザインしていく必要がある。その中で、広報部はコミュニケーションの責任者として、イニシアチブを取る役割が求められるだろう。

グローバル組織の設置とコーディネーターの育成

清水 2つ目は、グループ間コミュニケーションの現状と課題だ。社内・グループ内の事業動向や、どの部署にどのような人材がいるかを把握するために、「広報委員会」や「グループ広報会議」などの連絡・調整組織を設置している企業も見られるが、その多くは「連絡網」や「懇親会」の域を出ていないようである。また、多くの企業は海外のグループ企業に対して、日本語で発行した社内報の一部を翻訳し、現地にデータ送信を行うレベルにとどまっており、現地法人の組織文化や経営情報ニーズなどを踏まえた地域版の社内報やイントラネットなどを用意している企業は少ない。本社との情報格差を埋めると同時に、グループ企業の多様性を意識したキメ細かな情報の受発信が、一層求められるだろう。
 そのためにも、グループ全体の広報・コミュニケーションの効果的な統括・運用機能を担うような「グローバル編集組織」を設置する必要がある。しかし、現段階では経営企画、人事、総務、CSRなどコーポレート部門との連携は一部企業にとどまっているようだ。
 一方、海外拠点やグループ企業から情報をどのように吸い上げるかという課題も多く挙げられた。こうした課題への対応として、コミュニケーションのハブとなるコーディネーターを育成する企業もある。こうした人材は兼任であっても、可能であればコミュニケーションの基本的な考え方やノウハウを研修などで勉強してもらえば、「企業の外交官」としての役割も期待できる。具体的には、コーディネーターが各拠点に情報を配信したり、独自にインターナル・コミュニケーションメディアの編集ができるレベルになると、グループ内のインターナル・コミュニケーションが一層強固なものになるだろう。

経営トップの積極的な活用

清水 3つ目は、経営トップを積極的に活用し、グループ内のインターナル・コミュニケーションに生かしていくことだ。一部の企業では、トップを「歩く企業シンボル」として、トップの発言・行動を企業メッセージの象徴として積極的に露出している。
 また、ストーリーテリングやストーリーシェアリングといった手法の導入も重要である。経営理念や中長期ビジョンをトップが示しても、一方的に理屈を伝達するだけでは社員は行動に移さない。トップが「私」を主語にして社員に語り掛けていくことで、思いを共有したり、共感が広がる効果があり、グループ内への理念・ビジョンの浸透や、社員のモチベーション向上が期待できる。 
(聞き手:経済広報センター 国内広報部長 佐桑 徹)
(文責:国内広報部主任研究員 鈴木恵理)
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