経済広報

『経済広報』(2015年2月号)掲載
広報管理職講座(6)
篠崎良一 メディアの変化と広報の将来
篠崎良一(しのざき りょういち) PR総研 所長/広報の学校 学校長 

ワンウェイからツーウェイへ

 オールドメディアVSニューメディア、マスメディアVSソーシャルメディアと対立軸で論じる向きがある一方、トリプルメディアという別の構図で捉える考え方もある。しかし、日本のメディア状況はネット上の情報の80パーセントが新聞とテレビ発であること、日本では、この2大マスメディアが世界でもまれな巨大パワーを相変わらず維持していることもあって、広報ターゲットとしての重要性は変わらない。
 しかし、マス(オールド)メディアとニュー(ソーシャル)メディアには大きな構造的な差異がある。従来のマスメディアはほぼワンウェイであったのに対し、ソーシャルメディアの特徴、最大の力はツーウェイにある。かつては記者クラブを武器にマスメディアが情報を独占してきたが、インターネットの登場によってマスメディアと受け手の情報の非対称性(独占)は消滅した。ネット社会は、情報は誰もが平等に獲得できる対称性の世界である。ネットでよく批判されるマスメディアの上から目線と権威性に対し、ソーシャルメディアはユーザー同士のフラットで対等な関係がベースである。提供情報を権威(信頼性)によって保証してきたマスメディアに対し、ソーシャルメディアの情報は友人や知人からのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じての推奨が情報ルートである。今や、マスメディアは、SNSの情報が事実かどうかを確認する存在に変わりつつある。かつてのマスメディアに接触して情報を取りに行くプッシュスタイル(ニュースを見つけにいく)から、これからの時代はニュースが我々を見つけてくれるプルスタイル(友人・知人からのSNS経由)に大きく情報接触のパラダイムが変化していく。

広報活動の新たな展開

 こうした構造変化は企業の広報活動に変化を迫ることになる。まず、情報はマスメディア経由から、ソーシャルメディアの世界を中心にしたダイレクトなルートにシフトする。マスメディアの影響力は残るが、動画も含めたソーシャルメディアに中心が動くだろう。かつては最も短期に効果を上げる広報はトップ広報だったが、今後はトップも含めた「中の人」全員になってくる。社員一人ひとりが広報パーソンの時代が復活する。
 広報対象とキーメッセージも当然大きく変わる。かつてのようなマス(大衆)は残念ながら存在しなくなるだろう。興味、関心が同じ人たちの多様化したクラスターが社会を構成する。となると、マスメディア向けのワンメッセージでよかった時代と異なり、多様化したクラスターごとにメッセージをつくり、伝える手法もそれに合わせての選択が必要になる。特に、売り込みよりも対話によって、まず相手の共感を獲得して、信頼感に結び付けるプロセスが重要になってくる。
 広報管理職にとって今最も必要なことは、メディアのパラダイムシフトによって変わる広報活動の新たな展開を考えることである。広報分野でいえば、人手不足とグローバル経営に伴う喫緊の課題としてのインナー広報への取り組みであろう。社員の枠を超えて非正規従業員やサプライチェーンをも含んだ組織の一体感と組織風土の構築には、一人ひとりが企業の“アンバサダー”であるという意識付けが不可欠な時代を迎えている。
早稲田大学卒。出版社を経て、共同ピーアール入社、取締役、常務取締役、取締役副社長を経て現職。企業・団体の広報・危機管理コンサルティング、広報・危機管理研修担当。2003年5月「広報の学校」を開校。2013年1月「PR総研」を設立。著書に『実戦企業広報マニュアル』『会社を守る!もしものときのメディア対応策』『広報・PR概論』(共著)、『広報・PR実務』(監修)など。
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