経済広報

『経済広報』(2015年3月号)掲載
技術広報研究(4)

キリン(株)

ブランド価値の向上に繋げる技術広報

キリンの技術広報

 キリンでは、キリンビール株式会社の時代から技術広報を行っていたが、2013年1月のキリン株式会社設立からは、R&D部門とコーポレートコミュニケーション部のスタッフが連携した組織的な技術広報体制を構築し、研究成果や技術開発の情報をお客さまに分かりやすく伝えていくよう心掛けている。技術広報を行う目的は、同社の技術や研究成果が製品やサービス、活動にどう繋がっているかをお客さまに伝えるとともに、それらの付加価値を示すことであり、ひいてはキリンのブランド価値向上に繋げることである。

何をどのように伝えるか

 同社では、5つの研究所を束ねるR&D本部内に技術統括部があり、その中の3名が技術広報に携わっている。年初に技術統括部が各研究所にヒアリングをして、技術リリース案件を集約、その中から取捨選択を行っている。その後、コーポレートコミュニケーション部門の技術広報担当者を交えて、各案件についてリリースの位置付けを含めて議論。製品の発売などとのタイミングを見つつ、会社として価値向上に繋がると最終的に判断したものをリリースしている。さらに、定期的に各研究所研究員、技術統括部の担当とコーポレートコミュニケーション部門でミーティングを行い、発表予定のリリースの進捗状況、公開方法など、密な情報交換や検討を欠かさない。
 技術広報の対象は、最終的には一般の消費者であるが、研究や技術の成果発表という観点から、大学や研究機関などの専門家にも伝えることを想定している。従って、リリースを作っていく過程ではR&D部門だけでなく、コーポレートコミュニケーション部門の文系の社員も関わり、一般の人が読んでも分かるレベルまで表現をかみ砕いている。専門用語には注釈を付け、できるだけ図表で説明するなどの配慮をしているが、一方で、平易な表現を気にしすぎるあまり科学的に誤解を招きかねない不正確な説明になる場合もあり、この点は非常に注意している。
 例えば、乳酸菌の免疫への作用メカニズムのような専門的なリリースの場合は、技術広報の手法では、その内容を伝えることが非常に難しい。絵と文字だけでは分かりやすく説明できないので、説明用の動画を作成してメディアに詳しく解説した。ブランド価値向上に繋げるため、強調したい部分が確実に伝わり、かつ正確な情報を示すことを目的に動画を作成した。その結果、記者に理解してもらえる説明をスムーズにすることができ、記事の掲載にも繋がり、非常に有効な手段だった。
 キリンの技術広報について、同社R&D本部技術統括部の内田陽氏は、「印象に残っている技術リリースは、東日本大震災の復興支援活動の一環として、当社が2013年4月より、『東北地方海岸林再生に向けたマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ種苗生産の飛躍的向上』というプロジェクトに参画していることを伝えるリリースである。長年培ってきた植物の研究成果を活用して、“クロマツ種子胚からの苗木大量増殖技術”の開発に着手することを示すことで、当社の研究を商品だけでなくCSVの観点からも企業ブランドの価値向上に繋げることができた」と語る。

(文:国内広報部主任研究員 磯部 勤)
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