経済広報

『経済広報』(2015年6月号)掲載

グループ広報戦略(1)

CC部は「扇の要」

キッコーマングループ

 キッコーマングループは2009年に持株会社制に移行し、キッコーマン食品、キッコーマン飲料、キッコーマンビジネスサービスの3社が誕生した。現在は、北米、アジア、欧州をはじめ、全世界にグループ会社を展開している。2017年に会社設立100周年を迎えるキッコーマングループの広報体制と、広報戦略について聞いた。

6つのグループから成るCC部

 キッコーマンは2009年10月にキッコーマン食品、キッコーマン飲料、キッコーマンビジネスサービスが新たに誕生し、持株会社制に移行した。現在では国内外67社のグループ会社を有し、世界100カ国以上に商品、サービスを提供している。コーポレートコミュニケーション部(以下、CC部)はホールディングスの一組織であり、社長の下に担当役員を配置し、グループ全体の広報活動を管轄している。
 CC部はキッコーマングループ全ての情報に関わる組織であり、「扇の要」の役割を担っている。CC部は、グループ制を導入している。キッコーマングループ全体のメディア対応、IRを担当する「報道・IRグループ」に5人、国内外のグループのインナーコミュニケーション推進やホームページ(HP)の企画・運営・管理を行う「HP・グループ報グループ」に5人、食育活動や料理講習会、社会活動などに取り組む「社会活動グループ」に5人、全国各地の工場見学を担当する「工場見学グループ」に33人(案内係含む)、2年後の会社設立100周年に向けた「社史編纂グループ」に2人、国内外の食に関する研究を行い発信する「国際食文化研究センター」に6人など、合計59人から成る。
 報道とIRを同じグループで組織しているのは、会社から発信する情報についてはメディア、投資家ともに同じレベルの内容を提供することがグループとしての考えであり、発信情報に統一感を持たせるためである。
現場感覚を持って情報を発信
 CC部の基本方針は、「MBWA(Management by Walking Around)」、すなわち現場主義である。キッコーマングループでは、国内外のグループ会社の広報担当者を一堂に集めての全体会議は開催していない。CC部の部員が「現場に出向く」ことを原則としている。関係者と膝を突き合わせてコミュニケーションを図り、現場をより深く理解するように努めている。それにより、部内全体で現場のことを考えながら当事者意識を持って広報活動に取り組めると考えている。
 ニュースリリースは新商品に関することが多いが、工場や開発現場を知らずに発信するのと、現場と日ごろからコミュニケーションを取りながら発信するのでは、情報の質に大きな差が生まれる。新商品の開発者がどういった思いを持ち、お客さまへ何を伝えたいのかを理解した上でリリースにまとめ、社外へ発信することがCC部の大きな仕事である。現場の実態やメンタリティーを自分で見聞きし、そこで得られた現場感覚を持って、行動する。それが、CC部の活動方針である。

現場のノイズをいかに感じるか

 グループ企業が国内だけではなく、海外展開するのに伴い、グループの規模もそれに従い大きくなっていく。特に海外へ進出することにより、その国の政情・文化などによるリスクを抱えることとなる。地域によって異なるリスク要因がある中で、最適な危機管理体制を構築していかなければならない。また、組織が大きくなるにつれて、現場の「ノイズ」に直接触れることが難しくなる。何か異常が起きると、現場ではいつもとは違う“ざわざわ”とした空気(ノイズ)が流れる。その場でノイズを感知できれば、対応に向けて迅速な準備が可能だが、物理的に部屋やフロア、建物が分かれていると、CC部に話が伝わるころには既に問題がかなり深刻になっていて、手遅れという事態にもなりかねない。現場のノイズをいかに素早く感じ取るかはCC部の大きなテーマである。
 ニュースリリースやIRのような良い内容の情報発信だけでなく、リスクマネジメントの面でも現場とのコミュニケーションを大切にしている。危機管理体制の構築に関しても、各地へCC部員が出向き、現地の担当者と打ち合わせをしている。現地が抱える課題はそれぞれ異なるため、それぞれの状況を考慮しながら危機発生時の解決策を考えている。また、現地メディアにも一緒に訪問して交流し、パイプをつくることを心掛けている。
 その上で、危機状況発生後の第一報をCC部に連絡するスキームを構築した。グループ全体へ波及する悪い情報が上層部へ伝わるのと同時にCC部へも同じ情報が伝わるかはとても重要である。この情報の質や速さによって初動対応が大きく変わる。そして、スキームをつくるだけでは意味がない。スキームの重要性を各グループ会社の担当者が理解し、危機発生時に円滑に運用するためにも日ごろから現場へ出ていき、コミュニケーションを取っておくことが何より重要になってくる。

グループ報とイントラネットのすみ分け

 キッコーマングループでは、紙によるグループ報とイントラネットを併用して、インナーコミュニケーションの促進を図っている。最近は海外グループ会社で現地職員が増えてきていることもあり、グループ報では英語のページを増やしている。また、グループに関するニュースについては、速報をイントラネットですぐに流し、その後、グループ報で特集記事にしている。例えば、最近では、同社社員の竹下百合子さんが4月5日に行われた第38回NHKカヌースラローム競技大会で優勝し、2015年度日本代表に選ばれた。すぐにイントラネットのニュースに流してグループ全体へ周知し、次回のグループ報で特集記事を組んだ。
 グループ報は原則年4回発行している。イントラネットも充実させているが、工場の現場などでは日ごろパソコンに触れない社員も多くいる。そういった社員を含めてグループ内の一体感をつくり上げていくために、紙媒体は必要であると考えている。これからもグループ報は定期的に発行していく。
 グローバル化についても、インナーコミュニケーションを強めることで会社に対するロイヤルティーの向上を狙っている。同グループでは、「あなたの『おいしい記憶』をおしえてください。」をテーマに、2008年からフォトコンテストを毎年実施している。お客さまからの応募のほか、グループ社員を対象にした部門もある。それにより、国内だけではなく、北米、アジア、欧州などの海外にいるグループ社員も多数応募している。その結果は日本語だけではなく英語、中国語に翻訳してグループ報、イントラネット、ホームページに掲載している。

工場見学と食育活動

 キッコーマングループでは、以前から工場見学を通してお客さまとのコミュニケーションを積極的に図ってきた。もの知りしょうゆ館(千葉県野田市)、高砂工場(兵庫県高砂市)、北海道キッコーマン(北海道千歳市)の3カ所のしょうゆ工場で工場見学を実施している。マンズワインでは、小諸ワイナリー(長野県小諸市)、勝沼ワイナリー(山梨県甲州市)の2カ所を見学できる。もの知りしょうゆ館、小諸ワイナリー、勝沼ワイナリーでは年間来客数がそれぞれ10万人ほどになる。以前は、それぞれの会社が独自で見学コースを管理していたがCC部に工場見学グループを配置することで、グループの統一感を持たせようとしている。
 また、キッコーマングループでは「食でこころをいっぱいに」「食でからだを大切に」「食で地球のみんなをしあわせに」の3つを食育理念とし、事業、業務に根差した食育活動を実施している。小学生を対象とした出前授業である「キッコーマンしょうゆ塾」は、全国で年間100回以上開催されている。講師は、社内で研修を受けた社員が行っているのだが、毎年、新入社員全員が新人研修でこの研修を受けている。その後、全国の配属先で「キッコーマンしょうゆ塾」の講師として小学校に出向き、授業を行っている。去年からは千葉県流山市限定で、「みりん塾」も始めた。  

CC部の新たな取り組み

 キッコーマングループは、2年後の2017年に会社設立100周年を迎える。このため現在、百年史を編纂している。グループ全体をテーマに作成していることもあり、グループ全体を俯瞰できるCC部に作業部署を設置し、専任の部員が担当している。
 また、キッコーマングループは日本食の素晴らしさをより多くの方に伝えたいという考えの下、2015年5月1日から10月31日に、イタリア・ミラノで開催される「2015年ミラノ国際博覧会」(略称「ミラノ万博」)に協賛する。そして、7月12日、13日の2日間、キッコーマン・イベントとして展示やワークショップ、試食などを、日本館関連のプロモーション会場「ジャパン・サローネ」で開催する。そのために、CC部で海外広報担当として1人専属で配置している。
 キッコーマンでは、IRを始めて15年が経つが、その運営がかなりシステマチックになってきた。最初は手探りだったが、適切なタイミングで投資家が必要とする情報を発信できるノウハウが蓄積され、スムーズで確実な情報提供ができるようになってきた。
 レシピを通じた情報発信も同グループの強みのひとつだ。
 キッコーマンのホームページのレシピサイト「ホームクッキング」には約6000のレシピが掲載されている。食材や料理名、調理法など様々な条件を自由に設定して検索できる人気のサイトで、1997年より開設している。そして、2012年10月からは、毎日の献立づくりに役立つ無料のiPhoneアプリ「今日の献立」を提供している。「ホームクッキング」から厳選したレシピを自由に検索し、さらに3週間分の献立として管理できる。その献立の塩分やカロリーもデータとして蓄積され、日々の体調管理にも使える。  

CC部は「扇の要」

 CC部は社外(情報)と社内(情報)を繋ぐ「扇の要」だと考えている。つまり、情報はこの要を通して社外・社内を行き来するわけであり、どのような情報を選択して通すかが重要となってくる。こちらから外部へ発信する場合、以前はニュースリリースの発信が主な手段であったが、今はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など新しいツールが増えてきている。社内への情報発信はグループ報やイントラネットが中心であるが、海外のグループ社員へ向けて、英語のページを整備するなど、以前と比べて手段の多様化を図っている。
 CC部として重要な役割は、この要を通す情報のコントロールである。確かに情報を伝える手段、方法は増えてきているが、情報を選別して発信するという役割は昔から何も変わっていない。情報の質を高め、情報量を適正化することが重要である。例えば、先ほどの同社社員の竹下百合子さんが第38回NHKカヌースラローム競技大会で優勝した話だが、社外でも話題となることを社内に第一報ですぐにイントラネットで流す。それにより、社員が社外の人と話をする際に、話題にしやすい。そのようなところで活躍している社員が社内にもいると知り、会社に対するロイヤルティー、イメージのアップに繋がる。
 また、メディアで紹介されないような小さな情報でも、社内の関係者にとってはその情報が共有されることで現場が助けられるということもある。
 このように、社内から社外へ発信するだけがCC部の仕事ではなく、社外から社内、また海外と国内のグループ会社間を繋いでいくことで、グループのロイヤルティー、ブランド価値の向上を目指している。  
文:国内広報部主任研究員 西田大哉
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