経済広報

『経済広報』(2015年6月号)掲載

ANGLE

最近の企業広報に思う

江良俊郎

 

江良 俊郎(えら としろう)(株)エイレックス 代表取締役 チーフ・コンサルタント
 「謝罪会見にトップの出席は必要ですか」。
 最近、セミナーや講演会の参加者から、しばしばこのような質問を受ける。
 「すべての謝罪会見に社長が出ることはないが、深刻な事態にもかかわらず登場しなければ火に油を注ぐことになり、結局、収束のために社長が登場せざるを得ないですよ」と答えたりする。
 最近の2つの事案から、この問題を考えてみたい。教育情報大手のB社は2014年7月9日、会見で大規模な個人情報漏えいを公表。発表者は就任直後のH会長兼社長で、8日後再び会見した。全貌が見えない中でトップが登場、質疑応答にも対応した点はH氏の覚悟を感じる。
 一方、ファーストフード大手のM社も同時期、上海の食品会社が消費期限切れ鶏肉を使用していた問題が発覚。すぐに女性社長兼CEOが会見した印象だが、実は違う。登場は発覚後10日目、決算説明の場だった。この時「我々はだまされた!」という認識を示し、批判される。次に今年1月3日の異物混入問題だが、5日には大騒ぎになり7日になってようやく会見。しかし、社長は「海外出張中」として欠席。社長の不在で不信感が増殖された。
 この2社、問題は違うが、事業の根幹に関わる危機という点では共通する。
 社長を登場させるのか、出さないのか……。会社の存亡を左右する大きな岐路である。会見でのトップの一言、態度や表情だけでも信頼を得ることもあれば、大きなダメージを負うこともあるからだ。
 異物混入問題は、M社にとって上海問題の挽回のチャンスだったはず。女性社長が「逃げた」と捉えられた対応が悔やまれる。どうやら深刻な不祥事の記者会見では(失敗しない限り)社長出席の方がダメージは少ないようだ。社会部記者は最高責任者がどう受け止めているかを問いたいと考えており、また、企業にとっても「問題解決」に向けたリーダーシップは社長の発信力によるところが大きく、信頼回復の近道といえる。ただ不祥事でも深刻な事態とまではいえないケース(この判断が難しい)の会見にまで社長を登場させなければならないわけではない。不用意にトップを出すことは、かえって危機を拡大させるからだ。危機の際、会見に誰を登場させるのかは慎重な検討が必要だが、広報責任者も相場観を磨いておきたい。
 さて、謝罪会見では「心からの謝罪」と「二度と起こさない強い決意」を伝えるコミュニケーション能力と見識の高さがトップに要求されるが、上手なはずのH氏でも謝罪会見は難しい。トップが会見で社会の認識とズレた「受け止め」を披露したり、失言したりしないよう広報としても最大限の準備をしておきたい。広報責任者にも対応を誤らないよう、覚悟が求められている。 
大手広報会社プラップジャパンを経て2001年エイレックス設立。多くの企業の広報業務、危機管理体制構築業務のほか、事件・事故、企業不祥事を多数担当。日本パブリックリレーションズ協会理事、日本広報学会理事を歴任。
著書に『広報・PR実務』『広報・PR概論』((社)日本パブリックリレーションズ協会編、分担執筆、同友館 出版)、『謝罪力』(祥伝社 出版)、『知らなかったではすまされないビジネスマンのための危機管理術』(実業之日本社 出版)など多数。
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