経済広報

『経済広報』(2015年6月号)掲載
技術広報研究(5)

キヤノン(株)

最先端の技術を伝える

より積極的な技術広報を始めた経緯

 キヤノンは会社設立当初からカメラなど一般消費者向けの製品が多い。その性能を高める技術開発に経営の重点を置いてきた。また、理系の社員も多く技術重視の社風はあったが、それに加え早くから、開発と生産を担当する同社と販売会社が分かれたことで、同社の広報は技術志向が強まった。こうした背景と、さらに最近では、経営層が技術の高さを社会に伝える広報に積極的で、これまでのような製品の広報だけでなく、個別の技術に対しても広報を強化するようになった。公開可能なことについては全て積極的に広報を行うことで、最先端の技術を伝えることを目指している。

キヤノンの技術広報の特徴

 同社において技術広報を行っている部門は、広報部(広報・社内報)と広報メディア部(ウェブコミュニケーション・メディア制作・写真制作)の5部門。それぞれの部門が社内外向けの広報と、写真・映像などによる技術解説の制作を行っている。これらの部門は全員文系の社員であるが、年初に各事業部門、研究部門を回り、1年間の技術に関する方針と計画をヒアリングした後、持ち寄った情報を交換しながら連携して広報活動を展開している。
 技術広報の手法としては、とかく専門的になりがちな技術解説を写真や映像を駆使し、できる限り分かりやすく伝えることを心掛けている。昨年まで同社の主要な技術を紹介する冊子を毎年発行し、ウェブでも公開していたが、2015年より内容を一新し、誌名も『THE CANON FRONTIER』に変更した。どのような技術を持っていて、それがどんな製品に応用されているかを紹介するだけでなく、ストーリーを立てて世の中にどのように役立っているのかまで分かりやすく伝えるようにした。その結果、ウェブの閲覧数は急増し、月間50万以上のアクセスを達成するなど好評を得ている。
 技術広報の対象は一般消費者であり、その内容は高校生が読んでも理解できるレベルを目指している。このため、必ず文系である広報部員が理解できるまで各部門とのやり取りを行う。製品に関する技術だけでなく、研究部門の技術広報にも力を入れているが、発表する際は内容を十分噛み砕き、理解しやすい内容にしている。発表対象は基礎研究段階ではなく、近い将来その研究が応用される具体例を示すことができる段階の技術である。製品の中の技術については、内容がスペックの説明にならないよう、その技術がどのように製品に使われているか、何が便利になるのかを伝えるようにしている。一般の人や理系の人にも技術を積極的に分かりやすく広報することで、同社が技術で最も先行していること、その技術が広範囲に深いレベルに到達していることを示すよう心掛けている。その一方で、専門家向け機材の発表では、専門家向けの別資料を用意したり、技術説明会を開いている。
 渉外本部広報部の藤森寛朋部長は「特に印象深い技術広報は2013年の35mmフルサイズの高感度画像センサーのリリースである。そのセンサーを搭載した試作カメラを使って、日没後の真っ暗な石垣島の山中でホタルの撮影を行い、動画をリリースに掲載することができた。活字だけでは表現しにくい内容を、動画も使うことで高い技術レベルを分かりやすく伝えることができた。その結果、一般の方からだけでなく、様々な分野からの反響があり、非常に良い広報活動を行うことができた。また、社内の多くの部門から、こんな技術もあるが広報できないかと相談されるようになり、良いサイクルになってきている」と語る。

文:国内広報部主任研究員 磯部 勤
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