経済広報

『経済広報』(2015年8月号)掲載
技術広報研究(6)

戸田建設(株)

実際の現場で技術を伝える

技術広報について

 戸田建設広報・CSR部には技術広報専門の理系担当者を置いていない。部員は全員文系である。建設業では、技術が多くの分野にまたがっており、技術広報の担当をひとり置いたとしても、全ての分野の技術を理解して伝えるのは非常に困難である。同社では、技術に関するリリースは、そのリリース内容の担当セクションが原案を作っている。広報・CSR部は、原案を作るに当たって、少なくとも部員が理解できる平易な表現をするよう担当セクションに依頼している。
 原案は広報・CSR部がチェックし、一般の人が見て理解しやすい表現に整えている。
 また、同社では、専門家向けの業界紙にも一般紙と同じ内容のリリースを配布している。このため、一般紙を意識してあまりに平易な言葉だけで表現すると、専門的な知識を持つ読み手に必要な情報が伝わらなくなることもあるので、理解しやすさと正確性のバランスを取るよう心掛け、ある程度は専門用語を用いた表現をしている。

戸田建設の技術広報の特徴

 同社は取材で技術的な説明をするときは、実際の建造物の見学会をできるだけ行うようにしている。特に新規の構造形式を有する建造物を説明する際は、災害などにより万が一壊れた場合を想定することが重要となっており、壊れた物を見せないと技術の理解に繋がらないことが多い。
 建造物にとっては、壊れる際も機能をある程度維持することで周囲に対して一定の安全性を担保でき、また壊れる箇所を限定することで修理を容易にできる設計にすることが非常に重要な技術となっている。
 このような技術を記者に理解してもらうには、技術の説明だけでは不十分であり、記者の目の前で模型を用いた破壊実験を行い、壊れた状態を見てもらうのが効果的である。
 同社が五島列島で実証を進めている風力発電施設は、通常の広報戦略からするとホームページでの詳しい説明や動画共有サービスなどで動画を配信すれば、視聴者の理解に繋がると思われるが、同社ではどちらも実施していない。
 現場で説明することが最も正確な理解に繋がるからであり、実際に見てもらうことで、巨大な風車が倒れない・沈まないといった安心感を明確に伝えることができるからである。
 五島列島と遠方ではあるが、現地に行って見学した人の感想がネットなどを通じて広がっている。
 その風力発電は風車が洋上に浮かぶ「浮体式洋上風力発電」であり、世界的にも先導的な発電技術である。当初は風車の存在など全く知られていなかったが、ここ2、3年で急速に広まった。これは、実証機(風車)が完成した2013年10月から実施している見学会によるものである。すでに見学者は1000人を超えている。
 また、日本理科教育支援センターの小森栄治氏は同社の風車見学後、学校の教師約50名に風車をテーマにした摸擬授業を実施。戸田建設はこのような取り組みを通じて、多くの子どもたちに理学・工学の面白さを伝えたい、としている。
 同社の価値創造推進室技術開発センターエネルギーユニットの佐藤郁次長は、「技術を深く理解している担当者自身が、風車を前に見学者に説明することが、理解度の向上に繋がっている。また、地元の人に対しても担当者が平易な言葉で具体的な数字を示して説明することが重要である。このような広報活動が地元を含めた社会への安全・安心の理解に繋がり、ひいては風車の実証実験の成功にも繋がっている」と語る。

文:国内広報部主任研究員 磯部 勤
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