経済広報

『経済広報』(2015年11月号)掲載
企業広報研究

グローバルCCOの条件とは

 経済広報センターは9月17日、米国の企業広報幹部の団体であるアーサーペイジ協会(Arthur W. Page Society)の、ゲーリー・シェファー理事長とロジャー・ボルトン専務理事による企業広報講演会「グローバルCCO(チーフ・コミュニケーションズ・オフィサー)の条件とは」を開催し、会員企業・団体の広報担当役員など約60名が参加した。
ロジャー・ボルトン

ロジャー・ボルトン
アーサーペイジ協会 専務理事

グローバルCCOの将来

ペイジ・プリンシパル
 CCOには広い意味があり、企業広報の最上級職で、必ずしも役職名、肩書きではないが、米国でも他国でもCCOと名乗る人が増えている。
 アーサー・W・ペイジは実在した人の名前で、1927年に米大手通信社AT&Tの役員に就任した、広報担当として初めて大手企業のボードメンバーとなった人である。人名を団体名に使っているところに我々の思いが込められている。人というのは個性を持ち、信念を持ち、何を表現するかで信頼を得ることができるが、企業もまた同じである。この原則を貫き実践したのが同氏である。当会が大切にしている「ペイジ・プリンシパル」という原則をご紹介したい。
 まずは、「真実を伝える」ということである。PRというのは、外部から良く思われることだけを伝えることではない。次に「行動と共に示す」ことだ。ペイジ氏は「広報は行動が90%、語りは10%だ」と言っていた。3点目は「お客さまの言葉に耳を傾ける」で、声を聞くことが自社を変えていくことに繋がる。現代は変われなければ取り残されてしまうからだ。4点目は「明日、将来のことを考えてマネジメントをしていく」こと。5点目は「社員によって企業本来の姿が明かされることを知る」こと。6点目は、「広報に会社全体が依存していると思って実施する」で、透明性が求められ、情報が飛び交う今日において、会社の命運は広報活動にかかっている。ペイジ氏は「民主的社会におけるすべてのビジネスは公共の許可から始まり、公共の承認によって存在できる」と言っている。最後は、「常に落ち着いて、忍耐強く、ユーモアを持つ」である。
広報は今後、どうあるべきか
 当協会には現在フォーチュン・グローバル500企業や政府機関のCCOなど624名が加盟しており、うち66名が米国以外、そのうち5名が日本企業のメンバーだ。我々のミッションは、CCOのリーダーシップを強化していくことである。強いCCOが存在する企業は、社会に対して、より責任を持ち、より多くの価値を生む良い組織になっていく。
 我々は、広報活動が今後どうあるべきかを考え、ここ数年、様々なレポートを発行した。2007年のレポート『The Authentic Enterprise』では、「グローバリゼーション」「ソーシャルメディア革命」「ステークホルダーの影響力拡大」という3つのトレンドが、企業ブランドを守り社会からの信頼を得ていくための課題だと報告した。企業の各拠点が世界各地で社会との関係を持ち、世界中のステークホルダーが常に企業活動を監視し、ソーシャルメディアによって自分のような人同士で会話し、我々が気付かないところで影響力のある情報発信をする時代である。そんな社会で信頼を得るには、企業の個性を定義し、日々の行動によって表現し、一貫して追求していかなければならない。
 2009年のレポート『Public Trust in Business』では、法規制、NGOなどへの対応の重要性に加え、「信頼」とは人と人が同じようなことを考え何かを共有したときに生まれるもので、企業も社会と共有する価値や信念などを見いだすことで「信頼」を得ることができる、と訴えた。

 2012年の『Building Belief』で掲げた「企業広報のペイジ協会モデル」について説明したい。このモデルは二重の円で図解しており、内円に「企業の個性」、外円に「ステークホルダーとの関係」を示している。

 企業の個性、本質を定義するのは、ミッション、目的、存在理由、信じるもの、生み出す価値、文化、戦略、ビジネスモデル、ブランドなどである。これらをどう定義し、実践するのか。CCOは、この活動において大きな力を発揮しなければならない。企業の個性を全社員が理解し行動できるよう、ベストの手段を講じることが大切である。
 そして、その「個性」を「信念、行動、自信、訴求」のサイクルで取り囲むことで、ステークホルダーと良好な関係を構築するのだ。対話を通じて共通の「信念」を見いだし、商品や株を買うといった「行動」を起こし、それを積み重ねその企業との関わりに「自信」を感じ、「訴求」できる影響力のある支持者になってもらう。こうしたことを続けることによって、真の支持を受ける企業となることができる。記者やメディアでなくても誰もがインフルエンサーになる時代なのだから。
 来年発表予定のレポート『Future of the CCO』では、未来のCCOのパターンを予測している。1つ目は、ソーシャルメディア、オウンドメディアなどへの投資の優先順位が高まること、2つ目は、「企業文化指導者」「インフルエンサー・エンゲージメント・リーダー」「行動科学者」など新たな役職が生まれること、3つ目は、機動性などを意識した社内組織の再構築が行われること、4つ目は、新しい業績評価指標、測定指標が使われること、5つ目は、CIOなどのC-Suite(Cで始まる上級責任者)との連携が増えるなど社内外でのパートナーが多様化することだ。
CCOの役割
 最後に、未来のCCOの役割について3つ申し上げる。1つ目は、企業の信頼を高め、ステークホルダーとの関係を構築するという根本的な役割の重要性が一層高まる。2つ目は、人事、財務など社内の様々な部署と連携して、企業活動の生産性を高めていくインテグレーターの役割。3つ目が、社員一人ひとりが広報パーソンとして行動できる仕組みをつくる役割だ。社員個々人を理解し、繋がり、発信するコンテンツをつくり、情報提供し、教育し、彼らの考えと行動を形成し、全員を「ブランド・アンバサダー」にしてほしい。

ロジャー・ボルトン:総合医療保険会社エトナで社内外のコミュニケーションを統括。同社入社以前はIBM社、米国大統領行政府などでメディア・リレーションズ、パブリック・アフェアーズの豊富な経験を持つ。2011年より現職。
ゲーリー・シェファー

ゲーリー・シェファー
アーサーペイジ協会 理事長
ゼネラル・エレクトリック(GE)

戦略コミュニケーション担当 バイス・プレジデント

コミュニケーションと企業文化

GEの「ペイジ協会モデル」への取り組み
 企業の本質が人々によって体現されるという「ペイジ協会モデル」を私がGEでどう実践しようとしたか、お話ししたい。GEは現在175カ国に約36万人の従業員がいて、これはアイスランドの人口より多い。私が1999年にジャック・ウェルチ氏によって採用された当時、米国外からの売り上げは全体の30%にすぎなかったが、現在は70%まで高まっている。創業者のトーマス・エジソンは、発明家として知られているが、発明をビジネスにする事業家としても有名だ。エジソンは「世界が必要としているものを見つけ、それを発明する」と言った。創業後130年、GEが生き残ってこられたのは、変わることを恐れなかったからだろう。製品もビジネスもマネジメントも常に変化してきた。
 PR会社エデルマンの信頼度調査「2015 エデルマン・トラストバロメーター」によると、企業を「大いに信頼している」と回答したのは、世界全体では16%、日本では8%だ。企業への信頼が損なわれ、そこで働くには困難な環境である。そんな今、企業広報は従来のままでいいのだろうか。どのように価値観を共有する支持者を増やしていけばよいのだろうか。
 GEも数年前から「ペイジ協会モデル」のプロセスに取り組み始めた。これは当社の文化、個性を変える出来事だった。リーマン・ショックのとき、株価は数週間で41ドルから6ドルに下がった。2011年は福島第一原発の事故もありプラントメーカーとしても大変困難な時期で、メディアの取り上げ方も厳しかった。GEに好印象を持っている人々はたったの50%だった。社員たちは悪いニュースを耳にしながらも日々の仕事に取り組んでいた。
 そのころ、ジェフ・イメルトCEOが広報にやってきて、「GEという会社は一体何か、どうあるべきなのか、考え、定義していこう」と言ったのだ。それから1年をかけて、「なぜGEで仕事をしているのか」「GEを表すものは何か」など、世界中の社員に聞いて回った。私は彼らとの対話から、社員の行動のモチベーションとなっているのは利益や株価などではなく、「よりクリーンで効率的な発電技術を構築したい」「もっと安全な航空機をつくりたい」「癌の人を治したい」といった思いなのだということが分かった。
 その調査が元となって、我々を定義する「GEワークス方程式」というものが生まれた。「何が世界で必要とされているか×(もっと良い方法があるという信念 + 発明への絶え間ない努力)= 世界がより良くなる」という式だ。これを掲げて世界中で広報キャンペーンを展開し、技術者に焦点を当てた広告や様々なイベントを開催した。結果、GEに対する好感度は80%にまで向上した。
 「ペイジ協会モデル」の中心にある、自社を自ら定義するということは非常に重要だ。ソーシャルメディア上でGEに関するコメントが、1日に8000件も投稿され、その中には多くのネガティブなコメントも含む現在、自ら自社を定義しなければ、ほかの誰かにされてしまうのだ。
オンラインマガジン「GEレポート」
 GEは様々なソーシャルメディア、オウンドメディアを活用しているが、最も重視しているのが12言語で発信しているオンラインマガジン「GEレポート」である。ジャーナリストを採用し会社の取材を経て、技術、現場、社員などをレポートしてもらっている。我々のストーリーを謙虚に事実に基づいて伝える広報ができれば、あらゆる場面で奏功する。社員満足度向上などの効果もある。
 世界が以前よりも速いスピードで動いていることに加え、企業の規模と複雑さの拡大は逆風となる。GEの文化は、常に進化し続けることだ。日夜、人事やほかの部門と共同で、その浸透を図り、社員たちがなぜ働いているのか、何を求めているのかを知り、その達成を支援しようと努めている。我々は、自社のストーリーを戦略的に語り、我々がなんなのかを定義し、社員一人ひとりにスポークスパーソンになってもらわなければならない。
企業文化を創る仕事
 企業の文化を皆さんがリードすべきだ。広報にはインテグレーターとしての役割や、企業の個性を定義し文化を創り実行に移す、人間が意思決定に至る過程や行動科学を理解し説得力のある対話をする、といったことが求められる。私は何百回も経験したが、企業への批判に対して、事実はこうだと反論するだけでは、相手を説得などできない。
 広報の仕事は、他部署から情報を受けてプレスリリースを書くだけではなく、ビジネス戦略や、企業文化の醸成に関与したり、自分たちは何者なのかを体現する立場になってきた。このチャンスを捉えなければならない。皆さんには社内の戦略アドバイザー、C-Suiteのパートナーとしての役割も果たしていってもらいたい。

ゲーリー・シェファー:1999年GE入社。2009年の役員就任以来、社内外のコミュニケーションを統括してきた。GE入社以前は、記者や編集者、ニューヨーク州知事の報道官を務めるなど豊富な経験を持つ。
(文責:国際広報部主任研究員 伊藤貴範)
pagetop