経済広報

『経済広報』(2016年1月号)掲載
新春特集 2016年を迎えて

広報の大切さ

宮原耕治

宮原 耕治(みやはら こうじ)
(一財)経済広報センター 副会長
日本郵船(株) 相談役

企業広報の2つの役割

 新年明けましておめでとうございます。新しい年が真に明るい希望の年になるよう心よりお祈りします。さて、世界をぐるりと見渡すと、政治的にも経済的にも決して安穏とは言い難い状況ですが、私たち経済界に生きるものは絶えず変化する環境の中で、最善の道を選び、追求する勇気を持たなくてはなりません。同時に、現代のグローバル経済においては、国も企業も「個」として生きることは不可能で、常に周囲の「他」との関係強化を心掛けなくてはなりません。そこで重要になってくるのが、「広報」の仕事です。当センターは、名前の通り、経済広報をプロモートする役割を負っているので、この機会に「広報」について考えてみたいと思います。
 現代企業の「広報」には、大きく分けて2つの役割があります。1つは非常時におけるリスク管理、もう1つは平時における企業活動の対外アピールです。前者は「守り」、後者は「攻め」の広報ということもできるでしょう。昨今、不祥事を起こした企業の例を見れば、前者「広報」の対応がいかにその後の展開、その企業の社会的評価の決め手になるかがよく分かりますが、本稿では後者「攻めの広報」について述べたいと思います。

社内広報からIR・CSRへ

 この攻めの広報にも幾つかの種類があります。私が入社したころ、企業各社の主な「広報」の仕事は、社内報の発行など社内向けの広報でした。私が勤務する海運会社では、当時社員の7割は海上社員、つまり船員だったので、社内報の記事も「○○丸からの職場便り」や「家族欄」がたっぷりとあって、「おめでとう! △△ちゃん誕生」とたくさんの赤ちゃんの写真が掲載されていました。つまり、社内コミュニケーションのためのツールとして存在していたのです。もちろん、この機能は今でも大切なもので、特に合併やグループ企業の拡大や集約の際には、力を発揮しました。なお、私の会社は世界中のグループ企業で働く5万余りの従業員のうち80%が外国人なので、彼ら専用に英文のグループ報を毎月発行しています。
 昨今、広報活動として大きな役割を持つのが、投資家向け広報、つまり「IR」でしょう。毎期ごとの決算で好業績を上げることに加え、将来にわたって投資や財務改善を進め、企業価値を高めることが経営者の大きな責務です。そして、その情報を社内にとどめるのではなく、外部にいる投資家に周知しなくてはなりません。それも、じっと座って投資家の来訪を待つのではなく、こちらから重要な投資家のところに赴いて説明しなくてはなりません。私が社長のころも、年に2、3回の「IRの旅」があり、欧米やアジアに行きましたが、率直に言って、これは決して心躍る楽しい旅ではありませんでした。特に最初のころは、「なんでこんな若造に言われ放題言われなきゃならないのか」と内心は地団駄を踏んだものですが、2回、3回と顔を合わせるうちに、「この人の知りたいポイントはなんなのか」を考えるようになり、自分の頭の中を整理できるようになりました。
 もうひとつ重要なのが、社会的責任に関する広報、つまり「CSR(企業の社会的責任)」です。企業は決して社会から孤立して存在するのではなく、社会から様々なベネフィットを得ているのだから、そのリターンとしての「社会的責任」を履行しなくてはなりません。ひとつの大きな例が東日本大震災のときの各企業からの、ヒト・モノ・ココロの支援でした。また平時においても、私の会社では日本で不要になった自転車やランドセルを船に乗せて、アフリカやアジアの子どもたちに届けています。

経済界が取り組むべき「広報」とは

 さて、以上、企業レベルの「広報」活動について述べてきましたが、それでは、その集合体である経済界が取り組むべき「広報」とはなんでしょうか?
 2、3年前から、安倍政権の肝いりで「政労使会議」や「官民対話」の場が設けられました。日々の実態からいえば「官民」はそれこそ毎日切れ目なく対話していますが、特にこのような場が設定されたことを前向きに捉え、経済界は現在抱えている諸問題を整理・集約し、経済の好循環を持続させるためには何が必要かをアピールする「広報」の場として活用するチャンスを得た、と考えればよいと思います。経済の好循環の起点は企業の収益増なのですから、それを可能にする税制、諸規制、エネルギー問題などの環境整備をどう進めるべきかを広く議論し、確認することが重要だと思います。
 また、経済団体として、これまで取り組んできたことについても、その実態を「広報」する場ともなるでしょう。例えば、投資については、これまで長い円高など「六重苦」の時代には、残念ながら国内向けの投資では企業成長の展望は開かれず、多くの投資が海外に向かわざるを得なかった実態を示すことが必要でしょう。GDP(国内総生産)統計では、国内向け投資だけが数字に表れますが、これに表れない対外投資の生み出すリターンが、わが国の経常収支を支えてきた実績があります。
 さらに、最近とかく話題になる「内部留保」についても、その実態については経済界としての、より積極的な「広報」が重要だと思います。まず「内部留保」の定義が重要ですが、いわゆる財務省統計上の「利益剰余金」三百数十兆円のことであれば、ご存知の通り、この「利益剰余金」というのは企業が税・配当などを支払った後の残余利益を累計した概念上の金額で、企業はこれを使って(もちろん不足分は借入金を調達して)投資やM&A(企業の合併・買収)を行い、企業を成長させてきました。つまり、「利益剰余金」はバランスシート上の右側(負債・純資産の部)に計上されており、左側(資産の部)には、これに対応する「使途」が計上されています。その使途の中で、過去十年余りで最も伸びているのは「投資有価証券」で、現預金の伸びは、その十分の一以下に過ぎません。そして、この「投資有価証券」には、企業が海外に設立した子会社株式やM&Aの結果取得した株式が多く含まれており、これはつまり、日本に向かうことができなかった投資が海外に向かった結果である、ということができます。
 メディアの一部でも「大企業が現金を手元に貯め込んでいる」との誤解が見られます。こうした誤解を解いて、経済界全体として過去どのように努力してきたか、また今後、好循環の持続にどのように寄与していくかを、丁寧に「広報」していくことが大切だと思います。
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