経済広報

『経済広報』(2016年3月号)掲載
企業広報研究

グローバル広報は国内広報とどう違うか

リロス・ローブリー

ロス・ローブリー
エデルマン・ジャパン(株) 社長

 経済広報センターは2月9日、「企業広報講座」(東京会場第6回講座)を開催した。エデルマン・ジャパンのロス・ローブリー社長が、グローバル広報と日本国内での広報の違いや注意点を説明し、日本企業がどのようなグローバル広報体制を構築すべきかについて講演した。参加者は約70名。

グローバル広報について

 日本企業が、グローバル広報に注目し始めたのは3年ほど前からではないか。そのころからグローバル広報についての問い合わせが増えた。しかし、なかなか次のステップには進まない。多くの企業の海外売上比率が伸びたこともあり、グローバルな広報体制を構築したいという経営トップが増えているが、その広報体制をつくるのは、簡単なことではない。各社それぞれの事情があり、予算や人員、グローバル広報の目的も異なっている。スーツで例えるならば、One-size-fits-allのスーツはなく、一社ごとにテーラーメイドで丁寧に作っていく必要がある。そのことを、まずは経営トップに理解してもらう必要がある。

事業のグローバル化を広報で支援するために

 多くの企業が海外進出を果たしている今、広報活動も海外のステークホルダーを対象に含めることは避けられない。海外への情報発信には、コミュニケーションの3要素である「話し手」「メッセージ」「聞き手」の特性が日本国内とは異なることを理解することが重要である。
「話し手」の違い
 日本は、社会の均一性が強く暗黙知の共有を前提とした高コンテクスト社会であるといわれている。エドワード・ホールの著書『文化を超えて』によると、スイスやドイツは低コンテクスト文化であり、直接的な表現で正確に伝えることを好む。一方、高コンテクスト文化の最たる日本では、文脈に多くの意味を含ませることを好む。日本のリリースを見ると、主張よりも正確な情報提供に重きが置かれ、事実をただ述べているだけのものが多い。一方、海外で発信されるリリースには、強い主張が含まれ、ストーリー性に優れたものが多く見られる。これは、こういった文化の違いに起因しているといえるだろう。
 また、昨今では、自動翻訳技術が進化しており、キュレーションサイトなどでは、海外のニュースがすぐに翻訳され、配信されている。逆のケースもあり、日本のニュースが自動翻訳され、ロイターやブルームバーグなどの海外メディアで流れるといったことが発生している。つまり、言語の壁が壊れた今、日本と海外で異なるリリースを発信するといったことが成立しなくなり、日本のリリースが発信された瞬間に翻訳されて、全世界へ発信されることで、誤解を生むリスクが出てきている。そのため、グローバル広報では、海外だけに焦点を当てるのではなく、国内広報も全て含めた考え方が必要になってきている。
「メッセージ」の違い
 日本のような高コンテクスト文化から低コンテクスト文化の地域へ向けたメッセージ作りには「言ったつもり」という落とし穴が付きまとう。また、日本とは、逆の意味での捉え方をされてしまう恐れがある。例えば、日本では、100年続いた老舗など、歴史があることがプラスの企業イメージを与えることがあるが、海外では、古くさいなどマイナスの企業イメージを与えてしまうことがある。
 また、海外でのプレスリリースでは、社長のコメントがカッコ書きで提供されることが多い。これらは、広報担当者が作成し、そのほとんどが経営トップのチェックなしで発信されている。このように、企業が伝えたいメッセージを社長の肩書きを使って流し、それが記事として掲載されることがよくある。しかし、日本企業では、コメントを入れないリリースが多く、海外メディアのニーズに応えられていない。現在のリリースに社長のコメントを入れるか、その承認プロセスをどのように整えていくかなど、海外向けリリースを作っていく際には、検討すべきである。
「聞き手」の違い
 先ほどのリリースに社長のコメントが求められているといったように、「聞き手」側のニーズを把握し、それに合った情報提供をしていくことが重要である。多くの企業は自社のホームページに企業概要を掲載しているが、ストーリー性がないものが多い。たとえ、日本国内で知名度があったとしても、その会社のことをよく知らない海外の記者がホームページを見た際に、サイトの英語版が情報の列挙になっていたり、社長の経歴が履歴書のように書かれていたりすると、何を行っている会社かよく分からない、といったことが起こってしまう。会社概要にストーリー性を持たせることで、海外の人たちの理解を深めることができる。
 また、海外のメディアやステークホルダーが強く求めている情報は、その企業が社会にどう貢献するかといった社会的意義に対する説明である。「聞き手」のニーズを理解した上でのコミュニケーションが求められている。

デジタルを活用する重要性

 日本企業はトラディショナルメディアとの関係構築に重きを置く傾向にあるが、デジタルを活用する重要性を忘れてはならない。トラディショナルメディアとハイブリッドメディア(ウェブメディア)の大きな違いは、ハイブリッドでは検索ができ、情報を容易にシェアできることである。簡単にシェアできることで、情報は拡散していく。情報発信はどのメディアからでも構わないが、オンライン上でどのようにメッセージを広めるかといったデジタル戦略が求められている。

メディアリレーションも現地の事情を反映する

 グローバルに広報活動を展開するためには、その地域の事情を把握しなければならない。例えば、製品にトラブルがあった際に日本では、社長が会見に出ることを求められるが、米国では、CEOよりも、その製品を熟知した事業部トップや技術部門の責任者が会見に出ることが好まれる。このように、国ごとの文化や事情に合わせて、情報発信の方法を考えていかなければならない。

グローバル広報体制の課題

グローバル広報体制の課題には次のようなものがある。
  1. 1.グローバルセンターとしての役割――本社から情報を発信するか、ハブ体制にするか、ローカル体制にするかを決める
  2. 2.グローバル・ガバナンス――各市場の意思決定プロセス、コミュニケーション方法、測定基準などをグローバルレベルで統括する
  3. 3.グローバル人材の育成――グローバルおよびローカルで活躍できる人材を発掘し、教育し、繋ぎとめておくためのプロセスとツールを開発する
 まずは、グローバルに対応した広報体制を整備することが必要である。冒頭で述べたように、各社それぞれの事業展開やグローバル広報の目的によって、最適な広報体制は異なる。
 次に、見落としがちな点であるが、整備した広報体制を生かすルール作りが必要である。リリースはどの時点でハブ拠点と連携するか、現地との協力体制をどうするか、情報発信時に本社の承認がどのレベルで必要かなどを決めていく必要がある。
 最後に、グローバル人材の育成が最も難しい問題である。特に、日本では、グローバル広報を理解し、言語の壁を超えて、企業の文化や事情を説明できる人材は少ない。良い人材を育てるためにも、社内コミュニケーションに力を入れる必要がある。日本企業は、これらの課題について、適切に対応していかなければならない。
(文責:国内広報部主任研究員 西田大哉)
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