経済広報

『経済広報』(2016年5月号)掲載
視点・観点

ブームをつくる

殿村美樹

殿村 美樹(とのむら みき)
(株)TMオフィス 代表取締役

次々とブームづくりに成功

殿村さんは、「うどん県」「今年の漢字」「ひこにゃん」「佐世保バーガー」などのPRを次々と成功されていますが、どのように関わり、どのような仕掛けをされてきたのでしょうか。

殿村 まず、「うどん県」のケースですが、香川県からは「『うどん県』のプロモーションビデオをつくり、ホームページに公開するので、PRの力でなんとか盛り上げてほしい」と依頼がありました。香川県出身の俳優、要潤さんが「香川県はうどん県に改名いたします」と宣言するというものでした。しかし、この架空の内容ではマスコミに取り上げてもらうことは難しいと考え、まず実際に要潤さんをうどん県の副知事に任命してもらい、また2011年当時にはまだそうした考えはありませんでしたが、役所の記者発表会に素人のブロガーを招待しました。そして彼らが「うどん県なう」などと発信した結果、香川県庁のサーバーには1日で約17万件のアクセスが集まり、この現象が全国のマスメディアを通じて302件のニュースで取り上げられ、広告効果は8億9731万円に達しました。
 また、いまや年末の恒例行事になっている「今年の漢字」も、プレスリリースを配布するだけだったり、ホテルで記者発表をしたりするだけでは、おそらくベタ記事程度だったでしょう。それを誰でも知っている清水寺で貫主(かんす)が、その年を象徴する漢字一字を一気に書き上げる。ビジュアル的にも素晴らしいので、テレビの映像や新聞第一面にカラー写真で取り上げられました。この結果、外国語検定に比べ地味な漢字検定試験の受験者が大幅に伸びました。
 「ひこにゃん」はもともと存在していたものですが、それに着目したということです。彦根城築城400年祭で観光客を呼ぶために、地元の市役所は彦根城しか見ていませんでした。立てられた企画も歴史マニア、城マニア向けとしか言いようがないものでした。
 そのとき、私は既に存在していたマスコットキャラクターであるひこにゃんの愛くるしさは女性の母性本能をくすぐると思い、「ひこにゃんと楽しむ『2007年彦根の旅』」といった具合に、ひこにゃんを前面に出したPRを展開しました。「観光は女性がリードする」というのが観光業界の常識。幅広い観光客を呼ぶことができました。
 「佐世保バーガー」は、長崎県佐世保市の米軍基地が発祥の地として有名ですが、実はハウステンボスの観光客を周辺にも呼び込むために、何かできないかということで依頼されたものでした。当時のハンバーガーは小さな手作りハンバーガーで普通の住宅街で売られているものでしたが、サイズを大きくして、しかも売る場所を米国の雰囲気のあるバーにしました。するとテレビに取り上げられ、全国的に有名になりました。佐世保市の観光担当者は米軍基地に関係したことを観光の目玉にすることを躊躇していましたが、最後には折れてくれました。

依頼主と、考えの違いで苦労することも多いですか。
殿村 そうですね。例えば、栃木県では、いちごをテーマにPRを企画していましたが、いちごならば静岡県にもあるので、特産品のかんぴょうの方がいいのではないかと提案しました。外国人の間でも、すしブーム、ヘルシーブームであるので、かんぴょうを使った海苔巻きをホテルや旅館のモーニングサービスで出すよう提案しました。しかし、かんぴょうは、地味な食材の代表選手だとして結局、採用されませんでした。
 また、よくあることですが、市町村で提案すると、「別の自治体が入っているのはダメだ」「それは他部の担当なので困る」と言われることがあります。私の提案に対し、縦割りのセクショナリズム発想ではなく、より多くの人たちが自ら動き出すよう、「それは面白いからやりましょう」と決断し動いてほしいものです。

ブームづくりのポイント

いわゆる広告・宣伝と、殿村さんが言うPRの違いはなんですか。
殿村 私は、イソップ童話「北風と太陽」を例にお話ししています。北風と太陽が、マントを羽織った旅人のマントを脱がせるために勝負するという寓話です。北風は、お得意の強い風でマントを吹き飛ばそうとします。一方の太陽は、燦燦と照らし続け、旅人が暑くなりマントを自ら脱ぐようにします。私は、この北風が「広告・宣伝」で、太陽が「PR」と考えています。
こうしたPRを成功させるコツはありますか。

殿村 なかなか知名度が上がらない、商品が売れない、ブームにならない。そういう場合には、「本能と五感に訴える」「ビジュアルを最優先する」「タイムリーで珍しいもの」「サプライズがあるか」「見えないものを見えるようにする」「誰もが共感できるようにする」「連鎖報道を生むようにする」との観点から発想してはいかがでしょうか。

 また、「佐世保バーガー」は、場所をずらす。「うどん県」の発表は、人をずらす(対象をブロガーに変えた)。「今年の漢字」は、時をずらす(いつも身の回りにある漢字だが、発表を年末にした)。「ひこにゃん」も対象を女性にずらした。このように、当たり前と思っていた場所、時間、人をずらすことで火がつくこともあります。

図1
殿村さんが手掛けてきたのは、自治体が多いようですが、大企業のPRと、地域PRに違いはありますか。
殿村 私のクライアントは、予算がない自治体などがほとんどです。企業PRは、起点が経営者の定める「経営理念」ですね。ビジョンがあり、それを「経営目標」→「企業戦略」→「事業戦略」→「マーケティング戦略」→「マーケティング目標」と下ろしていき、製品、価格、チャネル、プロモーションを決めてから、メディアを活用して社会に発信していきます。
 一方、地域PRの場合、ボトムアップで、地域の資源を文化に高めていく作業です。地域の人々が、地域の魅力に気づく。そして、地域の「気分」が明るくなる。すると、排他的風土が逆転して、地域資源を自ら守り育てるようになります。メディアと協働し、社会と対話しながら、埋もれた魅力を発掘していくのです。このように、トップダウンとボトムアップの違いがあります。(図1)
 大脳生理学をベースにPR戦略を組み立ててみますと、大企業のPRは、「継続的なPR活動で『知』が動く」こと、「ショールームやテーマパーク、記念館などで、感動を偲べる場所に『意』が動く」ことには長けています。しかし、「感動・共感・本能・五感などで『情』が動く」ことには慣れていません。
 そのために必要なのは、共感できるストーリーづくりです。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で伝播するのは、10文字以内で、インパクトの強いビジュアルです。長い説明や、長文のパンフレットは逆効果です。図2のように、3つのメディアを連動させられるかが、カギとなります。このサイクルがうまく回れば、お金を使わずに、いつの間にか、イノベーションを起こすことができます。
図2

殿村美樹(とのむら・みき)
PRプロデューサー。同志社大学大学院ビジネス研究科「地域ブランド戦略」教員。関西大学社会学部「広報論」講師。「うどん県」「今年の漢字」など、地方PRを2500件以上手掛ける。主な著書に『ブームをつくる 人がみずから動く仕組み』『テレビが飛びつくPR~予算9万円で国民的ブームを起こす方法』など。

聞き手:経済広報センター 常務理事・国内広報部長 佐桑 徹
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