経済広報

『経済広報』(2016年7月号)掲載
グループ広報戦略(7)

グループ再編と広報戦略

(株)資生堂

 資生堂は1872(明治5)年に日本初の洋風調剤薬局として創業し、2012(平成24)年に創業140周年を迎えた。2014(平成26)年12月に中長期戦略「VISION 2020」を発表し、「美しい生活文化の創造」というミッションの下、2020年度までに「お客さま起点」で全ての事業活動を再構築し、企業価値を高める取り組みを行っている。また2016年1月1日より、世界の各地域に、その地域での事業活動について、営業、財務など幅広い権限と、売り上げ、利益への責任を持つ「地域本社」を発足させ、各地域に適したマーケティングや意思決定を機動的に行い、市場への変化に素早く対応するための経営基盤を作った。このように、グローバル化が加速する中、資生堂グループの組織再編に対応したコーポレートコミュニケーション本部の役割と、その広報戦略について聞いた。

資生堂の組織再編

 資生堂は、2014年12月に中長期戦略「VISION 2020」を発表し、2020年をターゲットに定め、100年先も輝き続ける資生堂の原型を作り、お客さまや社会に対してより大きな価値を発揮することを狙いに、「事業基盤の再構築」と「成長加速の新戦略」に取り組んでいる。その一環として、強いブランドの育成と世界の各地域に適したマーケティングを実行していくため、ブランド軸と地域軸を掛け合わせたマトリクス型の組織体制へ移行した。2016年1月1日に、株式会社資生堂をグローバルヘッドクオーター(本社)とし、各地域に、その地域での事業活動について責任と権限を持つリージョナルヘッドクオーター(地域本社)を日本、中国、アジア、米州、欧州、トラベルリテールの6つの領域で発足させた。トラベルリテールは、世界各地の空港にある免税品店でのビジネスなどを管轄している。現時点で、海外売上高比率は50%を超えているが、利益面でも日本以外での事業からの貢献度を高め、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指し、中長期的な戦略を立てている。
コーポレートコミュニケーション本部の再編
 グループ全体にわたる組織再編と合わせて、広報部門やIR部門など、コミュニケーションを担う部門の役割を整理し、コーポレートコミュニケーション本部(CC本部)として再編した。中長期戦略「VISION 2020」により、いっそうのブランド価値の向上、グローバル経営基盤の構築を全社で目指していく中、それに最適化したコミュニケーション組織とした。
 CC本部のミッションは、(1)資生堂グループの企業活動を社外のステークホルダーにより良く知らしめるコミュニケーション戦略の立案、(2)コミュニケーション戦略を本社で実行、地域本社での実行をサポート、(3)資生堂グループのグローバルレベルでのインターナルコミュニケーションの積極的な推進、(4)日本国内におけるマスメディア窓口機能を担い、本社所在地としての情報受発信力を強化、(5)ステークホルダーとのコミュニケーションから得られた期待や要望を経営にフィードバック、の5つである。
 CC本部は、広報部とIR部のほか、戦略グループ、コミュニケーショングループ、技術広報グループで構成されている。
 戦略グループは、資生堂グループのグローバルでのコミュニケーション戦略を立案、推進することをミッションとしている。海外のコミュニケーション機能の一元化を目的にお客さま対応をはじめとする機能がCC本部に集約された。各地域本社に設置された広報部門の司令塔の役割も担い、グローバルな視点でグループ内のコミュニケーションの連携に努めている。
 コミュニケーショングループは、主にインターナルコミュニケーションとホームページ(企業サイト)の運営を行っている。2016年1月にホームページの運営をCC本部に移管した。CC本部で新聞などの外部メディアでの情報発信や、インターナルコミュニケーションとの連携を強化することで、タイムリーにより拡散することを目指している。今後のホームページの強化ポイントは、英語サイトの見直しにより、グローバルでの認知度やイメージの向上を計画している。
 また、インターナルコミュニケーションにおいても、全世界の従業員が同じ情報を同時に得られるように、社内報をイントラネットでの発信と電子化した。立ち上がりは、日英の二言語での対応であるが、従業員数の多い中国をカバーするため、中国語サイトも準備中である。工場や店頭活動などイントラネットが使用できない環境の従業員への対応として、イントラネットで発信した情報をまとめた誌面版も年4回ほど発行する。
 技術広報グループは、R&D強化を進める上で、情報発信力の強化が課題であったことから、新しく設置された。以前は、技術企画部にあった機能をCC本部に移したもので、世界各地にある研究所からの情報収集や技術広報に関するホームページを運用することに加えて、本部内で連携し、様々なメディアを通じた社内外への技術に関するコミュニケーションを行っている。
 またIR部は、従来のCFOライン、経営戦略部との協働を継続しつつ、本部内での連携をより密にしながら、決算発表を中心とする、アナリスト、機関投資家、株主などへの対外コミュニケーション活動や対話を行っている。

広報部の役割や目的

 ヘッドクオーターのCC本部の中にある広報部の役割は大きく2つある。1つは、ヘッドクオーターにある広報部門としてグループ全体で活用できるニュースの創出である。海外にある地域本社の広報部門とCC本部を繋ぐ戦略グループと連携し、トップの考えや企業活動を事業展開する各地域へ発信していく。
 もう1つは、同社のホームマーケットである日本メディアに対する広報活動である。同社に対する日本メディアの関心は高く、問い合わせも多い。メディアには正確かつスピーディーに対応し、情報を発信していくことが重要だ。今では、日本で発信された記事が、あらゆる言語に翻訳され、すぐさま全世界へ発信されるため、日本での露出が全世界への露出に繋がることを意識した広報活動を展開している。
ローカルを意識したメディアリレーション
 地域本社を新たに設置し、ヘッドクオーター制を導入した際に、「Think Global, Act Local」という考え方に則り、日本の本社中心の体制から、現地・現場への権限委譲を進めている。資生堂というブランドをグローバルレベルで強化するとともに、それぞれの地域本社が現地のニーズや事業環境に密着し、事業活動を行っていく考えである。
 広報部では、これに対応し、国内の各エリアに向けた発信を強化している。地方メディアとのメディアリレーションの構築にも力を入れており、結果として地方紙での資生堂に関する記事数は大幅に増加している。
 地方メディアに力を入れる理由は、地方では地元紙の市場シェアが非常に高いことがある。中央紙は、首都圏、関西圏でのシェアは高いが、全国隅々までカバーしているとは言いがたい。一方、地方では地方紙が大きなシェアを持ち、地域の方々によく読まれている。ローカルに根差した事業に取り組んでいる同社にとって、日本全国隅々まで情報を届けるためには、地方メディアでの情報提供が欠かせない。日本という大きなくくりでのマーケットを考えるが、対応については、それぞれの地域に、きめ細かく、読者に最適な情報を発信していくことが重要であり、それを実現できるのは、地方メディアでの報道であると捉えている。

手作りの広報と効率化

 1971年に広報部が誕生した時から続く伝統として、リリースの作成、メディア対応、取材の働き掛けなどを広報部員自らの手で行っていることが挙げられる。実務を行うからこそ、ノウハウや知識が蓄積され、広報パーソンとしての成長が図れる。一方で、広報業務を全て自分たちの手で行うことは岐路に差し掛かっているともいえる。お客さまが情報を入手するニュースソースの多様化、ウェブメディアの台頭によるパブリシティ手法の変化、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの新たな広報ツールの登場など、メディア環境が大きく変わり、進化し続けている。これらを全て、自分たちの手で学び、対応していくことは決して効率的とはいえず、逆に、以前のやり方に固執していると遅れを取ってしまう。そこで、分野によっては、第一線で活躍する専門家を有する外部組織との連携の必要性を感じている。外部の優れた人と共に仕事を進めることによって得られるものも多く、自分たちも一層成長していくことができる。今後は、自らで行うことと、外部に任せるところを戦略的に見直し、効率化を進める方針だ。

広報は人なり

 広報部員の育成にも力を入れている。月2回の部会では、社内外でのトップコメントを資料にまとめてスピーディーに共有するようにしている。広報部員として、トップの考えや社内情報に常日ごろから接しているのは重要であるが、その背景にある狙いや、なぜこのタイミングで発信したのかなどを、全体の経営戦略とそのロードマップに照らし合わせて、部員に理解させるよう努めている。またトップの人となりについても共有して、広報部員が取材対象となるトップをより身近に感じ、自らの口でリアルに記者に語り、取材に繋げていく取り組みを行っている。
 また、部会では併せて、2週間ごとの報道記事の中から、ベスト記事を5つ選び紹介している。記事化に繋がった経緯を担当者に発表させながら、記事のポイントと波及効果について解説している。記事になるまでのハウツーが重要であり、それを部内で共有することで、広報部全体のスキルの底上げを図っている。

数字を意識した広報活動

 各ブランドの売り上げ状況や今後の課題などの共有にも力を入れている。あるブランドの商品が記事に掲載され、パブリシティを得ると担当者はそれだけで満足してしまう場合がある。しかし、その記事を通じて、そのブランドのファンが増えたり、売り上げが伸びて初めて、広報部としての仕事の成果となる。記者が興味を覚え、記事にしたいと考える社内情報を得るためには、社内でより深いコミュニケーションを取る必要がある。その際に、ブランドの状況や課題を認識していることで、マーケティング部門から得られる情報の質も上がっていく。
 記事においてはその質はもちろんのこと、掲載記事の数を集計・分析している。前期比でどれだけ記事が増えたか、また、新たにシェアという概念を導入し、同業他社との記事掲載量を比較し、数値化してベンチマークしている。目標や現状を数値化することによって、現在の立ち位置が分かるだけではなく、目標を達成するためにはどういう知恵を絞って、どういう働き掛けを行っていくかを広報部員一人ひとりが考えることで、個人のレベルアップを図っている。
 また、人材育成という観点から、PRプランナー資格の取得も奨励している。
 資生堂グループの力強い成長と新たな価値創造に、コミュニケーション部門として、どのように貢献できるのか、前例にとらわれない自由な発想で挑戦を続けている。
文:国内広報部主任研究員 西田大哉
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