経済広報

『経済広報』(2016年11月号)掲載
トップが考えるダイアローグ・マネジメントの新潮流(4)

日本企業のインターナル・コミュニケーション
進化が求められる広報の役割

柴山慎一

柴山 慎一(しばやま しんいち)
NRIみらい(株) 社長/事業構想大学院大学 客員教授

 経営理念の浸透に、経営トップのリーダーシップが深く関わること(9月号を参照)、社員参加型の継続的な仕組みが大切であること(10月号を参照)について、前号と前々号で確認した。バーナードが「経営の機能の第一は、コミュニケーションシステムを発展させること」と提示したように、インターナル・コミュニケーション(以下、IC)における経営トップの役割は、その中核に位置づけられていることは間違いない。今号では、中核となる経営トップの役割を受け、広報にはその役割の進化が求められている、という現実について提示してみたい。

ICの進化はトップダウンとボトムアップの好循環による

 ICが有効に機能し、経営理念の浸透が進んでいる企業においては、貴重な経営資源である「トップの時間」というリソースを大量に投入し、「認知的文化」だけでなく「情緒的文化」までをも浸透させようとしている事例が確認された(9月号を参照)。また、途方もないくらいたくさんの社員の時間と労力が注入されることで経営理念が自分ごととなり、共有から実践にまで繋がっている事例も確認された(10月号を参照)。
 経営トップの深い関与によって多くの社員の参画が促され、経営理念の浸透が進む。また、社員の参画が広がれば、それをリードする経営トップの役割は一層重要になっていく。このようなトップダウンとボトムアップの好循環の“せめぎ合い”が成立することでICは進化していく。

社員全員PRパーソン時代に求められるIC

 一方、イントラネットの定着によって、組織内のコミュニケーション構造は大きく変化しており、公式な組織ルートでの情報共有だけでなく、非公式な属人ルートでの情報共有の比重が高まっている。ここにおいては、ヒエラルキー型からネットワーク型へと、組織内での情報の流通構造に変化が見られ、個人の役割が大きくなっている。
 また、最近のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に代表されるソーシャルメディアの台頭により、社員一人ひとりが当たり前のように日常的に情報を発信しており、今や社員全員が「会社のPRパーソン」になれる位置にいる。そんな中で、会社が社内外に発信していることを正しく共有し、会社に対するロイヤルティを高め、ICによって経営理念を自分ごと化することが求められている。
 さらに、IC活動そのものにおいて、イントラネットやSNSを活用しているケースも増えている。旭硝子では、直接的な対話の補完としてウェブ社内報を位置づけており、NTTデータでは、ボトムアップで作った社内SNSがICに活用されている。オムロンでは、グローバルで共有されたイントラネットに加えて、衛星テレビなども活用し、メディアミックスでのICが機能している。
 このような環境の変化の下、社員一人ひとりがPRパーソンになり得る立ち位置にいることから、従来以上にICによる社員の一体感の醸成やエンゲージメントの向上が求められている。

■経営理念に共通して見られる言葉
 今回ケーススタディした7社の経営理念に幾つかの共通している言葉が見られた。顧客に対するものとしては、「誠実」「信頼」という言葉が、社員に対するものとしては、「挑戦」「革新」「先見」という言葉が多く使われていた。

(*今回ケーススタディした7社 旭硝子、伊藤忠商事、NTTデータ、西武ホールディングス、大阪ガス、オムロン、ブラザー工業)
■中核となる経営トップの役割の大きさ
 今回ケーススタディした7社において、社長(含む経験者)ヒアリングが実施できた複数社で、その発言上での表現が常に「私」で始まっていた。一方、それ以外では、「彼(つまり社長)」で始まっていた。「私」を主語にして語ってくれたケースでは、社長自身の自己完結性、当事者意識の強さや自分ごと感が前面に感じられ、その内容にも迫力があった。まさに、「ICは経営トップの仕事」という事実がここでも確認できた。

広報の役割は進化していく

 ICは経営トップの仕事であるが故に、広報部門だけに閉じた仕事では成り立たない。企画部門、人事部門、研修部門、情報システム部門などを横断した横串の役割が求められている(9月号を参照)。広報部門のほかの仕事でも同じことがいえるが、特に、ICの領域から見た広報機能には、伝統的な広報部門の枠組みを超えたものが求められている。「社内広報=社内報+イントラネット」というような狭い役割設定では時代の変化に取り残されてしまう。
 オムロンでは、グローバルで展開しているICイベントTOGA(10月号を参照)をコーポレートコミュニケーション部、グローバル人事部、グローバル総務部、経営戦略部、CSR部などの合同体で推進しており、伝統的な広報部門を超えた組織が、経営トップ直轄のチームとして機能している。このような経営トップに伴走する横串チームのリードの下で、「企業理念の実践」が進められている。
 広報部門は、社内に情報を伝達することから、経営トップに伴走し、経営理念に関わる情報を共有・浸透させ、実践させる「プロセス」を展開していく方向に進化していかなければならない。つまり、ICを切り口にして、情報の流通プロセスやコミュニケーション構造の変革、会社の仕組みや構造の変革、さらにはこれらの前向きな変化を促す働き方の改革や人事政策の改革などに主体的に関与していくことも必要となっている。
 西武ホールディングスの後藤高志社長は、経営理念であるグループビジョンを実践する取り組みの表彰イベントにおいて、参加した社員に対して「君たちは、これから職場に帰ってから、ぜひグループビジョンの“宣教師”になってもらいたい」と述べている。
 NTTデータでは、部課長が受信者としてビジョンを受け止めていた段階では他人ごとのようであったが、発信者として部下にビジョンを説明する段階になって初めて自分ごと化されたという。自分の言葉で自社のビジョンを発信することを通じて、初めて腹落ちし、自分ごと化することがここに確認された。これこそがICの成果といえよう。
 経営理念を浸透させ、実践させていくプロセスでは、広報部門に限らずICに対する良き理解者、いわゆる「アンバサダー」を多く生み出す仕掛けも重要である。これは、ソーシャルメディア時代の社員全員PRパーソン化とも相まって、今後の社員に求められる役割のひとつとなっていくであろう。また、グローバル化の進展、アウトソーシングの定着、さらにはダイバーシティの進展に伴い、ICの領域で捉えた対象者、すなわち内部者の境界線も拡張してきている。いわゆる「うち」とはどこまでかという捉え方も揺らいできている。
 このような変化の下、求められている「広報の機能」に適合するよう、組織としての広報部門には、より一層の進化が期待されている。今回の7社の事例研究からも、ICは経営トップの直属スタッフにとって最も重要な仕事のひとつであることが確認できた。広報部門は、経営トップと共に、縦割りになりがちな本社の各部門間の横串機能を果たして、ICの成果を高めていく必要がある。ここにおいては、経営トップのリーダーシップをうまく引き出しながら、ICへのコミットメントを高めてもらうことが求められている。ICへの取り組みが真剣になればなるほど、広報の役割はますます進化していくはずである。

 本研究は、まだスタートしたばかりである。今後もICを切り口にした広報の在るべき姿についてのワークショップなども計画している。これらの研究活動によって、ICに関わる施策や手法の開発など、日本企業のICのレベルアップ、広報のレベルアップに寄与していきたいと考えている。ご関心のある企業には、ぜひ本研究にご参加、ご協力いただきたい。
pagetop