経済広報

『経済広報』(2016年11月号)掲載
企業広報研究

採用に効くコーポレートPR
~「ストーリー」「人」「制度」に注力を~

太田 滋

太田 滋(おおた しげる)
ビルコム(株) 代表取締役兼CEO

新卒者に選ばれる企業になるために

 会社が求めている人材の確保に向け、広報部門だからこそできることがあります。それが、“人材採用を意識したコーポレートPR”です。具体的に何をすればいいのか、長年戦略PRを実践してきた経験をもとにポイントを紹介していきましょう。
 目指すべきは、「選ばれる企業」になることです。新卒学生にとっても転職希望者にとっても、今は売り手市場ですから、入社志望の企業数はそう多くはありません。企業へのエントリー数も減少傾向が見られます。そうした求職者の限られた選択肢に入り込むには、自社の採用サイトを訪れてもらう前の段階から、企業として認知してもらったり、良いイメージを持ってもらうことが欠かせません。
 そこで、採用サイトを訪れてもらう前段階のコミュニケーションが必要になります。活用するのは、マスメディアや個人のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など第三者のメディアです。自社のことを、これらのメディアに取り上げてもらいシェアしてもらうことで、「ファンづくり」を進めていくわけです。
 とは言え、採用を前提にしている以上、やみくもにファンを増やそうとするのではなく、自社が求めている人材にファンになってもらうことが重要です。“採用に効くファンづくり”の第一歩は、必要な人材はどのような人で、何に関心を持っているかを明確に意識することです。
 広報部門の場合、多様なステークホルダーを見据えて社会とコミュニケーションを取ります。普段は、広くあまねくファンづくりに努めるのが仕事ですから、求める人材のターゲティングには不慣れかもしれません。それを担当するのは、むしろ人事部門でしょう。双方が連携することによって、求める人材像を共有できるはずです。
 何に関心を持っているかは、新卒学生や転職希望者が就職先企業を決めた理由から見ていきましょう。ここに、新卒学生や転職希望者の関心に応える情報はどのようなものかが表れています。

新卒学生の心に響く情報とは

 まず、新卒学生です。「キャリタス就活2017学生モニター調査結果」によれば、「就職決定企業に決めた理由」として上位に挙がるのは、「社会貢献度が高い」「職場の雰囲気が良い」「仕事内容が魅力的」「将来性がある」「福利厚生が充実している」などの項目です。そのため、企業や事業の社会貢献度、職場の雰囲気などの情報を伝えることが求められます。
 情報の出し方にも注意を払ってください。例えば、社会貢献度や将来性のようなビジネスの魅力は、事業内容が淡々と紹介されている記事からは伝わりません。インタビュー記事として、社長にストーリーの中で語ってもらうべきでしょう。職場の雰囲気や仕事内容なら、現場で活躍している社員のインタビュー記事を通して伝えていくのが有効です。福利厚生では、独自制度が重要になります。基本施策を総花的にそろえていてもメディアには取り上げてもらえませんし、新卒学生の心にも響きません。

転職希望者の興味をそそる情報とは

 次に転職希望者ではどうでしょう。転職サービス「DODA(デューダ)」の「転職理由についての調査」によれば、転職の際に重視することは「仕事内容」「年収」「労働時間・休日数」をはじめ、「やりがい」「待遇・福利厚生」「勤務地」などが上位に挙がります。新卒学生の回答に比べると、かなり現実的です。労働時間や年収、勤務地の情報は、具体的な内容を明確に伝えるほかないでしょう。希望の仕事内容である点、やりがいを感じられる点も決め手になっていることからすると、そうした希望がかなえられて、今、実際にどう感じているかを社員に語ってもらうことも、転職希望者の興味をそそる情報になりそうです。

注力すべき3つのポイント

 どのような人材にどのような情報を伝えればいいかを明確にしたら、次に情報の伝え方にも気を配る必要があります。注力すべきポイントは3つ。「ストーリー」「人」「制度」です。
 「ストーリー」は、社会貢献度や将来性の伝え方として先ほども触れた点です。企業の考え方や文化は、やはり社長の語るストーリーとして伝えるべきでしょう。それは当然、求める人材像とも重なり合う必要があります。挑戦心の強い人材を求めている企業であれば、どれだけ挑戦的なビジネスを展開してきたかというストーリーを語るのが有効です。
 「人」の見せ方にも工夫しましょう。就職みらい研究所の『就職白書2016』によれば、「企業を選ぶのに最も重視するのは?」という問いに対して「一緒に働きたいと思える人がいるかどうか」と答える割合が、就職先企業を決める段階で、それ以前に比べ著しく増えるといいます。「人」は重要な要素だけに、見せ方、伝え方にはひとひねりが欠かせません。
 具体的には、社員をPRパーソンに仕立てるのも一案です。例えば、子育てをしながら事業部長に昇格した女性社員を、「働くママ」としてメディアに取り上げてもらうように努めます。自社が求める人材像に、メディアが取り上げやすいテーマを重ね合わせるわけです。
 「制度」は上手に活用すべきPRコンテンツです。ただ独自性があって面白かったとしても、それだけではメディアに底の浅さを見抜かれてしまいます。背景にある考え方や制度の効果などの実績も、併せて発信していくことが大切です。
 例えば、サイバーエージェントは女性社員が出産・育児を経ても働き続けられる職場環境を目指し、「macalon(マカロン)パッケージ」と呼ぶ仕組みを用意しています。その中の一つひとつの制度は、ほかの会社にもありそうなものですが、会社の考え方がよく伝わるようにパッケージ仕立てにしている点が工夫のポイントです。ネーミングにも、「ママ(mama)がサイバーエージェント(CA)で長く(long)働く」という想いが込められています。
 ここでもやはり、求める人材像との一致に気を配る必要があります。挑戦心の強い人材を求めているなら、社内で誰もがチャレンジしていけるような制度があると好都合です。社内制度として意識されていなくても、実際には職場単位でなんらかの取り組みを実践していることもあります。まず情報を集め、活用できそうな取り組みがあれば、その打ち出し方に工夫を凝らすだけでも十分です。
 忘れてならないのは、これらの「ストーリー」「人」「制度」を、最終的にはメディアに取り上げてもらったり、SNSでシェアしてもらったりしなければ意味がないという点です。何よりまず、記事として取り上げてもらえるようにメディアに働き掛けていくことが欠かせません。幸い、メディアには人を取り上げる企画が数多くあります。そこで取り上げる人に関する情報も求めています。社員をPRパーソンに仕立てる一方で、そうした企画の切り口を把握し、それに見合うPRパーソンの情報を常に発信しておくと、取り上げてもらえる可能性は確実に高まります。
 「ストーリー」「人」「制度」を、記事型のコンテンツとしてオウンドメディアへ掲載するのも有効な手法です。そのコンテンツを、求める人材像に興味を持ってもらえるような内容に仕上げられれば、採用期間外でも読者を呼び込むことが可能であり、企業のファンづくりを促進することができます。また、企業の想いや仕事内容の魅力を伝えるのに最適な動画の活用も効果的です。
 ワコールが運営する「WACOAL BODY BOOK」というメディアでは、「商品づくりの現場から」と題して話題の商品の開発秘話を紹介、「美の流儀」では美に関心の高い方が興味を持つコンテンツをインタビュー記事として発信しています。単なる新商品の発売情報ではなく、新商品の開発秘話を発信することや、求める人材像が興味を持つ情報の発信により、会社にとって身近なファンである社員が「個人として」面白いと感じるコンテンツであれば、SNSでも自然と広がっていきます。

最後に

 広報部門は日ごろ、「メディアが今、取り上げたくなる切り口」とはどのようなものかを肌で感じ取っています。採用に向けたコーポレートPR活動に取り組む中でその持ち味を発揮し、まずは多くのファンを獲得できるようになることを願っています。 
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