経済広報

『経済広報』(2017年5月号)掲載
企業広報研究

ニュースリリース(NR)は企業の鏡:狭報から広報へ
〜良いNRは、企業の在り方、あるべき姿を表現する〜

山見 博康

山見 博康(やまみ ひろやす)
山見インテグレーター(株) 代表取締役/広報・危機対応コンサルタント

NRに対する新しい定義

 「NRは企業を映す鏡!」。これが去る3月上梓した『ニュースリリース大全集』において提唱する新定義である。
 私は、神戸製鋼勤務時に1979年から広報に携わり、2002年独立後も引き続きNRに数多く接してきた。その結果分かったのは次の3点。
1. 実に“不親切”! 記載すべき項目の欠落が多く、記者は一読で理解できず、単なる問い合わせに手間取り困っていて、不満が多い
2. 前任者からの引き継ぎや伝統に縛られ、創造的なNRへと脱皮できない
3. “NRには少なく記載し問い合わせに対応”との誤った考えが蔓延している。これが大間違い誤報の元凶
 そこで、多種多様な見本を分野別にまとめれば、広報同志の相互研鑽により、NR作成力向上を促すことができると考え、早速、企画書を作成、2016年4月、企業や自治体・学校・団体に対し「(HPで公開中のNRから)推奨できるNR提供」を提案し始めた。
 結果的に、650以上の企業などにコンタクトして210から提供を受けた。つまり3分の2は辞退! これには驚いた。当初8割ぐらいは喜んで!と予想していたからだ。辞退の理由は「恥ずかしい」「自信がない」「人に見せるものはない」というのがほとんど! 一層本書の必要性と意義を確信した。提供された700ぐらいの多様なNRから1つずつ選び、「Yes2+But1」の推奨3(スリー)ポイント付与を試みた。その過程で、NRを1人の人物と観じて対話……経験を基に多彩な角度からNRとの対話を通じて次第に人物が分かってくる、つまり会社そのものの“正体”が露呈してくるような気がした。(図1)
図1


社風も顕れる

 NRは公式文書故、重要性に応じて必ず幹部がチェック・承認するが、不親切なNRを見てもそれに気付かない鈍感さ、そんなお客さま軽視の思いやりのない風土こそが問題であろう。一時が万事、電話応対、プレゼン資料から面談対応に至るまでも不親切に違いない。∴黙って去っていくお客さまにも気付かない! 従い、NRの改善向上を目指すことは、多くの気付きを促し、広く顧客対応から仕事への取り組み方も見直し、ひいては企業風土の改善向上にも繋がる……そのきっかけになるのではないだろうか?

理想的なNR作成の基盤とは

 望ましいNRを作るには、まず“広報”の正しい理解が不可欠、さもなくば小手先に終わる。
1. 広報の目的とは、真人間(まにんげん)を育て、真(まこと)の組織にすること
 会社は法人。指先が社員、脳が社長だ。人も会社も血液・神経=情報で生きている。メタボになれば脳死・壊死に近づく! そこで、内外への情報交通によって会社を善(ぜん)の心でビジョンに向かって司(つかさど)る広報の役割が増す。そして真(まこと)の組織を作り末永く敬愛される会社になるのだ。真人間も時代を超えて永遠(とわ)に敬愛される。あたかも、高いビジョンを抱いたトップアスリートのごとく、鋭敏・柔軟な臨機応変に対応できる身体=組織体を! そんな社員たちが良い仕事をすることで良いNRの素が創造される。広報は崇高にして典雅なる経営の仕事なのだ!
2. 有名になりイメージを上げる目的とは、それによって顧客をはじめ周りの人皆を喜ばせ、誇りと自信を与え、社員にはさらに自律心を高める! そのために良いNRを作成して善い報道に繋げるのである!
3. 広報は“狭報(きょうほう)”に始まる! メディアの協力を得て多くの人に広報する前に、全社員一人ひとりが眼前の人に良い印象を与える、良いイメージで別れるよう全力を尽す意識こそが重要! 1対1が原点だ。狭報から広報へ!
 全社員が、CSR(企業の社会的責任)の前にPSR(Personal Social Responsibility)個人の社会的責任を果たす自覚を持つ。“細胞が人間を作り、個人が会社を造る”ことを決して忘れてはならない。

一見して分かる魅力的NR3カ条

1. 一目見てアートだ!と感銘を受けるか? 
 (1)興味ある、(2)面白そう、(3)凄いのどれかを感じ、もっと読みたいなと思ってもらえるかどうかが勝負。見てもらえる時間はせいぜい3秒! その間に興味を示してもらわないと勝負あり、ライバルに負ける!
2. VV&I(Value+Visual&Impact)か?
 一見して、Valueがあり、Visualで分かり、しかもImpactを感じるか? Valueには数字的Impactが欠かせない。それを裏付ける写真やイラスト、グラフなどが配置されたVisual Artになっているか? そこに情熱を注ごう
3. 斜め読みで分かるか? 「段落+小見出し+箇条書き」になっているか?
 段落に小見出しなしには何が書いてあるか瞬時には分からない。文章を推敲し短く箇条書きが不可欠。読んで分かるより見て分かる。「多量の思想を少量の言葉に収める」(ショウペンハウエル『読書について』)

望ましいNRチェックポイント12カ条

 どんなNRが望ましいのか? NRを1人の人物と見るとよく分かってくる。
1. Visionが感じられる
 高いビジョンを持つ人は尊敬される。強い迫力で相手の心を打つ魅力がある。人の心に響き、突き動かす。断固たる調子、確固たる態度で伝えようとする溢れる「情熱費(Passion Fee(筆者の造語))」が「広告費」をしのぐ!
2. Visualで情景が浮かぶ
 商品・サービスは工場や社員の頭脳から生まれる我が子。その子を紹介する文書がNRだ。本人を同行する。写真を見せる。経歴を語り業績を示す。エピソードで人柄を理解してもらう。相手が手に取るように分かる、情景を思い浮かべてくれるように……。特にテレビは!
3. 関係性が一目で瞭然である。間違いをなくす!
 歴史上の偉人の説明には、必ず家系図あり。同じく、化学製品には化学反応図、M&A(企業の吸収・合併)では関係図が不可欠。そのまま掲載できるような図やイラストで記事も膨らむ。一石二鳥、三鳥にもなる。なければ記者が最も嫌う間違いの素! 問い合わせ&回答にかける双方の時間・労力は膨大、間違うリスクは甚大だ
4. 必要な情報を網羅
(1)顧客や社会に伝えたい・伝えるべき情報:不動の事実は網羅! 現場に“御用聞き”、戦略に沿って出来る限り記述!
(2)顧客や社会が知りたい・知るべき情報:「質問予測力」を駆使、聞かれそうな項目は全て記述! 記者に手間をかけさせない
(3)記者が伝えたい情報:読者・視聴者を慮り質問したい情報を予測し記述! 本当に伝えたい人は、企業もメディアも顧客や社会の人々。つまり“お客さまが共通”を常に肝に銘じよ
5. 「今後の方針・見通し」が明確
 方針なしは将来ビジョンを語らない・意志のない人間と同じ。確固たる経営の意志・意図を!
6. 経緯(いきさつ)が辿れ、物語る
 どんな事象にも物語がある。長い複雑な経緯を、伝えたい相手にいかに簡潔で分かりやすく整理し推敲するか? は思いやりの深さに比例!
7. 特長・独自の売り(USP=Unique Selling Proposition(マーケティング用語)に加え差別点(UDP=Unique Different Proposition(筆者の造語))を明確に
 通常USP だけを強調するが、より大切なのはUDPだ。UDPなしには記者の心に響かない! 常に冷静に比較を重んじる謙虚さを!
8. 顧客・社会への配慮が行き届く
 本当に伝えたい人は顧客・社会が分かれば、NRの不親切さ、配慮不足、傲慢・怠慢を見いだして見直し、改善したい気が湧き起こる
9. 自画自賛したらバックデータを忘れない
 広報は “メーキャップアーティスト”。人と同じく化粧し服装を整える。タイトルは目。しかし過度になれば直ちに化けの皮は剥がれ、化粧が偽装に! どこまで化粧するか? その基準はビジョン、あるべき姿、人生観であろう。そこで自画自賛したら、権威ある人の推奨、公的機関などバックデータを! さもなくば信頼性なし
10. 6W5Hが入っている
 “5W1H”はビジネスでは不十分、“6W5H”で考える。5W=Who, What, When, Where, WhyにWhom誰に、誰を、と対象を追加。HowにHow much金(単価、売上高など)、How many数(売上数、生産数など)、How long期間(〜まで、から〜まで、〜までに)、How in the future将来(今後の方針)の4Hを加える。必ず聞かれる項目故、網羅により質問は減り、間違いが避けられ喜ばれる。「質問予測力」強化向上も促す
11. 段落+小見出し+箇条書き
 どんな場合もこのキーワードを大切に。斜め読みで分かる! 「スピーチ力」「論文力」向上も促す
12. 会社の親切さ・思いやりを感じる
 知りたいことが網羅されていれば問い合わせの手間は省け、切り口・テーマの構想が容易で、取材が早くなる。親切な広報担当に詳しい話を聞いてみたくもなろう
 実は、広報だけが親切なのではない。社員一人ひとり、会社全体が親切な証。そのような集合体が、内外への情報交通が円滑に実行されている健全で柔軟な真(まこと)の会社なのだ

NR5つのキーワード+3

 NRは、価値を濃縮した独創的な情報商品! 常に作品=アートとしての作成を心掛けよう。作成者は“アーティスト”。あたかも書家が1本の線、画家が色1つに丹精を込め生命を吹き込むように、1語1語適切な語を入念に選択し、自らの情熱を傾けて結合を図り的確な意味を生み出し、レイアウトも独創的でVisualにし、読んで分かるより見て分かるように。NRに接する人の無用な時間・労力を奪ってはならない。伝えるべきことを簡潔に網羅! 質問予測力を駆使して基本的質問をなくす!
 「文体は精神のもつ顔つきである。真理はそのままでもっとも美しく、簡潔に表現されていればいるほど、その与える感銘はいよいよ深い」(ショウペンハウエル『読書について』)
 そのキーワードとは「簡(かん)、豊(ぽう)、短(たん)、薄(ぱく)、情(じょう)込めて」+「VV&I」=Value,Visual & Impact!(図2)

⬛︎図2


まとめ

 こうしてNRが適切に作成されていけば、広報——記者双方が(1)理解時間の短縮、(2)問い合わせ・回答時間労力の軽減、(3)間違い・誤報の減少に多大なる効果を直ちに手に入れることができるであろう。さらにそれは:
1. 社内の情報コミュニケーションが円滑になり、活発になっている証
2. 商品・サービスを常に顧客や社会の視点で見て表現する気風が生まれ、社員一人ひとりが親切になり、思いやりを持つ社風になっている証
3. 企業体質が次第に良好な方向へ変革している証
 最後に、企業広報に携わる者は立場を問わず、この機に、NRの重要性をより幅広い・高い次元から再認識し、NR作成→承認のプロセスを今一度点検、新たな視点からNRの不備・不親切さを省みて、経営レベルからの改善の余地を探ってみるよう推奨したい。それによる、目には見えないが着実な進化向上を期待して……。


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